2012年2月3日掲載

2011年12月号(通巻273号)

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サービス関連(その他)

4G World 2011:「データトラヒック急増」が話題の中心に

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  2010年末から2011年にかけ、各国でLTEの商用サービスが開始された。本格的なLTEの時代に突入しはじめるなか、2011年10月24日から27日まで米国、シカゴで開催された「4G World」に参加した。同会議は、主に米国のモバイル・キャリアやベンダーが参加し、今後のLTEの方向性や課題などが発表された。なお、日本からはKDDIが参加していた。

LTEの導入状況

 米国では、世界的にも最も早い時期にメトロPCSがLTEの商用サービスを開始し、さらには、大手のベライゾンやAT&Tも相次いで開始した。日本では、2011年11月末時点で、LTEの商用サービスを開始したのがNTTドコモ1社であることを考えると、米国は、世界のなかでも、LTEの導入・展開が積極的に進められている国であると言える。

(出典:報道発表等を基に情総研作成、2011年7月時点)

(出典:報道発表等を基に情総研作成、2011年7月時点)

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 本会議に参加したモバイル・キャリアのなかで、LTEをまだ開始していないキャリアは、今年から来年にかけてLTEサービスを開始し、既にLTEを開始しているキャリアについては、LTEを利用したVoIPや、LTEの次に来る技術であるLTE Advancedの導入など、LTEの発展に向け今後も積極的な姿勢をとる方針を示していた。なかでも、メトロ PCSは、2011年末までにVoLTE対応スマートフォンの提供を開始し、さらに、2012年内に廉価版のVoLTE対応スマートフォンの提供を開始する予定を発表するなど、LTEを活用した付加価値サービスを展開する予定となっている。

積極的にLTEを展開するメトロPCS
積極的にLTEを展開するメトロPCS
(メトロPCS発表資料)

データトラヒック爆発に対する「危機感」

 通常、今回参加したような会議では、LTEの将来性や発展など、その魅力を前面に出した内容の発表が多い。その中で、今回の4G Worldでは、LTEの魅力を発表の内容で語りつつも、「データトラヒックが急増」といった課題が発表の中心となった。スマートフォンの普及によってデータトラヒックが急増している現状は、日本でも、報道記事等で広く知られるようになった。ただし、今回の会議で各社が課題に挙げた「データトラヒックの急増」は、非常に「緊張感」、「危機感」に満ちたものが多かった。その象徴ともいうべき発表が、KDDIの沖中氏の発表であった。沖中氏は、発表のなかで2015年までにデータ・トラフィックが「52倍」になるとKDDIが予測していることを公表し、増加するデータトラヒックに対する危機感をあらわにした。

データトラヒックへの対応

 この急増するデータトラヒックへの対応策として、(1)LTEなどの「次世代技術の導入」、(2)データトラヒックの容量を拡張する「新たな周波数の獲得」、(3)従量制や速度制限などに代表される「サービス規約の変更」、(4)固定網へデートトラヒックをオフロードする「スモールセル・ソリューション」がある。本来的には、これらの全てのソリューションを活用することが最適であると考えられているが、今回の会議で重要視されたのがデータトラヒック増加と合った「スピード感」、そして、「ユーザー・エクスペリエンス」を阻害しない対策であった。まず、(1)に関しては、前述の通り世界各国で既にLTEの導入が進められている。では、(2)〜(4)に関して、4G Worldに参加したモバイル・キャリアがどの様に考えているかを次節で紹介する。

データトラヒックへの対応策
データトラヒックへの対応策

時間がかかり過ぎる「新たな周波数獲得」

 「新たな周波数獲得」に関しては、各社から、データトラヒックの増加スピートに対応できないことから、適切なソリューションではないとの指摘が多くでた。本会議で開催されたセッション「放送帯域の再編」では、この様な指摘を象徴するかのような議論がAT&TとNAB(米国民間放送連盟)の間で繰り広げられた。米国では、利用されていない放送帯域をモバイルブロードバンド用周波数帯域としてオークションする計画がFCCにより進められている。まず、AT&Tとしては、しきりに、議論ばかりせず、オークションを「今」「早く」実施することを主張していた。地上波テレビを利用しているユーザーと、今後、大きなトラヒックを生むモバイルデバイスの数を比較したうえで、早急に、モバイルブロードバンド用の周波数を確保する必要があると主張した。一方、NABは、AT&Tの発言に対して、机をたたきながら、オークションによるローカルTV局の影響等を勘案する必要性を指摘した。議論が白熱してしまい、会場の雰囲気が険悪なムードになる場面が多くあった。この議論が象徴するように、新たな周波数獲得は非常に時間を必要とするものであり、同セッション以外でも、スプリントやメトロPCSなどのキャリアは、新たな周波数獲得は、現状のデータトラヒックの増加のスピード感に対応できないと述べた。

