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世界の通信企業の戦略提携図(2000年11月6日現在)

46. イタリアの結果で欧州3G免許競争入札は山を越したか

 イタリアの次世代携帯電話(3G)免許競争入札は、第1次審査に合格した7社からテュ・モビレ(Tu Mobile)が10月11日に財務力証明書の不提出を理由に除外され、5免許を6社で争う入札が2000年10月19日に始まった。しかし23日までに11回の入札が行われたところで、ブルー(Blu)が突然退出したため、「表1:イタリア3G免許競争入札参加企業一覧」に見るとおり、240億ドルの期待に対して107億ドルと言う著しく低い落札総額で終わった。イタリア政府は11月3日に変則だったが残る5社の入札は有効として入札終了を宣言した。同時に、Bluが3回まで 棄権(パス)する権利を行使せず突然退出したのはルール違反だとして供託金没収措置をとる、また談合の疑いで調査するとし、紛争が始まった。誰しもが既存事業者のOmnitel、Wind、TIM、Bluの4社は免許を獲得し、新規のIpseとAndalaが残る1免許を争うと見ていたのに、Bluの退出と安値終了の結末は意外な出来事であった。

 Bluの主要株主間で、コスト高はBTの出資増でまかなえと言うイタリア資本と、51%出資の約束を急に言われても約束できないとするBTとで、深刻な対立があったとされる。また、Blu筆頭株主のAutostradeは高速道路管理会社、ベネトン・グループの持株会社Edizioneと元首相ベルルスコーニ率いるフィニンベスト・グループのMediasetが各9%出資しているので、その退出に政争の意図ありとの見方もある。

 イタリアの3G競争入札が英独の実績より著しく低く終了したことでコスト高や資金調達圧力が避けられたとして、皮肉なことにBT、DT、FT、TelItal、Telefonicaなど欧州の大手通信企業の株価は一斉に反騰した。

 EUの調査会社ユーロバロメーターが約16,000名消費者インタビュー結果を発表したところによれば、EU圏域の携帯電話料金を妥当とした者は僅か29.5%、不合理とした者26.6%、高すぎると答えた者10.9%であった。一方、固定電話料金については妥当とする者47%、不合理32.4%、高過ぎる11.4%であった。携帯電話の普及は進んでいるが、料金の高いことが問題視され、それをもたらす高額競争入札への懸念が高まっているのが現状である。

 今後3G免許競争入札を行うのはオーストリア、ベルギー、デンマーク、スイスであり、フランス、ギリシャ、アイルランド、ノルウェー、ポルトガル、スウェーデンなどは、定額免許料をセットして事業計画を審査する「ビューティーコンテスト方式」を行うとしている。フランスは8月18日に第1次審査を実施したのに、免許問題が議会で審議されるため電気通信規制局の審査日程が遅れて2001年1-6月となっているが、今後が注目される。いずれにせよ欧州3G免許競争入札は山場を越えた感じがする。

47. T&T4分割の意味するもの

◎再編成計画
 AT&Tは2000年10月25日に、企業用長距離通信の「AT&Tビジネス(AT&T Business)」、住宅用長距離通信の「AT&Tコンシューマー(AT&T Consumer)」、携帯電話の「AT&Tワイヤレス(AT&T Wireless)」、CATVの「AT&Tブロードバンド(AT&T Broadband)」の4会社に再編成する計画を発表した。また、再編完了の2002年までに現AT&Tの中核事業である「AT&Tビジネス、過去1年間の売上高284億ドル)」、「AT&Tワイヤレス(同96億ドル)」及び「AT&Tブロードバンド(同93億ドル)」は株式を公開する独立会社となり、「AT&Tコンシューマー(同197億ドル)」はトラッキング・ストック(部門収益連動株)を発行する新会社になるとして、財務見通しを発表した。 再編成手続が最も早いのは既にトラッキング・ストックが発行され、記号AWEで取引されて株式の約15%が公開されているAT&T Wirelessである。A&Tは2000年第4四半期に証券取引委員会の承認を得て、希望するA&T株主のAT&T株とAWEトラッキング・ストックを交換し、AT&T Wireless資産に残額があれば継続するAT&T株主のものとし、2001年夏までにAWEトラッキング・ストックをAWE普通株に切り替える。こうして手続が終わるとAT&T Wirelessは株主資本を持った独立会社になる。次に、AT&Tは現在AT&T Broadband & Internat Services事業として運営されているAT&T Broadbandと住宅用長距離通信・インターネット事業を扱う新会社AT&T Consumerについては、2001年夏に市況を見てそれぞれのトラッキング・ストックを発行して、希望するAT&T株主に引き渡し、AT&T Broadbandトラッキング・ストックは1年後に株主資本を持った独立の会社に切り替える。AT&T Broadbandの独立が2002年になるのは株主の課税対策からで、AT&T Consumerが株主資本を持った独立会社にならないのは、中核会社として残り取引記号Tを継承するAT&T Businessと通信基盤(インフラ)を共用するためである。経営方針について、AT&T Businessは成長志向で内部留保を重視し、AT&T Consumerは安定株志向で配当を重視するとする。なお、インターネット事業は、一般アクセスのWorldNetがAT&T Consumerに含まれ、高速インターネットのExcite@HomeがAT&T Broadbandに含まれる。また、TCIのコンテンツ部門であったLiberty Mediaは、事業体であるLIberty Media Groupの資産を保有するLiberty Media CorporationについてAT&Tがトラッキング・ストック(記号LMG)を発行・所有すると言う、独立性を高めた形に変わりはないと思われる。

