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世界の通信企業の戦略提携図(2001年1月8日現在)

52. 21世紀初頭のグローバル・キャリアーの構図

 「TeleGeography 2001」によれば、世界で2000年7月現在約2,800社の通信企業が国際電話サービスを提供している。企業数は3年前には600弱だったのでグローバル化の進展に伴う急成長と言うことになる。

表:国際通信事業者数の推移

 国際キャリアーブームと言っても、設備投資額は必ずしも大規模化していない。新規参入事業者の多くは海底ケーブル施設とか交換設備を保有していないのである。もちろん新通信網を建設したキャリアーもあり、既存事業者と合わせて設備ベースキャリアー(日本の制度用語で第一種事業者)がトラフィック全体の1/4を運んでいる。

 しかし、国際通信企業の圧倒的大多数は、「設備保有事業者の設備やサービスを借り組み直して(repackage)提供する」ヴァーチャル・キャリアー(第二種事業者)である。国際通信業界を構成する設備ベースキャリアーとヴァーチャル・キャリアーの関係は、新規参入ヴァーチャル・キャリアーが設備ベースキャリアーの競争相手であると同時に上客でもある、一種の共生(symbiosis)関係である。

 そしてネットワーク競争時代の設備ベースキャリアーとヴァーチャル・キャリアーの関係は固定的なものではない。国境を越える電話であれ、都市内の光ファイバ接続であれ、雲のようなインターネット・アクセスであれ、最終顧客の需要変動と設備稼動の繁閑に応じてブロードバンドの接続は絶えず組み替えられる。

 そこに登場するのが帯域売買仲介業者(Bandwidth Exchange)である。Bandwidth Exchangeは大手国際通信企業や卸売国際通信事業者(いわゆる国際0種業者)の空き容量をインターネット上で売りに出し、必要な容量を確保したい中小国際通信事業者やISPなどが購入する。多くの場合匿名方式の会員制度を採用し、売買を希望する企業がBandwidth Exchangeの交換機に専用線を接続して取引を待ち、ホームページに提示された区間/地域、容量、期間、料金などが折り合って成約すると双方の回線がつながり、Bandwidth Exchangが決済する。米国や西欧では、AIG Telecom、Arbitnet-thexchange、Band-X、Bandwidth.com、Chapel Hill Broadband、Enron Broadband Servicesなど10社近くが活動中で、アジアには香港本社のAsia Capacity Exchange(ACE)があり、カルフォルニアに本社があるRateXchange社は近く日本で開業する 。 最近は世界の国際通信事業者上位40社リストの20位あたりからBandwidth Exchangeが数社登場している。このような盛況は、低料金で空き容量を融通する存在によって、サービス提供業者の利幅はますます薄く、最終消費者のコスト負担はますます低くなっていくことを示唆する。

 一方、少数の設備ベースキャリアーはこの数年規模の利益を求めてM&Aによる大規模化を続けてきたが、最近は前号(49.BTも株価対策で分割・再編成)と前々号(47.AT&T4分割の意味するもの)で紹介したとおり、BTもAT&Tも株式市場の声に従って分割の道を選び、WorldComは規制当局の指示に従ってSprintGroup合併を取り止めている。その結果、IT革命下の全般的株価低迷の影響もあるが、表「世界の情報通信サービスプロバイダーTOP20(2001年1月2日現在)」に見るとおり、世界の大規模キャリアーの時価総額は移動通信系を除きほぼ1年前と同等ないし以下になり、振り出しに戻った感じである。

「表:世界の情報通信サービスプロバイダーTop20(2001年1月2日現在)」

53. 西欧移動通信事業者の将来についての見方

 英国の調査会社Ovumとオランダの調査会社Forrester Research NVが2001年1月初頭にそれぞれ発表したところによれば、西欧の携帯電話需要は英国における健康への悪影響談義、3G免許料の広報不足、WAPの不評判、次世代サービスの遅れなどにも関わらず堅調に推移し、2001年初頭の242百万から伸びて2005年末には401百万に達するものと見込まれる。

 フランスの携帯電話加入数は2000年に44%伸びて2000年末に2,968万に達し、ドイツの携帯電話加入数は10カ月間に84%伸びて2000年10月末に総計4,314万に達し、英国の携帯電話加入数は2000年央に2,800万に達した。

 しかし、将来見通しはややグルーミーなもので、西欧全体として普及率が76%に達する2005年が飽和点と言う。Forrester Researchが西欧17ヵ国市場の1加入平均収入モデルを作って検討したところ、2000年から2005年の間に収入単金は490ユーロから419ユーロ へと15%減少する見通しになった。サービス別には音声収入は頭うちになり、メッセジングは上がって下がり、データ収入だけが成長する。移動通信事業者26社にインタビューしたところ、モバイル・インターネットについてアクセス、コンテンツ、購入、広告、道案内などの収入増を期待していたが、競争激化に伴う収入単金減を埋め合わせ切れない分析結果になった。

 こうして事業者利益は2003年から減り始め、2007年に赤字となり、回復するのは2013年の見通しである。グルーミーな収益予測と莫大な設備投資負担から成功のカギは規模となり、採算がとれるのは5グループとの結論である。

