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世界の通信企業の戦略提携図(1999年10月19日現在)

7.MCI ワールドコムのスプリント買収

 米国長距離通信第2位のMCI ワールドコムが同第3位のスプリントを、株式交換1,150億ドル+債務引き受け140億ドル=総額1,290億ドルで買収する合意が、99年10月5日に成立した。
 株式交換は、スプリント1株につき76ドル相当のMCI ワールドコム株を交付し、移動通信子会社スプリントPCS1株につき新 ワールドコムPCS業績見合い1株とMCI ワールドコム0.1547株を交付することで行われる。
買収は2000年第2四半期までに完了する予定、解約金は25億ドル、60日間他言無用とされた。
 ワールドコム(WorldCom)と名乗る新会社は、年間売上高500億ドル、従業員数14万名、ビジネス・住宅顧客数4,000万名を擁する世界最大級の総合通信会社である。新会社では、スプリントのエズレー会長兼CEOが会長に、MCI ワールドコムのエバース社長兼CEOが社長兼CEOに就任する。
合併効果は2001年ベースで19億ドル、2004年ベースで30億ドルのコスト減が見込まれる。

fig  新会社は、米国長距離通信市場シェアではAT&Tの48%に次ぐ30%を 占め、移動電話加入者は400万名、ページャーは170万名に達する。長距離通信の競争は激しく、いずれSBCコミュニケーションズ、ベル・アトランティック(BA)、ベルサウス(BellSouth)が参入する見込みである。と言っても時間のかかることで、当面さしたる第4位のない市場での2/3位合併が消費者利益になるのか(図「テレコム案内板」参照)、FCCや司法省の判断が注目される。連邦議会でも競争者が減ることへの抵抗は強いと思われる。

 規制上いかなる条件が課せられても移動通信事業を入手することがエバース社長兼CEOの最大の狙いと見られている。本人は表に出してないが、99年5月に独立系中堅移動通信会社ネクステル・コミュニケーションズを取得し損なっているので、最後の機会とばかりに、今回競合するベルサウスの720億ドル買収提案を遥かに上回る金額を決断したのであろう。

 スプリントは、15年前大陸横断光ファイバ伝送路投資のパイオニアーに挑んだように、98年からPCSのため全米規模の無線システム構築に100 億ドルを投じ、ATM交換機/パケット・ルーター併用のIPネットワーク「ION」(Integrated On Demand)を建設中である。収益力あり、運用状態良好で、技術的に活発な会社を何故売ったのか。59才のエズレー創業者会長兼CEOは将来の資本不足を見越し今が潮時と判断したのかも知れない。

 MCIワールドコムのスプリント買収の影響を最も受けるのは、ドイツ・テレコム(DT)/フランス・テレコム(FT)/スプリントのグローバル合弁事業グローバル・ワン(Global One)であり、DTであろう。スプリントが抜けた後をDT/FT共同で埋めグローバル・ワンを維持することは、テレコム・イタリア買収事件以来不仲の両社ゆえに困難である。FTは値段によっては全株引き取って子会社にしても良いとするが、調整に期間がかかるだろう。DTは2000年に政府持株を売却すると言う脆弱性があり、早めに戦略的提携を固めて強くなっておかないと将来買収対象になりかねない。

 過去3年間、規制緩和、データ革命、株価上昇のミックスで記録破りの売買が続いてきたが、買収対象が見当たらなくなって M&Aフィーバーも終わりに近付いている。数年前いずれ真のグローバル・キャリアーは5~6社になると言われたが、AT&T、BT、SBCコミュニケーションズ、ベル・アトランティック、ワールドコムと形ができて、あと少しである。