◎4分割の狙い
 『あらゆるサービスを一括提供する総合通信企業』を資本分割(スピンオフ)とトラッキング・ストックにより4分割する戦略の狙いは、『コングロマリット・ディスカウント(ConglomariteDiscount)』を 裏返した『部分の総和は全体より大きい』と言う方程式を信じた株価対策である。コングロマリット・ディスカウントとは、集約型であれ拡散型であれ企業買収によって多角化・巨大化した企業の株価総額は、買収前の各企業の株価総額の総和よりも小さくなることを言う。この経験則を裏返して、企業はその構成する事業を分離・独立させることによって、株価総額の合計値を大きくすることができないかと考えるのが新戦略である 。総合通信企業の理念は、(1)投資家の付託を受けた経営者が経営資源の有効利用についてベストの判断を下せるとの考え方と、(2)情報通信ユーザは一人の売り手から全サービスを買うー『ワン・ストップ・ショップ(one-stop-shop)』を好むとの仮説を前提にしていた。これに対し企業分割の理念は、金融と情報通信分野における競争の進展に伴い、(1)投資家は市場細分ごとのベスト・パーフォーマーを見分け投資資金を配分することにより最良の果実が得られる、(2)情報通信ユーザは多数のサプライヤーを買い漁るのを好む、との判断に基づく。

 アームストロングAT&T会長は再編成計画発表の記者会見で、「資本関係は切れても、インフラの相互利用や異なるサービスの一括提供などの契約関係により、積極的協力を推進し、4社はAT&Tと言う共通ブランドの下でのファミリー企業になる」と強調した。しかしウォール街の当日の反応は冷たく、同時発表の2000年第3四半期(7-9月)AT&T業績が増収減益(前年同期比売上高+4%、利益−19&)で、住宅用長距離通信サービスの売上高が減収(前年同期比−11%)だったこともあって、大手証券会社のAT&T株投資評価は引き下げられた。AT&T Wirelessは既に高度成長の途上にある。AT&T Broadbandは遅れていたCATVディジタル化が間もなく軌道にのれば躍進を始めるだろう。分割によって経営のスピードが上がればAT&T Businessも力を発揮するだろう。しかしAT&TConsumerは料金引き下げと競争の圧力をはねかえす成長力に乏しいと評価されたのである。

 この夏から噂されてきた企業通信部門を中心にしたBTとの統合や移動通信強化のためのNexTelの買収について言及はなかった。BTとの統合についてはスタート済みの統合ベンチャーConcertと新統合企業との調整が鍵であり、AT&Tはドアを明けて待つ姿勢と思われる。NexTel買収問題は価格と経営の主導権次第であろう。

◎情報通信ビジネスモデルは変わるのか
 既報の「43.欧州通信業界の変調」の最終パラグラフで述べたとおり、ブロードバンド時代ではアプリケーション分野が高収益・高成長と見込まれるため、AT&T Businessを浮揚させる再編成戦略は妥当である。しかし「今や巨大垂直統合は流行遅れとなりウォール街は水平的競争に強い専門企業を選好する」とのAT&T経営陣の判断は正しいのか、垂直方向から水平方向へ情報通信ビジネスモデルを転換するものなのか否かが問われる。

 AT&T同様株価が最高値のほぼ1/3になったワールドコム(WorldCom)は、2000年11月1日にWorldCom(NASDAQ記号WCOM)とMCI(NASDAQ記号MCIT)の2種類のトラッキング・ストックを発行する計画を発表した。前者はデータ/インターネット/ホスティング/国際/無線/企業用電話事業(年間売上高230億ドル)の業績に帰納し、後者は住宅・小企業用通信/ページング事業(年間売上高160億ドル)の業績に帰納するもの。2001年上半期に現ワールドコム株主は、ワールドコム25株につきMCIトラッキング・ストック1株を交付をされた後、ワールドコム株とWorldComトラッキング・ストックの交換を受ける。以後ワールドコムは新WorldCom事業と新MCI事業を保有する。この6月にスプリント買収が承認されなかった時、ワールドコムはトラッキング・ストックの発行を否定したが、株価が7月半ば以降下がり放しだったので結局AT&Tに追随したものと見られる。

