2012年1月11日掲載

2011年11月号(通巻272号)

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InfoComモバイル通信T&S

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サービス関連(通信・オペレーション)

データ定額制は維持できるのか

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 スマートフォンの急速な普及によるモバイル・データ・トラヒックの急増は、移動通信事業者の通信網を逼迫させている。そうした中、NTTドコモはLTEサービス「Xi」のスマホ向け料金プランに、月内のパケット利用量が7GBを超えた場合には(1)速度制限をする、(2)速度制限を回避したい場合はパケット量に応じた追加料金を必要とする、のいずれかを利用者が選択できるという新たな枠組みを導入した(2012年9月末まではキャンペーン期間とし、速度制限や追加料金は適用しない)。これは、3Gサービス「FOMA」で採用されていた「パケット利用上限なし、サービス制限なし」という考えに基づいた定額料金プランからの脱皮と言える。果たしてデータ定額制は今後も維持できるのか、について現状および今後の環境要因をふまえ、課題を具体的に整理してみたい。

FOMAでも速度制限は導入済み

 データ通信サービスにおける速度制限は、日本では各社が3Gサービスの中で導入済みである。

 ただし、ここで速度制限適用のしきい値となっている「3日間で300万パケット(約400MB)」、「1カ月で1,000万パケット(約1.3GB)」というデータ量は、現在のスマホで一般に利用されるアプリケーション、コンテンツを考慮すると、動画を見なければ対象外、という水準である。例えば、YouTubeで標準画質の動画を1分視聴すると、スマホの場合は1.5MB〜2MB(PCの場合は6〜8MB)程度である(注)。よって、一般の利用者にとってスマホでの速度制限は、ほぼ縁がない話であった。

(注)日本通信「b-mobile Fair 1GB SIMパッケージ」説明ウェブページより

パケット上限設定は、需給バランス次第

 通信事業者が速度制限なり従量課金に踏み切らざるをえないのは、需要(パケット利用)が供給(通信設備容量)を超えてしまわないようにするためである。ソフトバンクモバイルの孫社長は、2%ほどの利用者が帯域全体の4割ほどを占有している、とコメント(2011年7月決算説明会)している。

 こうした中、通信事業者は供給主体として、設備増強に必死に取り組んでいる。大括りにいえば、モバイル通信設備の容量を増やすことは
  「設備の増設」×「高速・大容量化技術の導入」×「周波数帯域の拡張」
という3要素の掛け算である。

 設備の増設については、2011年10月に開催された国際会議「4G World」ではカバーエリアが狭い基地局(ピコセル、フェムトセル等)を「スモールセル」として扱い、ここへの注目が高かった。利用密度の高いエリアでのトラヒック処理に対し、スモールセルは効果的かつ効率的である。

 高速・大容量化技術はすなわち、LTEやLTEアドバンストなどである。現在商用展開されているLTEを使うことで、NTTドコモでは現状の3倍のトラヒックに対応可能できるとしているが、毎年2倍ずつ伸びるトラヒックに対しては、LTE導入は緩和策とはなれど、解決策にはならない。

 周波数帯域拡張では、当面の注目は「700/900MHz」における上下15MHz幅、2.5GHz帯における25MHz幅(「モバHO!」跡地)、今後議論の本格化が期待されるTVホワイトスペース(数10MHz幅もしくはそれ以上)などである。割り当てまでに必要な期間を考えれば速効性の面で多くは望めないし、また帯域幅にも限度はある。しかし、TVホワイトスペースがLTEやWi−Fiなどに柔軟に活用できる状況が整備された場合は、かなり広い帯域が追加的に配分されることになるため、今後の動きを注視すべきである。なお、大手通信事業者が進めているWi−Fiオフロードも、周波数帯域の拡張との解釈することもできる。現在主流の2.4GHzに加え、対応端末が増えれれば5GHz帯がさらに活用されるであろうが、これも限界はある(将来は60GHz帯など新たな帯域での展開も見込まれる)。

 従来型の「パケット利用上限なし、サービス制限なし」のデータ定額制は、それが需給バランスを崩すまでには至らないという条件のもとで提供されていたが、そのバランスがスマートフォンの普及で崩れ始めてきた。Wi−Fiオフロードや周波数追加付与など、設備容量に大きく影響する話は、データ定額制を含めた料金プランの今後を左右する。

