2013年1月23日掲載

2012年12月号(通巻285号)

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巻頭”論”

消費市場の中核〜シニア層のICT需要に応える

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高齢化社会の到来が言われて久しい。現実にシニア層の人口は年々増加し、特に2012年は約800万人いる、いわゆる団塊世代の先頭が65歳に達します。65歳以上の人口が総人口に占める割合は、2011年の24%から2030年には30%超に達する見込みとなっています。2030年に65歳の人は現在は47歳、1965年(昭和40年)生まれで、高度成長時代に子供時代を、バブル期に青年時代を過ごし、社会人のほとんどをバブル崩壊後の停滞期を経てきた世代です。こうした世代論には話題は尽きませんが、ここでは少し視点を変えて、現実に団塊世代がすべてシニア入りする今後5年から10年程度先のシニア層マーケットについて考えてみることにします。

それぞれの世代の人達がどのようなライフスタイルを持ち、どのような消費行動をとるのかを予測する必要性と同時に、一方ではそれぞれの世代の人口数からみて人口構成全体の変化は容易に想定されますので、消費市場の構造的変化を予測することができます。2010年の60歳以上の世帯の消費支出は90兆円(全体の32%)ですが、2020年には109兆円(全体の35%)に達すると予測されています(出典:三菱総合研究所)。その消費規模は2010年時点でも既に若年層(世帯主が39歳以下)の1.6倍に達していますが、2020年には2.3倍の規模になり、世帯主が40〜59歳の中年層すら上回ることになります。つまり、消費市場で中核を占めるのがこのシニア層となる訳です。世代論では個人当たりや世帯当たりの消費水準や消費行動が取り上げられますが、ここでは全体の消費市場の構造変化に注目しておきたいと思います。消費市場全体に与えるインパクトはシニア層が握っているのです。その上、日本の個人金融資産約1,500兆円のうち、4割を60歳以上が所有しているという事実も見逃せません。

ここで、目先を変えて2011年の総務省「家計消費状況調査」から年齢層別の世帯消費支出状況をみてみると、世帯当たりの年間消費額は341万円、そのうちサービスと機器を合計したICT消費支出は年間23万円で6.8%を占めています。内訳では、ICTサービスが74%でICT機器は26%であり、サービスの比重が大きくなっています。なかでも最大項目は移動通信使用料で、ICT消費支出全体の44%に達しています。

世帯の年齢層別消費動向では、全消費支出に占めるICT消費の割合は、29歳以下の10.7%をピークに70歳以上の4.8%まで世代を通して一貫して減少しており、その金額も40〜49歳の年額32万円をピークに、60〜69歳でその3分の2、70歳以上で4割にまで減少していきます。特に、移動通信使用料とインターネット使用料は、支出金額がピークとなる年齢層に比べて、60〜69歳で約5割、70歳以上では3割以下と大幅に低下しています。しかしながら、世帯別の消費支出全体は、ピークを示す50〜59歳に比べて60〜69歳でも9割弱、70歳以上で約7割と低下の傾向は大きくありませんので、前述のとおり、年齢層の上昇に伴ってICT消費支出の割合が下がり、特に移動通信使用料とインターネット接続料の大幅な減少となって表れています。一方で、固定通信使用料は逆に年齢とともに順次上昇し、70歳以上の年齢層が最大となっている特徴があります。以上をまとめてみると、60歳以上のシニア層の消費支出規模は、全世帯の約3分の1、90兆円であり、今後10年間年平均2%の伸びを示す巨大な消費市場と予測されています。しかしながら、ICT消費に限ってみると、40〜49歳をピークに60歳を過ぎると大幅に下がり、残念ながら特にICTサービス分野が急激に低下している現状にあります。ただ、団塊の世代の先頭が65歳に達しつつある現在、そのすぐ下の世代である50〜59歳では移動通信使用料もインターネット使用料も支出額は大きいので、今後ICTサービス支出を押し上げていくことが期待できます。

ただ、その一方で新たな課題となるのが、インターネットを利用した支出額で30〜39歳をピークに、50〜59歳で約7割、60〜69歳では約3割にまで、比較的早い段階から急激に低下していることです。即ち、年齢層の上昇に伴って通信サービスへの支出が抑制されているだけでなく、そもそもインターネットを利用した購買行動そのものが普及していないことが見てとれます。世帯の年齢層別に予測する限り、最大の消費支出規模を担うシニア層のモバイル利用、ネット利用とネット購買が他の年齢層に比べて大幅に低くなっていますので、シニア層向けのICTサービスの開発が望まれるところです。シニア層のICTサービス需要を掘り下げて顕在化しなければ、日本国内のICT産業の成長は期待できません。ICT産業のうち、製造業の多くは既に海外移転が進み、生産拠点等における日本国内の雇用は減少しているのが現状です。その一方でICT産業ではサービス分野が大きく成長を遂げてきましたが、サービス産業は本来内需型産業なので国内経済への貢献度には大きなものがあります。さらに個人消費の中核層がシニア層に移行していくことに鑑みると、ICT産業においても製造業からサービス業へと重心をシフトして、消費構造に合わせたシニア層を主なターゲットとしたサービス開発、イノベーションを図ることが、日本再生につながる早道ではないかと考えます。団塊の世代は、これまでも消費市場の中核となってきた訳ですが、ICT産業は変化が激しく、もの中心からソフトウェア/アプリケーション中心へと消費内容が移ってきましたので、さすがに団塊世代よりむしろ、より若い年齢層がICTサービスの消費主役となってきました。スマートフォンもタブレットも、またゲームやSNSなどのサービスやアプリケーションも主要ターゲットが若年層にあったことは明らかです。しかし、若年層人口はさらに減少していく一方、シニア層人口はこれからも長い間増加していきます。このシニア層に対するICTサービスを開発・普及しない限り、ICT産業全体の発展は望めません。

具体的には、ICTサービスの提供において、シニア層消費者に対して、(1)ICT機器やICTサービスの用途・使い方などを理解してもらう方策(体験づけ)、(2)ICTリテラシーの向上、操作性の改良・改善や決済方法の信頼性の向上によって敷居を下げる、(3)人の介在によるサポートやシニア層消費者の声を把握する工夫が求められます。例えば、ICT機器やICTサービスの提供時に、身体機能や知覚機能などを確認して選択時に短時間でその場でカスタマイズできるサポート体制が必要ですし、シニア層はそれぞれの経験や体力、経済力などさまざまな面で多様なので、シニア層個人が生み出す情報をICT機器やICTサービスを通じて収集・蓄積して新たな開発につなげることが最も重要です。シニア層の消費活動についての理解がまだまだ不足しているのが実情です。

株式会社情報通信総合研究所
代表取締役社長 平田 正之

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