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世界の通信企業の戦略提携図(2001年6月29日現在)

70.AOLタイムワーナーとマイクロソフトは敵→友→敵

敵から友へー1996年3月〜2001年6月
 
商用インターネットの黎明期では、1994年11月のコンピュータ製品展示会コムデックス(COMDEX)でオンラインサービスMSN(MicroSoft Network)を発表したマイクロソフト社(Microsoft Corp.:MS)とアドバンスト・ネットワーク(Advanced Network Services:ANS)を買収してインターネット事業部を興したAOLとは、新規事業を志すライバル同士であった。これより先イスラエルのベンチャー技術を導入してインターネット用リアルタイム・インタラクションとジョイント・ナヴィゲーションを提供しインターネットでのチャットを可能にしたAOLはMSの目の敵で、MSNはAOL潰しを意図したものであった。オンラインサービスの第一人者はコンピュサーブ(CompuServ:CS)で、商用インターネットの先駆者はナヴィゲーター・ブラウザーを公開したネットスケープ・コミュニケーションズ(Netscape Communications: NC)だった。MACにヒントを得てIBMを出し抜きパソコン時代を開いたMSも、インターネット参入のためインターネット・エクスプローラー(Internet Explorer: IE)開発に全力をあげ、通信網をMSNからインターネットに転換したのは95年末であった。

 ウェブ・ブラウザーを発展の鍵とみたスティーブ・ケースAOLインターネット事業部長はNC、MS両者に接触したのに、ジム・クラークNC社長は自社のブラウザーが断然トップで(シェア80%)、「MSはAOLの宿敵だからAOLは他に行き場がない」と考えた。AOLは96年3月11日にNCと技術提携契約を結び、翌3月12日にMSと技術提携契約を結んだ。

 AOLはIEの回りでサービスを開発し、MSはウィンドウズOS上にAOLの特等席を設けると言う提携は、以後NCとのブラウザー戦争でMSを助け、インターネット・ユーザ獲得競争でAOLを助けることになる。この提携は基本ソフト(OS)とブラウザー技術の関係なので、新サービス開発で両社が競争するのは、ショート・メッセジング・サービスの例(マンスリー・フォーカスNo.4「MSvsAOL:インターネットを巡る争い」参照)に見る通りだが、提携契約中は互いに血戦を挑まない暗黙の了解があり、下記のように両社がそれぞれ難問に直面した5年間に大いに効果があったと思われる。

  (AOL) (MS)
96年8月7日 大サービス障害(19時間停止)
96年10月 解約率上昇で株価急落 MSN定額料金実施
96年11月 定額料金実施で利用激増
┗アクセス不能の料金返還要求、設備投資で財務悪化
96年〜97年6月 ポルノ通信規制問題  
97年9月 コンピュサーブ買収
98年5月   司法省独禁訴訟提起
98年11月 ネットスケープ買収
99年5月   AT&TとCATVで提携
99年11月 独占力濫用事実認定
2000年4月   独禁訴訟一審敗訴
2000年6月 2分割含む是正命令
MSは控訴
2001年6月   連邦高裁は地裁へ差戻し

友から敵へー2001年6月〜
 2001年1月に期限が切れたAOL/MS技術提携の協定更新交渉は6月16日までに合意に至らなかった。交渉中MSは10月発売の次期基本OSウィンドウズXP上でAOLサービスが動くことを保証したと言われ、AOLは自社ソフトの組み込みをパソコンメーカー各社に依頼できる。従ってMSの態度変更が無い限り今回のAOL TWX/MS協議決裂は当面影響がないが、2大情報通信サービス・プロバイダー全面戦争の長期的恐れをもたらすものと見られている。

 流産した新協定にかける両社の思いは、AOLはXPの働きで自社ラベルがパソコン画面のトップに格付けされることを望み、MSは自社AVコンテンツ再生用ソフトやインスタント・メッセージ(IM)のチャット機能をAOLユーザが使えるようにすることを望むものであった。しかし、決裂の理由として、AOLはMSがAOLユーザがウィンドウズ・メディア・プレーヤーを優先的に使いリアルネットワークスのリアルプレーヤーの利用を減らすことを求めたからとしている。また、MSは協定期間中紛争を法的手段に訴えない「相互権利放棄条項」(但しAOLが買収し独禁訴訟の訴因の一つになっているNC関係は除く)を新協定案で提案したと言う。MSは合意に至らなかった理由はさまざまだとしているが、MSがインターネット上の音楽の支配を狙い、AOLがその決意に黙従しなかったことが主因であることは間違いないだろう。

 今回の交渉決裂について両社とも報道発表をしていないので分析資料に乏しいものの、協定更新交渉の論議はMS 独禁訴訟控訴審の三つの争点、(1)MSはOS市場で独占的地位を違法に維持しようとしたか、(2)MSはブラウザー市場でも独占を企てたか、(3)MSはブラウザーとOSの抱合せ販売をしたかを問題領域として含み、MSが今もひたすら自社の勢力拡大に動いていることは確かである。