 次の追随候補は株価が最高値(99年末)の半値以下となっているBTであるが、既に3月末に増収減益決算(売上高+10.4%、利益−32%)を記録したのに適確な対応策がとられなかったもので、今さら分離・独立を計画しても時期遅れの感がある。「表2:世界の情報通信サービスプロバイダーTop20(2000年10月末現在)」に見るとおり、ドイツ・テレコム(DT)、フランス・テレコム(FT)、テレコム・イタリア(TelItal)、テレフォニカ(Telefonica)なども株価対策が欲しいところである。この表はイタリア3G免許入札の安値終了(「46. イタリアの結果で欧州3G免許競争入札の山は越したか」参照)を好感した株価反騰後のものだが、それでもDTは3月3日の最高値(100.25ドル)の38%値(38.188ドル)、BTは99末(245ドル)の48%値(119ドル)、FTは3月3日(209.938ドル)の51%値(107.375ドル)、TelItalは2月11日(210ドル)の56%値(117.5ドル)、Telefonicaは2月11日(94.938ドル)の61%値(57.938ドル)と、各社の株価はみな極めて低いものである

 このような欧州勢に比べ、SBCコミュニケーションズ(SBC Comm.)、バーライズン(Verizon Comm.)、ベルサウス(BellSouth)、クエスト(Qwest Comm. International)などの旧ベル系地域会社の安定振りが目立つ。

 専門企業(specialists)時代が来たと言っても、移動通信の上昇カーブには先が見え始め、データ/インターネット/ホスティングなどの新アプリケーションはまだ帰趨が読めない現在、将来の具体像はまだはっきりと見えない。

48. 音楽ネット流通著作権問題の局面が転換

 インターネットによる音楽流通は、映像或いはAV(Audio Visual)ほど周波数帯域を必要とせず、印刷物と違ってダウンロードしたものを唯聴けば良いと言うメディアの性質からやり易く、しかしお金をとることは容易でない。

 既報(No.13 38.)の米国における「音楽ネット流通の著作権問題」のその後では、サンフランシスコ連邦高裁が2000年10月2日にNapsterやレコード会社に対するヒアリングを行い、北部カリフォルニア連邦地裁が7月に出した仮処分の執行延期を当面継続すると宣言した。ヒアリング終了後の記者会見でNapsterのハンク・バリーCEOは「利用者から月5ドルの利用料を徴集し一部を音楽業界に還元する仕組みを作れば、最初の年だけで5億ドル以上を業界に支払える」と語ったが、レコード協会(RIAA)のヒラリー・ローゼン会長は「ヒアリングで無料サービスの正当性を主張したNapsterが今さら支払いたいと言っても、本心を信じ難い」と述べた。

 ところが、大手レコード会社の一つドイツのベルテルスマン(Bertelsmann)とNapsterは2000年10月31日に会費制のディジタル音楽交換サービスを共同で展開すると発表した。両者の提携の骨子は、(1)BertelsmannはNapsterが新たに始める優良の音楽交換サービスに自ら著作権を持つ楽曲を提供する、(2)Napsterは会費収入の一部を著作権使用料(royality)としてBertelsmannに支払う、(3)事業を軌道に乗せるためBertelsmannはNapsterに融資や出資の資金援助をする、(4)事業が軌道に乗った時点でBertelsmannはNapsterを相手取った著作権侵害訴訟の原告から外れると言うものである。この合意について、RIAAはインターネットを通じた楽曲の交換に正当に使用料を支払えと言う主張に抵触しないとし、Napsterは交換サービスが個人の正当なコピー技術であるとの立場にそうものであるとする。

 新音楽交換サービスを確立するまでに詰めるべきことは多く、今の段階でBertelsmann/Napster提携が直ちに他の大手音楽会社に広まるとは思われていない。著作権侵害訴訟も粛々と進められよう。また、グヌーテラ(Gnuetella)やフリーネット(Freenet)など、サーバー抜きで直接楽曲を交換する技術・サービスは、本件と無関係に継続されよう。しかし、今回の合意が音楽ネット流通著作権問題に新しい局面を開いたことは確かである。


顧問 高橋洋文(編集室宛:nl@icr.co.jp)

(最終更新:2000.11)

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