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<トレンドレポート>
米スプリント・ネクステル、WiMAX採用を発表
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基礎情報(1) WiMAXとは?
Worldwide Interoperability for Microwave Accessの略語。無線LAN通信方式を改良したブロードバンド・データ通信方式米インテルなどが開発を主導し、IEEE(米国電気電子学会)が規格を承認している。 |
基礎情報(2) 各無線通信技術比較
WiMAXは既に世界各地で開始している。しかし現在提供されているのは、そのほとんどが「Pre−WiMAX」とも呼称されるプロバイダーや関連メーカーがIEEE(米国電気電子学会)の仕様完成を待たずに見切り発車の状態でインフラ構築を進めサービス提供に踏み切っているものであるため、他社製品との互換性が確保できていないケースが多い。
一例を挙げると、英国のワイヤレス・ブロードバンド・アクセス(WBA)プロバイダーのテラブリア(Telabria)は、英国初として2005年9月からPre−WiMAXによるサービス「スカイリンク(Skylink)」を提供している。同社はロンドン郊外のケントを中心にADSL設備の普及が進んでいない地域において、住宅用とSOHOの双方をターゲットとしたブロードバンドのデータ通信サービスに加え、定額制のVoIPサービスを提供している。
現在提供されているWiMAXは、その多くが過疎地域やADSL等のブロードバンド・サービスの普及が進んでいない地域、もしくは固定通信インフラ設備の構築が進んでいない発展途上国でのケースがほとんどとなっている。
中国の調査会社MIC(Market Intelligence Center)の推計によれば、現在WiMAXを商用化しているプロバイダーの内訳を見てみると、プロバイダー数では、西欧が最も多く38%、ついで北米が22%、アジアが20%、その他が20%となっている。北米のプロバイダ数が比較的少ないのは、周波数割り当ての議論が長期化したことが最大の原因である。また、WiMAXフォーラムの発表によれば、WiMAXの商用サービスは2005年には20カ所以上で開始、2007年までに約175のトライアルが計画されている。
テラブリア「Skylink」プラン概要
このところ、業界ジャイアントとも呼ばれる主要メーカーがモバイルWiMAX商用化に向け活発な動きを見せている。2006年7月、インテル・コーポレーションの投資部門であるインテル・キャピタルは、高速無線アクセスサービス・プロバイダーの米クリアーワイアー(米Clearwire Corp.)に6億米ドルを出資すると発表した。また、クリアーワイアー子会社の無線通信機器メーカー、ネクストネット・ワイヤレス(米NextNet Wireless)を米モトローラに売却すると発表した。クリアーワイアーは米国主要都市や欧州、南米においてワイヤレス・ブロードバンド・インターネット接続を提供しているプロバイダーである。このサービスには、ネクストネット・ワイヤレスが開発した「プレ・モバイルWiMAX」と呼ばれるOFDM技術を採用している。クリアーワイアーに対しては、モトローラ投資部門のモトローラ・ベンチャーズも出資しているが、今回の取引総額は9億米ドル(約1,040億円)にものぼる規模となった。インテルとモトローラの目的は、モバイルWiMAX商用化に向け、基地局や端末開発を含むサービス展開を加速することであると見られている。米国では周波数割り当ての遅れ、技術の発祥地でありながらWiMAXへの動きが鈍かった背景もあり、業界ではこの状況の巻き返しを目指している。インテルではさらに、WiMAXチップセットのパソコン搭載を急ぐ姿勢を見せている。
一方、韓国では、世界初のモバイルWiMAXとして、韓国版モバイルWiMAXとも言える「WiBro」の商用化にいち早く漕ぎ着けた。KTは2006年6月、ソウルなどの限定的地域においてWiBroによるデータ通信サービスを開始している。韓国では、政府や事業者、メーカーが一丸となりWiBroを世界的に普及させる構えである。
