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世界の通信企業の戦略提携図(2001年12月6日現在)

85.マイクロソフト独禁訴訟は和解と継続

MS有利和解案ができ、決着はしない
 マイクロソフト(Microsoft:MS)独禁訴訟は、既報の通り(マンスリー2001年10月NO.80)「独禁訴訟のその後とマイクロソフト戦略」参照)、新たな連邦地裁判事による一審判決の是正命令(remedy)やり直し審の過程で、原告側が2001年月9月6日にMS企業分割を断念しOS/ブラウザー抱合せ販売独禁法違反の主張を取り下げることを表明して、和解交渉期限の11月2日を迎えた。

 原告側勝訴の柱を自ら覆したいわば土俵を割った形のなかで、骨子次のような連邦司法省・州政府とMSの和解案が発表された。

  1. 本同意審決(Final Judgement)はブラウザー、電子メール、メディア・プレー ヤー、インスタント・メッセジング、今後の新製品など広汎なミドルウエア製品に適用される。
  2. MSはミドルウエア・インターフェースを開示し、競合他社に競合ソフトを機能単位で追加できるようにする。
  3. MSはサーバー・プロトコルを開示し、競合他社のソフトがウィンドウズと連携できるようにする。
  4. パソコンメーカーと利用者がMSのOS上に競合ソフトを自由に追加できるようにする。
  5. 競合ソフトを開発・導入する他社にMSが報復措置をとることを禁止する。
  6. パソコンメーカーへのOSの販売条件を5年間同一にする。
  7. MSは特定MSソフトの開発・サポートについて専属契約を結ぶことをされる。
  8. MSは本同意審決に基づく権利の行使に当たって必要な知的財産権をコンピュー  タメーカーとソフト開発企業に許諾する。
  9. MSの是正措置の遵守状況を3人の専門家による委員会で監視する。
  10. 是正措置の期間は5年間とし、違反があった場合は2年間延長する。

 この和解案を被告のMSと連邦司法省、9州政府(イリノイ、ケンタッキー、ルイジアナ、メリーランド、ミシガン、ニューヨーク、ノース・カロライナ、オハイオ、ウィスコンシン)は11月6日までに受諾したが、10州政府(カルフォルニア、コネティカット、フロリダ、アイオワ、カンサス、マサチューセッツ、ニューメキシコ、ミネソタ、ユタ、ウェスト・ヴァージニア、)とコロンビア特別区は、和解案の検討時間が足りない、是正命令、排除措置には抜け道が種々ありそう、法律家でもない人が報告を書くだけの監視委員会には権威がなく効果はなさそう等の理由で受諾せず、訴訟の続行を裁判所に伝えた。

 司法省とMSが「和解案は消費者の利益に適う」とするのに対して、サンマイクロシステムズ始めライバル企業は、「パソコンOSで圧倒的な支配力を持つウィンドウズに様々な新機能を統合するMS戦略を基本的に認めたため、この和解案程度の是正措置では市場競争の復活や技術革新の促進は望めず、再びMSが独占力を濫用することになる」と批判的である。

国内で2本立て、EU競争法の審査も
MS独禁訴訟の今後は、和解案受諾組については、いわゆるタニー法(Tunney Act、反トラスト訴訟和解手続法Antitrust Procedures and Penalties Act)に基づく内容開示の手続がコリーン・コラーコテリー判事によって行われ、また訴訟継続組については12月7日までに同判事に新たな排除措置案を提出し2002年3月4日から審理が開始される。独禁訴訟史上始めての2本立て審理、しかも同一裁判官による手続である。

 タニー法は、ニクソン政権のITT同意審決スキャンダルをきっかけに制定されたもので、主要反トラスト訴訟の和解に至る経過と政府の姿勢を公的に開示させるのが主旨で、内容変更は伴わないものである。賛否両論の提出期限が60日後、裁判官の検討期間が30日後なので2002年2〜3月には終わるべきものだが、コラーコテリー判事が慎重になるともっとかかる。

 やり直し審の方は判決が早くて2002年6月、9月以降にズレ込む恐れもあり、連邦高裁への控訴、最高裁への上告と続けば、最終的に決着するのは2003年と長期間継続しよう。

 MSは審決に直ちに縛られながら、欧州委員会(EC)によるEU競争法の訴追に対応しなければならない。米国の独禁法が競争を主眼に競争制限行為の取締まりに重点をおくのに対して、EU競争法は市場支配的地位の濫用を禁止し(EC条約第86条)、違反した場合は高額の制裁金と厳しい排除措置を課す。制裁金はECの裁量で決まり、上限は違反行為を行った企業の全世界売上高の10%に及ぶ。排除措置はライバル企業や取引先企業への圧迫行為や排他行為の禁止である。

