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世界の通信企業の戦略提携図(2000年1月17日現在)

15.1999年からの懸案はどのように新年を迎えたか。

 既報(14)のボーダフォン/マンネスマン合併では、マンネスマン経営陣はボーダフォン/マンネスマン合併グループの成長率はマンネスマン単独の場合より低いくなるとの理由で反対を続け、同時にボーダフォン側がほのめかす買収価格値上げを待つ気配もあったが、何の提示もないまま12月23日になった。市場ではボーダフォン/マンネスマン合併の方が少なくとも移動通信事業は高成長するとの見方も強く、主要株主を歴訪したK.エッサー社長はマンネスマン敗北の恐れを感じたかもしれない。結局ボーダフォンは、12月24日から2月7日の間に買収に応じたらマンネスマン1株につきボーダフォン 53.7新株を交付する旨の買収通知書をマンネスマン株主に発送した。この2年間に時価総額が4倍になったボーダフォンが5倍になったマンネスマンを呑むという、総額1,330億ドルの史上最大の敵対的買収が正式に開始された。ボーダフォンのC.ジェント社長兼CEOは2000年1月4日に南アの旅先で、マンネスマン株主の70%が応じる筈だと自信のほどを見せた。

 既報(6)の経営困難な二つのグローバル移動衛星通信システム、イリジウムとアイコは銀行の返済猶予期限12月15日を前にして、それぞれつなぎ資金を得て越年した。イリジウムについては、新有力投資家が現われないままモトローラなどの現株主が2000万ドルを拠出して、2000年2月15日までの運営資金が確保された。アイコについては、インマルサット第3世代機の打ち上げ(2000年2月予定)とサービス開始(2001年第1四半期予定)に必要な資金12億ドルを、米国の無線通信企業家C.マッコー(イーグルリバー投資とテレデシック計画を主宰、ネクステルを所有)とインドの富豪S.チャンドラ(エッセル・グループ/ASCエンタープライズ会長、ゼー放送を所有、アグラニ衛星を計画)が拠出した。再建後のアイコの出資率はC.マッコー46%、S.チャンドラ28%、現株主26%と見込まれる。C.マッコーはイリジウム救済の話し合いにも参加していたが、比較的コストが安く収益性の良いアイコを選んだ可能性がある。とすればテレデシックをイリジウムに乗り換える案が消えて、C.マッコーはB.ゲイツとの懸案、「大空のインターネット」(Internet in theSky)と呼ばれるテレデシック計画を実現するプロジェクトに復すだろう。

 既報(9)のテリア/テレノール合併は、新会社名決定前に移動通信子会社所在地の話し合いがつかず、12月17日に合併計画実施困難との共同声明を出して瓦解した。テリアの規模がテレノールの1,5倍あり、テリアーテレノールのヤン・アーケ・カルク会長がキャスティング・ボートを投じて、12事業部門のうち移動通信を含む7部門の所在地をスウェーデンとしたため、トルモンド・ヘルマンセンCEOが違法と抗議して紛糾した模様。両国政府とテレノールCEOのヘルマンセンは再考の余地はないことを強調した。グローバル化時代にもナショナリズムがボーダーレスM&A合意を破壊したのである。

 両国政府は合併瓦解が今後の友好関係に影響することはないとしているが、合併会社がアイルランドで仕掛けた敵対的買収には波紋が生じている。アイル ランド第2位の固定系電話会社で携帯電話会社イーサット・デジフォンを持つイーサット・テレコムにニューテル・アイルランドの名称で仕掛けたTOBはテレノールが引き継ぎ、ニューテル・アイルランドをテレノール・アイルランドと改称したが、1月14日期限に向け防戦中のイーサット経営陣は救い主(ホワイト・ナイト)と交渉中とされ、それは合併のため99年10月にアイルコム持株売却を余儀無くされ憤慨しているテリアと言われる。