 MS 裁判は連邦高裁が6月28日に一審担当ジャクソン判事の審理手続に一部誤りありとして地裁に差戻し、新たな判事により審理やり直しを命じたため大きな山を越えた。125頁の判決文は一審の結論を一部確認し、一部覆し、一部差戻した難解な内容と言われるが、当面MSに有利なことは間違いない。ただ、連邦司法省と共同歩調をとってきた19州のなかにはMSのウィンドウズXP販売戦略に独禁法違反の疑いがもち提訴検討中の州もあると言われ、これまでの裁判を通じて「MS悪の帝国」の印象を生んだことも否定できない。

71.ブロードバンドはビデオ・オン・デマンドを促進するか

ブロードバンド化の近況
 最近ケーブルモデムとADSLを2本柱にローカルアクセスの広帯域回線(ブロードバンド)化が目覚ましい。ブロードバン技術としては従来も今後も光ファイバケーブルと衛星通信が双璧だが、CATVが普及している国ではそのディジタル化、またCATVと競合或いは補完して既存メタリックケーブルを活用するADSLサービスが推進されている。

 ところが最近のOECD情報は、先進国における高速インターネットアクセス普及率が従来のインターネット利用率と違った様相であることを示した。2001年1月現在の高速回線普及率トップは、総務省(2001年4月24日発表の2000年末現在推定値)のインターネット利用率第16位(人口100人当たり34.6)の韓国(人口100人当たり9.2)であり、第2位は同第11位(42.8)のカナダで4.4、第3位は同第2位(55.8)の米国で2.25、同第14位(37.1)の日本は第11位で0.25、同第17位(33.6)の英国は第20位で0.08である(図「ブロードバンド・コネクションのトップは韓国」参照)。

 総務省数値は大ざっぱなものと注記されOECD情報も根拠不明だが、図によればCATV王国オランダやベルギーはもとよりカナダや米国もケーブルモデムが過半なのに、韓国ではほぼ2/3がADSLである。日本はほとんどがケーブルモデムでADSLは0に近い。

 これまで日本ではNTTローカル独占がADSLの普及を妨げてきたとのマスコミ論調が多いが、今後参考にすべき事情が韓国にあるのか。

 日本PTCフォーラム2001「ITで変わる日常生活」(6月22日開催)のパネル・ディスカッションにおける会津泉アジアネットワーク研究所代表の報告によれば『韓国の新情報戦略は、元来IMF不況による失業者救済も含め政府がコンピュータ・エンジニアーを育成し、日本製ゲーム機禁止で人々が集まるゲームセンターのパソコン配備を助成したため、PC BANGと呼ばれるオンライン・ゲームの拠点2万軒が生まれたことに始まった。センターで覚えたゲームを自宅に持ち込みたいニーズに応えて、住宅団地への電力線利用ADSLサービスによる対ゲームセンター専用線を提供したハナロ通信が草分けで、通信規制緩和策によってNCCのADSL投資競争が盛んになった。家にPCがあると勉強したい人はインターネットにアクセスするようになった。既存キャリアー韓国電電(Korea Telecom: KT)もローカル・ループ・アンバンドリングを行うと同時に、自らもDSL技術者2,500名を訓練して乗り出し、企業のeビジネス化を競争的に促進したのである』。韓国の新インフラ拡充はオンライン・ゲーム→在宅学習→オフィスという流れだったと言う。

 注目すべきは、会津報告の2000年9月現在ADSL588万加入という数値と、OECD情報やマスコミ報道(例「ADSL覇権争い過熱」(日本経済新聞2001年6月25日)の約300万加入とのギャップである。広帯域回線を引いているが高速インターネットアクセスをしないものの存在は、会津報告の発達史でしか説明できない。

 情報化の進展は、一般に、各国の政治・経済・規制・技術など諸条件が組み合わさった結果とされる。韓国には韓国のブロードバンド化があるが、今日本では、漸く電気通信事業法大幅改正の気運が高まる一方で、100Mbpsの高速通信を目指す第4世代携帯電話の基本仕様が検討されている。

ビデオ・オン・デマンド(VOD)は何時実現するか
 「InfoComニューズレター」国内トピックス「今後のインターネットの普及ー米国追随からの脱却」(2001.6)に見る通り、高速インターネット希望理由は米国と日本で違う。

 個人ユーザの高速化もコスト・パーフォーマンス次第である。
1990年代を通じてタイムワーナーのFNS(Full Service Network、多チャンネルTV、VOD、双方向TVなど全通信放送融合サービスを提供)を始め各種の実験が試みられたが、すべて成功しなかった。

 最近でも米国最大のビデオレンタル業者ブロックバスターと巨大ユーティリティ企業エンロンが提携して、2000年末からシアトル、ニューヨーク、ポートランド、ソルトレーク・シティ4都市でブロードバンド・サービス実験が始まったが、3ヵ月で中止にになった。基幹伝送を担当したエンロン・ブロードバンド・ネットワークとアクセス系を担当したWLL事業者レフレックスはブロックバスター規格の1.8Mbpsを超える2.3Mbps伝送技術を準備したが、映画180本のコンテンツを収容できるビデオサーバーに著作権処理して用意されたのはユニバーサルとMGM2社の映画だけだったので、この食い違いが中止の原因と言う。

