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世界の通信企業の戦略提携図(2001年11月6日現在)

82. ヴァージン・モバイルは仮想移動体通信事業(MVNO)の先駆者

MVNOは英国とオーストラリアでテスト済み
 英国のヴァージン・グループ(VG)は2001年10月5日に米国携帯電話大手のスプリントPCSと折半出資で合弁会社ヴァージン・モバイルUSA(VM USA)を設立し、3-4年後の年商30-40億ドルを目標に米国市場に参入すると発表した。

 VM USAはVGの現金5,000万ドル拠出とスプリントPCSの5,000万ドル相当通信サービス提供でスタートする仮想移動体通信事業者(Mobile Virtual Network Operator: MVNO)であり、VGとスプリントPCSの持株数は等しい共同経営(mutual governance)である。VM USAは、ヴァージン・モバイル・ブランドの携帯電話機を当初ニューヨークやロアスアンジェルスのヴァージン・メガストアなどで発売し、2002年第1 四半期までに米国一円で販売する。

 VGのMVNOは、VGと英国第4位の携帯電話事業者ワン・ツー・ワン(One 2 One)との折半出資ヴァージン・モバイル(VM)の設立に始まる。VMはC&Wと米国ケーブルTVメディア・ワン(Media One)との合弁企業One 2 Oneの通信網とVGのブランド・販売網の合成による設立が1999年6月に決まり、詰めの段階でのドイツテレコム(DT)のOne 2 One買収があったが、8月合意成立、11月開業で同年末までに13万加入を集める早業を演じた。

 MVNO第2弾はVGとC&Wのオーストラリア携帯電話子会社C&Wオプタスとの折半出資合弁企業である。2000年2月に合意が成立し、VMの一員として現在加入数約120万の実績に貢献した(マンスリー2000年3月No.23「ヴァージン・モバイル、ネット企業に変身か」参照)。

 MVNO第3弾はVGとシンガポール・テレコム(SingTel)の合弁事業ヴァージン・モバイル・アジア{VM (Asia)PteLtd}で、2000年5月に1億ドルを折半出資する合意が成立し、同年11月に具体的計画と資金繰りが整い、シンガポール4番目のセルラー会社として2001年10月開業に漕ぎ着けた。2006年末のアジア地域加入数600-1000万を目標に香港、韓国、台湾、マレーシア、インド、中国、日本などで提携先を交渉中である。

 VGのMVNO第4弾であるVM USAは、情報通信分野のヴァージン・ブランド商売が遂に米国市場に登場することだけでなく、規制先進国として如何なる取り扱いを受けるかで、大いに注目される。この1年間の次世代携帯電話(3G)免許・投資コスト高問題からすれば、既存携帯電話業者はVMNOに無条件で移動通信インフラを開放させられることには抵抗があり、しかし第一種事業者の自由にまかせては問題があり、独禁法理およびユニバーサル・サービス/ディジタル・デバイド政策上の整理をしなければならない。

ITUワークショップ報告におけるMVNO
 ITUは1999年に始めた新創造計画(New Initiative Programme)の第5テーマ「次世代携帯電話免許付与(Licensing of 3rd Generation Mobile)」を取りまとめ、2001年9月19-20日にワークショップを開催した。規制・政策機関、通信事業者、メーカー、大学・研究所等の専門家約60名が個人の資格で参加し、討議項目表を含む事前配付資料、国別研究報告に基づき問題提起と討論が行われた。

 英国ウォーリック大学フェローC.ドイル博士の議長報告書は、免許付与のやり方全体の設計、免許の数と有効期間、現状はおおむね既定免許+1方式、選定の方法論ー美人コンテスト方式か競売方式か、免許費用論、免許受領者が負う義務、ローミング論、利用者の負担可能性(affordability)、免許のタイミングとともに仮想移動体通信事業(VMNO)論を集約している。MVNO論の全文は次の通り。

