2007年9月号(通巻222号)
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世界の移動・パーソナル通信T&S
<世界のニュース:市場・企業>

iPhoneの登場で変化する米国の携帯電話向け音楽配信サービス

 AT&Tがアップルの「iPhone」の販売を開始してから2ヵ月が経とうとしているが、早くも2社に対抗する動きが出てきた。ベライゾン・ワイヤレスとMTVネットワークス、リアルネットワークスは共同で、新たな音楽配信事業の構想を立ち上げた。音楽配信を始めとする携帯電話向けのコンテンツ事業では、これまで、携帯電話事業者が主導権を握ってきたが、iPhoneの登場で、携帯電話メーカーやコンテンツ事業者と携帯電話事業者の関係にも変化が出てきそうだ。

■iPhoneに対する市場の反応

 AT&Tは第2四半期決算で、iPhoneサービス加入件数が14万6,000件に達したと発表した。同端末の販売開始が6月29日の夕方だったことから、発売後2日間の数値となる。AT&Tが明らかにしたところによれば、このうちの40%以上が他キャリアから移行した新規加入者とのことである。実際、米調査会社interpretが7月に、iPhoneユーザー200人に実施した調査によれば、iPhone購入前の加入先(キャリア)は、図表の通りとなっている。これらAT&Tに移行したユーザーは、乗り換えのために167ドルを支払ったことになる。最終的にAT&Tは第2四半期で150万ユーザーの新規加入者数を獲得し、ベライゾン・ワイヤレスの新規加入者数(130万ユーザー ※アンプド・モバイル閉鎖に伴い30万ユーザーが減少した結果の数値)を上回った。iPhoneが第2四半期決算直前の販売であったことから、今回の決算に与えた影響は少ないと思われるが、同端末が2年契約であることを考えると、しばらくはAT&Tの加入者数に影響を与えるものと考えられる。

図表 iPhone購入前の加入キャリア

 また、PCワールド誌がiPhoneユーザー500人を対象に実施したiPhoneの評価に関する調査によれば、多少のバグが見られるもののハードウェア面では概ね満足度が高い一方で、iPhoneに利用されるAT&Tのデータ通信「EDGE」の速度に不満を持つユーザーが40%に上り、3G対応を望む声が多い。一方で、2007年11月にも3G対応iPhoneが発売されるとの予測もある。

■MTV、リアルネットワークス、ベライゾン・ワイヤレスが対抗サービスを発表

 こうしたiPhoneを巡る一連の動きに対し、米メディア大手バイアコム傘下のMTVネットワークス(以下MTV)と、リアルネットワークス(以下リアル)は合弁会社「ラプソディー・アメリカ」を設立し、携帯電話向け音楽配信の分野でベライゾン・ワイヤレス(以下ベライゾン)と提携をした。アップルとAT&Tの関係同様、独占契約となる。3社の従来サービスであるMTVの「URGE」ミュージックストア、リアルの会員制音楽ダウンロード定額サービス「ラプソディー」、ベライゾンの「Vキャスト・ミュージック」のコラボレーションにより、PC、デジタル音楽プレーヤーおよび携帯電話の全プラットフォームに対応したミュージックストアを展開することになる。

 今後、MTVの「URGE」はリアルの「ラプソディー」に統合され、会員制の定額制無制限ダウンロード・サービスと1曲毎の楽曲購入サービスが用意される。無制限ダウンロード・サービスは、PCでの楽曲再生で月額12ドル99セント、携帯型音楽プレーヤーでは月額14ドル99セントとなっているが、このプランの場合、サービス契約を解消すると楽曲を聴くことができなくなる。一方、1曲毎の購入では、非会員に対してはiTunes同様1曲当り99セントで提供されるが、会員には1曲当り89セントと、より安価に設定している。更に、iTunesでは携帯電話へ直接ダウンロードする機能がないが、ラプソディーはベライゾンのVキャストをを通じ、携帯電話ネットワークを使ったダウンロードが可能となる。ベライゾンでは、iPhoneへの対抗策として、今後Vキャスト対応携帯電話機のストレージ容量増大を計画している。3社は今後、共同でラプソディーのプロモーションを実施し、知名度を高めていく構えである。

■携帯電話向け音楽配信サービスに対するiPhoneのインパクト

 携帯電話事業者はこれまで、携帯電話のネットワークを使って、コンテンツを直接携帯電話機にダウンロードできることをプレミアとして、加入者に提供するコンテンツを支配してきた。一方、iPhoneユーザーは、携帯電話事業者が運営するオンラインストアからではなく、iTunesから直接、音楽やビデオのコンテンツを購入する。更にiPhoneでは、YouTubeのビデオが制限なく見られるようになるのに対し、例えばベライゾン・ワイヤレスが月額15ドルで提供している「Vキャスト」で見られるYouTubeのビデオは100本程度に制限されている。iPhoneが成功するか否かは今後の動向を見ていく必要があるが、アップルとAT&Tに対抗する動きが出てきたことは、携帯電話事業者にとって、AT&Tのコンテンツ・ビジネスに対するオープン路線が無視できないものとなったことを立証している。少なくとも、携帯電話事業者は、従来のように、携帯電話に1曲ダウンロードする毎にiTunesの2〜2.5倍程度の高額なプレミア料金を課金したり、定額だが視聴できるコンテンツの種類や本数に制限があるといったビジネス・モデルの見直しを迫られるだろう。しかし一方で、アップルとAT&Tのビジネス・モデルは、携帯電話事業者から携帯サービスの主役の座を奪いかねないことも事実である。アップルは、iPhoneにソフトやダウンロード・サービス等を直接提供しており、端末売上の一部の他、AT&Tと月額利用分配契約を締結し、データ通信料金の一部も受け取っているものと見られている。iPhoneの登場によって、携帯電話事業者のコンテンツ・ビジネスの在り方が問われることになりそうだ。

武田 まゆみ
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