 ECは予備調査のうえ2001年8月にMSに起訴状に相当する異義告知書(170頁)を送っている。MSの市場支配的地位濫用をかどに制裁金の賦課やウィンドウズXPからのソフト機能分離を目指す手続の開始であり、12月21-22日に聴聞会を予定したが、MSはこれを拒否しECとの話し合いを探っている。

 訴訟決着に時を費やす間に環境は変わる。IBMは独禁訴訟を逃れた後に道を失い、しかしサービス企業として蘇った。MSが恐れるのはコンピュータの標準を決められなくなったIBMに似た存在になること。そのIBMは今やオープン・スタンダードを唱えつつ、ウェブサービスの世界の勝者になろうとしている。

86. リバティー・メディアの欧州進出の現状

 複雑な経緯を経て(マンスリー2001年8月No.73「AT&Tブロードバンドの行方」参照)、2001年8月にAT&Tから分離したリバティ・メディア(Liberty Media Corp.: LMC)は、ケーブルTV番組配給・通信・インターネットアクセス業で年商20億ドルをあげるだけなのに時価総額は342億ドル(2001.12.3現在)もある。AT&Tが480億ドル支払ったTCIのケーブル事業はAT&Tとともにあり、最盛期の含みを温存して独立したLMCは優良企業である。

 AT&Tブロードバンドの行方が12月8日期限を前に大詰めを迎え、ケーブル事業入札にコムキャスト、AOLタイムワーナー、コックスなどが競っている時、LMCはドイツテレコム(DT)からのケーブルTV6システム買収に対するドイツ政府カルテル庁の異義への対応に追われている。

 LMCはCATV6システムを55億ユーロ(49億ドル)で買収することでDTと合意していたが、カルテル庁は加入数シェア60%に達することから調査を始め、LMCに電話事業の早期開始を確約させる取引を持ちかけてきた。また、ディジタル放送に関連し、LMCが受信者囲い込みのため英国のBスカイBのように独自(proprietary)規格のセット・トップ・ボックス(STB)を導入するのではと見て、ベルテルスマン系のRTLグループ(4放送局所有)やキルヒ・グループ(6放送局、1有料放送所有)がLMCに反対してきた。ベルテルスマン、キルヒ・グループ、公共放送局はMHLと言うSTB標準技術を共同開発していたのである。

 これに対しDTは、LMC買収が不許可になると負債減らしの財源に穴が空くとの懸念を伝える11月26日付け上申書をカルテル庁に提出した。伝え聞いた英国のコンペーレ・アソシエイツ投資グループは、DTからケーブルTV6システムを55億ユーロで買収する用意があると宣言した。この投資グループはBTの固定網買収に名乗りを上げていたし、LMCとDTの合意成立前から志してきた。

 ドイツの独立系ケーブルTV事業者80社、140市内通信ベンチャーのなかから、ボッシュ・テレコム、テレコロンブスなども名乗りをあげそうである。
カルテル庁の調査は2002年1月7日に終了する予定である。

 この不況期に自由に使えるカネを60億ドル持つと言われるLMCは以前から商談の的、駆け込み先になっていた。この11月にはキルヒ・グループの歴史的な有料放送プルミエーレ・ワールドへLMCが22.5%出資する交渉が注目されたが、次ぎのようなビッグ・イベントが起きた。

 これまでの欧州最大のケーブルTV事業者は、世界的な国際情報通信事業者UGC(UnitedGlobalCom,Inc.)が53%出資するUPC(United Pan-European Communications )である。UPCは欧州17国とイスラエルでケーブルTV・電話・インターネットサービスを提供している。ところがUPCは2001年2月に英国のケーブルTV事業テレウエスト株式25%買収について株主総会で否決され、2001年第1四半期に純損失4.9億ドルの増収減益決算を記録し、あわせて10億ユーロの金融を2001年5月にLMCにつけてもらった。その時のUPC社債14.4億ドル等が12月3日に新UGC株式に交換され、UGC/UPCの安定性は確保された一方、LMCのUGC持株比率は76%(UGCのUPC持株比率は53%のまま)に達した。UGCの創業者G.シュナイダーが会長兼CEOを続けるが、世界26カ国に展開しUPCやAUCを中心に、ケーブルTV加入者1,880万、ペイTV加入者1,060万、電話加入者67万、高速インターネット67万から年商15億ドルを得ているビジネスがLMCの支配下に入ったようである。

 還暦を迎えたJ.マローンLMC会長は、ニューヨークの高級マンションに住まずコロラドの山荘に隠遁してあまり旅行もしないが、いつも喧嘩腰のところはケーブルTV業界で奮闘した30年間と変わっていない。巨万の富を築いたためカネに興味はなくビジネスゲームが好きだと言う。

 ゲームで言えばケーブルTV業界は規模を追うゲームである。コンテンツがコストの2/5なので番組調達が重要であり、STBも大量発注で安くなる。マローンは四半期毎業績に熱中するウォール街を軽蔑し、少数株を買って辛抱強く待ちチャンスとあれば大胆に行動する者と認められてきた。

