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世界の通信企業の戦略提携図(2001年6月5日現在)

67. 中国の新通信市場

インターネットの現状と課題
 中国インターネット情報センター(China Internet Network Information Center: CNNIC)の『中国インターネット発展状況統計(第7次報告)』によ れば、2001年1月の現状は以下の通り。

  • ホスト数は892万(専用線接続141万、ダイヤルアップ751万)

  • ユーザ数(毎週最低1時間利用)は2,250万(専用線接続364万、ダイヤルアップ1,543万、両方利用343万)、+
    +.CN登録ドメインネームは122,099、COM78.80%、NET10.89%、
     GOV3.78%、Adm.Area2.92%m、ORG2.13%、EDU0.92%)、
     (図1『ドメインネーム地理的分布』参照)
    +その地域分布は北京市36.87%、広東省14.09%、上海市9.21%、
     江蘇省4.52%、浙江省4.02%、山東省3.92%、遼寧省3.07%、

  • ユーザプロフイール
    +性別は男性69.56%、女性30.44%
    +年令別は18-24才41.18%、25ー30才18.84%、18才未満14.93%、
     31-35才8.89%、
    +結婚・未婚は未婚62.93%、結婚37.07%
    +学歴別は大学卒38.82%、短大卒28.97%、高卒232.45%、中卒以下6.44%
     (図2『ネットユーザのプロフイール』参照)

  • ウェブサイト数は265,405で分布はCOM83.64%、NET11.99%、     ORG2.43%GOV1.24%という順序、

  • 国際相互連結網 8相互連結網の総伝送容量 2,799Mbps
    CHINANET:1,953Mbps UNINET: 55Mbps
    CERNET: 117Mbps    CNCNET: 377Mbps
    CHINAGBN: 148Mbps   CMNET: 90Mbps
    CSTNET: 55Mbps     CIETNET: 4Mbp

  • インターネット電話(VoIP) 217Mbps

 34,695回答のうち有効標本数26,667という限られた調査結果だが、中国 のインターネット・ユーザ・プロフイールは比較的高学歴の青年であり、 主として中国語の国内情報を求めてアクセスし、高価なのに低速の品質に 不満な現状が浮き彫りになっている。

 2001年5月25日に中国インターネット協会(The Internet Society of China)が設立された。この日情報産業省は中国のインターネット・ユーザ数が3000万を突破したと発表した。

新しい通信インフラづくり
 中国政府の成長政策は長期的、計画的に国全体の底上げを考えるより、商業精神のヴァイタリティに期待しているようで、何でもオーライ、朝令暮改も厭わずと言ったところがある。情報産業省のラストマイル・インフラづくりは、今のところ、DSLやケーブルモデムよりもFTTC(ファイバ・ツー・ザ・カーブ)とWLL(ワイヤレス・ローカル・ループ)を柱にしている。通信網は電気通信管理局でCATVはラジオ映画テレビ管理局というセクショナリズムが政策選択の理由の一つとされるが、中国の光ファイバ生産コストが西欧の1/20であり、ディジタル・シティ、インフォ・ビルディング、インフォ・コミュニティなど都市優先の情報化政策が背景にある。2000年末のDSL回線数が中国の10万に対して韓国は250万なのは、中国の場合既存市内メタリック・ケーブルの平均距離が韓国より長くDSLに適していないとも言われる。

 固定系技術WLLの開発・導入より大きな課題は次世代携帯電話/ワイヤレス・インターネット・アクセスの方式選択である。

 1980年代後半に導入された中国の携帯電話は、1997年に漸く1000万加入を突破した後毎年倍増を続けて2001年3月末に1億加入に達し、世界一になる日も視野に入ってきた。急成長は主力の中国移動通信(CMCC)がGSM方式を採用し、Motoroia、Ericsson、Nokiaに集中発注したことにもよる。第二キャリアーの中国聯合通信(China Unicom)はCDMA方式も採用し、M/E/N3社、Nortel Networks、Lucent Technologies等の外資系や大唐電信(Dateng)、華為技術(Huawei)、中興通訊などの国産メーカー合計10社と最近購入契約を結んだ。

 次世代携帯電話技術については、1998年から2000年にかけてITUが標準化を進めてきたIMT2000から何を選ぶか、日欧方式のWCDMA、米国方式のcdma2000、中国独自方式のTD-SCDMAの三つを検討中である。

