2014年4月21日掲載

2014年3月号(通巻300号)

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InfoComモバイル通信T&S

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巻頭”論”

モバイル通信事業者は真に国境を越えられるか?

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世界のモバイル通信業界では相変わらず同業者へのM&Aが盛んに行われています。その中にはアフリカ諸国など新興国における新たな成長を取り込もうとする流れと市場の成熟化の中で規模の拡大で競争力を強化しようとする動きの2つのパターンが見られます。前者は先進国での普及が限界に近づくなか成長著しい新興国の市場を取り込んで自らの成長過程を継続・再現しようとするもので、良し悪しはあっても歴史的に文化的に関係の深い国の間でしばしば見られるものです。しかし、新興国であってもモバイル通信の普及・拡大は急テンポであり、成長はいずれ壁にあたり鈍化していくことが容易に想像されます。

一方、後者の規模拡大による競争力強化の方法には自国内での場合と他の先進国の場合がありますが、自国内のケースでは多くの場合、競争政策(独禁)当局との議論が生ずることは御承知のとおりです。通信事業は本質的にその公益性から免許制・認可制がとられているのに加えて、電波資源の希少性が故に無線免許数は少数にならざるを得ません。その中で自国内の同業者がM&Aするとなると料金やサービス、また設備投資などに影響が出ることが予想されるので、競争政策上の判断が求められるのは当然のことでしょう。例えば、米国におけるAT&TによるT−モバイルUS買収ではDOJ(司法省)とFCC(連邦通信委員会)の承認が得られず、当事者間の合意があったにも拘らず結局破談になったことはまだ記憶に新しいところです。その点、他国でのM&Aでは前者の新興国市場の成長の取り込みであれ、他の先進国市場との間での規模拡大であれ、外国資本による市場参入・進出に関する外資規制の制約は付きまといますが、競争政策上の問題は大きな障害とはなっていないようです。米国の例でも、日本のソフトバンクによるスプリント買収の場合でも安全保障上の制約があったとの報道は見られましたが、競争政策面の問題は起こりませんでした。ただ、その後話題となっているスプリントとT−モバイルUSとのM&Aではやはり競争政策上の取扱いと判断が決定的に重要なポイントとなっています。

国際的な資本流入では問題とならず自国内のM&Aで問題とされるのは、競争政策当局の規制方式と権限という法制度上の問題が第一に存在しているためですが、加えてそもそも通信市場は一国内に閉じた事業・サービスという認識が強いためだとも考えられます。確かに通信設備インフラは基本的に一国内に閉じて構築されていますし、電波免許も一国内に閉じて与えられています。モバイル通信のように端末が国境を越えて使用されるサービスであっても、通信インフラは一国をベースに建設・設置されていて、いわゆるBtoC市場を中核にして国内だけが競争市場と認識されてきました。その上、現実に複数国をまたがった同一・共通のサービスは提供されてきませんでしたし、国境を越えて通信インフラを一体で設置・運営する事業者も現れませんでした。モバイル通信事業もまた、公益性が高く、かつ電波権限という国益が絡み合う国内インフラ産業であることは間違いありません。その中で資本だけが国境を越えて事業展開がなされてきましたが新興国の成長の壁が見え始めている昨今では、端末や通信設備機器の調達やサービス提供・運営ノウハウの共通化によって競争力を高めるという国をまたがった規模拡大路線が目立つようになっています。米国スプリントのM&Aに続けて世界最大の携帯端末卸売会社のブライトスターの買収を行うなどソフトバンクの一連の動きがそのことを示しています。今後に注目です。

私は、今日のモバイル通信市場では、ユーザーにサービスを直接提供するBtoC市場に着目して競争が認識されてきたことに変化が起きていることを注視しています。それは、一国内の法制度を基盤としたインフラ中心のBtoC市場から、インフラを利用したプラットフォームに基づく、いわゆるBtoBtoC市場に競争の中心が移行しているということです。通信インフラは一国内に止まっていても、サービスプラットフォームはインフラさえあれば国境を越えて世界に広がっていきます。利用者が3億人を越えるLINEがそうですし、月間アクティブユーザー数が12億人を越すFacebookなどその例はいくつもあります。要するにインフラが法制度・規制で国境内に止まっている間にプラットフォームビジネスは国境を越えて拡大しているのです。既存の法制度や規制がある限りインフラビジネスである通信事業は資本の流入・移動はあっても国境をまたぐことはないでしょう。市場統合や通貨統合が進んでいるEU域内ですら、まだまだ通信インフラは各国それぞれバラバラの状態なのですから、ましてや世界の他の地域では無理でしょう。