モバイルWiMAXは日本国内の動きも活発化している。KDDI、ソフトバンク、NTTドコモといった携帯電話事業者や、イーアクセス、YOZAN、アッカ・ネットワークスといったワイヤレス・ブロードバンド・アクセス・プロバイダーなどがトライアルに着手している。中でもKDDIは同社の次世代網構想「ウルトラ3G」においてモバイルWiMAXを主要技術の一つとして掲げ、cdma20001x EV−DOとのシームレスなハンドオーバーを実現、さらに業界団体のWiMAXフォーラムのボードメンバーとなり、国内プレイヤーの中でも活動が目立っている。また、YOZANは2005年12月、国内初としてWiMAX(802.16-2004)サービス「ビットスタンド(BitStand)」を開始した。同社はアステルのPHS事業を買収、このインフラを活用し基地局にWiMAXのアクセス・ポイントを構築し広域で無線高速通信サービスを展開するというユニークな計画を発表している。
総務省では、2.5GHz帯の周波数帯域をワイヤレス・ブロードバンド向けに開放することを決定しており、2007年には2〜3社にこの免許を交付する計画となっている。トライアルを実施するプロバイダー間では、この免許争奪戦が激化しつつある。このように、日本国内においてもモバイルWiMAX実用化を睨んだ動きが急激に加速してきた。
苦境に立たされたクアルコム等の他陣営
モバイルWiMAXを巡っては、数多くの通信事業者がトライアルを実施したり、トライアル計画を発表してきた。しかしその大方は、お互いの出方を窺ったり、戦略やロードマップが明らかにはなっていないなど、不透明さが目立っていた。このような状況の中、スプリント・ネクステルの選択には業界から大きな注目が集まっていた。これは、同社がワイヤレス・ブロードバンドの本命とも言われる米国の2.5GHz帯の周波数を8割程度所有していること、さらにその周波数帯域を利用してこれまでにフラリオンのフラッシュOFDM、IPワイヤレス、TD−CDMAなどの技術の試験を実施してきたためである。英国調査会社、リシンク・リサーチによれば、スプリント・ネクステルのWiMAX選択により全世界におけるWiMAXインフラ市場は2009年までに6億5,500万ドルから73億6千万ドルにも跳ね上がった。この選択がWiMAX業界にとって大きな布石となったことは間違いない。一方で、これ以外の技術を後押しするクアルコムやIPワイヤレスなどの企業にとってスプリント・ネクステルを獲得できなかったことは大きな痛手となった。
スプリント・ネクステルの計画に疑問の声
しかしながら、スプリント・ネクステルのモバイルWiMAX商用化計画に対しては厳しい指摘が目立つ。まず、同社の業績不振はこのところ顕著であり、8月にCOO(最高執行責任者)であるレン・ローアー氏(Len Lauer)はその理由から解任に追い込まれている。 また業務体質を見てみると、他主要オペレータと比較し収入が安定しないプリペイド顧客やMVNOの依存度が高いことから、業績改善が比較的困難であるという側面がある。第2の指摘として、同社の複雑なネットワーク構成に関する指摘が挙げられる。従来から提供しているCDMA系のネットワークに加え、2005年にはネクステルの統合によりiDEN網を取得、またこの8月にはCDMAのRev.Aを提供することを発表しており、複数のネットワークを活用しいかにサービスを提供するかという課題を抱えているものの、解決の目処が立っていない。今回新たにモバイルWiMAXを採用したものの、その前途は多難が予想される。第3に、モバイルWiMAXの商用化自体に関する指摘が挙げられる。特に2008年の大規模な商用化の際には端末の目処が立たないのではないかという指摘である。端末に関しては提携を発表しているモトローラやサムスンが後押しするが、スケジュール的に考えても困難が予想される。以上のような要因から、今回のスプリント・ネクステルの計画に対しては「野心は高いが実現性の低い計画」、「多大な投資を伴うリスキーな賭け」などといった辛辣な分析が目立つのも事実である。
実用化が加速するモバイルWiMAX
しかしその一方、スプリント・ネクステルの発表が業界に及ぼす影響も大きい。WiMAXを後押しするベンダーは、今後GSMを中心とした携帯電話市場をターゲットとすることが想定される。スプリント・ネクステルは、モバイルWiMAXを「4Gサービス」として発表しており、これまで描いていたネットワークのロードマップを変更してこの事例を踏襲する事業者も登場するだろう。モバイルWiMAXは今後、携帯電話業界にさらに大きな波紋をもたらすことが予想される。
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