 インターネットとストリーミング技術によるVODサービスは、映画会社などのコンテンツ業者、電話会社・WLLなどのローカル・インフラ業者、ビデオサーバー・STBなどのエンジニアリング会社、レンタルビデオ流通業者などの協力によって提供される。ところが関係業者の思惑はバラバラで、コンテンツ業者はエンド・ユーザとの直結を望み、流通業者は中抜きを恐れ、ローカル・インフラ業者とエンジニアリング会社は設備投資・技術開発資金の調達・回収で頭が痛い。利害の異なる関係者を上手くまとめて結集できる新しいビジネスモデルの発見が実験成功の鍵と考えられる。

 実際、技術は逐次改善され、エンド・ユーザ側のスループットで最低品質の300Kbps、VHSクラスの500Kbps、DVDクラスの750Kbpsなど各級端末の品質に見合った伝送コストを算出できるところまで来ている。しかし、固定コストで広告がとれる放送と違って、ストリーミングでは映画1本のコンテンツ送出に約10ドルかかり、束にすれば膨大な変動費を回収する方法はまだ見つかっていないと言う。

 米国では最近CDN(Contents Distribution Network、企業向けコンテンツ流通業者)が立ち上がりつつあり今後の展開が期待されるが、家庭のVODが実現するまでにはまだまだ時間がかかりそうである。

72.ヨーロッパの通信業界は何時活況を取り戻すか

 米国のニュー・エコノミー(インフレなき永遠の成長)が終わり、2001年上半期は設備投資が減少に転じたので、連邦制度準備理事会は6月28日に6回目の利下げを行った。デフレ傾向が鮮明になった日本では2001年5月の失業率が4.9%と過去最悪になり、IT不況の直撃でアジア経済も苦しんでいる。米日の低調に引きずられ一段と景気減速感が強まり半年後に通貨流通を控えたヨーロッパでは、総選挙後の英国がユーロ導入戦略に着手した。

 ITバブルがはじけ世界同時不況が進行するため、米国店頭株式市場(NASDAQ)への2001年上半期上場企業数は僅か26社、対前年比9割減と言う。ところが、マンスリー前々号No.64.「VODのJT株取得」で述べたような状況が続き、6月末現在の情報通信サービスプロバイダーTOP20は、VODが3位から4位に下がりドイツ・テレコム(DT)が11位から7位こ上がった外、順位におおむね変動が無い。

 表「世界の情報通信サービスプロバイダーTOP20(2001年6月29日現在)」参照

 しかし、世界最大の移動通信企業VODの株価が6月27日に年間最安値 20.53ドルを記録した環境で、次世代(3G)携帯電話免許費用・設備投資負担を同様に背負ったDT、フランス・テレコム(FT)、ブリティッシュ・テレコム(BT)3社のうち、DTだけ株価を維持できている事情は複雑である。

 DT/BT共通の環境変化は、6月5日にドイツ郵電規制庁(RegTP)がアンテナ・無線局設備・通信ケーブル等3G設備の共用を認めると発表し、6月12日にDTとBTが3Gインフラ設備共有について合意したことである。ドイツにおけるBT子会社フィアック・インターコム(Viag Interkom: VI)がDTの3G設備を使い、英国におけるDT子会社ワン・ツーワン(One2One)がBTの3G設備を使うことで、設備投資の20%、土木を含む総工事費の30%が節減できると言う。

 インフラ設備共用は資源配分上は社会的善だが、競争を抑制する恐れもあり、制度的検討が開始された。

 この効果は両社共通で、DTには米国の移動通信事業者ボイスストリーム(VS)の買収決着(5月31日)と米国リバティー・メディア(LM)へのCATV網売却合意(6月21日、43億ドル)の材料があり、BTは債務削減のための新株発行(6月18日、84億ドル)など負債圧縮計画が大詰めにきていることがあげられる。金融業界がいかなる判断を下すのか知るべくもないが、諸材料がDT株価を押し上げ、BT株価には働かなかったのであろう。FTは債務削減計画を練り、グループ内移動通信部門の名称を「オレンジ」に統一するなど経営改善に努めてきたが、6月21日にフランスの格付け機関から長期債務の見通し「ネガティブ」を理由に格付けを下げられ、6月27日に年間最安値(44.70ドル)を記録した。

 電気通信専門家の間では、DT・BT・FT3社とも共通に(1)国際無線キャリア市場への進出が遅い、(2)携帯電話子会社の上場機会を失した、(3)投資需要があるにしても何時までも借り増しを続けたとの見方がある。

 それにしても最悪の時期は過ぎたのか。VODはもとより、DT・BT・FT3社、テレコム・イタリア、テレフォニカ、C&Wなど各社とも、生きていさえすればやがて汎ヨーロッパM&Aの時期が来るだろう。最近オランダのKPNとベルギーのベルガコムは合併交渉中であることを認めた。

寄稿 高橋洋文(元関西大学教授)
   nl@icr.co.jp(編集室宛)

入稿:2001.6

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