16.情報通信産業再編成、2000年の展望

 既報(12)の世界の情報通信サービスプロバイダーTop20には、合併・買収合意済みで認可手続中の被合併企業が3社含まれている。MCI WorldCom(時 価総額No5)に合併されるSprint Fon Group(No.19)、Bell Atlantic(No.8)に 合併されるGTE(No.13)、SBC Communications(No.9)に合併されるAmeri-tech(No.14)で、皆将来生き残るメガキャリアー候補であるが、Vodafone-AirTouch(No.3)がMannesmann(No.16)買収に成功すると最大規模になる。

 21世紀をリードするグローバル・メガ・キャリアーの条件は今なお流動的と思われるが、IPネットワーク/インターネット/モバイルの3大基盤を世界に展開する存在であることは間違いない。そして、技術革新と市場開発を継続していくには資本力が必要で、その源泉として経営規模がある。ネットワーク時代からコンテンツ時代にかけて「規模の経済」「範囲の経済」「連結の経済」がどなるかなお不透明としても、この転換期にチャンスと見れば直ちに経営資源を投入するには規模が大きいに越したことはない。

 国際通信及び携帯電話のグローバル提携でメガキャリアーとしての骨格を整えたAT&TとBTは、今後あり得ることは相互の合併だけである。上記4大合併で差をつけられたDT、FT、BellSouthあるいはTelstra、Telefonica、Telecom Italia等のTop20には、合併・買収を急ぐ動機がある。ただしNTTは国際通信分野は弱いもののグループとしては3大基盤をおおむねカバーし、本体はまだ政府持株2/3で完全民営化の見通しが立っていないことから、当面圏外であろう。

 最新のビジネスウィーク誌(2000.1.10.)は、アナリストT.A.ジェイコブの説として、BellSouth、Qwest、Royal KPN3社の合併の可能性を紹介している。BellSouthは、ライバルのBell AtlanticがFCCの認可を得て1月5日に長距離通信サービスを開始したため焦燥感にかられているが、現在10%出資しているQwestを取り込めば一挙に遅れが挽回できる。そのQwestと旧オランダ電々公社KPN Telecomは、98年11月にグローバル高速データ通信合弁会社(出資率50%づつ)を設立しているので、いかにもありそうな合併組み合わせである。実現した場合、BellSouthの時価総額848.4億ドル、Qwestの206.9億ドル(既報CWI誌No.234番付でNo.35)、KPNTelecomの238億ドル(Telegeography2000より)を単純に足すと、約1,300億ドルの巨大キャリアーの誕生である。

 別のビジネスウィーク誌(99.12.6.)は、「ボーダフォン/マンネスマン合併についてEU独禁当局の承認を得るために、C.ジェントはマンネスマンが買収したばかりの英国第3位の移動通信会社オレンジを手放すだろう、その場合に一番欲しがるのはFrance Telecom(FT)と見られる」と報じている。確かにDeutche Telekom(DT)が99年11月にフランスの新規通信事業者シリス(Siris)を7.3億ドルで買収し、第2位移動通信会社SFRや第3位移動通信会社Bouygues Telecomを窺っている時、FTは17.2%株式を入手して買収の手がかりを得たドイツ第3位の移動通信会社EplusをKPN Telecom/BellSouth連合に191億ドルで買収され(99.12.10.発表、今回の77.55株式はKPNが保有しBellSouthは従来からの22.5%を保有)、ユニソースが競争入札に出したドイツ第4位の移動通信事業を含むDplusをドイツのモビコムグループにさらわれ(99.12.23.発表)、このところ黒星続きなので挽回したいところである。

 TelefonicaはBT、インターネット子会社Terra Networkを99年11月17日に上場して自社株の値上がりを目論むなど、防戦に回っている。12月上旬にはBTとの提携交渉が流れたとの噂が流れた。なお、スペイン第2位の移動通信会社Airtelの金融機関持株の放出をめぐって、現在ともに少数株主であるBTとC&Wが競っている。

