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世界の通信企業の戦略提携図(2001年4月3日現在)

61. インドの情報通信の現状と課題

ユニークで複雑な国
 インドは「独立・世俗主義・社会主義・民主主義共和国(a sovereign secular socialist democratic republic)でありながら、現バジパイ(Vajpayee)首相の属する人民党(BJP)はヒンドゥー国家の樹立を標榜する復古主義政党である。

 インドは1947年8月に独立した比較的若い国で、イギリス型憲法体制のも とに「強い政府」が国づくりを進めて来た優良な社会主義国である。もっとも「インド型社会主義」と呼ばれる内向き重化学工業化が破綻した後、90年代から「静かなる革命」と呼ばれる規制緩和・自由化・民営化路線により、市場原理に基づく成長を追求している。 インドは南アジアに位置し、バングラデシュ・ブータン・モルディブ・ネパール・パキスタン・スリンカと南アジア地域協力連合(South Asian Association for Regional Cooperation: SAARC)を形成(1985年12月)しているのに、最近は隣国ミャンマー始め東南アジアに接近しASEANの一員であるかに振る舞っている。

 インドは古い伝統文化を持ち、美術工芸に優れ、職人芸が生きている国であり、今ではコンピュータ・ソフトウエア技術の急速な伸長で注目されている。

 現在27州(States)と8直轄地( Territories)からなる連邦(Union)の形をしているものの、州知事は大統領任命で中央が州を支配しており、厳密な意味で連邦国家とは言えない。しかし、連邦公用語のヒンドゥー語と英語のほか、地方公用語として17の言語があって単一国家にしては複雑である。

遅れた電気通信の挽回に懸命
 電話の現状は、2000年末の固定電話回線数約3000万(普及率約3%)、携帯電話契約数約300万(普及率約0.3%)とASEAN諸国最低のインドネシアより遅れている。90年代後半から電話投資を増加させているもののアクセス回線の現状は全国平均100電話機当たり月16件の障害発生という低品質がインターネットのダイヤルアップを阻害している。

 1994 年電気通信政策は1996年末電話回線1,580万で需給均衡を計画したが、実績は電話回線1,450万、積帯290万で、1999年新電気通信政策は2002年の需給均衡、普及率目標は2005年7%、2010年15%と計画した。

 自由化効果に期待して1994年に「全国21営業区域と3大都市に固定電話は民間1社、携帯電話は民間2社の新規参入」との方針にしたが、細目の決定が遅れ首都圏電話公社MTNLとモバイル事業者6社の参入にとどまった。

 1999年新電気通信政策は、(1)固定系は自由参入、(2)移動系は政府系(旧国内独占のBSNL、MTNL、旧国際独占のVSNL)と民間で各区域4社、(3)国内長距離電話は2000年8月から開放、(4)国際電話は2002年4月から開放、(5)インターネット接続サービス(ISP)は1998年12月に自由化、(6)ISPの国際海底光ファイバ接続は2000年7月に自由化のフレームを決定し、実施中である。ローカルアクセス改善のため、2001年1月に固定系基本サービス事業者(BSO)に市内無線(Wireless Local Loop: WLL)免許付与の方針を追加した。 最も参入容易なインターネット接続市場では、2000年12月15日現在437社が免許を受け、うち98社が開業している。

 インドの電気通信業界は今、Bharti、Reliance、BPL、RPG、Spice Cell、Usha Martinなど既存セルラー事業者VSNL、BSNL叉はMTNL及び新規参入希望が争うモバイル第4免許獲得戦で熱くなり、WLL免許申請やVSNL、BSNLの株式公開の目論みで持ちきりである。

 国際海底光ファイバ接続ISPの認可第1号はサティヤムに次ぐ民間ISP大手No.2のディッシュネット(Deshnet DSL)で、チェンナイーシンガポール間3,360kmを2.5Tbps高速伝送路で結ぶ。既存キャリアーVSNL所有ISPの接続回線容量は150Mbps、ムンバイでVSNL陸揚局を利用して接続しているFLAG社の接続回線容量は10Gbpsだから、今後のIT利用急成長に伴うトラフィック予測が如何に大きいか分かる。

普及したCATV・発達したコンピュータ・ソフト産業
 電気通信インフラ整備は無線と言えども一定の時間がかかる。遅すぎた通信自由化がインドのIT利用発展の足を引っ張らないか。一応の答えはある。世界一の映画大国の所為か、インドは現在加入数約3,600万(普及率 36%)のCATV大国である。ディジタル化率や平均チャンネル数などの現状が分からないが、工夫すればインターネットアクセス手段になろう。