 TD-SCDMA方式はIMT2000標準無線インターフェース5方式の一つで、その名Time DivisionーSynchronous Code Division Multiple Accessが示す通り、無線基地局・携帯電話端末間で同じ周波数帯を使い同期をとって上り/下り双方向通信を行うため資源効率は良いが、高速移動時の安定性確保に問題があるとされる。情報産業省は独自方式の実現に執心であり、キャリアー/メーカー合同の技術フォーラムの設置、2003年商用化を目指しSiemensと大唐電信の試作・実験サービスなどを指導している。

 一方、中国携帯電話加入の76%、8000万を抱える中国移動通信は、近く いわゆる2.5世代技術GPRS(General Packet Radio Service)の新サービスを開始する。GPRSは最大速度9600BpsのGSM網に付加するとデータ通信速度が115Kbpsの高速化できるもので、3Gへの過渡的技術としてヨーロッパで普及に向かうと見られている。 複数併記IMT2000標準のデファクト・スタンダードの座を巡り、WCDMAとcdma2000が鎬を削っている時、中国の選択が大いに注目されている。

68. アルカテルのルーセント・テクノロジー買収は破談

 フランス籍グローバル通信機メーカーであるアルカテル(Alcatel : ALA)の米国籍グローバル通信機メーカーであるルーセント・テクノロジー(Lucent Technologies : LU)買収交渉が、2001年5月29日に決裂した。対等合併を旨としつつ実質はALAがLUを買収する交渉は開始後一ヶ月余り、5月30日に合意成立を発表し祝う予定で ニューヨークのセント・レジス・ホテルに記者会見場と大レセプションを予約したのに、寸前に破談となった。

 破談の記者発表は「ALAとLUは両社の合併をめぐり交渉してきたことを本日確認し、交渉は何らの合意にも至らず終了したことを公式に述べる。その他何もコメントは無い」という素っ気無いものであった
 やる気満々のALA花婿を蹴ってLU花嫁が逃げ出した理由は一体何なのか。

 5月29日にパリでH.シャクトLU会長CEOが、相手方が対等合併ではなく病身のアメリカ通信機器グループを乗っ取ろうとしていると気付いて会議室から出た時、交渉が終わったと言われる。
 詳細を詰めて来た末に取締役の配分でALA会長CEOが16名中9名を固執したからとも言われるが、そんな簡単なことではあるまい。
 3月に売りに出した光部品子会社アジェレ・システム(Agere Systems : AS)への58%出資(時価76.8億ドル)を除いて、LUの資産額を228億ドルと評価し時価そのままのプレミア無しとしたため、合併後の資本比率はALA58%/LU42%となって役員均等配分は呑めないし、S.チュルクALA会長CEOはLU株主の反対が心配で内心おじけづいたとも見られる。 背景としてダイムラー/クライスラー合併が上手く行かなった先例から、ALAとLUの文化の違いが合併で生まれる巨大企業のブレーキになるとの市場の不評が破談の最重要要因とされる。通信技術開発の聖地ベル研究所をフランスに渡してはならないと言う政治家の反対などの要因もある。

 2000年の売上高290億ドルのうち米州比率が22%に過ぎないALAにとってLUは橋頭堡を築く格好の合併相手であった。フランス政府の国産メーカー育成策による「CITアルカテル+トムソンCSF=CGE(コンパーニュ・ジェネラル・デレクトリシテ)」にITTのヨーロッパ交換機メーカー子会社群を加えて1987年1月に誕生した新生アルカテル(ALA)は、便宜上ITTヨーロッパの1社でベルギー籍のBTM(ベル・テレフォン・マニュファクチャリング)を使って登記し、当時のプレ・ヨーッパ通貨エキュ(ECU)で決算するフランス色の総合電機メーカーと言う不思議な会社であった。このモラールと収益率の低い合併会社を1995年就任以来ダイナミックなグローバル企業に変え、テレコム指向で広帯域インターネットアクセス・光通信網・大型データ交換機に焦点をあてる組織にしたのがS.チュルクである。15年間のモービル石油生活でエクセレントな英語を身に付けALAに来て公用語を英語にした彼は、合併後新会社をニュー・ジャージーのLU本社から指揮するつもりでいた。S.チュルクALA会長CEOは今何か埋め合わせるものを見つけなければならない。