 Telecom Italiaについては、Olivettiが買収資金づくりのため99年7月に60億ユーロ起債した後に、好調のTelecom Italia Mobile(TIM、CWI誌番付No.21、時価総額400億ドル)の60%株式をTelecom Italiaが保有しているのをOlivettiの金融子会社Tecnosに吸い上げ負債の整理を図ろうとしたが、一般株主の反対が強く11月末に断念した。Telecom Italiaにとっては合併・買収よりも合理化問題の取り組みが重要である。

 こうしてみると西暦2000年の合併・買収劇の立役者はDTにほかならない。経営状態は良いし、EU競争政策に基づくケーブルテレビ売却が迫っており、手元資金はますます豊かになる。ポーランドやチェコなど中東欧の民営化に参加するのは当然として、グローバル通信専門キャリアーを標榜しつつも規模が伸び悩みHongKongTelecomを持て余し出したC&Wを標的にするのか、破壊に瀕したGlobal Oneを吸収するのか或いは一転FTとの提携路線を展開するのか、米国やアジアのキャリアー買収を目論むのか、DTの選択肢は広い。


17.VSATによる高速インターネット接続サービス

 年頭の日本のメディアに、「DDIが日本イリジウムの筆頭株主でKDDがアイコ日本法人の筆頭株主でも、両事業がいずれテレデシックに集約されるので、新生DDIが競合事業を抱えることにならない」との記事が載った。衛星移動通信事業者3社の経営がC.マッコーの手腕と財力で統合されると言うのだが、単純過ぎる観測と思われる。確かに高速大容量通信時代を迎え大西洋横断・西欧のDWDM伝送路が急拡充されても、IP基幹網から外れたインターネット需要を拾う上で、ローカルアクアス機能も備えた衛星通信の出番はある。しかし、最新技術の応用の不調がさらに新しい技術で救われると言う技術万能論が、厳しい金融界で受け容れられるのだろうか。

 日本では余りなじみがないが、証明された衛星通信技術としてVSAT(Very Small Apperture Terminal:超小型衛星地球局)がある。マスコミ受けのするLEO(低軌道衛星)ではなくGEO(静止軌道衛星)を利用し、直径1m程度のアンテナを使うのだが、経済的で信頼できる媒体として地上網を代替え/補完する。英国の衛星コンサルタント会社コムシス(Comsys)の1999年VSAT報告書によれば、1998年末現在で世界に38万台普及しており、大部分が北米だがヨーロッパで急増中で、市場はヒューズ(Hughes Network Systems:HNS、47%)とジラト(Gilat Satellite Networks、40%)が二分している。

 これまでの主な利用者は自動車ディーラーや小売店だったが、インターネット/企業間電子商取引(B to B EC)の普及を前にして、VSATを高速インターネット接続サービスに使わない手はないと思ったら、やはりGilatが計画中であった。CWI誌によれば(No.236[99.12.13]、Gilat plans two-way service for consumers)、2000年第四半期に米国で月額55~70ドルで衛星からの下り40Mbps、上り154Kbpsの通信ができる“Gilat-To-Home”サービスを売り出すと言う。競争相手のHNSはAOLと組んで、DirecTV/DirecPC広  帯域インターネット/AOL TVによるアクセスサービスを近く開始するようだが、下り専用で上りは一般のインターネット任せである。Gilatはイスラエル製のパソコンベース衛星送受信機SkyBlasterを使い、米国衛星通信サービスの老舗SpacenetのGEOを利用する双方向通信である。

 Gilatは本社をイスラエルのテルアビブにおくベンチャー企業だが、98年のVSAT出荷台数34,000、売上高155百万ドル(対前年比50%増)を記録し、98年11月にMCI WorldComを通じて米国郵便公社(USPS)から26,000局を受注して、98 年末にをGE AmericomからSpacenet株式交換で取得したところである。

 コムシスは西暦2000年における世界の家庭用広帯域IPサービス市場を6  億世帯と予測し、うち5%を双方向衛星通信が占めると見込んでいる。


関西大学総合情報学部教授 高橋洋文(編集室宛:nl@icr.co.jp)

(最終更新:2000.1)

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