 衛星と言う手もある。インドの政府情報通信網(NICNET)は1984年以来中央・地方政府のオフィスを総数2000局のVSATを結ばれたWANであり、将来伝送情報量が膨大になっても光ファイバと併用するようである。衛星VSATは自由化されている。
図:NICNET Architecture参照
(出所)http://home.nic.in/htm/nicarc.htm

 インドのインターネット普及率は0.02%と低いが、輸出指向のソフトウエア産業が発達している。永年の育成策が実ってソフト輸出額は1995年の7.34億ドルから年平均50%の高成長を遂げ1999年に39億ドルに達した。官民一致で今後も高成長を持続し2008年の輸出額500億ドルを目標としている。

インド的ディジタル・デバイド対応政策
 インドのITの現状は、一口に言って「遅れた電気通信・普及したCATV・発達したコンピュータ技術」とアンバランスだが、IT開発戦略は(1)通信インフラ整備、(2)教育インフラ整備、(3)万人のためのIT(IT for Masses)と三本柱を重点にしており、三本目に特徴がある。

 第1回全国IT大臣会議(2000.7.15)でのバジパイ首相演説要旨を読むと「IT技術が重要なのではない。ITを使って何をするかが重要である。インド国民10億の構成は富裕層20%、中間層40%、貧困層20%。4億の中産階級は膨大な IT市場になるが、4億の貧困層の生活が良くならなくてはIT革命の意味が無い。一般国民もITサービスが使えるようにする」とある。

 福祉経済学の業績で1998年度ノーベル賞を授与されたアマティア・セン教授は、「私の学問がどのようにお役にたったか分からないが、史上始めて飢餓で死ぬインド人がなくなったことは偉大だ」と述べたと聞く。

 世界始めてほぼ全国民が中産階級意識に浸り、遂には飽食の欲ボケ日本人も少なくない今日、インドの為政者、有識者は我々の考え方を超えている。三本目の柱を本気ととるか政治的ジェスチャーかは人によって違うだろう。中国やインドネシアもそうだが、緻密な貧困層の底上げ計画を作ろうとしてもビジョンのTime Horizonは何年になるのか。頭の痛くなることである。

 しかし、インドのIT関係機関は各地に電子政府、eGovernmentの展示センターを置き、戸籍・住民登録、不動産登記、税金申告、健康管理などの端末類を配備して実物教育を始め、かつての武蔵野三鷹ISDN実験より本気で取り組んでいる。なかにはスラムに隣接する広場の壁にに埋め込んだコンピュータを学校にも行かない、行けない貧しい子供に触らせ、字の読めない者にコンピュータを自由に使うことを経験させるリテラシー実験プロジェクト「壁の穴(Hole in the Wall)」もある。

 経済成長はエリートエンジニヤーの稼ぐソフトウエア輸出に依存し、底辺層は成長の果実がまわって来るの静かに待つという図式である。

(参考)
河村公一郎「インド通信市場における新規参入の動き」KDDI R&A March,2001
http:www.mit.gov.in/itconf/firstnationalconference.htm
http://www.asahi.com/market/news/200001123aスラム.html
JETRO日刊通商弘報関係各号

62. シンガポールテレコム、C&Wオプタスを買収

 シンガポールテレコム(SingTel)は3月26日にC&Wのオーストラリア携帯電話子会社C&Wオプタス(Optus, Cable & Wireless)のC&W持株52.5%を買収することで合意したと発表した。

 SinTelの買値(offer)は株主が選択すべき三案あり、Optus1株につき(1)SingTel 1.66株の交換、(2)SingTel 0.8株+現金2.25オーストラリア+ドル(AD)(1.11USD)の交付、(3)SingTel 0.54株+現金2.00AD+0.45AD相当のSingTel社債の交付で、合計額が(1)は4.57AD(2.26USD)、(2)は4.45AD(2.18USD)、(3)は3.94AD(1.94USD)となっており、買収価額つまりOptus の評価額は最高値(1)ばかりで172億AD、85億USD、95億ユーロになる。C&WはOptusの負債12億ユーロを含め売却益39億ユーロを得る。P>  オーストラリア会社法に「一定手続を経ずに20%を超える株式の買収をしてはならない」との規定があり、それにかからぬように案を作ったためオファーが複雑になっているようである。P>  この買収の結果、SingTelは年間売上高47億ドルの第通信会社になり、連結対象の総資本240億ドル、固定電話加入数370万、携帯電話契約数1000万、売上高に占める海外比率倍増のの大グループになる(図シンガポールテレコムの資本状況参照)

