2010年3月31日掲載

2010年2月号(通巻251号)

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InfoComモバイル通信T&S

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[tweet] 巻頭”論”

成熟期の課題〜モバイル通信とブロードバンド

 モバイル通信サービスは、対人口普及率で見ると、ここ20数年の間、世界各国で共通する拡大・成長カーブを辿って成熟期に達する経過が見られています。サービスの立ち上がりの後、最も成長する時期には、人口普及率が1年で10%程度上昇するスピードで普及が進み、7〜8年もすると成熟期に達するというパターンを描いて来ました。日本の場合も1996年から2000年の5年の間、年間約1,000万契約ずつ増大し、2000年には約6,000万契約に達した実績があります。

 最近ではインドにおいて、毎月約1,000万契約を上回って増加し、年間では1億5千万を超える増加となっていますが、まさに、今が拡大期、人口12億人のインドでは人口普及率が年間10%以上増加していることになります。

 人口普及率で見て、プリペイドが主流の国で90%、ポストペイドが中心の国で70%に達すると、それぞれの国で成熟期に入って行きます。サービス面では、成熟期となる少し前から、電話(音声)に加えてデータ通信が盛んになり、いよいよ成熟期となると事業者の統合・合併買収(M&A)が見られるようになります。日本でも、1990年前半に6社・グループのあったモバイル通信事業者が2005年には3社にまで減少しました。同様のことは、米国でも欧州各国でも、程度に差はありますが起こっていますし、現在でも継続しているところです。

 既に、多くの国・地域ではモバイル通信サービスは人口普及率で見て成熟期に達しており、規制面、市場慣行面など成長期とは異なる構造的な課題が生じていることに注目したいと思います。特に、欧米だけでなく、日本もこの面では課題先進国なのです。例えば、新規契約の減少と端末の買替需要の増大に従い、端末販売奨励金の見直し(削減)が行われたのも、この流れの一つとして捉えるべきでしょう。現在、考えられる新たな課題としては、

  1. 周波数の活用・割当て方式の再検討
  2. 着信接続料の見直し−ビル&キープ方式の指向
  3. 無線を含めたブロードバンドの普及・拡大
  4. 固定と無線の融合サービスと一体運営の推進
  5. 政府の規制と振興政策の導入・見直し

などが挙げられています。日本でも、1の周波数の割当てについてはオークション方式や電波利用料のあり方などが話題となっていますが、それ以外の4項目については日本での議論はほとんど見られません。

 具体的には、2、3、4の項目である、着信接続料も、ブロードバンド普及も、固定・無線の融合・一体運営も、すべてモバイル通信を制度および市場構造面で固定通信と同様の取り扱いとして行こうとするものと理解できます。固定通信とは別の市場構造や規制で捉えられていたモバイル通信を、普及の成熟に従い特別視することは過去のものとなって来ています。残念ながら、日本では、まだ、モバイル通信は固定通信とは全く別のサービスとの認識が強く残っています。着信接続料では米国と 同様にEUの流れも相互に接続料を請求しない、いわゆるビル&キープ方式へ進んでいますし、またブロードバンドの普及において、光回線の拡大だけでなく無線回線を含めてブロードバンドを展開しようとするのが、欧米先進各国の動向となっています。その意味で日本では今日、光アクセス回線の分離が議論されることもありますが、無線ブロードバンドを含めて考えるなど、もっと実態を幅広く認識すべきでしょう。

 さらに、固定と無線サービスの融合、運営の一体化は既に世界のモバイル通信成熟国では当然のこととなっています。日本では、いわゆる「NTT問題」の長年の議論の中で、現在の固定通信の県内と県間・国際の分離、さらにモバイル通信の分離が行われて来ましたが、これは規制、供給者サイドの問題であって利用者サイドから見ると、これだけ一般化したモバイル通信を、むしろ中核に据えた制度設計、市場構造のあり方を追及すべき時ではないでしょうか。固定とモバイルの融合サービス/運営の一体化による国際競争力の向上も新しい課題です。

 最後に、5項目目の規制と振興政策について、EUでは英仏を中心に、「デジタル・ブリテン」計画や「デジタル・フランス2012」計画など、文化・メディア、コンテンツに関しデジタル経済として捉えた振興策が省庁の再構築を伴って実行されているところです。米国でも、まだはっきりした方向は見えませんが、FCCは昨年12月16日、「ブロードバンドはもはや一つのサービスではない。それは様々な通信サービスのプラットフォームである」との趣旨を含んだ、National Broadband Plan のPolicy Framework(第1回中間報告)を発表しています。日本においても“デジタル・ジャパン”的なICT産業・経済政策が必要な時です。モバイル通信の成長期・拡大期を過ぎた成熟期の戦略も求められています。モバイル・ブロードバンドを含めた振興策をICT政策の中核に据えた成長戦略を期待したいと思います。

 ただ、こうした課題解決において、いわゆるコモンズの悲劇(英国村落郊外の牧草共有地=commonsにおいて牧草の過剰消費がもたらした共有地の荒廃)(注)の問題やトラヒックと回線収入増加の極端なアンバランスを示す“ホッケースティック・カーブ”の問題が鮮明になることも銘記されなければなりません。

(注)福家秀紀著[2007]「ブロードバンド時代の情報通信政策」(P138〜P156 第6章・インターネットとコモンズの悲劇) を参照 NTT出版

株式会社情報通信総合研究所
代表取締役社長 平田 正之

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