2012年11月27日掲載

2012年10月号(通巻283号)

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InfoComモバイル通信T&S

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巻頭”論”

スマートフォン、Wi-Fi、ソーシャルメディアの結びつき
〜テザリングのインパクト

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最近のモバイル通信市場では、スマートフォンの話題が尽きることなく続いています。2011年度の国内携帯電話端末の出荷台数約4千3百万台のうち、スマートフォンが6割近くに達していて、さらに今年度は8割を越えると予想されています。また、9月には御承知のとおりiPhone5の発売が開始され、KDDIとソフトバンクモバイルがサービス、料金、販売数などつば競り合いを演じているところです。他方、地味ではありますがNTTドコモが出しているシニア向けのスマートフォン(らくらくスマートフォン)が好調に売れているなど、本当にさまざまな話題があります。

手軽に持ち歩けるパソコンの機能と同時に、位置情報や非接触通信など携帯ならではの機能が数々の便利で楽しい、新しいアプリケーションを登場させています。その流通構造もまた、新しく登場したアプリケーションストア方式が一般化して、それまでのモバイル通信会社が扱う垂直統合モデルから、端末メーカーやIT企業主導の方式に拡大して大きな発展を遂げています。その一方で、スマートフォンがもたらしたトラフィックの急増に対し、モバイル通信会社は次世代通信網LTE(3.9Gとも4Gとも呼ばれる)の建設で対応していますが、年率2倍のペースで増加するトラフィックにはそれだけでは足りず、相当のトラフィックを他のネットワークで疎通する、いわゆるオフロードに取り組んでいるのが実情です。モバイル通信各社はWi-Fi網の整備を進めていて、各社それぞれ10万〜20万のWi-Fi基地局の規模と言われています。

トラフィック増加要因の最大のものは映像トラフィックであり、それを促進しているのがSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)などのソーシャルメディアです。ソーシャル(仲間や付き合い)な関係者間のメディアの中心がパソコンからスマートフォンに移行して、大量の動画がやり取りされており、かつ、話題性に敏感な利用者なのでトラフィックの集中がみられるのが特徴となっています。つまり、スマートフォンがソーシャルメディアの普及・拡大に応じて中心的なツールとなり膨大なトラフィックを生み出しているのです。SNSを手がける代表であるフェイスブック社において「スマホ最優先の体制に」(2012年9月13日、日本経済新聞)と伝えられているだけでなく、9月に幕張メッセで開催された東京ゲームショウでも、人と交流しながら遊ぶスマートフォン向けのソーシャルゲームが主流となるなど、スマートフォンとソーシャルメディアの結びつきがより一層強くなってきています。トラフィック急増対策としてのWi-Fiオフロードは、モバイル通信会社にはネットワークの無料付加サービスでありそれ自体で収益をもたらすものではありません。いわば防衛的な顧客囲い込み方策に過ぎませんが、他方、スマートフォンとソーシャルメディアの結びつきがもたらす各種の圧力は新しい産業の芽を感じさせるものです。その一つがWi-Fi利用のテザリング機能で、既に数多くのスマートフォンがこの機能を有しています。これまでは、Wi-Fiオフロードはスマートフォンのトラフィックを主に光ファイバーとの接続で疎通するのが狙いでしたが、テザリング機能により、スマートフォンがWi-Fiルーターの役割を持つことになりマルチデバイス環境に対応できるようになっています。さらに、HTML5の一般化によってアプリケーションも端末上のネイティブアプリからWebアプリ/ブラウザー対応へと変化しつつあることが加わっ  て、ますますモバイルネットワークに負荷がかかる事態となっています。テザリング機能によってモバイルネットワークの逼迫は一層進むので、モバイル通信各社はLTE投資を加速する計画ですが、それだけではとても捌き切れない事態です。マルチデバイス化、ブラウザーによるOSフリー化と同時に、単純なオフロードではないWi-Fi網(無線LAN)を取り込んだマルチキャリア方策が必要な状況となっていると考えます。スマートフォンの登場がモバイルネットワークの垂直統合サービスに終止符を打ち、HTML5が新たにOSフリー化を方向づけている今日、新たにテザリング機能がもたらすインパクトをマルチキャリア対策によって乗り越える方策が求められます。屋外では3GやLTEと無線LAN(Wi-Fi)の選択、自宅では3G・LTEと光ファイバープラスWi-Fiの使い分けという、これまでWi-Fi無線ルーターが果たしてきた役割をスマートフォンが担っていくことでしょう。こうしたマルチデバイス、OSフリー、マルチキャリアの下、スマートフォンとソーシャルメディアが結びついてこそ新しいサービスへとつながっていきます。具体的なサービスモデルはまだまだこれからですが、O2O(Online to Offline)の流れが注目です。ビジネスとしてどうマネタイズできるのかにかかっています。

こうしたマルチキャリアへの流れは、四半世紀以上前から続く通信事業の自由化の一つの到達点であるだけに、モバイル通信サービスと固定通信サービスを自由に組み合わせてユーザーに選択し得る環境を提供すべき状況となっていると感じています。スマートフォンの普及が無線LAN(Wi-Fi)によるオフロードをもたらし、マルチデバイスがソーシャルメディアと結合してSNSやソーシャルゲームなどをより一層拡大させている今日、マルチキャリア分野が事業者に対する競争政策の下、支配的事業者に対してだけ引き続き「事前規制」されている現状は、ユーザーの求めるサービス発展の大きな流れにそぐわなくなっているのではないか。自宅でスマートフォンのテザリング機能を使う場合でも、ユーザーは従量制料金や速度規制を意識して光ファイバープラスWi-Fiへの自由な回線選択を求めています。その途に競争政策面から事業者によって制約をつけていると、スマートフォンの拡大がテザリングへの過度な負担をもたらし、光ファイバーの普及を抑制してしまいかねません。いまやスマートフォンは光ファイバー普及にとって、光電話、光テレビ接続に続く、第三のキラーツール/キラーアプリとなっています。

ネットワーク間競争を追求してきた競争政策面では、モバイル回線と固定回線の間では既に数量的にモバイル側に軍配が上がっています。それでも、無線周波数資源の有限性と通信設備の安定性などからアクセス網として光ファイバーは通信ネットワーク上の必須アイテムです。我が国の通信自由化以来27年を経過した今日、ネットワーク間競争の考え方や(参入)競合の育成の扱いではない新しいマルチキャリア(HetNet:ヘテロジニアス・ネットワークと呼ばれる)の時代に適応した方策が求められています。これからさまざまな方向性が予想されるマルチキャリアの利便を進めるために、支配的事業者への非対称規制である事前規制を改めて独禁法等による事後的な市場・サービス管理に移行する規制改革の途が必要でしょう。

株式会社情報通信総合研究所
代表取締役社長 平田 正之

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