 「3G開発ではコンテンツ/情報サービスが重要となり大量の新規参入が行われ、ネットワーク・インフラストラクチャーへの要求につながる。インフラキャリアーと新規参入者の商業ベースの交渉が不調のとき、香港特別行政区報告のMVNO のような付加価値サービス業者アクセスの実現を命令することが必要になる。この場合政策担当者は、達成目標がコンテンツ指向サービスの多様性なのか、市場競争促進なのか、はっきりしていなければならない。3Gサービスが革新的で市場が不確実であれば、競争法規による安全保護を前提に、規制を差し控えるべきである。」

 この議長集約は、高額な免許料と設備投資のリスクをとった者がインフラの強制開放によって”ただ乗り”されるのは困るというインフラキャリアーと、高額な卸値の通信容量を買わされたのでは商売を立ち上げ難いというMVNOの双方が同意できる微妙な言い回しになっている。その点、「第三世代携帯 早期普及へ」「通信網の開放義務付け」「ITUが議長報告 新規参入、規制回避を」と言った見出しのついた新聞記事(日本経済新聞2001.10.8)は、新規参入者よりの報道になっている。

 MVNOの定義は、次に示すように、まちまちで確立されていない。

  • ITU
    移動サービスを提供するが、自己の無線周波数をもたない者。この場合MVNOは移動サービス業者または付加価値サービス業者。自己の網コードを持ちことができ、SIMカード(Subscriber Identity Module card)を発行できる。
  • OFTEL(英国の規制機関) 
    移動サービス提供組織だが、自己のSIMカードは発行しない。
  • OVUM(英国の調査会社)
    自己の無線周波数を持たずに移動サービスを提供し、自己のSIMカードは発行し、自己の網コードを持ち、自己の移動交換局を持つ組織。

83. AT&T-BT JVコンサートの終焉

1998年に次表の通りのAT&T・BT戦略的提携事業の中核として設立された国際企業向け通信サービス会社コンサートに終焉のときが来た。(1998年8月『メガコンペティションの新しい潮流始まる』参照)

AT&T-BTグローバルベンチャー(JV)の要点
  • 折半出資のJVがAT&T・BTの国際通信網を結合する
  • 2000年のJV業績予想は売上高100億ドル、利益10億ドル
  • [現行コンサート事業+新製品/サービス]によるグローバル音声/データ
  • グローバル販売/サービスの最初は金融・石油・情報技術産業
  • 国際通信事業者向けサービス(Carriers'Services Business)
  • 新グローバル200Gbps IP網を50カ国100都市に展開
  • BT10億ドル、AT&T20億ドル、合計資産30億ドル
  • AT&T・BTは米国ハイテク産業に10億ドル折半投資

 1年半もかけた準備の末、コンサートは2000年1月5日に正式に開業したが、半年後フィナンシャルタイムスなどに「親会社の虐めにあってうまく行っていない。バックアップ体制が確立すればワールドコムなどすぐ追い越せるのに・・・」と言った記事が出る始末。同年11月末にはコンサートCEOのD.ドーマンがAT&Tの社長COOに昇任、AT&Tビジネスサービス/グローバルオペレーション担当G.ワイス上級副社長がCEO事務取扱兼務で着任し翌月正式CEOとなったが、結局成果は上がらず、赤字のままだった。

AT&TとBTは、2001年10月16日にコンサートを2002年上半期までに以下の手続により解散すると発表した。

  1. 従業員約6,300名のうち1,900名はAT&Tに復帰、2,100名はBTに復帰し、2,300名は解雇される。
  2. )管理機能を持つIPベースグローバル網(BTが構築したフレームリレー網を含む)は、ヨーロッパ中近東/米州部分はBTに、アジア太平洋地域はAT&Tに引き渡される。
  3. 海底ケーブル網資産は当初構築したそれぞれに帰属する。
  4. 親会社が直接契約した顧客267社およびグローバル網を通じてコンサートが獲得した顧客は当初獲得したそれぞれに復帰する。
  5. コンサートの運転資本・負債もそれぞれに分配されるほか、BTは4億ドル受け取る
  6. 顧客の円滑な移管が完了するまでG.ワイスCEOとT.スマートCOOは留任する。

