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世界の通信企業の戦略提携図(2001年9月5日現在)

76.EUの電子通信規制新枠組みづくり

 EC委員会は1998年から通信自由化を推進し、加盟国がEUの規制の枠組みをどこまで導入したかについて毎年調査・報告してきた。2000年12月に発表された「電気通信規制の導入状況に関する第6次報告書」は、完全自由化から3年経ったEU通信体制は、長所が伸ばされ短所が克服されてeEurope戦略の実現に向け前進していると集約した。

 これより先2000年7月にEC委員会は、合計23本の指令(Directive)からなる複雑な現行枠組みを簡素化、より柔軟な構造に改めるため次ぎのような5本柱からなる「電子通信の新しい規制の枠組み」案を採択した。

  1. 基本的枠組み(Framework Directive)
    権限付与(Authorisation Directive)
  2. アクセスと相互接続(Access & Interconnection Directive)
  3. 市内回線アンバンドリング(Unbundled local loop Regulation)
  4. ユニバーサルサービスと加入者の権利(Universal Service and Users' Right D.)
  5. データ保護(Data Protection Directive)

 最も重要な論点は、如何にしてEU全体の調和を保つか、統一規制機構を設けるべきか、その場合の各国規制機関との関係、各国規制機関が反対してときのEC委員会の権限、規制機構の改革にかける時間などであった。立案段階で統一規制機構の設置は見送られ、最終案の焦点は「市場力(Significant Market Power: SMP)ある参入者の取り扱い」に絞られた。「基本的枠組み指令第14条市場分析手続に基づく市場分析・市場力計算についてのガイドライン」案(2001.3.28.)が作成され、関係者の意見募集(6月末までに27事業者、5規制機関から提出)と公開研究会(2001.6.18.)が行われ、現在「電子通信の新しい規制の枠組み」最終案が欧州理事会と欧州議会で審議中である。

 こうして形が整ってきたところで、米国・カナダの北米勢から新規参入者の市場力を問い行動に規制をかけるのは問題だとの提起が出てきた。北米哲学は非規制原則・市場力は消費者のため・その濫用がある時は事後に司法的に解決と言ったもので、強い行政権の伝統の下加盟国間に格差あり、EU拡大によってもそれを広げず統一共同体を築きたいEUと違った面が多い。

 今後、政治・経済・文化の違いを乗り越えどのように米国流とEU流が調整されるか注目される。

 情報通信の現実界では、市内電話の競争が緩やかなメガキャリアーを抱えた米国と、携帯電話の投資競争が激しく3G免許料が重い西欧とで、IT不況の影響も違い、次表の通り、8月一カ月間に総じて時価総額が目減りするなかでドイツテコム(DT)の落ち目が目立つ。DT株価の急落はドイツ銀行の不手際もあるが、

 基本的にはBTやFTと同様抱える負債の重みによるものである。

「表 世界の情報通信サービスプロバイダーTOP20(2001年8月31日現在)

77.転換期迫る中国の情報通信戦略

携帯電話の規模が世界一になったものの
 中国の携帯電話加入数は、中国情報産業省電子情報機器課長によれば、2001年6月末1億1,700万で7月には1億2,100万に達し、米国を追い越して世界一になった。情報産業省の計画では2001年末1億3,200万と見込まれる。

 BDAコンサルタント社は2005年末の携帯電話加入数を3.7億と予測し、世界的に電気通信業界が不況に喘ぐなかで中国は「魔法の市場」であり続けると言う。

 ところが、この8月末にその魔法の大部分が消える事件が起きた。携帯電話市場の73%を占める中国移動通信(China Mobile Limited:CHL)が2001年上半期の業績を発表し、万事好調だが一加入当たり収入は前期比マイナス35%と下がったことを明らかにするや、CHL株価(NYSE)が急落し8月31日には1年間の最安値15.43ドルとなり、競争相手の中国聯合通信(China Unicom)の株価もつられて下がった事件である。

 CHLは、既報の通り(マンスリー2001年8月「No.73 AT&Tブロードバンドの行方『表 世界の情報通信サービスプロバイダーTop20{2001年8月2日現在}注記』参照)、前号からビジネスウィーク誌の整理(Global 1000には新興市場上場を含めない)に準じてTopから外されたが、従来通り掲上していれば2001年5月31日現在時価総額849億ドルは第8位、下がった8月31日現在時価総額584億ドルは第13位で、第8位から第13位に下がったことになる。