「従量課金」と「速度制限」がもたらす課題・・・安心感、利便性

 一方、需要を抑えるための対策も、データ定額制維持には重要である。具体的には、「従量課金」と「速度制限」は有効であろう。ただし「パケット利用上限なし、サービス制限なし」の定額制にこれまで何年も馴染んできた利用者の受け止め方をきちんと考慮する必要がある。

 まず「使い放題」という安心感に慣れた利用者が、利用上限をどう受け入れるだろうか。結論からいえば、安心させるための仕組みが必要だ。米国ではすでに大手4事業者のうち3社が超過従量課金、もしくは速度制限を導入しているが、そうした米国でも2010年より政府が通信事業者に「bill shock(高額請求ショック。日本的に言えばパケ死)」対策を義務付けるよう動いており、2011年10月17日には、FCCとCTIA(米国移動通信事業者協会)、コンシューマーズ・ユニオン(消費者団体)が共同で、これに対する自主規制のためのガイドライン「Wireless Consumer Usage Notification Guidelines」を発表している。ここでは、パケット利用や音声通話利用の上限に近づいた場合および  利用上限に達した場合に、通信事業者が無料で通知配信を行うこと、となっている。

 また、利用上限の設定水準も重要だ。設定次第では利便性が大きく損なわれかねない。その意味で、利用上限というしきい値の設定では、結局は利用動向に応じた柔軟な対応が求められる。ただし、例えば(ヘビーユーザーではない)大多数のミドル〜ライトユーザーの多くが上限に達しないような水準でしきい値を設定するとなれば、こうした利用者層によるトラヒックが増えるに従って上限を引き上げる必要がある。その場合、設備逼迫を緩和する効果は上限引き上げとともに薄まってしまう。

 さらに考慮すべき点として「逼迫していないエリアでの利用についても、超過課金や速度制限の対象とすべきか」があるだろう。料金プランへのしきい値の設定、しきい値超過分への追加課金や速度制限は、トラヒック逼迫緩和のためである。しかし、設備逼迫は24時間、あらゆる場所で発生しているわけではなく、現状では「時間帯」「場所」は一部に限られている。すでに利用上限に達してしまったら、設備が空いている時間帯、空いている場所でも通信を制限するという仕組みは、需給バランス調整の意味では必要ない。ただし利用者へペナルティを与える狙いであるなら、正当化できるだろう。

 速度制限でいえば、例えばNTTドコモがFOMAで導入している速度制限の場合は、必ずしもすべての時間帯や場所で適用されるわけではない旨が利用者へ向け明らかにされている。しかし、追加課金について速度制限と同様の条件を適用するのはやや難しい。利用者が「いま課金され(てい)るのか」をリアルタイムに把握できるようにしたとしても、使い勝手としてはややこしい。

 なお、超過課金の基準がパケット量である、という点についても再考すべきかもしれない。パケット量は利用者にとって体感しづらいものであり、かといってリアルタイムにパケット量が見えるメータを画面表示しながら使う、というのもあまり気持ちのいいものではない。利用者が体感しやすいという意味では「時間課金」の方が優れている。設備逼迫回避のためには、短時間に大容量のパケットが発生するような使われ方を回避する必要があるが、それは時間課金と速度制限を組み合わせることで対応できそうだ。

 また、マクロセルの設備逼迫緩和を促す目的で、フェムトセル導入利用者を料金面で優遇する、という仕組みも作ることができる。たとえばフェムトセル利用者に対し、フェムトセルでの利用パケットには課金しない、フェムトセル利用者には利用上限やパケット単価等で優遇する、などの施策が考えられる。

需給バランス調整のための料金プランは、海外でも多種多彩

 スマホの普及による料金プランでの対応は、海外でも行われている。本冊子の記事「携帯通信料金の最新動向 〜 モバイル・データ通信競争で試されるLTE料金」において、豊富に事例が紹介されている通りだ。

 こうした多様な料金プランも、今後のトラヒック需要や設備増強の状況見合いで、今後継続して見直されていくことだろう。料金プランは、その時代における各通信事業者の戦略や市場概況を写す鏡でもある。

岸田 重行

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