2011年3月31日掲載

2011年2月号(通巻263号)

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2010年の中国のモバイル分野の総括と2011年の展望

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 2011年1月20日、中国政府は2010年の通年の実質GDP成長率(経済成長率)10.3%(速報値)を発表、リーマンショック後に実施した数々の財政・金融政策が奏功し引き続き高率の経済成長を維持していることが明らかになった。これと同時に年間名目GDPを発表、それまでも取り沙汰されていた「日本を抜いて世界第二の経済大国」となったことが公式統計上でも明確になった。本稿執筆時点(2011年2月初旬)では中国の新年、旧正月「春節」が始まったタイミングであるが、それに合わせ2010年の中国のICT市場、特にモバイル市場を振り返るとともに、2011年に考えられる方向性について分析を行ってみたい。

2010年の統計から

 2011年1月には冒頭のマクロ経済統計だけでなく、ICT分野にかかわる様々な統計も公表されている。まずは工業・情報化部(MIIT)が2011年1月末に発表した「2010年全国電信業統計公報」のエッセンスからみてみたい。

 2010年末時点の総加入数は11億5,339万加入であったが、そのうち携帯加入数は8億5,900万加入で、既に総加入数の74.5%、固定電話加入数の約3倍の規模になった。2010年一年間の携帯加入者純増数は1億1,179万で、史上最大の年間純増数を記録。2010年末の携帯総加入数は8億5,900万に達している。対人口普及率は64.4%に達し、2009年末から8.1ポイント上昇。図1に中国各行政区域別(省・直轄市・自治区)ごとの携帯加入数と普及率を示したように、普及率100%を超えている北京市や上海市がある一方で、最近の経済成長が目覚ましい内陸部にはまだ同40〜50%の省も少なくないので、今後の伸びしろはまだ大きく残されているといえる。

 また、2009年初頭から正式にサービス開始された3Gについてみてみると、2010年の純増は3,473万で、累計は4,705万加入となった。携帯加入数全体からいえば5%程度にすぎない規模であるが、絶対数ではわずか2年間で日本の携帯全加入数規模(1億1,706万、2010年12月電気通信事業者協会)の半分近くまで達する規模になった。図2にキャリア3社ごとの最近の3G加入数推移を示す。

(図1)各行政区域ごとの携帯加入数と普及率比較
(図1)各行政区域ごとの携帯加入数と普及率比較
(出典)「中国電信業統計公報2010」

(図2)各社の3G加入数推移
(図2)各社の3G加入数推移
(出典)中国移動・中国聯通・中国電信各香港上場会社(中国電信の3G加入数はMIIT)

 次に1月に同じく中国インターネット情報センター(CNNIC)が発表した「第27回中国インターネット発展状況統計報告」から興味深いデータを挙げてみたい。同報告はCNNICが半年に一回発表するもので、調査サンプルは全国6万の固定および携帯利用者となっている。これによれば、2010年12月末時点で、中国のネット利用者数規模は4億5,700万人で、2009年末から7,330万人の増。対人口普及率は34.3%に上昇、2009年末から5.4ポイント増加した。特に拡大が著しいモバイルインターネット利用者規模は3億300万人に達し、ネット利用者規模を押し上げる最大の要因となっている。

(表1)PCからの各種アプリケーションの利用率比較
(表1)PCからの各種アプリケーションの利用率比較

 アプリケーションやコンテンツの面でのインターネット利用における最近の特徴は、表1に示した各種アプリケーション利用者数の傾向の変化にあるように、エンターテインメント系の音楽、ゲームの利用者の増加幅が落ち着いてきている一方、日本や欧米と同様にネットショッピング、ネット決済、ネットバンキングの利用率が急増してきていることである。また、マイクロブログ(ツイッターに相当)や共同購入(グルーポンに相当)の利用者数も一定規模に拡大するなど、様々なソーシャル系アプリの伸びが目立ってきたことも特徴的である。

モバイル市場の2010年の動き

 次に、2010年のモバイル市場における主なニュースを表2のとおり時系列で並べることにより、その傾向を具体的なファクトから分析してみたい。

(表2)2010年モバイル分野の主要ニュース
(表2)2010年モバイル分野の主要ニュース
(出典)「第27回中国インターネット発展状況統計報告」

 この流れで、2010年の最も大きな特徴といえるのは、2009年の3G開始後、その動きがスマートフォンやタブレット端末など各種デバイス、端末の登場と相まって、モバイル分野が急速に盛り上がりを見せたことである。これは世界の動きと完全に連動しており、中国を成長点として世界がその市場の巨大さを認識していることとも通じている。また、キャリア3社とも、スマートフォンを支えるアプリケーションストアの展開には早期から取り組んできているが、2010年には3社のアプリストアが正式に出揃った。各キャリアとも、「コンテンツ基地」「アニメ基地」「電子ブックリーダ基地」といった各サービスの開発者をも取り込む目的で大規模な集積開発拠点を中国各地に設けており、この点は中国政府が推し進めるICTをドライバーとした内需拡大、地域振興とも合致する側面がある。

