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世界の通信企業の戦略提携図(2001年3月5日現在)

58. テレフォニカは元気いっぱい

 スペインの通信企業テレフォニカは2001年2月27日に『売上高は対前年比24%増の294.4億ユーロ、純益は39%増の250億ユーロ』と過去数年で最高の好業績連結決算を発表した。EBITDA(利払い税引き償却前利益)は119億ユーロ、112億ドルであった。

 2000年末のテレフォニカの経営規模は、固定電話加入数4,226万(国内48%)(対前年比10%増)、携帯電話加入数2,492万(国内55%)(対前年比49%増)、有料テレビ契約数98万(国内64%)(対前年比29%増)、インターネット契約数610万(国内67%)で、テレフォニカは世界有数・スペイン/ポルトガル語圏最大の複合通信・メディア企業と言える。

 テレフォニカの2000年は、メディア子会社テレフォニカ・メディアのオランダAV制作企業エンデモル(Endemol EntertainmentHolding NV買収(株式交換、時価53億ドル)、移動通信子会社テレフォニカ・モビレス(Telefonica Moviles)の上場(譲渡益39億ユーロ)、インターネット子会社テラ(Terra Networks)の米国インターネット検索企業ライコス(Lycos)買収(株式交換、時価125億ドル)などに彩られ、テレフォニカ資産は対前年比44%増の926億ユーロへ膨張した。今後の見通しもテレフォニカ・モビレスのEBITDA予想が2004年まで13〜17%成長と見込まれて明るい。

 バブル崩壊の影響を受けて、テレフォニカの株価もこの1年最高値92.892ドル(2000.3.7.)から最安値45.16ドル(2000.12.21.)へと半値に下がった。しかし、業績発表後株価は52.46ドル(2001.3.2.)にやや持ち直しており、時価総額が年初以来28%下がったFT、14%下がったDT、9%下がったBTに比べると、テレフォニカの5%減は良い方である(表:世界の情報通信サービスプロバイダーTop20(2001年3月5日現在)参照)

 テレフォニカは南米を急成長する重要市場と考えており、1989年にチリの通信企業エンテルの株式を取得したの最初だが、その頃に比べると最近規制緩和はかなり進んだので、一層積極的になっている。1月にポルトガルテレコムと合意した移動通信南米子会社は双方合わせて930万加入を越え、2月に両社で合意したインターネット子会社カタリックス(Katalyx)は資産100億ドルに達する勢いである。

59. ボーダフォンのアジア展開

 英国の移動通信企業ボーダフォンは2001年2月27日、AT&Tが所有する日本テレコム株式(10%)を13.5億ドルで買収することで合意したと発表した。支払いはボーダフォン手持ちから現金で支払われる。既に買収合意したJR西日本とJR東海の保有株式を合わせるとボーダフォンの日本テレコム出資比率は25%と筆頭株主になる。

 同時にボーダフォンは2000年10月に2%出資を決めた中国移動通信(CHL)との正式提携文書に調印した。図『ボーダフォンのアジア展開』のアジア展開に見るとおり、ボーダフォン・ニュージーランド(100%)、ボーダフォン・オーストラリア(91%)、など他の移動通信企業への出資比率よりは少ないが、重要と思われる。

 日本テレコム株式を買い増しする理由についてボーダフォンは、第一にはグローバルキャリアーを目指すから、グローバル・プレーヤーを目指すからには日本が必要、第二には次世代携帯電話が世界で始めてサービス開始するからと言う。次世代携帯電話の膨大な投資負担に皆あえぐ時、投資ー回収の現場にふれることを貴重と見るのである。

 ボーダフォンは2000年9月末に平年ベースで23億ドルの純益を上げ、2000年末の債務残高を100億ドルに押さえ込んだため、新しい資金需要が生まれた時に直ぐ資金調達ができる。つまりボーダフォンは出物があれば直ぐ買えるのである。ボーダフォンはハッキリと中国移動通信が外資に開放される時には出資比率を上げたいとしている。

 ボーダフォンは世界に約7,800万加入を持っているが、日本テレコムや中国移動通信との取引は単に携帯電話を追うのではなく、Vivendiとの合弁Vizzaiviのようにモバイル・固定インターネット、双方向テレビのマルチアクセス・ポータルを意図していると考えられる。

60. 音楽著作権問題の真の争点

ナップスター(Napster)訴訟問題の近況
 インターネットによる音楽無料交換サービスの米国ナップスター訴訟問題は、 既報No.16-48「音楽著作権問題の局面が転換」、No.13-38「音楽ネット流通の著作権問題」に続き、以下のような展開になっている。

2001年2月12日(月)
サンフランシスコ連邦高裁は、カルフォルニア北部連邦地裁マリリン・H・パテル判事が6月26日に出したナップスターサービス停止仮決定に関するナップスターの上訴を7月28日に認め執行を延期していた件について、「ナップスターはユーザが著作権を侵害するCDを交換する恐れがあることを知りながら、それを防ぐ措置を取らなかった限りにおいて著作権侵害に当たり、原告側が最終的に勝訴する可能性が高いため、同サービスに制限を加える仮決定は必要である。しかし、著作権を侵害するすべての音楽をサービスから除外しなければならないとの地裁判断は行き過ぎ(too sweeping)」として7月仮決定を差し戻した。
5レコード会社(ユニバーサル、ソニー、ワーナー、EMI、BMG)と米国レコード協会(RIAA)は高裁決定を歓迎し、ナップスターは最高裁までも争う、事業は継続との姿勢であった。

