トップページ > レポート > マンスリーフォーカス > Please Road This Image.

世界の通信企業の戦略提携図(2001年10月5日現在)

79.経済環境の急変と情報通信M&A

 長引くITバブル崩落不況と対米同時テロの突発により未曽有の米日欧同時不況が始まった。米国では9月11日以降、一旦ショッピング・モールはガラ空きに、自動車のセールスはパッタリ止まり、飛ぶ旅客機はほとんど空席となり、3週間目になって需要は立ち上がり始めたものの、先行きの個人消費への確信は揺らぎ、落ち込みつつある。米国の複合不況は日本・アジア・ヨーロッパに広がり、世界を覆おうとしている。どの産業でも企業は、不況のタイプが見分けられず、不安定レベルが続きそうなことに当惑している。

 1990年代にかつてない繁栄を享受した企業は突然長い下り道に立たされ元気も出ないが、どのように生き延びるか知恵はしぼらなければならない。そこでの対応策のキーワードはまず形勢観望(wait and see)である。ブルームバーグは9月11日以降2週間で20社150億ドル分のM&Aがキャンセルされたと伝えた。

 情報通信企業の場合、スペインのテレフォニカ・グループの携帯電話会社テレフォニカ・モビレス(Telefonica Moviles)はブラジルのセルラーCRTの買収計画をテロ突発を理由に早くも9月14日にキャンセルした。

 グローバルメディア企業ニューズ社は、衛星放送ネットワークDirecTVを保有するGM子会社ヒューズ・エレクトロニクス(Hughes Electronics: HE)との株式交換合併を5月1日から交渉し、8月からは衛星放送ネットワーク会社エコスター(Echostar)と競り合いになり、広告市場の不調から株価下降気味のなか大詰めにきたところでテロショックに直面、一方GMは主業の経営改善上資金が必要なため折り合いがつかず、News/HE合併交渉は延期の形になっている。
(マンスリー2001年5月No.65「メディア産業再編成の胎動」参照)

 AT&Tも経営改善のため、BTとの国際通信事業コンサートの合弁解消、コムキャストのAT&Tブロードバンド買収提案など懸案を抱えていたところ、株価低迷でコムキャスト提案はますます応じ難くなり、一方SBCコミュニケーションズ、ベライズン、ベルサウスなど安定経営の旧ベル系地域通信会社と比べるとAT&Tの方が株式時価総額が低くなって、今やかつての親子間での合併話が噂されようになっている。株式市場の動向、複数相手の交渉、規制クリアーの見通しなどが複合して、裏で折衝の表が形勢観望になっている。
(マンスリー2001年8月No.73「AT&Tブロードバンドの行方」参照)

 このように従来からの拡大指向M&Aについてのキーワードは形勢観望だが、ハードウエア産業に多い急激な赤字転落や膨大な債務累積に対する合理化策で肝心なキーワードは、スピードである。

 半導体需要の「シリコンサイクル」の波が深い谷底に達し、インターネットブームや携帯電話の急成長が生んだ「通信容量(Bandwidth)サイクル」が需要急減速と共に大きく落ち込み、それが同時テロの衝撃で増幅され、今IT産業を襲っている三つの大波に対しては、スピーディで根本的な対応が求められている。

 新型M&Aとして、2001年1-3月期端末部門売上高が前年同期比52%急減したスウェーデンの大手通信機器メーカーLM Ericssonと日本の民生電子機器メーカー首位のSonyが4月24日に携帯電話事業の統合で合意し、8月28日に統合協定書に署名して10月1日にSony Ericsson Mobile Communicationsを発足させたことがあげられる。このSony- Ericsson JVは2005年までに携帯電話機世界市場の25%を占めたいとし、まず2000年実績シェアがEricsson12%、Sony2%だった急成長中国市場で2002年シェア15%を確保するとしている。