 5月29日午後の取締役会でALA会長CEOは、合併話の発端となった一ヶ月前のLU光ファイバーケーブル部門買収提案(40-80億ドル)の復活についてコメントしなかった。カナダの360ネットワーク買収時の転換社債7億ドルの負担など再編成費用のため第2四半期見通しは営業収入1億ユーロに対し赤字30億ドルであり、今は新規買収先より非中核資産の売却先を検討すべき時だとなった。もちろん北米進出は重要な課題と認識された。
 ALAと米国コーニングならびに日本の住友電工との光ファイバー技術提携はそれぞれ5月28日と29日に調印された。

 一方、2001年第1四半期に42億ドルの赤字を記録したLUの方が、資金調達と光ファイバーケーブル部門などの売却先を見つけるなど緊急課題が山積している。
 1996年にAT&Tから分離独立して以来1999年まで増収増益を続けてきた優良企業が急に転落した主な理由は、(1)市場変化に鈍感で光通信システムへの切り替えに出遅れたこと、(2)新興通信企業への過度のベンダーファイナンスなど実力以上の背伸び経営、(3)通信業界の低成長化に伴うキャリアー設備投資の手控えの三つとされる。問題はその組み合わせで、2000年の20%成長確保のためリセラー上がりの新興企業ワン・テル(One.Tel.Ltd)から受注したら、その融資額5.6億ドルの会計操作が問題になり、同社の破綻で回収の見込みが立たないと言った悪循環である。LUを優良経営に育てたR.マギン前会長が経営責任を問われて2000年10月に辞任したため、隠退していたH.シャクト初代会長が暫定復帰しているのだから、第一の急務はトップのヘッドハンティングである。

 どうやらALA・LU両社共通の課題は、すべての製品・サービスを提供する巨大通信機メーカーの時代が去ったことを自覚し、新時代の戦略を策定することである。転換期の通信キャリアーは市場の動きに敏感な専門メーカー指向になり、光通信やインターネットなどの先端分野であるほど、ベストプロダクトを求め自社システムに組み込むよう努力しているので、両社ともセグメント対応戦略を編み出さなければならないのである。

69. ネット配信と音楽産業再編成

 1970年代に音楽はディジタル化されたが、CD(コンパクト・ディスク)というパッケージ商品の流通過程はレコード時代と変わり無く、原盤制作費の低廉化に伴い作詞・作曲・編曲等の作家が自力で世に出易くなったものの、作家の著作権を管理する音楽出版社を含め大手レコード会社が音楽の全生産流通体制をコントロールする構造が続いてきた。オランダのフィリップス系ポリグラムとカナダのシーグラム系ユニバーサル・ミュージック・グループ(UMG)の統合(98年5月発表)以来、世界の音楽産業はフランスのVU系UMG、米国のAOL-TMX傘下ワーナー・ミュージック・グループ(WMG)、日本のソニー・ミュージック・エンターテインメント(SME)、英国のEMI、ドイツのベルテルスマン系BGMEntertainment(ベルテルスマン・グラマフォン・ミュージック・エンターテインメント)の5社によって支配されてきた。

 そこにIT/インターネット革命が到来し、音楽データ・高速ダウンロード・サービスの輩出や米国のリアル・ネットワークス(RealNetworks:RN)に代表されるストリーミング技術(音声や画像をダウンロードしながら再生できるように配信するソフトウエア)の登場によってオンラインミュージック時代をもたらし、権利者である作家・音楽出版社と流通に携わるレコード会社・オンラインサービスという二組四者の関係に見直しを迫っている。

WMG/BGM/EMI3社とリアル・ネットワークス(RN)社の音楽配信事業
 AOL-TMX/ベルテルスマン/EMIの大手メディア3社と音楽・動画ソフト大手リアル・ネットワークス(RN)社は、2001年4月2日に共同事業でネットワーク上の音楽配信を構築すると発表した。

 RNが約40%、AOL-TMX/ベルテルスマン/EMI3社が残りの資本を拠出してミュージックネット(MusicNet:MN)を設立し、メディア3社はそれぞれ子会社WGM、BGME、EMI Recorded Musicの音楽配信権をMNに非排他的に許諾、RNはMNにネットワーク技術を提供する。MNはウェブを設けて楽曲の配信元になるのではなく、音楽配信サービスを行うベンチャーにそれぞれのブランドで楽曲を流すライセンスを付与し配信・課金機能を提供することによって、技術提供/音楽交換センターの役割を果たす。