8.米国の携帯電話会社の統合・戦略的提携

 99年7月に米国のエアタッチ・コミュニケーションズを770億ドルで買収して世界最大の携帯電話会社になった英国のボーダフォン・エアタッチは、99年9月にベル系地方持株会社ベル・アトランティックとの合弁新携帯電話会社設立を打ち出し、エアタッチ事業とベル・アトランティックの携帯電話事業とを統合する方向で交渉中と発表した。
 新会社は全米人口の90%をカバーし、携帯電話加入数は2000万近く、全米加入数の20%に達する。新会社には現在手続き中のベル・アトランティックの買収会社GTEも参加し、両社で新会社株式の55%を保有し経営権を得る予定である。
 エアタッチ事業は西海岸中心25州で加入者1550万名を持ち、ベル・アトランティックは東海岸中心24州で700万名を持ち、買収予定のGTEにも700万加入あるので、新合弁会社は全米で3000万加入近い米国最大の携帯電話会社になる。
 なお、米国の携帯電話免許は各地域新規/既存キャリアー1社づつ割り当てられているため、合併で1社になる場合にはいずれか1社を売らなければならないので、手続き完了には時間がかかる。
 一方、BTとAT&Tは、9月16日にグローバルなワイヤレス電話サービスの提供を目的に、以下を骨子とする「アドバンス・アライアンス」という提携を結んだと発表した。
  1. 100カ国の198のGSM網と50カ国の140のTDMA網を対象に、旅   行者や多国籍企業向け新セルラー電話サービスを開発する。
  2. 世界各地の携帯電話サービス契約や料金請求書を一本化する「グローバルアカウントサービス」を提供する。
  3. )GSM網、TDMA網、第3世代セルラー電話などの相互接続にについて共同の立場で技術開発・標準化を推進する。
  4. 共同作業を通じてノウハウ、知識、経験を共有する。
 この提携は両社傘下の4000万加入に対してシ−ムレスなサービスを提供しようとする野心的なものである。
 1970/1980年代のパソコン革命、1990年代のインターネット革命で米国に遅れをとった欧州は、GSMの成功で世界の携帯電話をリードしている。ノキアは世界一の携帯電話メーカー、ボーダフォンは世界一の携帯電話サービス会社になった。そこで、欧州は携帯電話によるインターネット・アクセスの開発・普及やモバイル・ポータルの構築によって、「モバイル・インターネット時代」を創造し、インターネットにおける米国への劣勢を挽回しようとしている。
 ベル・アトランティック/ボーダフォン携帯電話サービス合弁は、このような新時代に向けたグローバル戦略として意義がある。それに対抗する  AT&T/BT携帯電話統合が出来た今、NTTのグローバル・モバイル戦略が問われている。


9.欧州第6位のキャリアー誕生=テリア+テレノール

 スウェーデンとノルウェーの国営電話会社テリア(Telia )とテレノール(Telenor)は99年10月13日に合併で合意し、ケーブルテレビ事業(時価26億ドル)の売却を条件にEUの承認を得たと発表した。
 既存電話事業者同士の合併としては欧州初めであり、売上高100億ドルを超える欧州第6位のキャリアーが誕生する。新会社の資本構成は当初スウェーデン政府60%、ノルウェー政府40%とし、本社をストックホルムに置き、テリアのヤン=アーケ.カルフェ会長が新会社の会長に、テレノールのトルモンド・ヘルマンセンCEOが新会社のCEOに選任された。2000年4月ないし5月に上場して株式の33.2%を公開・売却し、スウェーデン・ノルウェー政府の持株比率は各33.4%とする一部民営化を行う。新会社は当面それぞれのブランド名で事業を継続し、99年末までに新会社名を決めて切り替える。
 合併のEU承認を得るため、両国の市内電話市場を開放するほか、テリアはノルウェーでの子会社テリア・ノルゲを売却し、テレノールはBT/テレデンマークとの合弁テレノルディアの持株を整理し、テリアのアイルランド携帯電話会社アイルコムの持株またはテレノールのアイルランド携帯電話会社イーサット・ディジフォンの持株を売却することとしたが、現在それぞれテリアがスウェーデン市場の49%を占め、テレノールがノルウェー市場の33%を占めるCATV事業の売却が最大の難関となっていた。
 伝統あるテリア/テレノールの合併は簡単ではなく、今回の最終決定も、予定された18日の署名の直前にカルク新会長の役割や理事会の労働組合代表増員問題などが起き、合併協定は19日朝に調印された。
 しかし、テリアとテレノールは固定電話の優れた歴史を持つほか、移動電話の開発・普及をリードし、インターネットのパイオニアであったため、新会社は欧州データ通信市場の主役となり、新時代の総合通信会社のモデルとなり得よう。

(関西大学総合情報学部教授 高橋洋文)

(入稿:1999.10)

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