80.独禁訴訟のその後とマイクロソフト戦略

 マイクロクロソフト(MS)独禁訴訟は、2001年6月28日に連邦高裁が新たな地裁判事による審理やり直しを命じたためMSは当面企業分割を免れたものの、既報の通り(マンスリー2001年7月No.70「AOLタイムワーナーとマイクロソフトは敵→友→敵」参照)、連邦高裁の結論は「一審の結論を一部確認し、一部覆し、一部差戻し」と難解で、高裁で裁判官が全会一致してMSの独禁法違反行為を認定したことの重みと是正命令の再審理など訴訟終結までの選択肢が多様なことから、引き続き注目を集めてきた。

 訴訟のその後の経過は概要以下の通りである。

2001年8月7日 MSは、独禁法違反行為を認める連邦高裁判断を不服として最高裁に上告。
2001年8月17日 MSが連邦高裁判断の一部に事実誤認ありとして請求した再検討や最高裁上告審理中是正命令審理を停止を求める請求を連邦高裁が却下。
2001年8月24日 連邦高裁は是正命令再審理を担当する連邦地裁判事にコリーン・コラーーコテリー(Colleen Kollar-Kotelly)を指名。
2001年9月6日 MS独禁訴訟の原告である米国司法省と18州政府は今後の裁判で企業分割を求めることを断念し、一審で認められたOS/ブラウザー抱合せ販売の独禁法違反の主張を取り下げると発表。

 MS特にB.ゲイツ会長は6月28日段階で実質上の勝利宣言を行い、以後積極的マーケティング戦略を展開しつつ、法廷戦術については審理引き延し作戦をとってきた。「MS悪の帝国」の印象回避のためかOSについての競争パソコンメーカーに対する縛りは一部緩和しつつ、OS技術情報の開示には応じない強気戦略を続け、9月6日以降も司法省方針転換が司法省/MSの和解を促すとの専門家の見方を横目に見て、ひたすら新OS"ウインドウズXP"10月25日発売の成功を目指しきている。一方、独禁法専門家の多くは、MSはパソコンOSを違法に独占しているとの連邦高裁判断が生きている以上MSは依然として完全自由ではなく、やがて下される是正命令はMSをかつてのAT&T/ベルシステムのような「規制下の独占(Regulated monopoly)」に導きかねず、こんなに機動性を失うなら分割した方がマシだった状態になる恐れもありとする(参考 Not off the hook{The Economist Sep.13th2001})。

 ところが9月28日の差戻し審開始前準備会合で、ワシントン連邦地裁C.コラーコテリー判事は、「米国同時テロ事件による経済産業への打撃で訴訟の早期解決が重要になっている」と異例の言及をして、MSと司法省に対して法廷外での早期和解を勧告した。同判事はまず原告と被告双方が10月12日までに自主的に和解交渉を進め、決着できない場合は両者が選ぶ仲裁人を立てて(同意が得られない時は連邦地裁が仲裁人を指名)さらに和解交渉を進めるよう要請し、交渉の最終期限を11月2日とした。両者の和解が成立しない場合は差戻し審の審理が始まり、MSの独禁法違反に対する企業分割に代わる是正措置が検討されるが、結局差戻し審の開始は来春となる。

 この9月28日勧告の意義は、MSにとってはXP発売への影響が回避されたことが最大だが、競争メーカーははぐらかされた感じで、どんな進め方に落ち着くか、注目される。

81.音楽配信サービスは見切り発車か

 インターネットによる音楽配信サービスは約3カ月前、(1)音楽データ暗号化や課金などの技術基盤、(2)音楽著作権保護制度と対価の値決め、(3)レコード(CD)会社・小売店に代わる流通過程の新ビジネスモデル、(4)無料配信サービスへの対応策などの課題解決により、2001年夏サービス開始と思われていた。