 しかしUGC/UPC取得が今後うまく行くかどうかまだ分からない。米国の成功者がヨーロッパで足を掬われるかもしれない。ケーブルTVにあまりおカネを出さないドイツの習慣は変え難いかもしれない。ヨーロッパでは米国でよりも遥かに衛星放送が強い。多言語の小さなセグメントから成る市場では番組資源の規模の経済性は得られ難い。それに取り組むのがマローンの好きなゲームだろう。

87. ヨーロッパ通信業界再興の道

 IT不況と同時テロにより未曽有の不況が始まるのを政策で対応していると理解していたら、実は米国は3月から景気後退期に入っていたとの発表があったり、さまざまな不安が去らないまま2001年は暮れようとしている。
 不透明な環境下、世界の情報通信企業はネットワークブームへの先行投資やM&A、第三世代(3G)携帯電話免許取得などのツケで苦しんできた。
しかしこのところ多少明るい兆しもある。

 産業の米とも油とも言われる半導体のビジネスに微かな回復の兆しが現われた。米国半導体工業会(SIA)は12月3日に世界の半導体売上高10月分は104億3千万ドルで前月比2%増えたと発表した。10月分半導体売上高は米州が3%、欧州が5%,アジア太平洋が4%と、それぞれ前月水準を上回り(日本だけ3%減)、11月以降も増加傾向が続くという。SIAでは世界の多くの地域でパソコン向けや携帯電話向けの需要がほとんどの品種で数量ベースの回復に転じており、2001年売上高は前年比31%減と史上最大の落ち込みになるが、2002年は6%増とプラス成長に戻るとみている。

 世界最大の携帯電話メーカーのノキアは11月27日にニューヨークで新しい予測を報告した。世界全体の携帯電話販売数は2000年4億台だったが、2001年は3.8億台にとどまり、2002年も初めは減少傾向がが続くが、第2四半期から増勢に転じ第4四半期に従来の年間成長率25-30%に回復するという。

 通信機メーカーのアルカテルは業績低下で社債格付けを下げられたが、11月27日に5年もの社債10億ユーロを発行したら予約が3倍も殺到する盛況であった。

 ドイツテレコム(DT)は11月28日にEBITDA(利払い前・税引き前・償却前利益)37億ドルという好成績の2001年度第3四半期決算を発表した。上半期連結中間決算は総売上高317億ドルで対前年同期比20%増、EBITDAは102億ドルで対前年同期比15%増であった。好成績に主役として貢献したの携帯電話子会社T-Mobileである。

 世界一の携帯電話事業者ボーダフォン(Vodafone:VOD)は11月13日に2001年度上半期(4-9月)中間決算を発表した。EBITDAは予想を上回る71億ドル、RBITDA利益率は35%であった。2000年度に支払った3G免許料118億ドルを引当金に計上しないものの、ドイツの固定電話子会社アールコールやメキシコのグルボ・ルワセルの資産評価額を計上したことで特別損失を出している。

 上記を含む情報通信企業の近況をTop20の表にまとめると次の通りである。

 コンテンツ系のAOLタイムワーナー、ヴァイアコム、ヴィヴァンディ・ユニヴァーサル、コムキャストなどの評価が高く、ドイツテレコムのほかフランス・テレコム、テレフォニカが順位を上げ、相対的にヴェライズン、SBCコミュニケーションズ、ベルサウスなど米国勢が下がっている。BTがBTグループになって順位を下げたのは携帯電話子会社mm02を分離したからで、その時価総額98.2億ドルと単純合算するとワールドコムなみである。
NTTドコモは未上場のためビジネス・ウィーク誌の推定値をスライドさせたものなので、先に発表されたKPN Mobile出資評価損21.5億ドルなどの特別損失計上を反映したようなものではない。

 実際公開された通信企業の株価は経営業績やアクションに敏感である。このところ業績改善のための合理化努力や株価変動に伴う損失処理などに伴い株価が動いている。といっても103億ドルもの特別損失を出したVODに対して市場は冷静であり、株価は9月以降40%も上がっている。結局は信頼される経営者が描く未来の説得力次第に思われる。欧州通信企業には3G免許料が取得価格のまま無形資産として計上されていることが多い。免許の価値はそれに基づく新世代携帯電話サービスの収益性で決まり、収益が伴わないで時価評価すると差額償却の問題が生まれる。

 ヨーロッパでは2001年1月1日からユーロ圏が動き出す。米国やアジアに比べヨーロッパは安泰との見方は間違い、やはりグローバル経済は生きており、ますます多角的な経営努力が要請される。

寄稿 高橋洋文(元関西大学教授)
   nl@icr.co.jp(編集室宛)

入稿:2001.12

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