 従って既に或程度汎殴的存在になっているVodafone、T-Mobile、FT Mobile/Orange、BT Cellnetの4社が合格し、残る1社をKPN、Telefonica、Telecom ItaliaそしてNTT DoCoMoで争うことになる。ノルウエー、スウェーデンなどの中小市場の支配的事業者は2008年までの間に以上の大規模事業者と組むしか生き残る道はない。3G免許への純粋新規参入者は2007年後に生き残れず、英国やドイツなど高免許料国の2線級業者も生き残り困難で、北欧4国、アイルランド、オーストリアなどの支配的事業者も困難となろう。

54. 加速する中国通信市場の発展

 史上最長の景気拡大を続けて来た米国経済が減速に向かう2001年も中国経済は好調で、92年の14.2%をピークに鈍化してきた実質経済成長率は上向きに転ずる見込みである。中国社会科学院、国家統計局、国家経済貿易委員会などの専門家が2000年11月にまとめた経済青書によれば、中国経済の2000年1-9月期実質成長率は8.2%を達成し、2001年の実質成長率は8.1%と予測される。なお、国家発展計画委員会のマクロ経済研究院やアジア開発銀行の予測は7.5%にとどまる。

 朱鎔基首相が2000年10月に来日したとき明らかにした中国第十次五カ年計画(2001-2005年)では、IT(情報技術)産業を柱に年平均7%の経済成長を想定し、IT産業育成の基本方針として「通信市場を段階的に開放するなどIT産業全体への競争原理の導入を重視する」としている。

 すべてWTO加盟を意識した発表だが、1986年に中国がGATT再加入を希望して以来続けられてきた交渉は2000年内加盟と言う形では実らなかった。もともと中国がWTO加盟30ヵ国と結んだ二国間協定をWTOルールに適合した形で整序することは複雑であり、貿易自由化をめぐり先進国と途上国が対立する枠組みの中に途上国であり貿易 大国である中国を収めることは困難な課題である。中国のWTO加盟に関する特別作業部会は、9月段階では中国の強硬な態度で暗礁に乗り上げ、11月段階では中国が柔軟な姿勢に転じたものの、11分野の具体的課題を詰め切れなかった。中米双方に米国大統領選挙をめぐる駆引きがあったことも事実であり、中国指導者が国内総生産の28%、都市労働力の44%、政府収入の70%を占める国営企業を新しいコーポレート・ガバナンスに適応させることを確信できなかったからとも考えられる。

 とはいえ時期がずれただけで、米国の新政権が動きだし、APECを中心とするアジア太平洋地域の交流が深まるとともに、2001年第2四半期以降に中国のWTO加盟は実現されよう。

 2000年12月末に中国移動通信(China Mobile Limited)と中国連合通信(China Unicom)子会社の香港市場株価が急落する事件があった。情報産業省が2001年1月1日から国際通話・専用線・携帯電話などの料金を60%引き下げ、市内電話料金を引き上げる大規模な料金調整方針を決めたとの情報が流れたからである。実際は州政府管轄下の市内電話料金の改訂は2001年3月1日までに実施、中国電信(China Telecom)の値下げは2001年6月1日までに実施と期限付きで指示され、通信事業者が国務院に提出する改定案の検討を開始した段階であるが、中国政府が通信市場開放に本気なことの証左と受け取れる。

 競争時代を展望して通信インフラ整備も加速されつつある。固定系では、既報(MonthlyFocus No.12{ July,2Y)36.中国のインターネット市場拡大の課題参照)の中国網絡通信(China Netcom Corp.)が北京、上海など17都市を結ぶ光ファイバ通信網を完成させ、第三電電として長距離通信サービスの提供を始める運びとなった。通信業界の推計では、インターネット利用者は半年で倍増して2,100万に達し、携帯電話加入数は98年の1,200万増、99年の1,960万増に続き2000年は2,500万増を記録して 7,000万に達したと言う。今後4年で3倍増との旺盛な需要予測を前に、中国政府は次世代携帯電話(3G)について方式を一つに絞ることなく、cdma2000、W-CDMA、TD-SCDMA(Time Division-Syn-  chronous Code Division Multiple Access)の3方式のなかから事業者に選ばせる方針のようである。

 2000年12月4-9日に香港で開催されたITUのTelecom Asia 2000で発表されたところでは、イスラエルの衛星通信ベンチャー企業ジラト(Gilat-既報MonthlyFocus No.6{ Jan,2Y)17参照)が、新彊のローカル電話公社とルーラル地域にVSATで電話を架設する契約を結んだ。中国政府は第十次五カ年計画(2001-2005年)の中心課題の一つに「西部大開発」を掲げており、そのインフラ整備に必要な1兆ドルを外資に期待しているが、中国全土の半分の広さに全人口の1/4、しかも中国最貧層8,000万の半数が居住する地域におけるメディアをを衛星通信に託すのはうなずける。

 2000年12月5日に米国AT&Tは中国電信傘下の上海電信、上海情報投資と合弁で上海シンフォニーテレコムを設立することで調印した。新会社は外資系通信合弁第1号として上海の浦東地区に進出している外資系企業に高速データ通信を提供する。


顧問 高橋洋文(編集室宛:nl@icr.co.jp)

(最終更新:2001.1)

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