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世界の通信企業の戦略提携図(1999年8月末現在)

4.MS vs AOL:インターネットを巡る争い

 この8月始めからインターネット上で瞬時に文字メッセージがやりとりできる「インスタント・メッセージ」ソフトの標準化に関し、マイクロソフト(MS)とアメリカン・オンライン(AOL)の対立が激しくなっている。
 AOLのインスタント・メッセージ「AIM」と「ICQ(I seek you)」はネットスケープのブラウザーに組み込まれた無料ソフトで、2年足らずの間にそれぞれ4,500万名、3,800万名の登録を得ており、MSNのメッセンジャー・サービス利用者を遥かに凌駕している。無料のためAOLの収入源にはなってないが、ブランド力を高め利用者をつなぎ止める機能を果たしている。
 電子メール/ウェブ・ブラウジングの争いは、先行するAOLの会員にもメッセージ送信できるソフトをMSが配信し、AOLがこれを妨げるプロトコル変更措置をとることがくり返された。基本的にAOLは手数料の支払いを含む業者間協定が前提で、無断アクセスは会員データの安全性上問題があるとし、MSはパケット通信のように接続料不要のシステム開放を主張する。電子メール、ブラウザーの次の目玉はオンライン課金なので、ホスティング集客競争を控え、両者ともおりる訳にはいかない。MSはAT&T、Prodigy、Yahoo!等と組み、インターネット協会(IETF)にも働きかけて標準化を進める考えであり、AOLはアップル、サンマイクロシステム、ノベル、リアルネットワーク等と提携して固めて行く構えである。  AOLは今や加入者数1,800万名、年間売上高50億ドル、株式時価総額1,000億ドルに達している。AOLはISP市場で第2位のCompuServe、第3位のMSN以下を大きく引き離している(図参照)。

 AOLメンバーがウェブ・コンピューティングに費やす時間の3/4、すべてのアメリカ人がウェブに費やす時間の40%はAOL提供コンテンツ/サービスに向けられているが、広告収入の増大にもかかわらず、AOL収入の77%はメンバーからの収入、大部分月額21.95ドルの会費による。したがってAOLは無料サービスには神経質である。
 MSとAOLの対決は、「インスタント・メッセージ」だけではない。MSは英国のFreeserveやBTのインターネット無料アクセス(利用者を導いたサイトから収入を得る)の成功を見て、無料接続サービスを計画中である。また、AOLがダイアルアクセス中心なのに対し、MSはMSOコムキャストの買収やAT&Tとの提携などCATVの広帯域プラットフォーム戦略に熱心なため、ISP市場の現在のAOLシェア44%は2003年には36%に下がるとの予測もある。一方、高速アクセスはダイアルアクセスの代替えではなく追加だ、AOLがユーザの情報ニーズをつかむ力を失わない限り、xDSL戦略を進める電話会社との提携でインフラ戦争はしのげるとの見方もある。
 最近パソコン中心からネットワーク中心にコンピューティングの構造変化が始まったと言われる。重装備で万能なパソコンの双方向通信のビジョンは消え、パソコン/PDA/携帯電話/テレビ系等の軽装備端末群とオープン系技術を集積したサーバー群、グローバルにアクセスされる巨大ウェブ・サイト群との2極分化ビジョンに向け、メガ・プレヤーの主導権争いがますます白熱化するだろう。