 SIngTelの子会社はオーストラリアのほかフィリピン、タイ、中国、インドネシアなどに展開し、さらにインドではバルティグループ(Bharti Cellular、Bharti Mobile、Bharti Telenet、Bharti VSAT、Bharti Internet)に4億ドル投資している。また、米国ベル系地域電話会社アメリテックがSBCコミュニケーションに買収された時( 1998年5月合意、1999年10月実施)、アメリテックのベルギーPTTベルガコム(Belgacom)持株18%を民営化に伴い49.9%まで膨らます投資コンソーシアムにデンマークのTele Danmarkや金融グループと参加している。P>  SingTelにはまだ投資余力があると見られているからか、「今回の買収により2000年末にスタートとしたオーストラリアのCATV合弁会社サザン・クロス・ケーブルネット(資本構成 ニュージーランド・テレコム:TNZ50%、Optus40%、WorldCom10%)には影響が及ばない」とSingTelは3月30日に声明を出した。

63. 新規IPキャリアーは何故弱い

 この数年の間ヨーロッパの通信業界で起きたことについて最近反省と言うか、見直しの弁が多い。このマンスリー・フォーカスでも、No.15(2000年10月)43.「欧州通信業界の変調」で供給過剰の現状について述べ、No.18(2001年1月) 52.「21世紀初頭のグローバル・キャリアーの構図」で帯域売買仲介業者(Bandwidth Exchange)の登場とサービス提供業者の利幅がますます薄くなって行く方向性について紹介した。

 実際、陳腐化した設備を抱える既存事業者ではなく、Global TelesystemやViatelという新規参入IPキャリアーが破局に至る例が生まれ、通信市場のニュー・エコノミーについて何か根本的な間違いをして来たのではないかとの問題提起が盛んである。

 ある調査会社(Pyramid Reaearch Inc.)は、「ヨーロッパ通信業界はビジネスの本質につき判断を誤ってきた。帯域は“弾力性のあるコモディティ”なんかではない。弾力性はキャリアー財務の仮説を支える重要な概念だが、弾力性に2種類あって、供給者の観点から見て良い弾力性の場合は価格が下がってもトータルの消費が増える。しかし、料金値下げしてもトラフィック総量が増えない“ネガティーブな弾力性”があり、それに見舞われていることを自覚しなかった」と言うのである。「1997年のインターネット利用は弾性値が2.1、つまり料金が10%下がるとトラフィックが21%増え、全体として増収になった。しかし、電気通信は違っていて、国際電話の弾性値は2003年まで0.5、つまり料金が10%下がったときトラフィックは5%しか増えない。国際電話のネガティーブ弾性値は2年続いたし、企業データ通信の弾性値は2001年にマイナスになり、インターネットも2005年にマイナスになる」と言う。

 コモディティ市場では価格だけでなく焦点を狙うことが大切である。通信事業者はコストを切り下げると同時にヴァリュー・チェインを這い上がらなくてはならない、通信幹線市場は「完全競争市場」でなく「ハイパー競争市場」と認識すべきである。現下の経済環境では、通信事業者は投資リスク管理に徹する以外にない。

 そのためには物理的伝送設備を管理する“転送屋”と別の発想で、自由化されたエネルギー市場で電力、天然ガス、石油、原子力と異なるエネルギー量を取引する“エネルギー屋”のように、また、金融工学を駆使してデリバティブ市場で利益を追いリスクをヘッジする現代の“株屋”のように、“ネットワーク屋”は相互に接続された転送網上を流れるデータトラフィック商品を自在に取引して需要を満たし利益をあげリスクをミニマムにしなければならない。

 これはそう難しいことではない。既に自動需給調節(Auto-provisioning)機 能を備えたルーターやPOCO(Packet Over Cheap Optics)を使ったテラビット・ルーターが開発され、IP over DWDMが普及期に入って、技術はある。問題は意識改革、人材育成、経営改革そして非規制化である。

(参考)
Ian Scales“New market economies : Are you in denial ?”
Elizabeth Biddlecombe“Optical IP routing : Route one”
New Carrier, 01 March 2001所載


特別顧問 高橋洋文(編集室宛:nl@icr.co.jp)

(最終更新:2001.4)

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