2012年10月31日掲載

2012年9月号(通巻282号)

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コラム〜ICT雑感〜

映画「トータル・リコール」とデジタル・ガジェット

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アーノルド・シュワルツェネッガー主演の「トータル・リコール」が、コリン・ファレルでリメイクされた。前作は1990年製作。原作は1966年発表のフィリップ・K・ディックの「追憶売ります(「模造記憶」新潮文庫所収)」。ディックの小説は、年月を経てもプロットがあまり古びず、映像化したいという意欲をかき立てるようだ。「ブレード・ランナー」や「マイノリティ・レポート」など、強い印象を残す作品も多く、昨年(2011年)も「アジャストメント」が作られている。前作の「トータル・リコール」を見たときに、寺沢武一の代表劇画「コブラ」の第一話(1978年)と、そっくりだと感じたファンは多いだろう。恐らく寺沢も、ディックのプロットを上手に借用しているのだと思う。

21世紀末の地球は化学兵器によって居住不能地域がほとんどを占め、人々は裕福なブリテン連邦と貧しいコロニーに分かれて暮らしている。頭脳に記憶を埋め込む技術が実用化され、人工の記憶を提供するサービスが提供されている。コロニーの労働者クエイドは、つらい日常に嫌気がさして、リコール社に人工記憶を買いに行く。現実の記憶と衝突しないようにするため記憶をスキャンされているところで、警官隊の襲撃を受ける。クエイドは、とっさに凄まじい戦闘能力を発揮して全滅させる。自宅に逃げ帰ると今度は妻のローリーに襲われる。自分の過去に不安を抱えつつ逃走を続けるうちに、過去の恋人メリーナと出会い、自分が二つの地域を巡る抗争の重要なキーになっていることに気づいていく。

今回のリメイクは、前作映画のリメイクという色彩が強いようで、ところどころオマージュと思われるシーンがある。例えば、セキュリティ・チェックを通る際に太った中年女性が意味ありげに映るし、歓楽街では乳房が3つある女性が声をかけてくる。大きく異なるところは、コロニーの設定(前作は火星)と主人公の体型だろうか。シュワルツェネッガーは最初からどう見ても平凡な勤め人に見えなかったが、ファレルが自分の能力に驚くところはなかなか良かった。また、偽妻ローリーの印象もかなり違う。前作のシャロン・ストーンが、最後まで何となく可愛らしさを残してあっさり殺されてしまうのに対して、ケイト・ベッキンセールは鬼の形相でターミネーターのように執拗に襲い続ける。監督自身の美人妻にここまでさせるのは、もしかして、これもシュワルツェネッガーへのオマージュなのか。

前作をあらためて見直すと、細かなガジェットの古さが目に付く。前作のディスプレイは全てブラウン管(CRT)をイメージした厚みのある巨大なもので、今では違和感を禁じ得ない。新作では、ディスプレイ代わりにガラスに映像を投影する機器をはじめとして、ディスプレイ自体が景色に溶け込んでいる。そして何よりも、前作にはモバイル端末が全く出てこない。通信をする際に、いちいちテレビ電話のあるところまで行って話をしている。今回の作品では、当然のようにスマートフォンが使われているし、主人公の掌には携帯電話が埋め込まれている。これらの変化は、現実の技術の進展を反映したものだと言えるだろう。近未来SFは、こういった身近な道具から古びてしまう。そして、この20年ほどで、コミュニケーションの様式が大きくモバイルにシフトしたことを、今さらながら強く感じた。

法制度研究グループ部長 小向 太郎

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