2013年1月23日掲載

2012年12月号(通巻285号)

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コラム〜ICT雑感〜

流行と現実〜振り子のように

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学生時代、先生が若くて綺麗というだけで取った授業(内容が難解で指導も厳しく後でしまったと思ったのだが)で使われ、未だに印象に残っているエッセイ「Romanticism & Classicism(ロマン主義と古典主義):T.E.Hulme」を読み返す機会があった。イギリスの文壇(主に詩:poet)で一世紀続いた美辞麗句的な表現形態をとるロマン主義の時代は終わりをつげ、古典主義が新たな形で復活する、ということを哲学的な観点も織り込んで論じたものである。なぜ文学や哲学の門外感の「印象」に残ったかだが、(文学や哲学を専門とする方からはお叱りをうけそうだが)こういう世界においても社会や時代等の環境変化を受けつつも(1)「流行」が存在し、(2)「流行」は形態を少しずつ変えつつも「振り子」のように繰り返すが、 (3)たとえ対立する「概念」であったとしても現実は実態として両者とも並立して存在する(T.Sエリオットの詩の力強さに感銘することもあれば、H.Bシェリーで夢見心地にふけりたいときだってある)の3点だったのではないかと思う。

考えてみるとこういう事例はICTの世界でもよく見られる。代表的なものとして「集中と分散」、「垂直統合と水平分業」という対立する「概念」がある。例えば、「メインフレームは時代遅れの産物(レガシー)で、これからはすべてオープンサーバーの時代だ」などというかなり乱暴で、一時はメインフレームを使っている業務システム全体までもが古いという論調まであった。確かに、PC、サーバー、ストレージ(これらを支える半導体チップやソフト)や、DBMS等の多くのミドル・ソフトウェア等の発展と技術革新等の環境変化によって、「集中」「垂直統合」から「分散」「水平分業」も可能となり広く普及したということは事実である。しかし実際にはメインフレーム(や仮想化ソフト等)も進化をとげており、最近のクラウド的な世界、雲の向こうの大規模データの処理や管理のしやすさという観点から、この分野においてはメインフレームは不可欠で有効な道具となっている。ICTにおいてもテクノロジーの発展等の環境変化によって(1)一種の流行があり、(2)流行は繰り返すが、(3)現実には新しいものも古いものも併存する。抽象的な概念の対立自体の意味は薄く、むしろ環境変化が生みだす流行によって「新しい方法論」や「道具」が増え、選択枝が増えたと捉えればよいのだろう。そして選択枝が増えたことによって、適用分野をすみわけつつ両者とも存在しつづけるケースが多いのが現実だと解釈すればよいだろう。

世の中だいたいそんなものだと言ってしまえば、それまでなのだが、それにしてもICTの世界にはこの手の「これからは○○○の時代だ」とか、「○○○なんてもう古い」、「○○○で一挙解決」などといううたい文句がなんと多いことか。これは外部環境の中でもスピード感をもって発展するテクノロジーがドライブしているからともいえるだろうが、いささか眉をひそめたくなるものも多いのも事実である。新しいテクノロジーの追求は重要だが、「振り子」のように繰り返す「流行」と「現実」を峻別する、冷静な目だけは失いたくないものである。

今年も師走。吊広告には「クリスマス、やっぱりシックなロングヘア」というキャッチコピー。あれ?夏に「ビーチでキュートにショートヘア」ってキャッチをうった同じファッション雑誌!

今年もお世話になりました。よい御年をお迎えください。
Merry Christmas & Happy New Year!

取締役 社会公共システム研究グループリーダー 田川 久和

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