2010年1月24日掲載

2010年12月号(通巻261号)

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サービス関連(コンテンツ)

韓国SKテレコム、コンテンツ事業で海外展開

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 これまで韓国のモバイルキャリアは日本のキャリアと同様に、主にキャリアへの投資を中心とした海外市場展開を行ってきたが、これまで顕著な成果が得られているとは言い難く、海外展開の方針を見直す動きが出ている。全世界的にスマートフォン需要が拡大するなか、2010年11月、SKテレコムがコンテンツを軸とした海外展開のモデルを打ち出した。

中国との新たな関わり方

 SKテレコムは2006年に中国聯通の香港上場会社に出資し第2位の株主となったが、3年後の2009年に保有株式をすべて売却した。中国のキャリア再編政策に伴い中国聯通が中国網通を合併したことで持株比率が下がったこと、中国網通に出資していたテレフォニカが持株比率を上げ第2位の株主の座に上ったことなどから、中国聯通に対する影響力の低下が明白となりキャリア事業というビジネスモデルからの脱却を図る必要性に迫られていた。

 今回SKテレコムが発表した中国ビジネスは2つで、いずれもコンテンツを軸とした展開だ。1つはレノボとの提携で、レノボのスマートフォン「Le(楽) Phone」にSKテレコムのアプリストア「T Store」のコンテンツを提供するというもの。具体的には、T Storeのアプリランキングで上位を占めるゲームやK−POP、マンガなどのコンテンツを集めたT Storeの「プレミアムショップ」を提供する形を想定している。SKテレコムとレノボの収益配分は8:2で、SKテレコムは収益を韓国内の開発者と分け合うことになる。コンテンツの提供は、まずスマートフォンから始めて、タブレットPCやスマートTVなどの端末にも拡大していく計画だ。

 2つ目は中国最大のポータルでメッセンジャーサービス「QQ」を運営する騰訊(テンセント)と提携し、T Storeのマンガコンテンツを有料で提供する(2011年初頭予定)。T Storeで運用中の「CLB(Comic License Bank)」というマンガコンテンツの供給・流通を支えるシステムを活用し、登録されている4万件のコンテンツから、T Storeの人気ランキングと中国市場の特性に合ったコンテンツを3千件程度選んで供給する。

 テンセントは、5億人を超えるポータルユーザに加え、メッセンジャーユーザも1億人以上という巨大なユーザベースがあり、有料会員制の電子書籍サービスのユーザも60万人いる。テンセントは、今後の人気コンテンツの一つがマンガになると予想し、T Storeから提供されるマンガコンテンツで3年以内に有料会員を100万人まで拡大することを目標にしている。

グローバルプラットフォーム戦略

 T Storeというアプリストアのプラットフォームを活用したSKテレコムの海外事業の展開方針は、10月に発表した「グローバルプラットフォーム戦略」の一環だ。早期に構築すべきプラットフォーム群として、LBS(T Map)、コンテンツ流通(T Store、Melon(音楽)など)、SNS (Cyworld(サイワールド))、B2B(ヘルスケア、自動車、教育、スマートオフィス)など7つの分野を定め、SKテレコムが強みを持つこれらのサービスを軸に、海外市場でも渡り合えるサービスプラットフォームを作り上げようとしている。

 iPhoneやアンドロイドが登場し、コンテンツやプラットフォーム・ビジネスにおいてはアップルやグーグルなど非通信キャリアが主導する新たなモデルが生まれたことにより、通信キャリアの存在感が弱まりつつあるという危機感を持っているのは韓国キャリアも同じだ。韓国では「同伴進出」「同伴成長」という表現が頻繁に使われるが、これはコンテンツを開発する小規模な企業や個人などが通信キャリアなどの大企業と一緒に海外に進出し、共に成長することを意味している。

 前段の中国進出の事例にあるように、コンテンツを開発する個人や企業が海外展開可能な仕組みを作ることで、SKテレコムとそれらの開発者が参加する新たなエコシステムを形成している。グローバルWACの韓国版であるK−WAC構想が生まれたのも同じ脈絡で、国内市場にとどまらず、小さくてもまとまれば大きな市場にも打って出られるという期待が込められている。

ゲームやテレビドラマ・映画などのコンテンツごとのプラットフォーム展開

 SKテレコムのコンテンツプラットフォームの海外展開の事例は、T Storeを軸にした今回の中国の例以外にもあり、ゲームや音楽、テレビドラマや映画といった動画など、コンテンツの類型ごとのプラットフォームの構築が既に進められている。

 今年4月、SKテレコムは開発者がコンテンツの販売を申請するオンラインサイト「NATE games」を開設し、中国のモバイル市場向けにサービス提供をスタートした。このサイトを支えるシステムは「GLB(Game License Bank)」 と呼ばれ、ゲームコンテンツの海外における版権を登録し、コンテンツの供給と流通をサポートするものだ。先に述べたマンガコンテンツの販売を支援するCLBのゲームコンテンツ版になる。

 また10月には、放送コンテンツを売買できるB2Bサイト「Trade all Content」をオープンした。これは、映画やドキュメンタリーなどデジタルコンテンツのB2Bオンラインマーケット「MPX」をグローバルで運営するドイツのMedia Peers社との提携により提供するもので、SKテレコムは、Trade all Contentを韓国、中国、日本、タイ、インドネシア、シンガポールなどアジアの9カ国を中心としたアジアのデジタルコンテンツハブとして展開することを目指している。

プラットフォーム事業展開は、今がチャンス

 SKテレコムのチョン・マンウォン社長は、「プラットフォーム事業を展開し、成功できるチャンスは今しかない」と述べている。全世界でスマートフォンの普及拡大が進み、プラットフォーム事業の成長に期待できるほか、国内で繰り広げられる端末補助金を中心としたマーケティング競争から脱却 する契機となりうる。また、国を挙げた新たな成長エンジンの創出が急がれていること、中小企業の育成といった国が直面する課題に取り組み韓国経済の発展に貢献できることなど、プラットフォーム事業はSKテレコムの利益だけではなく、中小企業の海外進出やコンテンツ産業の発展による国家競争力強化に資する波及効果も期待されている。その一歩を踏み出すのは今だ、というのである。

 SKテレコムは昨年9月にT Storeを始めた後、しばらくは目立った動きがなかったが、今年中盤からサービスプラットフォームのほか、モバイルオフィス、スマートグリッド、モバイルラーニングなどICTを活用したサービスの提供あるいは提供計画を次々に発表している。サムスンやLGなど海外で活躍する韓国企業が盛んに分析されているが、韓国企業の強さの一つに数えられるスピード感がSKテレコムの動きにも見てとれる。

 モバイルキャリアと市場をとりまく環境変化にどのように対応するかは、どのキャリアにとっても共通の課題として認識されている。SKテレコムは、韓国キャリアの中では初めてプラットフォーム事業で海外市場に乗り出したばかりだが、既に次の一手が気になる。「今しかない」タイミングをとらえ、世界に向けて発信する次のサービスに注目したい。

亀井 悦子

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