トップページ > レポート > マンスリーフォーカス > Please Road This Image.

世界の通信企業の戦略提携図(2000年10月5日現在)

43. 欧州通信業界の変調

 米国の経済誌ビジネスウィークが「2000年版世界のトップ企業1000社」を報じた時には、欧州通信企業の躍進と米国勢の後退が目立っていたが(「トレンドレポートー急激に変わるグローバル・プレーヤーの勢力 分布図」参照)、僅か4カ月後の9月末で見ると形勢は逆転して欧州通信企業は軒並み時価総額とランクが下がっている(表参照)。

表1:世界の情報通信サービス・プロバイダーTop20
2000年9月末現在(単位 億ドル)

(出所)5月末はBusiness Week(July 10, 2Y)、9月末はYahoo!Finance
(注1)企業名()は合意されたM&Aを示し、時価総額は単純合算。
(注2)China MobileはChina Telecom(HK)の改称。

2000.9.29現在99.5.31現在
ランク 企業名 国籍 時価総額 ランク 時価総額
1.NTT DoCoMo 2,425 2 2,472
2.AOL(AOL+Time Warner) 2,280 3 2,254
3.Vodafone 2,269 1 2,779
4.SBC Communications 1,691 7 1,490
5.NTT 1,555 4 1,891
6.Verizon Communications 1,331 9 1,435
7.AT&T 1,103 6 1,519
8.France Telecom 1,078 8 1,487
9.Deutsche Telekom 1,038 5 1,872
10.China Mobile 中国 889 11 1,024
11.WorldCom 873 10 1,075
12.Qwest Comm. Int'l 799 16 694
13.Telecom Italia 780 14 852
14.BellSouth 759 15 829
15.British Telecommunications 697 13 937
16.Telefonica 西 646 17 666
17.Sprint Group 585 12 982
18.Telstra 417 18 499
19.Telefonos de Mexico 397 19 364
20.Nextel 356 20 346

 5月末時点で高額の3G免許費用負担にもかかわらず堅調だったVodafoneが9月22日に年間最安値33.563ドルと3月6日の年間最高値64.375ドルのほぼ半値を記録し、99年12月末の最高値245ドル以降早くから不調だったBTは9月29日に半値以下の最安値105ドルを記録した。この2社より下げ幅は低いがDTもFTもTelItalも低くなっており、相対的にSBCやVerizonを始め米国勢のランクが上がっている。

 変調の背景として、米国企業が98年第3四半期(7-9月)以来4四半期連続して増益を続け、最近営業利益の伸び率が鈍って来たものの好調であるのに対し、欧州企業はユーロ安・原油高による経済環境の悪化により株安の趨勢に陥り、特に9月21日に半導体最大手インテルの2000年3四半期(7-9月)業績減速見通し発表による「インテルショック」で、ハイテク関連銘柄、情報通信株が売られた状況がある。通信企業については、競争促進のためEUが2001年早期の加入者網オープンアクセスに踏み切ったことから競争激化が見込まれ、料金値下げによる需要増が遅めで供給増が先走るとの讀みで、業績悪化の見通しとなっている。業績低下の代表BTは借入金残高がふくらんだため、借り減らしの必要に迫られ、M&A戦略の一時中止の事態に至っている。

 供給過剰の現状は、Global Crossing、Level 3、KPNQwestなどに追随して拡張しきてきたキヤリアーズ・キャリアーIaxisが9月初頭に整理に入ったことに象徴される。調査会社Ovumの分析による欧州内広帯域・大容量中継網価格低下傾向は、ロンドンーパリ間STM1(155.25Mbps)接続の卸値が98年に7百万ドルだったのが、99年に3.5百万ドル、今1.67百万ドルと毎年半減している。

 ブロードバンド時代を迎え通信網は、(1)ユーザより遠隔のプロシューマー的企業網やデータセンター/コンテンツ・プロバイダー網、インターネット(2)中層の広帯域・大容量中継網、(3)ユーザ近回りのFTTH、xDSL、ケーブルTV、無線LAN、衛星通信など高速アクセス回線の3層で構成されるが、高収益・高成長が見込まれるのはデータセンター/コンテンツ・プロバイダー網やeコマースなどのアプリケーションで、中継網では技術・資金力が物を言い、加入者インフラの提供は儲からないとの見方が一般的である。巨大通信企業は従来の生き方のままでは斜陽と見られている。

