2010年5月6日掲載

2010年3月号(通巻252号)

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InfoComモバイル通信T&S

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[tweet] 巻頭"論"

中ぬきモデルとの競合〜オペレータの新しい挑戦

先月のこの巻頭“論”で、成熟期にあるモバイル・オペレータの構造的な課題を次の5点にしぼって述べました。くり返しになりますが、1.周波数の活用・割当て方式の再検討、2.着信接続料の見直し-ビル&キープ方式の指向、3.無線を含めたブロードバンドの普及・拡大、4.固定と無線の融合サービスと一体運営の推進、5.政府の規制と振興政策の導入・見直し、の5点を指摘しました。これらは、成長期から成熟期に移行した先進各国における携帯通信事業者(モバイル・オペレータ)が直面せざるを得ない制度的・構造的な課題を取り上げたものです。

  今回はさらに進んで、先進的なモバイル・オペレータが新たに陥っている、いわゆる“中ぬきモデル”との競合を取り上げてみたいと思います。アップル社のiPhoneがもたらしたアプリケーション・ストア方式がそれです。iPhoneの場合は、「App Store」と呼ぶコンテンツ/アプリケーション配信プラットフォームがアップル社によって提供され、端末(ここではiPhone)とプラットフォームの間のモバイル・ネットワーク回線はアップル社と提携しているモバイル・オペレータの回線が独占的に選別されています。つまり、ユーザーの選択に対し、主導権がオペレータ側から端末製品およびそのアプリケーション側に移っていることを示しています。従来、日本の携帯通信サービス市場では、端末+ネットワーク+プラットフォーム(アプリケーション)が垂直的統合の型でモバイル・オペレータによって提供される形が一般的であり、固定通信のインターネット(水平的統合)型のISPサービスとは大きな違いが見られて来ました。ところが、iPhoneは、単にユーザーインターフェイスなどに優れた利便性の高い高級な携帯端末として登場しただけでなく、アプリケーション・プラットフォームのあり方に至るまで市場構造を変える契機となっています。文字通り、スマートフォンとしてスマートな利用方法をユーザーは知るところとなり、また、アプリケーション開発者を世界中に拡大して時代の先取りを果してきました。最近のソフトバンクの好調、ケータイ独り勝ちと言われる現象は頷けるところです。

  しかしながら、こうした中ぬきモデルに対してモバイル・オペレータ側も主導権を取り戻すべく新たな挑戦が始まっています。その環境条件が準備されつつあることに注目しています。第1は、アップル社のiPhone以外に数多くのスマートフォンがメーカー各社から発売され、アップルOSを超えて様々の有力なOSが市場投入され、より利便性に優れオープン性を備えた製品が見られるようになりつつあること、第2は、先月に「ホールセール・アプリケーションズ・コミュニティ(WAC)」の設立が発表されたことです。このWACは、NTTドコモをはじめ、ソフトバンクモバイル、米AT&T、英ボーダフォン、中国移動通信など世界の通信大手24社が設立した携帯端末向けアプリケーションソフトの配信基盤の共通化に取り組む非営利組織で、通信事業者が端末などに依存しないオープンな開発環境を整備することにより、携帯端末向けアプリケーション市場の成長を促進しようとするものです。これまでこうした共通化の取り組みは「JIL」「BONDI」といった仕様が並列して来ましたが、いよいよモバイル・オペレ-タの大同団結が図られることになります。メーカ側やOS側に移った主導権に対し、モバイル・オペレータ側が挑戦する構図です。設立時点では、端末メーカーとして韓国のサムスンとLG、英ソニー・エリクソンが支持を明らかにしていますが、最も強力な米国勢、アップル、グーグル、マイクロソフトは加わっていません。既に、有力なアプリケーション・ストアを展開している勢力との競合に発展していくことが予想されます。

  端末とアプリケーション・プラットフォームの2極による、いわゆる中ぬきモデルは、固定のISPサービスで起っているネットワークの輻輳(ふくそうと読みます。古い通信用語で要するに大混乱・渋滞のこと)問題をモバイル通信でも引き起こす恐れが十分にあります。iPhoneを数多く販売している米国のAT&Tや日本のソフトバンクには、つながりにくい、速度が遅くなるなどの声が寄せられていると言われています。つまり、端末とアプリケーションという両端の発達・開発だけでは、通信サービス市場全体は混乱する恐れがあることを示唆しています。いわゆるネットワーク全体を効率よく低コストに管理するためには、端末とアプリケーションとネットワークの連携を上手にバランスよく取っていく必要があると言うことです。特に、無線周波数という有限な電波資源に依拠せざるを得ない宿命を持つモバイル通信ではこうしたバランスが求められます。その上、国境やオペレータを越えて移動するモバイル・サービスでは特に注意が必要です。

  この関連で、先般NTTドコモから、アンドロイド端末のXperiaと同時に発表された「ドコモマーケット」に注目しています。即ち、アンドロイドOSだけでなく他OS端末も取り込み可能とする拡張性を持ち、収納代行という通信と一体化された利便性や多様なスマートフォンや多くの開発者を引き付ける、いわばモバイル・アプリケーション市場のゲートウェイとしての役割が期待できるからです。これは、垂直統合的にNTTドコモの新たな収益に貢献するだけでなく、成熟期を迎えたモバイル・アプリケーション市場の拡大に繋がる新しいビジネスモデルと考えられます。

株式会社情報通信総合研究所
代表取締役社長 平田 正之

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