2014年2月18日掲載

2014年1月号(通巻298号)

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InfoComモバイル通信T&S

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巻頭”論”

米・EUで進む周波数割り当て論議
〜競争政策、規制との関係

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現在、米国及びEUにおいて、周波数割り当てを巡って既存大手事業者への制限について激しい論争が展開されています。米国では、2014年に600MHz帯のオークション実施が予定されていますし、また欧州では、ブロードバンド周波数配分として2015年までに1200MHzを確保することがEUの目標となっています。こうしたなか、新たに周波数を割り当てる際に既存の大手事業者に対して周波数獲得に上限(キャップ)を設定するかどうか、新たに上限枠導入の主張が見られる米国とこれまで大手への上限枠設定を行ってきたがこれを見直そうとするEUとで正反対の動きとなっていることが興味深いところです。もちろん周波数の割り当ては米国、EUともオークション方式で行われるので、上限枠の設定は、入札方法の設計のあり方の議論として行われており、日本のような比較審査方式が取り上げられているものではありません。

即ち、米国では2003年に周波数獲得の上限枠(スペクトラムキャップ)を廃止して事業者間での周波数取引を自由化してきた経過があって、市場重視の政策の下で事業者のエリア拡大とイノベーションの競争が進展してきたと現状について高い評価が見られます。自由競争が産業とサービスの発展をもたらすとの市場主義がベースとなっています。他方、EU各国では同時期に周波数オークション実施に際して大手事業者に制約を設けることが標準的に行われており、小規模だが革新的な新規参入者を活用して競争の活発化を促進する政策が採用されてきました。競争重視ではありますが市場主義とはまた違ったサービスの普及促進、価格低減という消費者利益重視の政策の下に複数のオークションが行われて今日に至っています。しかしながら、結果としてモバイル通信事業への投資が停滞してしまい、EU市場の単一化、統合化の流れと結合してEU内のモバイル通信事業者の大規模化を求める声が強くなりつつあります。こうした米国とEUの動向については、本誌2013年10月号「米国で続く周波数上限枠を巡る論争」2013年12月号「EUにおける周波数割り当てと市場構造のトレンド」で当社の八田恵子主任研究員がとても詳細なレポートを掲載していますので是非ご覧下さい。

私はここで米国とEU各国におけるオークション方式の内容を取り上げるつもりはありませんので、最初にお断りしておきます。つまり上限枠を設けたり、新規参入者に特別枠を用意したりすることは背景にある政策当局の競争政策の賜だと考えるからです。何個の周波数免許を発給するのか、既存事業者か新規参入者か、大手か中小事業者か、などはどういう市場構造を想定するかによって決まってきます。それこそモバイル通信事業において、政策当局による最も重要な競争政策と捉えるべきものです。固定通信事業と異なり、モバイル通信事業では無線周波数の確保が絶対条件であり、国民共通の限られた自然資源なので国家による統制(免許制)は当然のこととして世界各国で行われています。希少資源であるからこそ周波数免許にあたっては厳正な比較審査や条件を設定した上でのオークションが実施されてきた訳です。問題はその先にあります。周波数免許をいくつ発給し、誰に与えるのか、米国にもEU各国にもそれぞれの競争政策があり、それと連動した規制のやり方が存在しています。逆に、むしろ周波数の割り当て方式こそが規制の中心であり、それ以外の規制は限定的とさえ言ってよいと思います。たとえば、米国にはモバイル通信事業者には、相互接続義務(MVNOへの提供義務も含めて)はないし、もちろん相互接続の料金規制もありません。結局、周波数獲得の上限  枠廃止と周波数取引の原則自由化という市場重視の競争政策を採用することは、その他の規制を課さないという考え方に繋がるものなのでしょう。規制に関して言えばEU各国では少し事情を異にしていて、すべての通信事業者に相互接続義務を課した上で、周波数免許の条件のひとつとしてMVNOへの提供義務を定めている事例があるし、相互接続に対する料金規制を全事業者に対称的に定めています。つまり、周波数の割り当てを通して競争を活性化し消費者の利益を向上させようとする姿勢が見受けられます。周波数割り当てと競争政策及び規制とが結びつけられて運用されているのが米国とEU各国の状況と言えます。このことから、前述の競争政策の再評価や見直し論を生じさせて周波数割り当て方法の論議を生み出しているのです。

ところで日本の場合はどうなのでしょうか。残念ながら、周波数割り当てと競争政策、規制のあり方が積極的に結びつけられて議論されてはきませんでした。周波数割り当ては電波配分の事情から比較審査方式により電波当局の主導において進められ、一方で市場競争の結果を事業規制当局が競争評価して市場支配的事業者に対して、個別事項としてMVNOへの接続提供義務や禁止行為の事前規制を課すといった周波数の割り当てとは切り離された領域で規制が行われているのが実情です。せっかくの周波数免許という強権を競争政策に活かしているとは思われません。例えば、現在、周波数を最大に保有する事業者は実は支配的事業者指定のないソフトバンクグループであり、逆に周波数1MHz当たりの契約数でみるとNTTドコモが最も厳しい状況に置かれています。このまま推移すると周波数の割り当てと事業規制の両方から制約される側と両面とも恵まれる側とにわかれるのではないかと感じます。今後は少なくとも周波数の保有状況を、免許付与対象の個別会社ではなく実質的な支配関係に着目した連結決算の範囲で企業グループとして認識することが市場重視の立場から必要ではないかと考えます。ソフトバンクにおけるイー・アクセス、ウィルコム、WCPは今期決算から連結会社となり経営の集約化が進められていますし、KDDIにおいても傘下のUQコミュニケーションズは関連会社として一体運営が行われています。それなのに、周波数免許のやり方だけが個別の法人格と形式的な資本構成に基づいているのは現実の市場競争に合致していません。こうした所に周波数割り当てにあたって競争政策をどう取り入れていくのか、新しい課題に取り組む必要がありそうです。ソフトバンクグループのイー・アクセスとウィルコムの合併が報道(2013年12月4日の新聞各紙)されているように、市場競争は企業グループを通じて、ローミングやサブブランド戦略の形でますます進展していくことでしょう。市場支配的事業者の競争評価のあり方と個別事項の非対称規制の方法を見直して、企業グループの保有する周波数の免許状況を勘案したモバイル通信市場の新しい環境に見合った競争政策が構築されることを期待したい。周波数割り当てと切り離された非対称規制や事前規制では、特色あるMVNOはなかなか育たないのではないかと思われます。コスト主義に基づく一律の接続料金規制は市場主義とは相入れない取扱いなのでこれを取引(相手先選択)自由の市場原則へと見直しを図る(これが世界の標準的な姿)とともに、さらなる市場競争の活性化が必要であるなら周波数割り当てに際して競争政策として大いに議論して、新規参入者に免許を与えることも検討する方が合理的ではないかと思います。但し、既に世界の先進各国では、モバイル通信事業者は3〜4社程度にまで事業撤退や合併などでその数を減らしてきた経過を踏まえておく必要があることは当然です。

株式会社情報通信総合研究所
相談役 平田 正之

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