しかしながら、プラットフォームやBtoBtoC市場に的を絞ってみると通信事業者も国境を越えたサービスを提供していることが分かります。データセンターとクラウドビジネスがその典型でしょう。世界中でデータセンターファシリティ設置要件の競争があり、当該国の通信事業者に限らず先進的なBtoB市場を取り込もうとする通信事業者がプラットフォームのハブを目指してデータセンターを建設し、さらに自らクラウドサービスを展開しています。ただ、NTTグループのデータセンター事業が床面積ベースでは世界第2位になったとはいえ、そこで展開されるサービスでは、いわゆるOTTプレーヤーが強力でクラウドサービスを押えてしまっているのが実情です。また、サービスプラットフォームではLINEやFacebookなどが国境を越えてインフラをまたがって普及、拡大してしまっていますので、BtoC市場でサービスを展開し運営してきたモバイル通信事業者の出番は限られてしまっているように見えます。日本の成功モデルを代表するiモードであっても、他国の特定の通信事業者の通信インフラに限定したサービス展開であったが故に端末が限られ、サービスのインストールが複雑化して結局成功しませんでした。失敗の根本原因はやはり一国一事業者のインフラに準拠したサービス提供・運営にあったと思います。それはやはり自らの事業及び市場モデルに心理面で制約を受けたためにやむを得ないものでした。現在、隆盛を極めているOTTプレーヤーの事業モデルはそもそも、通信インフラに基づくところがないので法制度面、規制面で当初から国境は意識されていません。このことをモバイル通信事業者もよく見倣う必要があります。

この点で最近注目すべきニュースに接しましたので紹介しておきたいと思います。それは日本のソフトバンクがアジア太平洋地域のモバイル通信会社の連合体「ブリッジアライアンス」に加わったという発表であり、その直前にはこの「ブリッジアライアンス」のうち11社がM2M関連の新アライアンス「ブリッジM2Mアライアンス」を発足させたことです。ポイントは2点、第1はもちろんM2Mアライアンスの取り組み、すなわち新しいプラットフォーム分野であること、第2はこの「ブリッジアライアンス」がアフリカから台湾、韓国、オーストラリアまでの32社を含み合計6億件を越える規模を有していることです。私は、ここにモバイル通信事業者が国境を越えてプラットフォームビジネスの提供者になれる新しい道があると感じています。成長著しいアジア太平洋地域におけるモバイル通信インフラの整備水準は急速に向上しており、単に人対人の音声とSMS通信だけでなく、機器間通信への拡大は当然十分予測されるところです。それを資本提携主体でなく、サービス提携、インフ  ラ協調で国境を越えるプラットフォームとし、地域内での競争力をつけようとする新しい取り組みなので注目しています。アジアでは特に、モバイル通信事業への外資規制はまだ色濃く残っている一方、この地域の経済発展、経済連携はますます活発化していきますので、特にM2MサービスのようなBtoB市場ではビジネスユーザーが展開しているエリアを同一水準のサービスでカバーする必要性はこれまで以上に高まっています。

この「ブリッジアライアンス」には日本の事業者の参加は最近まで見られませんでしたし、またM2Mへの特化は始まったばかりですので、これまでNTTドコモがメンバーになって活動してきた「Conexusモバイルアライアンス」の実績と今後の一層の取り組みに期待をしています。メンバーにアジア10カ国・地域から10社、パートナーにボーダフォングループ(27社)が加わるこの「Conexusモバイルアライアンス」を主体に、M2MのようなBtoB市場を中核におくプラットフォームビジネスを国境を越えて展開することがOTTプレーヤーに対抗する上でモバイル通信事業者に求められています。この場合、日本独自の接続約款規制や禁止行為規制などの非対称規制は国際的な事業活動の足かせにならないよう改める必要があるでしょう。サーバーの設置場所やネットワーク構成などインフラビジネスに拘泥することなく、プラットフォームに力点を移してOTTプレーヤーと同じ環境に身を置くことが国境を越えてサービスを展開する上での絶対条件です。

株式会社情報通信総合研究所
相談役 平田 正之

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