議論が白熱し、パネルが一時険悪なムードに・・・
議論が白熱し、パネルが一時険悪なムードに・・・

ユーザー・エクスペリエンスに影響する「サービス規約の変更」

 「サービス規約の変更」に関しては、4G Worldの名の通り、LTEやWiMAXといった4G技術がテーマとなっているカンファレンスだが、会議1日目を「ユーザー・エクスペリエンス」に関するセッションに割かれるほど重要なテーマとして扱われた。また、本会議に参加したキャリアの発表のなかで、過度な従量制や帯域制限がユーザー・エクスペリエンスを大きく阻害する危険性が高く、データトラヒックのソリューションとしては適切ではないとの意見が多く見られた。

現時点で最適な対応策「スモールセル・ソリューション」

 急増するデータトラヒックの対応策として「新たな周波数帯域確保」、「サービス契約の変更」といったソリューションが望ましくないといった意見が多くでるなか、本会議で注目されたのがWi-Fiやフェムトセルなどを利用して固定網にデータをオフロードする「スモールセル・ソリューション」であった。

 近年では、米国、さらには、日本においてもスモールセル・ソリューションの一つとして、モバイル・キャリアによるWi-Fiネットワークの拡張が多く見られるようになった。本会議に参加したモバイル・キャリアは、発表のなかで、Wi-Fiへのデータオフロードは非常に重要であると述べたうえで、「モビリティが確保できない」、「Wi-Fiの干渉問題」、「端末のバッテリーの関係で利用されない」など、データオフロードの手段として限界があると指摘した。

 本会議で、データオフロードのソリューションとしてWi-Fiに限界があるといった意見が多く出る中、「フェムトセル」がWi-Fiを補完するソリューションとして注目を浴びた。フェムトセルは、2007年に、免許帯の電波を利用する小型基地局として注目を浴び、現在、ユーザーに対して屋内カバレッジを改善する機器として提供されている。会議で発表されたフェムトセルの活用は、ユーザーに対するサービスとしてのフェムトセルではなく、屋外も含めたキャリアのインフラとしての利用が期待される点で、いままでとは違う位置づけとなっている。なお、フェムトセルの活用に関しては、スプリントが2012年までに100万基設置することを発表し、また、KDDIもサムスンと共同でフェムトセルを含めたスモールセル・ソリューションの導入を進めていると発表した。

スモールセルソリューションを進めるKDDI
スモールセルソリューションを進めるKDDI
(サムスン発表資料)

データトラヒックに対して全ての通信リソースを活用

 4G Worldでは、海外のモバイル・キャリア、KDDIのデータトラヒックの増加に対する「危機感」を感じさせる発表が多く、各社共に直ぐにでも急増するデータトラヒックに対応する必要があるといった内容が殆どであった。そのなかで、「タイムリー」に導入できるデータトラヒックの対策としてスモールセル・ソリューションが注目された。では、今後は、どうであろうか。

 KDDIは、前述で紹介した4つのソリューションを、仮に全て導入したところでも、現状のデータトラヒック許容量を「40倍程度」に増加させるだけで、「2015年までのデータ・トラヒック予測(52倍)に間に合わない」と指摘した。KDDIは発表のなかで、増加するデータトラヒックへの対応策として具体的な戦略「3M戦略」を掲げ、同社が持つ「全て」(固定含む)の通信リソースを活用する方針を掲げた。KDDIほどの具体的な戦略をだしていないものの、本会議に参加した殆どのモバイル・キャリアが、固定を含めた全ての通信リソースを活用する必要性を説いていた。

◇◆◇

 データトラヒックの増加に対する「危機感」や「見通し」は、モバイル・キャリアのリソースや経営状況などによって違う。ただし、最終的には多くのモバイル・キャリアが直面する課題であると考える。海外のモバイル・キャリアの多くが固定ネットワークを持っていることから、このデータトラヒックの急増に対するソリューションは導入し易いと考える。他方、固定ネットワークを持っていないモバイル・キャリアは、データトラヒックの急増に対応するために、今後、固定キャリアと何らかの協力体制、若しくは自社で固定ネットワークを敷設する必要性が高くなる可能性がある。今後のモバイル・キャリアのLTEの展開以上に、データトラヒックに対する各社の対策が注目される。

中村 邦明

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