44. マイクロソフトのケーブルTV戦略つまづく

 ケーブルTVディジタル化と情報家電機器の進展により20年来懸案の双方向テレビ(Interactive TV)が実現に向かい始めた時、欧州一のケーブルTV会社UPC(United Pan-European Communications)が2000年9月10日に米国企業リベレート(Liberate Technologies)からディジタルSTB(セット・トップ・ボックス)を調達すると発表した。さらに9月22日にAT&T Broadbandが試験用ディジタルSTBをリベレートより調達することを明らかにした。いずれもマイクロソフトのディジタルTVソフトの開発・供給が遅れて自社の線表に間に合わないことを理由にしている。AT&Tの場合は、99年3月の提携合意の際、ディジタル化計画1000万加入のうちマイクロソフトから750万調達する契約を結んでいたが、今回のリベレート契約は商業ベースではないとしている。

 UPCはUnitedGlobalCom(オランダ法人 )が53.5%出資して欧州17カ国に展開するMSOで、電話サービスや高速アクセス、番組制作事業にも進出、99年2月に上場を果たした。99年9月にリバティー・メディア/マイクロソフトと双方向テレビ開発でジョイント・ベンチャーを組み、2000年6月にはマイクロソフトの出資率を8%に引き上げた(3.5億ドル)。一方、リベレートは96年に起業したネットワーク・ベンチャーで、当初から放送・インターネット・コンピューティング・ゲームの融合領域を狙い、ソニー、エーサー、セガ、任天堂、NEC、Comcast、Cox Com.、など有名企業の投資を受けて来た。名称は当初Network Cable、次いでNetwork Computing Inc.と変わり、現名は99年5月から。それにしても、マイクロソフト関連会社のUPCがマイクロソフトのディジタルTVソフトを購入せず、競争相手のベンチャーから調達することとしたのは重大である。

 双方向テレビ市場参入には(1)直接消費者に双方向TVサービスを売る、(2)ケーブルTV業者にソフトを売る、の二つの道がある。マイクロソフトは(1)については97年6月に4.3億ドル出資してWebTVを設立した。(2)について米国では、97年6月にComcastに10億ドル出資し(持株比率11.5%)、99年3月にディジタルSTBの採用をかけてAT&Tに50億ドル出資し(持株比率3%)、英国では99年1月にNTLに5億ドル出資し(持株比率5%)、99年6月にTelewestに26億ドル出資し(持株比率29.9%)、双方向テレビ投資の総額は100億ドルに達している。

 ディジタルTVは世界的に衛星放送が先行しているが、先行の故にSTBはインターネット・コンパティブルでない。ケーブルTV業者が求めるインターネット・コンパティブルなSTBで実用化されたのは、マイクロソフトとリベレートだけである。しかし、今製品があるリベレートと出荷は年明けのマイクロソフトの差は、衛星放送に対する競争環境の厳しいヨーロッパで大きく感じられる。

 今回の出来事に関しマイクロソフトのどこがまずいのか。ウインドウズの所為と言うのが一致した見方である。リベレートのCEOミッチェル・ケルツマンは「ウインドウズがマイクロソフトのDNA、どこにでもウインドウズをはめ込もうとするように生まれついている。だがウインドウズは大きくてかさ張っている。STBには大メモリも高速プロセッサーもないのだ」と言い、マイクロソフトのエド・グラツイックMicrosoft TV Platform Group部門長はこれに反論せず、「Microsoft TVは完全無欠になったところで配備する。市場に出れば優れた技術で相手を圧倒しよう」と言う。ケルツマンもMicrosoft TVを失敗作とはしていない。ただケーブルTV業者はPCビジネスで成功したマイクロソフトを警戒する向きと依存する向きがあると見ている。

45. 中国通信市場の今後の展開

 世界貿易機関(WTO)多国間協議の中国加盟作業部会は予定された2000年9月までに終了せず、加盟条件の調整作業の決着を持ち越した。基準・認証、知的財産権保護、補助金など多くの分野で「途上国扱いでの加盟」を主張し、米中会談での約束から後退する中国の交渉態度によるもので、年内承認が危ぶまれるほどである。

 中国の強気の背景の一つとして、年内加盟の方向が固まっってから外国の対中投資が増勢に転じ、2000年上半期実績が対前年比+25.6%となったことがあげられる。国有企業(State-Owned Enterprises: SOE)の民主化や効率化が課題になっているが、「中国石化集団」「中国海洋石油集団」「上海宝山鋼鉄」「中国銀行」「中国移動通信(China Mobile Limited : CHL)」「中国電信集団(China Telecom)」などの大手国有企業は海外における株式上場などによる大型資金調達に乗り出しつつある。