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5.ユニソースの解散

 オランダのKPN(Koninkluke PTT Netherlands NV)、スイスのスイスコム(Swisscom AG)、スエーデンのテリア(Telia AB)の3社均等合弁ユニソース(Unisource NV)は、99年8月3日、合弁を解消し合同事業を売却する方針を発表した。解散理由は、3社それぞれの戦略展開が具体化し始め、共同事業を分売した方が構成員の利益になるからとする。99年上半期のユニソースは約1億ドルの赤字で、遂に解散まで黒字化することはなかった。
 ユニソースのISP向けデータ通信事業、ユニソース・キャリアー・サービシズ(UCS)は、早速英国の電力系通信事業者エナジス(Energis)に97百万ドルで買収された。引き続き、フランスの第3電電、シリス(SIRIS)、ユニソース・イタリア、ユニソース・イベリアが売却される。
 KPNは既に98年11月に、米国の新興国際設備提供事業者Qwest Communications International と欧州の通信合弁KPNQwestを設立しており、スイスコムは99年7月にドイツの第3移動通信企業デビテル(Debitel)の株式58%を買収し完全子会社化の方向にあり、テリアは99年3月にノルウエー・キャリアーのテレノール(Telenor AS)と合併で合意し、 EUの独禁審査のための調整が進行中である。
 こうした3 社の動きで実質的に解体しつつあったユニソースが解散を発表したのは、4月にユニソースとAT&T均等出資のAT&Tユニソースサービス(AUCS)をインフォネット(Infonet Services Corp.)が全面買収する覚書が締結され、7月にAT&TがAUCSから予定より1年早く離脱したため、顧客とサービス責任者の関係が錯綜し混乱も生れてきたからである。
 すべては1年余前のAT&T-BT国際通信提携から始まっており、AT&Tのワールドパートナーズ離脱に伴い宙に浮いたACUSを拾ったインフォネットが漁夫の利を得たようにも見える。ワールドパートナーズのアジアメンバーの中核であるKDDとシンガポールテレコム(ST)は、新情勢に敏感に反応した。国内環境も著しく変わったKDDは、アジアの同盟者確保のためSTと資本提携し、グローバルな展開ではQwestとの合弁事業を交渉中と言われる。STはグローバル市場進出のため、この7月にEQUANT NV、グローバルワン、インフォネットと提携契約を結んでいる。
 一方、AT&TとBTは8月始めにカナダ通信市場で、ロジャースキャンテル(R.Cantel Mobile Communications)の株式33%を共同で買収し、AT&Tが所有するAT&Tカナダの株式31%のうち30%(全体の9%)をBTが買収することで合意した。
 世界の通信企業の戦略提携(1999年8月末現在)を見ると、離合集散が佳境に入ってきたようである。


6.グローバル移動衛星通信システムの近況

 グローバル移動衛星通信サービス事業に赤信号が点り、対応が注目されている。
 世界初の事業体であるイリジウム(Iridium LLC)は、99年3月以来資金繰りが悪化して、8月11日には15.5億ドルの銀行借り入れが返済不能になっていたが、8月14日にいたり、ニューヨーク裁判所における債権者の破産申請直前に、デラウエア破産法裁判所に連邦破産法第11条に基づく保護申請を行った。 会社更生法の適用で財務上の困難は緩和されるだろうが、地上系に比べ割高な機器と通話料の根本的改善なくしてイリジウムの将来はない。最大株主(出資比率18%)のモトローラは30日以内に再建のメドが立つと言うが、最低3カ月かかるとの破産法専門家の評言もある。
 97年6月にイリジウムの一部でイリジウム・ワールド・コミュニケーションズ社(IWC Ltd)を設けて上場した時には一株20ドルの値がつき、世界どこにでも通話できる携帯電話の夢に跳ね上がって、最高71ドル(98年5月)に達したが、会社更生法適用申請の今は1.15ドルで取引停止になった。
 モトローラに次ぐイリジウムの大株主で日本イリジウムを主導するDDIは、求められれば資金を供与するとし、親会社京セラと共にイリジウムのオーストラリア法人イリジウム・サウスパシフィック(ISP)経営権取得に動いたりしている。
イリジウムの経営問題は、後続のグローバルスター(Globalstar Telecom- munications Ltd)とアイコ(ICO Global Communications Ltd)が、それぞれ6億ドル、5億ドルの資金調達に差しかかっていた時に起きたため、影響をもたらした。両社とも、世界システムオペレーターと各国関門局事業者のディスコミュニケーションの改善や低料金体系の導入など、イリジウムの失敗をフォローした。グローバルスターは52機計画を変更、32機から始める段階的サービス開始に切り替えて資金需要を縮小した。イリジウムの失敗は、最初は衛星需要のシフトとしてグローバルスターへの好材料だったが、次第にグローバル移動衛星通信への一般的不信に変わり、グローバルスターの株価はイリジウム破産申請後11%下がった。インマルサット第3世代機開発のため総額46億ドル調達する必要があるアイコは、99年7月の上場で12億ドルを得た後、延期してきた5億ドル公募計画がイリジウムの影響で実施困難となり、8月27日デラウエア裁判所に連邦破産法第11条適用を申請した。2000年第4四半期サービス開始予定を維持するためアイコは、第3世代12機を製造するヒューズが投資3倍増は応じるが運営に乗り出す意思はないとしているので、28日予定の臨時株主総会を延期して、打ち上げ後の運営・資金計画を調整することになった。
 1998年5月以来米国衛星産業は固定衛星もトラブル続きだったが、サービス停止や打ち上げ失敗などが警鐘となって取り組みが引き締まり、IPネットワーク時代を迎えてますます広帯域衛星と光ファイバプロジェクトの相互依存が進むとき、ISPの衛星通信評価が高まっていくと見られている。

(関西大学総合情報学部教授 高橋洋文)

(入稿:1999.9)

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