 MNはま7月開始を目標にAOLとRNにプラットフォームをライセンスし、次いでBGMやEMI、さらに独立系など他のレコード会社、および著作権やセキュリティ問題整い次第ナプスターにもライセンスする。また、音楽家のファン交流にもプラットフォームを提供する。

 RNはウェブキャスティング市場でマイクロソフトのウィンドウズ・メディア・プレーヤーと激しく競争してきており、ゴールドパス・サービスというオンライミュージックで175,000加入を獲得している。

 ところがナプスターはCDの無料コピーを防ぐ防護レーヤーをベルテルスマン子会社に開発してもらったものの、レコード会社の評価を得ておらず、米国ベルテルスマンのJ.クラインCEO(元司法省マイクロソフト訴追担当検事)はMNが有効なプラットフォームになるものと期待している。

米国下院司法委員会インターネット・知的財産権小委会公聴会
 音楽著作権に関する米国下院司法委員会インターネット・知的財産権小委会公聴会が2001年5月17日に開催された。3月6日連邦高裁仮決定の影響でナプスター人気が急落したこともあり、著作権侵害CDスワッピング・サービスにレコード会社幹部が対抗した4月3日上院司法委員会と違って、今回の意見表明と質議は、権利を持つ作家・音楽出版社と流通のため許可を求めるレコード会社・オンラインサービスとの紛争が浮き彫りになった。 

 まず音楽配信サービス業者MP3.comのR.リチャーズ社長は、音楽出版権の70%はハリー・フォクス・エージェンシー1社で扱われているが、代表されていない何千人もの作家がいて、一々許可をとるのが大変と述べ、衛星やCATVの音楽システムに例がある「定額1曲幾らの使用料」を政府で決めるべきだと提案した。 

 カントリー・アンド・ウェスターンのスターであるL.ロベットは、所属するアメリカ作曲・作詞・出版協会(AS CAP)は2.200サイトからのウェブ・リクエストに何百万曲から選び対応している。官製ライセンスなど不要だし、自由市場と私的財産権の尊厳を信じる者に政府規制料金は矛盾するとした。

 R.グレーザーMN会長CEOは音楽出版権問題が会員制オンラインサービス導入を制約する最大の問題と評し、ミュージックネットを実演して巧妙なナプスター的システムによりタイトル/歌手検索で容易にダウンロードでき、しかしナプスターと違って一定期間後には再生不能になり、後日のアクセスには再度使用料を課金する仕組みを説明した。 VUのE.ブロフマン・ジュニアー副社長は、UMGとSMEが共同開発中のデュエット(Duet)システムでは、インターネットで音楽は聴けるがダウンロードはでききないようにしているとした。

 民主党のH.バーマン代議士は、1ガロン2ドルのガソリン料金規制は良いが、娯楽アクセスコストの規制を正当化する根拠は薄いと、リチャーズ提案に疑念を表した。 E.ブロフマン・ジュニアー副社長とグレーザー会長は音楽市場での支配的地位を利用するつもりは無い、他レコードのネットワーク利用も他技術のウェブ利用も認めると再保証した。

二大オンライン・ミュージック・グループ成立へ
 フランスの複合企業VUは2001年5月20日に米国の音楽配信サービス業者MP3.comを現金と株式交換の組み合わせ方式で買収すると発表した。合意単金1株当たり5ドル、総額372百万ドルは時価を上回るが(5月18日終値3.01ドル)、バブル最盛期の2年前のMP3.com株価は60ドルだった。

 MP3.com社は著作権法違反事件では53,4百万ドル支払い義務を負い、またMP3.com株引受保証を得ていた関係でもある。

 今後とも音楽配信サービス企業MP3.comは独立子会社であり続ける一方、技術としてのMP3.com方式はUMG/SME共同開発中のデュエット(Duet)プラットフォームに使われよう。

 こうしてナプスター/MNによるWMG/BGME/EMIとMP3.com/DuetによるUMG/SMEという二大オンライン・ミュージック・グループが成立に向かったが、無断コピー防止や一定期間後再生不能の暗号システム技術はなお磨く必要があり、携帯電話機や携帯情これからである。作家との協定でも、最終的な詰めを残している。中央のコンピュータから音楽データを配信するオンライン・ミュージックを、作家は使用料高価なCDの延長線で考え、音楽企業はラジオ放送みたいなものと思い、価値意識のギャップが大きいのである。


元関西大学総合情報学部教授 高橋洋文
(編集室宛:nl@icr.co.jp)

(最終更新:2001.5)

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