 このように中国経済が活発化して来た反面、かつて新興工業国の雄であった香港は、返還後3年の『忍び寄る中国化』により地盤沈下を生じつつあり、中国との連携を強めるなかで新たな機能を生かして行かなければならない。

 その点、通信分野では香港をベースにした本土内通信網の構築・運営が課題になって来た。元来、中国の通信自由化方針は既報(No.12-36.中国のインターネット市場拡大の課題)のとおりだが、具体的レベルでは外国通信企業の直接投資は年商2年連続100億ドル以上の大企業に限られ、合弁の中国側企業も上記2社に「中国聯合通信(China Unicom)」程度とされる。香港特別区行政長官はセカンドランクは香港からと明言し、米国のLevel 3 やWorldComが香港に引き込んだ海底ケーブルは本土の需要を見込んだものと言う。電話の大拡充が続いている上、現在の普及率(人口100人当たり加入数)が固定電話14.7、移動電話4.7に過ぎないので、仕事は今後幾らでもあるとの考え方である。

 香港の中心的通信企業の一つが、8月1日に高等法院の承認を得て8月17日にケーブル・アンド・ワイヤレス香港(C&WHKT、旧名香港テレコム)を合併したパシフィック・センチュリー・サイバーワークス(PCCW)である。PCCWは2001年末までに香港、台湾。中国本土で新しい複合的コンテンツ・サービスNOW( Network Of the World)を提供する計画で、6月から試験サービスを行っている。10月2日に中国聯合通信との提携を合意し、そのビジネス情報サービス子会社中華大黄貢(チャイナ・ビッグ・ドット・コム、ChinaBiG.com)に出資(38%)することとなった。10月3日には北米でホスティング・サービスを展開中のNaviSite社と戦略的提携で合意した。

 もう一つのCHLは、China Telecom(HK)として香港とニューヨーク証券取引所に上場済で、2000年4月の中国通信産業再編時に改称したもので、広東・福建・江蘇・浙江・河南・海南省の6省政府設立の地方携帯電話会社への投資企業である。別に本来の「中国移動通信集団(China Mobile Communications Corporation : CMCC)」も携帯電話事業を行ってきているが、CHLは10月4日に北京・上海・天津・河北・遼寧・山東・広西の7市省の携帯電話事業(加入数1,540万)を328億ドル(現金102億ドル、株式226億ドル)でCMCCから買収する(具体的にはその子会社China Mobile Hong Kong: BVIを通じて)と発表した。従来の加入数2,390万と合わせるとCHL傘下の携帯電話は約3,900万(全体の56%)に達する。CHLはこの際66億ドルの新株を発行し、そのうち25億ドル(持株比率2%)は英国のVodafoneが引き受ける(現金支払い)、また転換社債6億ドルも発行し、15億ドルの銀行借入れを行うをと発表した。

 今や移動通信企業世界第1位と第2位になったVodafoneとCHL(加入数6,600万+3,900万=105百万)は、(1)経営経験の共有と人材交流、(2)中国移動通信技術に対するVodafoneの技術協力と免許、(3)加入者管理、マーケティング、ブランド管理、ネットワーク運営、モバイル・データ・アプリケーション/サービス等の業務協力などについて協力覚書を結び、2001年2月28日までに詳細条件を詰めることとした。

 なお外資系通信サービス企業中国基幹通信網市場参入の第1号はAT&Tと目され、A.コブラーAT&T China社長は、近く上海でIPブロードバンド・サービスの提供を開始できると語っている。

 中国のITビジネス志向は熱狂的だが、現状での香港・本土間格差は大きい。中国のベンチャー約160社と内外のベンチャー・キャピタル約70社の参加を見込んで9月29日に北京で開催された「ネットワーク・ベンチャー出資引受権競売会」は、成約0で失敗に終わった。

 WTO加盟に伴う通信法制の整備は、10月9日からの5中全会(共産党第15期中央委員会第5回全体会議)にかけられるが、事前に新しい「インターネット情報サービス管理規定」が発表された。インターネット規制の主管を国務院新聞弁公室と定めたほかは社会治安の障害となる情報を規制する従来方針と変わらないようである。


顧問 高橋洋文(編集室宛:nl@icr.co.jp)

(最終更新:2000.10)

このページの最初へ


InfoComニューズレター[トップページ]