2012年7月24日掲載

2012年6月号(通巻279号)

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VoIPサービスは「電話番号」を葬り去るか?

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本誌の過去記事(2012年5月号など)でも解説しているように、現在、日本国内でも「LINE」「050 plus」といったVoIP(Voice over IP)を利用した無料通話アプリが急速に普及している。従来、これらのアプリは専用のアカウントを取得して利用するのが常であり、同じアプリを使用しているユーザー同志であってもアカウントIDを交換する必要があった。しかし、最近はTwitterやFacebookのアカウントを利用して、専用アカウントを必要としないアプリが現れてきている。つまり、通話する際に特別なIDや番号が不要となり、「電話番号」という概念が極めて希薄になってしまっている。

次々と新作が登場するVoIPアプリ

VoIPアプリで最初にブレイクしたのはSkypeだが、当初はスマートフォンがまだ登場していなかったこともあり、パソコンからの利用に限られていた。スマートフォンの登場・普及とともにSkype以外のアプリも登場し、昨年(2011年)は多数のアプリが登場した(表1)。

【表1】主なVoIPアプリ

表1に掲げたアプリはいずれも、同じアプリを使用している相手には無料で通話ができ、固定電話や携帯電話へかける場合にも通話料金が安いと謳っている(Viber、LINEは同じアプリでなくても無料と謳っている)。

現在はSkypeとLINEの二強状態

これらのVoIPアプリの中でよく知られているのは、やはりSkypeとLINEであろう。実際、MMD研究所が2012年2月に調査した結果によると、登録しているサービス、最も利用しているサービスともにSkypeとLINEが1位・2位を占め、事実上の二強状態にある(図1)。Skypeは他のアプリと比べサービス開始が圧倒的に早いため、登録数・利用数ともに多いことは容易に想像できるが、LINEがサービス開始から1年程度でSkypeと肩を並べるほど普及した事実は驚くべきことである。

【図1】VoIPアプリの登録状況および利用状況

ソーシャルサービスと連携して二強に切り込むReengoとOnSay

表1を見ると、「必要なアカウント」にFacebook、Twitterを挙げているReengoとOnSayの存在が目立っている。これらのアプリは、VoIPサービスを利用するための専用のアカウント登録が不要で、代わりにFacebookやTwitterのアカウントを利用する。例えばReengoの場合、Facebookアカウントでログインすると、Facebookの友達リストの中でReengoを利用している友達には電話のアイコンが表示され、すぐにReengoから電話をかけることができるようになっている(図2)。OnSayも、Twitterアカウントを用いるという違いはあるが、Reengoとほぼ同様の使い勝手を提供している。

【図2】Reengoとfacebookの連携

このように、ReengoとOnSayはFacebookやTwitterのアカウントを利用することで、ユーザーにとっては導入のハードルを下げるとともに、Reengo、OnSay自身にとってはアカウント管理のリソース抑制の手助けとなっている。

図1の「最も利用しているサービス」を見ると、ReengoやOnSayは「その他」に含まれ、両者を合わせても高々2%程度の利用率にすぎない。しかしながら「登録しているサービス」で見ると、両者の合計は10%を超える。ユーザー側が手軽に導入できるという側面を考えると、ReengoやOnSayは近い将来、Skype、LINEの二強に食い込んでいく存在になりうるのではないだろうか。

ソーシャルサービスと連携したVoIPサービスが電話番号を葬る?

ReengoやOnSayは電話番号が不要なサービスであることは上で述べた。では、このようなVoIPサービスが今後さらに普及していった場合、電話番号は将来なくなってしまうのだろうか。

現状から推測するに、電話番号が完全になくなることは考えにくいが、利用される電話番号の総数は今後徐々に減少していくだろう。

固定電話は今後もある程度残るであろうことが、その理由の一つとなる。将来的には固定電話もIP化されると推測されるが、その時点で電話番号がIPアドレスやFacebookアカウントに取って代わることは考えにくい。

もう一つはプライバシーとセキュリティの問題である。現状では、通常の固定電話・携帯電話での音声通信と比べ、VoIPサービスでは通話のプライバシーとセキュリティの担保を謳っているものは少ない(SkypeはHP上で通信を暗号化してセキュリティを保っていると述べている)。このため、友人同士の通話ではさほど気にしなくても、ビジネスでの導入を躊躇する場面があるだろう。セキュリティ強化には投資が伴い、これがユーザーに転嫁された場合、無料・定額通話のメリットが弱くなるというリスクもあるため、VoIPサービスは「安全だが少し高い」ものと「あまり安全でないがかなり安い」ものの二極化へ進む可能性もある。

NTTグループは050 plusで打って出たが

2011年7月、NTTコミュニケーションズは050 plusサービスを開始し、VoIPサービスへ参戦した。携帯電話との通話料が他の有料VoIPサービスよりも安く設定されていることもあり(日本の携帯電話への発信料金は050 plus 16.8円、Skype 40円)、昨年はインターネット上でも多く話題に上り、「ASCIIスマートフォンAppアワード2011」金賞に選出された。

課題は導入時の手間だ。利用開始には登録と電話番号(050番号)の払い出しが必要で、ユーザーの手間は安い料金で新規に電話の契約を行うのとあまり変わらない。個人ユーザーを増やすには導入にできるだけ手間がかからないようにすべきであることは、ReengoやOnSayが証明している。

音声通話がVoIPアプリへシフトしていくのは世の必然で、この流れを逆転させることは不可能と言ってよい。この中ではNTTも大勢のプレイヤーの一つであり、ユーザー獲得には通話品質以外にも導入や使い勝手の面で不断の改善が必要になるだろう。

清尾 俊輔


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