 しかし、米国AOL-TW傘下のWMG(ワーナー・ミュージック・グループ)、ドイツBGM(ベルテルスマン・グラマフォン・ミュージック)、英国EMI、フランスVU(ヴィヴァンディ・ユニバーサル)傘下のUMG(ユニバーサル・ミュージック・グループ)、日本SME(ソニー・ミュージック・エンターテイメント)という世界の5大レコード会社を2分した音楽配信サービス、(1)ミュージックネット(MusicNet: MN)、(2)プレスプレイ(Pressplay、既報のデュエットの改称)とも2001年9月末現在まだ商用サービスを開始していない。

 ミュージックネットは、音楽無料交換サービスのナプスター(Napster)がベルテルスマンに救いを求めた提携(2000年10月)がナプスター訴訟につれて進化し(2001年3月マンスリーNo.60「音楽著作権問題の真の争点」参照)3大レコード会社(WMG/BGM/EMI)、ネットワーク事業者AOL、音声映像再生ソフト大手のリアルネットワーク(Real Network: RN)の共同出資により2001年4月に設立されたものである。

 ミュージックネットは卸売り型のビジネスモデルを採用して、RNとAOLの技術力で音楽データの変換、各曲の利用状況の監視、著作権料の自動配分など基盤技術の開発を最近完了し、RNとAOLに送付した。RNは技術的には11月末サービス開始可能と言い、AOLはこの秋にサービス開始とする。

 一方、プレスプレイはグループ内に技術開発力がないため関連企業のマイクロソフト(MS)やヤフー(Yahoo!)に基盤技術の開発を依頼した。プレスプレイは消費者に直接有料ネット配信する事業展開とし、自らサイトを立ち上げるとともに、MSやYahoo!のサイトにも手数料を支払って販売を委託する。当初9月サービス開始の予定だったものを同時テロで延期したと言い、2001年第4四半期初頭つまり10月開始を宣言している。

 技術より重要なのが音楽著作権保護制度と対価の値決めであり、作曲・作詞家の著作権料取り分の高低がその組織である米国音楽出版社協会(NMPA)の配信承認を左右し、決着せずに見切り発車すれば著作権侵害訴訟に対応しなければならない。MN組のナプスターは9月24日に過去の著作権侵害に関し合計2,600万ドルの賠償金支払いで作曲家・音楽出版社と和解した。

 さらに事業基盤を確立するうえで提携先以外のネット配信企業に対して平等に曲を提供しないと、レコード会社は排他的取引として独占禁止法違反に問われ兼ねないという問題がある。ミュージックネットとプレスプレイは親レコード会社との関係は排他的ではないと明言しているが、実態面では、試験段階で既に小売り業者から大手レコード会社からディジタル化音楽コンテンツの供与を断られたなど苦情が上がり出し、米国司法省は8月初頭より2大音楽配信グループの実態調査を始めた。これに対しMNメンバーの一社EMIは2001年10月2日にプレスプレイにも曲を提供すると発表した。これはレコード会社が音楽コンテンツを独占する意図がない印象を狙うものと見られ、両陣営がやがて包括的クロスライセンス(曲の相互供給)に進むことにもなりそうである。

 こうして5大レコード会社が見切り発車的に有料ネット配信事業を進めて行くのに併行して、利用者同士で直接音楽データを交換する「純粋P2P(Peer to Peer、ピア・ツウ・ピア)型」は、一向に後を絶たない。

 米国レコード協会(RIAA)加盟レコード会社及び米国映画産業協会(MPAA)加盟映画会社約30社は、10月3日にP2P技術供給企業のグロクスター(Grokster Ltd)、ミュージックシティ・ネットワーク(MusicCity Ntworks Inc.)、コンシューマー・エンパワーメント(Consumer Enpowerment BV)などを著作権侵害でロスアンジェルス連邦地裁に提訴した。センター型無料交換サービスのナプスターと違って有効な交換防止策が考え出せるのか、ソフトウエア開発・配付自体が著作権侵害行為に当たるかどうかの法解釈問題など今後の展開が注目される。

寄稿 高橋洋文(元関西大学教授)
   nl@icr.co.jp(編集室宛)

入稿:2001.10

このページの最初へ

InfoComニューズレター[トップページ]