 同時にBTがAT&Tカナダ合弁事業から撤退することも決まった。この合弁では2003年6月までにBTがAT&Tカナダ株式の9%を引き受けることになっていたが、AT&Tが全責任をとることになった。BTはコンサートの損失13.49億ドルとAT&Tカナダ投資の純損失3.5億ドルを2001年9月期中間決算で処理し、AT&Tはコンサートの損失35億ドルとAT&Tカナダ投資の純損失18億ドルを2001年第3四半期に処理する。

 BTのP.ボンフィールド社長は、上記決定で再編成のメドが早くついたからとして、延長していた2002年12月の任期を待たず、2001年1月に辞任すると発表した。

84. ヒューズ・エレクトロニクスとエコスターの合併

 衛星放送ネットワークDirecTVを保有するGM子会社ヒューズ・エレクトロニクス(Hughes Electronics: HE)をめぐるグローバルメディア企業ニューズ社(News Corp.: NWS)と衛星放送ネットワーク会社エコスター・コミュニケーションズ(Echostar Communications: EC)の競り合いは、後から来たECが勝利を収めた。ニューズ社提案がGM取締役会で可決されなかった日にマードックは手を引き、翌2001年10月29日に、HEのGMからの分離とECとの合併協定署名が発表された。

 合意内容は、分離したHEを存続会社として新会社はECと名乗り、GMの分離前クラスH株(業績連動HE株)所有者には1株につきクラスC 新会社株1株が交付され、合併前クラスA EC株所有者には1株につき新会社株1.3699株が交付される。旧GMクラスH株は1対1の交換なのに旧EC株主は0.73株が新会社株1株になるが、旧ECは現金55億ドルを新会社に拠出するものである。ECは現金の半分27.5億ドルはドイツ銀行からの借入れで、残りの27.5億ドルはGMの「つなぎ融資(bridge-loan)」でまかなう。

 新会社株評価18.44ドルは業績連動HE株10月26日終値15.35ドルにプレミア20%をつけたもので、実質的にはECによるHE買収と言える。合併取引の時価総額は258億ドル、2002年末までに結了するものとする。新会社の資本構成はHE53%、エコスター36%、GM11%となり、旧ECのC.アーゲンが運営責任者、衛星チャンネル名は旧ECのDISH Networkを含めDirecTVとする。

 10月29日の記者会見では、合併益として受信機共通化によるコスト削減が年9~12億ドル、販売促進費削減が年7.5~8.5億ドルで、 2005年までに 最大32億ドルの節減が期待されると、良いことづめの雰囲気であった。

 問題はDISH・DirecTV合計1,670万加入、衛星放送市場のシェア90%と言う巨大寡占が認められるのか、規制のクリアーである。衛星放送市場なら90%だが、衛星+ケーブルTV市場なら17%でしかないとの楽観的な見方がある一方、ケーブルTVは地域独占なので視聴者の選択はケーブルTV1システム、衛星放送2システムあったものが、衛星放送が1システム減れば確実に選択の幅は狭まるので問題との見方もある。パウエルFCC委員長がチームを作って綿密にチェックすると述べたところ、11月2日現在の時価総額が233億ドルになるくらいHE株価が下がった。ところが、11月5日に「つなぎ融資」の後継者としてクレディ・スイス・ファースト・ボストン(CSFB)の27.5億ドル融資が決まると、HE株価は持ち直し時価総額は237億ドルtなった。

 GMはECを選んで独禁問題に巻込まれるのを避ける読み、外れてニューズ株価にマイナスインパクトを受けたマードック側は、厳密に合併案件を検討することを要請しており、今後の経済情勢・市況によってはエコスター・DirecTV合併が円滑に進まず、ニューズ社にチャンスが廻って来ることを期待している。

 EC側にはDISH・DirecTV合併が認められない時は、50億ドルでパンナムサットを買収する代案があるとする。

寄稿 高橋洋文(元関西大学教授)
   nl@icr.co.jp(編集室宛)

入稿:2001.11

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