2001年2月16日(金)、20日(火)
ナップスターが新しい会員制音楽交換サービス・ビジネスモデルの骨子を16日に明らかにしたうえ、20日に訴訟継続中のに対する和解案 を公表した。「ダウンロード枚数限定会員は毎月2.95〜4.95ドル支払い、無制限にダウンロードできる特別会員は毎月5.95-9.95ドル支払い、有料会員数は2005年までに850万名に達する。ナップスターは毎年5社に1.5億ドル支払い、5社以外のレコード会社と作曲家に5,000万ドル支払う。これを実現する技術はベルテルスマン子会社のDWS(Digital World Services)が担当し、既存ファイル交換方式にCDの無料コピーを防ぐ保護レイヤーを付加する」と言うものである。ヒラリー・ローゼンRIAA会長は「著作権を侵害する現行サービスの停止が先決」とコメント。

2001年2月22日(木)
ビべンディ・ユニバーサル(UV)(既報12-35.「ビベンディのシーグラム買収」参照)とソニー・ミュージックは、MP3によるファイル交換サービス合弁会社デュット(Duet)の設立を発表した。ナップスターにとっては、2000年10月にディジタル音楽交換サービス共同開発で提携したベルテルスマンに次ぐ、同業かつ競争業者の登場である。

2001年3月4日(日)
ナップスターはレコード会社が著作権侵害の実例として提示してきた約5,600曲について検索・交換サービスの対象から除外する自主規制措置をとった。実際に交換されているファイルのタイトルに元の曲名・演奏家名が表示されているとは限らないので、実効性が薄いとの批評も登場。一方、ジャン・メシエUV会長は「パテル判事の決定を尊重する立場なら、2月28日にサービス開始したヤフー(Yahoo!)の音楽無料配信サービスその他と共に、ナップスターを配信技術の検討対象にしても良いが、集めた金の40%を保留するナップスター流は業界常識外だ」と述べた。

2001年3月6日(火)
カルフォルニア北部連邦地裁は連邦高裁から2月12日に差し戻されたナップスターサービス停止のやり直し仮決定を下した。処分内容は「(1)レコード会社は著作権侵害の被害が出ている曲名と音楽家名、その曲が入っているファイル名などを特定し、ナップスターに提示する、(2)ナップスターは提示を受けた後3営業日以内にそのファイルを検索・交換できなくする、(3)レコード会社は発売前(実際に被害が出る前)に新曲を検索サービスの対象から除外するようナップスターに要求できる」などである。ナップスターは裁判所はナップスターの存在自体の合法性を認めたと歓迎し、RIAA会長は「裁判所の規定に従い迅速に(expeditiously)通知書を出し、ナップスターによる著作権侵害が止まることを期待する」とコメントした。

 具体的なファイル名の提示を原告のレコード会社に求めたのは、著作権侵害の曲とそれが入っているファイルをすべてディストリビューターが独力で見つけ出し排除するのは不可能とのナップスターの主張が受入れられたものである。実際自主規制を始めてみると、曲名などのスペルを変えて出し抜く、暗号化するなどの例が続出している。法律と技術の専門家は当分の間紛争が絶えないと言い、パテル判事は今後とも専門家のヒヤリングを行うとしている。

音楽著作権問題の意義
 ナップスターを巡る著作権侵害訴訟が浮き彫りにしたのは、単に「正当な権利を侵害された権利者」対「無法者」の対立ではなく、新技術の可能性が新しいニーズを掘り起こし、新しいビジネスモデルに挑戦する者と既得権の対立である。

 ナップスターによるインターネット利用で、始めて音楽出版社に頼らずにアーティストが作品を発表できるようになったのであり、著作権ならぬ音楽出版権外の曲は今後ますます増えるだろう。

 権利保護を徹底するため私的保護を一切禁止することは自由への挑戦である。私的保護全面禁止で始まったEUの著作権法令改正は、私的複製を商業目的以外と位置付けたうえ「商業目的」を全面禁止、私的複製は加盟国の判断に委ねるとの結論になった。よりタイトな規制の方向となったものの、当初案より自由は残された。

 アーティストの利益は法的保護に値するが、ビジネスモデルはどのように保護されるべきか。現行著作権法は「著作者人格権」以外はすべて「出版者(Publisher)」保護を追求しているが、技術革新によりニューメディアが登場する時、法制の変革は如何にあるべきか。

 歴史的に既存産業は新ビジネスモデルにどう対応してきたか。レコードの登場は「1枚売りの楽譜(sheet music )」を消滅させようとした。ラジオの登場はレコードの売上を脅かした。ビデオの登場は映画を消し去ろうとした。カセット・レコーダーは音楽産業に金縛りにした。いずれの場合も市場形成者が新法を求め、獲得したケースが多い。新技術はしばしば予想外な形でマーケットを創り出した。

 ナップスターが夢見る「万能ジュークボックスサービス」が音楽市場全体を大きくすることは容易に想像できる。しかし、CD販売に影響なしに新サービスを立ち上げるのは簡単ではない。新旧利害が交錯するなかで著作権法制が環境変化に適応するのは、新旧両者の競り合いそのものである。メディア融合時代に「大きいことは良いことだ」「多様な展開でリスクをヘッジしよう」とコングロマリットが追求されるわけである。

(参考)

  • The same old song(The Economist Feb.22nd 2001)
  • A cool billion(The Economist Feb.22nd 2001)
  • Napster faces the music with injunction(TTDN Mar.7 2001)
  • In search of Napster (Time, Feb.26 2001)


特別顧問 高橋洋文(編集室宛:nl@icr.co.jp)

(最終更新:2001.3)

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