2007年12月号(通巻225号)
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世界の移動・パーソナル通信T&S
<世界のニュース:市場・企業>

BTがFONと提携し、無料無線LAN環境を全英に展開

 公衆無線LANスポット数で英国最大のBTと、草の根的に世界中で公衆無線LANのサービス・エリアを拡大しているFONが2007年10月4日に提携を発表した。それにより、BTのブロードバンド・サービス「BTトータル・ブロードバンド(BT Total Broadband)」の加入者は、FONが全世界19万ヵ所以上で提供する無線LANのアクセス・ポイントを無料で利用できるようになる。BTトータル・ブロードバンドの加入者数は英国で約300万人、FONユーザは世界で約50万人以上いることから、両社は世界最大の無線LANネットワークとなるとしている。

■FONのビジネスモデル

 FONは2005年11月にスペインで設立されたベンチャー企業である。米グーグル、米eベイ傘下のスカイプ等から出資を集め、世界的に話題となった。同社のサービスでは、利用者が、同社の提供するソフトウェアを自宅の無線LANルータにインストールするか、同社のサイトから専用ルータ「LaFonera」(欧州で34.44ユーロ、日本では1,980円)を購入し、個人が契約しているブロードバンド回線に接続すると、他のユーザーも無線LAN共有が可能なアクセス・ポイントを開設できる。FONでは、ユーザーを3種類に区分。「Linus」は、自分の使っているアクセス・ポイントを無償で提供する代わりに、他人のアクセス・ポイントも無料で利用できるユーザ、「Bill」は、自身のアクセス・ポイントを有償で提供し、他人のアクセス・ポイントも有料で利用するユーザ、「Alien」は、自身ではアクセス・ポイントを用意せず、他人のアクセス・ポイントを有料で利用するユーザである。有料の場合の料金は欧米で1日2〜3ドルの設定で、FONのビジネスモデルは現在のところ、この課金収入と専用ルータの販売が中心となっている。

■BT FON コミュニティ

  今回の提供により、BTとFONではCo−ブランディングによるサイト「BT FON」(http://www.btfon.com/)を開設。 BTトータル・ブロードバンドの加入者に対し、「Linus」ユーザとして無償で、自宅の無線LANルータ「BTホーム・ハブ・ゲートウェイ(BT Home Hub gateway)」を他のユーザと共用するコミュニティへの参加を促している。同意したユーザには、所有しているルータにFON対応ソフトウェアが即時にインストールされ、他のFONアクセス・ポイントも無料で利用可能になる。ただし、BTが展開している公衆無線LANサービス「オープンゾーン(Openzone)」については、BTブロードバンドの最上位パッケージ「オプション3」(月額24.99ポンド)の契約者は無制限に利用可能だが、それ以外のプランでは、1ヵ月当り250分〜350分の利用がバンドルされているだけである。また、現在のところ法人向けには提供されていない。さらに、BTは明らかにしていないが、一部報道によると、今回の提携によって、BTが提供しているFMCサービス「フュージョン(Fusion)」のユーザも、FONのアクセス・ポイントを介したVoIPが利用可能になるようだ。加えて、FONでは、ノキア製Wi−Fi対応携帯電話「Nシリーズ」で利用可能なクライアント・ソフトウェアも提供している。

■まとめ

 FONのサービスは、ユーザーがアクセス・ポイントを開設し、自身が契約しているブロードバンド回線を第三者に利用させるモデルであるため、ISPとの間に軋轢を生むとの見方もある。その一方で、FONはこれまで、同社のサービスはADSL環境を前提としたサービスであり、ISPの付加価値を向上させるものとして、ISPとの提携を積極的に進めてきた。すでに欧州では、スペインのJazztel、スウェーデンのGlocalnet、フランスのNeuf Cegetel等大手のISPと提携している。今回英国最大手のBTとの提携は、FONのビジョンの有効性を世界に示す絶好の機会となり、今後世界中のISPからの支援を獲得する布石になるかもしれない。ちなみに、まだサービス開始には至っていないが、FONは米国でも大手ISPのタイムワーナーケーブルとBT同様の提携を締結している。
一方、BTは、約300万のBTトータル・ブロードバンドのホーム・ハブ・ゲートウェイを有効活用して、効率的にオープンゾーンのアクセス・ポイントを拡張することができる。最大の無線LANネットワークが展開できれば、BTのオープンゾーン戦略に有利に働くだろう。この提携により、BTはFONに対する投資も行っている。

 ただし、アナリストは英国人が自宅のルータを他人に開放することについて、懐疑的な見方もしている。実際、英国は無線LANホットスポット数では世界第2位であるが、FONのアクセス・ポイント数では欧米アジアの各国に大きく水をあけられている(下記図表参照)。

 とはいえ、公衆無線LANビジネスが収益的に厳しかったり、あるいは多くの自治体による広域無線LANサービスが資金難から頓挫している状況を鑑みると、すでに多くのユーザが存在するFONとの連携アプローチは、そのコミュニティによって公衆無線LANネットワークを容易に拡張できることから注目に値する。

世界の無線LANスポット数、世界のFONのアクセスポイント数

武田 まゆみ
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