 さらには、2010年には安価なスマートフォンといえる「1,000元スマートフォン」のような廉価版端末の展開についても各社は力を入れており、内外ベンダが様々な端末を投入している。台湾のMediaTekが提供するチップソリューションを活用し、様々なベンダがEMS(Electronics Manufacturing Service、受託生産)のような形で生産を行えるようになったこともその背景にある。これらの動きにより、アプリ、コンテンツ開発企業、端末ベンダ、関連するベンチャー企業も取り込みつつ、モバイルを取り巻く様々な分野で新しい動きが勃興しているといえよう。中国が国策の最近の柱のひとつとしている「自主創新(イノベーション)」は、一部で「なんでもあり」と混同されつつも、その行動様式の原点にあるように感じられる。

 これらのスマートフォン、3Gを軸にした動きのほかに、次世代方式であるTD-LTE実験の動きも特徴的である。5〜10月に開催された上海万博では、「TD-LTE体験網」として関連パビリオンや会場内で様々な実験が行われた。この間、中国国内の3都市での実験、この数年で著しく緊密化した台湾との間での実験、関連デバイス等の売り込みなども進められ、TD-LTE大規模実験については、2011年に対象都市が6都市に拡大すると報じられているなど、先を睨んだ数々の動きも進んでいる。

モバイル市場を取り巻くICT分野全体と政策に関する2010年の動き

 昨今の各国ICT市場を見る場合、国家のICT政策との連動を見逃すことはできないが、特に中国の場合はマクロ的な政策の観点からも注意してみることが、モバイル市場の動きを見ていくうえでも極めて重要であることは言うまでもない。これまでも本誌などで取り上げてきた「物聯網」(M2Mとほぼ同義)推進の前提となるための異業種間の各種の戦略的提携関係構築が2010年は数多く結ばれている(表3−1、3−2参照)。実際の「物聯網」の成功例としてはまだ明示的なものは多くないといえ、コンセプトが先行し、具体的成果を期待するのは時期尚早であると考えられるが、そのうち実現可能なソリューションとして具体化しているのは、非接触ICを利用したモバイルペイメント、高級車向けのテレマティクスなどが比較的動きがあった分野であるといえる。

(表3−1)モバイル分野以外のICT分野の2010年主要ニュース
(表3−1)モバイル分野以外のICT分野の2010年主要ニュース

(表3−2)2010年のキャリア―異業種間の戦略的提携例
(表3−2)2010年のキャリア―異業種間の戦略的提携例
(表3−2)2010年のキャリア―異業種間の戦略的提携例

 これらの動きは政府の進める内需拡大政策による持続的成長を維持するための動きと連動し、2010年3月の全人代以降、ICTを経済発展のドライバーと位置づける動きがより鮮明化したことが背景にある。前述した各キャリアが地方に設置する「○○基地」もその一環をなすものである。また、光ブロードバンドや3Gの積極的推進について、政府各部門が連名で文書を発出していたり、通信・ネット・放送の融合推進政策である「三網融合」がより具体的方法を示しつつ実験が開始されるなど、政府側の意向も様々な形でICT関連産業に伝えられている。「三網融合」の流れでいえば、世界で最近注目され始めたコネクティッドTV(ネットTV、スマートTV)についてもこの流れで中国でも関心が高まっている模様である。

 その一方、2010年には各種の規制、制度の強化、いわゆるガバナンス面での強化がより強力に行われたといえる。6月末まで盛んに報道されていたグーグルの検索分野における中国からの撤退問題に際して、中国政府は「インターネット白書」を公開し、ネット検閲に対する自らの正当性を主張した。このほかにも不良コンテンツの取り締まり、オンラインゲームにおける青少年保護、ネット著作権等知的財産権保護に対する取り組み、携帯電話登録時の実名制など、様々な規範化も進められた。この背景にあるのは、中国の抱えるネット人口の巨大さに起因する影響力であることはいうまでもないが、チュニジアやエジプトの政変に影響したといわれるような、ネットの影響力拡大が如実に伝えられるような事象に対して、今後もより中国政府としては警戒するものと考えられる。中国は2012年に新政権に移行することが実質確定しており、すでに習近平・国家副主席が次期総書記・主席となることが確実視されている。その移行期を乗り切るにはこのようなガバナンス強化は今後も継続するものと考えられる。ICT、特にその中でも貢献度が高いと考えられるモバイル分野などをドライバーにした持続的経済成長の必要性と、膨張するネット社会に対するガバナンス強化の必要性という、相矛盾するような二つの大きな流れを今後もどのようにバランスをとっていくのか、引き続き中国の動向はグローバルなICTマーケットを見ていくうえでより欠かすことのできない分野になってくるのではなかろうか。

町田 和久

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