 ヨーロッパや日本人の10人のうち5人、アメリカ人の10人に4人が携帯電話を持っている今、中国では10人に1人しか持っていないのだから、中国市場は確かに有望である。CHLのXiachu会長は普及率は数年後に30%になると中国政府筋より楽観的だが、問題はかれから携帯電話に加入するのは所得階層の低い方になることである。既にCHLの本年上半期新規加入者1,400万名の95%はプリペイド・割り引きパッケージを選択しており、加入はするものの通話時間が極めて短い利用層である。中国の携帯電話の需要曲線が飽和するのはかなり先と思われるが、CHLにとって収益性の高い加入者層が尽きるのはそう遠くはあるまい。外資にとって楽観的な対中投資環境が何時まで続くのだろうか。

中国のポジションの変化
世界貿易機関(WTO)加盟国は2001年7月3日に同年11月の閣僚会議で中国の加盟を承認することで基本合意した。一部の調整未了事項を残しつつ、中国加盟に関するWTO多国間作業部会が3日の会合で、(1)中国の加盟条件などを盛り込んだ部会報告書・加盟議定書などを9月半ばまでに完成して部会作業を終える、(2)11月9-13日にカタールで開催するWTO閣僚会議で合意文書を採択し、中国加盟を承認するとの日程が合意された。

 WTO加盟から北京オリンピックまで21世紀初頭の二大国際関門が決まって、中国はそれらをつなぐ6年間の内政を推進しなければならない。

 中国共産党(Chinese Communist Party: CCP)が7月1日に北京で開催した創立80周年祝賀大会の演説で江沢民総書記は、私営企業家の入党を認める方針を宣言した。

 生産手段公有制を本義とする共産国家として私営企業の存在は1970年代末まで許されていなかったが、1987年に公認され、1991年には政府の定義による私営企業(資産が私人の所有で従業員を8人以上雇用する営利企業)は107,000存在し180万名雇用していた。2000年末では私営企業数176万、被雇用者は約2,400万名に達するばかりでなく、個人企業が3,000万存在し、国有企業(State-owned Enterprises: SoEs)リストラの受け皿ともなり、GDPの1/4を生み出している。

 1987年に「公有制経済の補完物」として認められた私営企業は、トウ小平理論を指導思想とし所有制の多様化や非公有制経済の保護強化を打ち出した第15回党大会(1997年)の決議を承けた1999憲法改正で「社会主義市場経済の重要な構成部分」に格上げされ、従来認められていなかった貿易・金融・交通・通信分野にも参入できるようになった。

 江沢民総書記は2000年2月に『中国共産党が先進的な生産力(advanced poductive forces)と先進的な中国文化(advanced Chinese culture)、最も広範な人民の根本的な利益(fundamental interests of the majority)を代表する』という「三つの代表」思想の重要性を強調してきたが、今回の私営企業家入党容認は”広範な人民”に労働者、農民だけでなく私営企業家も含むことを意味するのか。CCPがプロレタリアの前衛党からすべての人民の友に変身するのかどうかは2002年に開催される第16回党大会で決定的になる。

 重要な制度改革の一つとして、遠く毛沢東の“大躍進”時代から中国人の移動の自由を制限してきた“戸口(hukou、フーコウ)”登録制度の修正が2001年8月16日に発表された。戸口登録は戸籍(氏名・住所・年令・生年月日・本籍・学歴・職業・世帯主との関係等)を現住所の“派出所”の台帳に記入する制度で、その変更に報告義務を課すことから許可なくして住所や職業を変えられない効果を生んでいた。それが1978年12月のCCP第11期三中全会に始まるトウ小平時代の市場経済路線のなかで農村部や後進地域から都市部や沿海地域に人が移動するようになり、今すでに浮遊労働人口は1億に達し今後5年間でさらに5,000万名増えるとされる。現実追随の制度改革だが、“戸口”制度を所管する公安省が「現制度は移動を過度に制限し市場の需要する労働力配分を妨げるので改革は当然」と認めるのが今日の中国である。

誰がバランスをとるのか
 日本、香港、台湾、シンガポールなど近隣諸国が不況一色のなか、で中国は2001年上半期のGDP伸び率7.9%を記録した。しかし中国の指導層はほくそ笑むどころか国内の地域格差が際立ってきたことで頭が痛いと思われる。

 1998年の地域別一人当たりGDPの分布を下に示すThe Economist(April 8th-14th,2000)中国特集図(4頁)でみると、22,990ドルの香港は英国より豊かで、最貧の貴州省(Guizhou)は280ドルとパキスタンなみ、全国平均735ドルは何を示すか分からないほど格差が大きい。少し古い数値だが現在の格差はもっと大きいかも知れない。

 豊かな地域の住民は、無制限に移住者を受け入れると住居その他の都市インフラが悪化するので、財産持ちや技術者など「望ましい者」に限りたいようである。中国経済は高度成長を続けていれば「矛盾の収斂」が期待されるが、高速で走る間は一時的にせよ社会的摩擦が小さくならない。中央集権を分権化したのは良いが、どのようにバランスをとり統一を保つのか、中国の指導層が交代する2002年が注目される。

 そして経済の高度成長と表裏をなすのが情報通信の大躍進である。これまでのところ省・自治区・特別市・香港など31地域内通信は当該地方政府に任せ、地域間・国際通信は中央政府所管とした通信政策は成功しているように見える。今後の課題は設備投資・サービス運営・コスト回収の無数のサイクルを円滑に動かす経営技術と資本関係であろう。

78.シンガポールテレコムのC&Wオプタス買収手続完了

 シンガポールテレコム(SingTel)のC&W(C&W Optus)買収手続は、2001年8月30日にオファーに対する応諾率が93%を超え、残る株式の買収方法はいかなる手段も可能となり、必要な許可もとれて、再三延期した締切期限(2001年9月17日シドニー時刻午後7時)を前に実質的に完了した。

 2001年3月末時点では、オプタスの買収をSingTelとボーダフォン・グループが競っていたが、オプタスの親 会社C&Wが、3月25日にオプタス株式のSingTel売却を決定したため、買収手続は事務的なことと考えられSingTelも買収合意を発表したほどであった(既報マンスリー2001年4月「No.62 シンガポールテレコム、C&Wオプタスを買収」参照)

 しかし、シンガポール政府がSingTel株式の78%を所有(オプタス買収後63%に下がる)していることや使用する通信衛星にオーストラリア軍用トランスポンダーを搭載することから、外資買収買収と国防関係の許可などで、下記の通り、手続に時間がかかったものである。

2001年6月22日

当初のオファー期間3カ月では行政手続が終了しないので、SingTelはオファー受付期限を8月3日に延ばした。

2001年6月29日

AussatB1とB2による国内衛星通信事業者が携帯電話事業に参入したオプタスは、オーストラリア国防省と2.6億ドル合弁事業で新しく打ち上げるC1衛星に国防用通信装置を搭載する。その関係でSingTelのオプタス買収を認めるオーストラリア2001国防省の許可書が発出された。
2001年7月27日 通信大臣は買収案件について異義なしとしたが、外資買収法(the Foreign Acquisitions and Takeovers Act)に基づく外資審査庁(the Foreign Investment Review Board)の検討が継続中のため、SingTelは受付期限を9月3日に再延期した。
2001年8月6日 オプタスはSingTelに統合された後も「イエス、オプタス」というブランドや企業風土は存続しコーポレート・カラーは黒と緑に変わる、コスト削減策を検討中と述べた。
SingTelはC&Wを除くオファー応諾率は24.51%と発表。
2001年8月10日 オーストラリア国立大学の防衛研究者がシンガポールは過去20年間オーストラリアに対し数々のスパイ行為をしてきたとして買収に反対したが、国防省とオーストラリア安全情報機構(Australian Security Injtelligence Organization)は問題無しとした。
2001年8月22日 外資審査庁の審査結果に基づき大蔵大臣が買収に異義無しと表明。
2001年8月23日 国防用通信装置には米国製の新情報機器が含まれ米国国防省防衛取引管理室(theOffice of Defense Trade Controlsの許可が必要のところ、SingTelに承認通知があった。
2001年8月24日 SingTelはオファー受付期限を2週間延期した。
2001年8月27日 国家安全保障上の理由で買収反対を続けるセブンネットワーク放送会社K.ストークス社長に対しSingTelが反論。
2001年8月31日 オファー受諾率は95.54%に達し、手続完了に伴いSingTelの経営幹部4名がオプタス取締役会に加わる人事が発令された。オプタスCEOのC.アンダーソンは留任し、他の4幹部も取締役を続ける。
2001年9月3日 オプタス買収で純債務46億ドルに達するSingTelは証券筋からつなぎ融資を受けていた模様だが、手続実施のためまず米ドル5年社債4億ドル起債をを目論んでいるようである。

寄稿 高橋洋文(元関西大学教授)
   nl@icr.co.jp(編集室宛)

入稿:2001.9

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