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世界の通信企業の戦略提携図(2000年9月4日現在)

40. テレコム・イタリア(TelItal)のマルチメディアグループ形成

 テレコム・イタリア(TelItal)は2000年8月上旬、インターネット子会社Tin. itと電話帳出版会社Seatパジネ・ジャッレ(Pagine Gialle)と合併させる方針と時価総額約360億ドルの合併会社Seat/Tin.itを通じて時価総額約500億ドルのTV会社テレモンテカルロ(Telemontecarlo : TMC)の株式75%を買収する計画を決めた。成立すれば加入数約300万、ヨーロッパ第3位のインターネット企業がイタリア第3のテレビ会社を傘下に収め、汎欧マルチメディア事業の中核を目指すことになる。

 TMCはチェッキ・ゴーリ(V. Cecchi Gori)が所有する映画配給最大手企業で、TMC1、TMC2の全国ネットワーク2系統を運営している。イタリア紙はSeatが当初TMC株式の60%を得てチェッキ・ゴーリの持株比率は40%以下となり、その後Seat/Tin.itの増資引受権行使によってTelItalの影響力が増すと伝えたが、最終的構図は必ずしも明瞭ではない。それはイタリアの放送業界が現在公共放送RAI(RAI 1-テレビ視聴率約22%、RAI 2-同約16%、RAI 3%-同約12%)、民間放送メディアセット(Mediaset: Canale5-テレビ視聴率約22%、Italia 1-同約12%、Rete 4ー同約10%)によってほぼ2分され、RAIは競争促進の現アマート政権の下TelItalの放送事業進出を後押しするが、メディアセットを率いるベルルスコーニ元首相は野党連合としてマッカニコ法(legge Maccanico)を楯に猛列に反対するからである。1997年7月に制定されたマッカニコ法は通信企業が放送番組制作にかかわることや直接・間接的に地上波放送の事業免許を得ることを禁止しており、野党側はTelItal陣営のTMC買収は明白なマッカニコ法 違反とするが、与党側はIT革命の進展によってメディア状況は変わっているとしてマッカニコ法改正を準備中である。

 ヨ−ロッパのメディア業界は放送のディジタル化と高速化(インターネット接続)への対応で再編成が始まっており、メディアセットは2000年2月にドイツのメディア大手キルヒ・グル−プと戦略的提携を合意した。また、イタリアの通信業界ではローカル網開放、優先接続、電話番号ポータビリティなどの懸案処理が迫り、12月に次世代(3G)携帯電話付与を控えており、TelItalのTMC問題決着には時間がかかりそうである。

41. ドイツの次世代携帯談話(3 G)免許競争入札結果

 最近のIDC報告書によれば、西欧の携帯電話加入数は現在の約2億が2004年には約3億になり、モバイル・インターネットによる電子商取引(mコマース)は現在の377億ドルが2004年には512億ドルになると言う。西欧ではニュースや旅行情報の入手、ショッピングなどWAPベースのアプリケーションの普及が期待され、その前提として次世代(3G)携帯電話免許の獲得戦がますます熱くなっている。

 ドイツの次世代携帯談話(3 G)免許競争入札は、2000年4月28日申込受付付、5月31日資格審査結果発表、7月31日開始で入札が173回行われた結果、8月17日に落札者6社(表参照)が確定した。

 入札対象は10MHz×12周波数帯域だが、最低2×10MHzないと採算がとれないことから2帯域以上の落札者に免許が与えられる。12社が申込み小企業Netsを除く11社が入札資格を得たものの、直前にVivendiが退出したため6免許を10社が争う形となった後、開始前に TalklineとWorldComが下りHutchison子会社がE-Plusに合流して、実際は6免許を7社が争う入札となった。入札総額が278億ドルに達した8月11日、Swisscomの子会社Debitel Multimediaは第127回入札に参加せず、落札者との提携希望を表明した。6免許に6社となってもT-MobilやMannesmann Mobilfunkのように3×10MHzまたは2×15MHzの獲得を目指す者もいて、スローダウンしつつも入札が続けられ、第173回でようやく決着したものである。入札総額は英国の353億ドルを遥かに上回る468億ドルに達した。

 決着の翌8月18日に付加周波数帯域5×MHzの入札が行われ、辞退したViag Interkom以外の5社が5免許を得て、ドイツ政府には260億ドル入ることとなった。さらにE-Plus HutchisonのパートナーHutchison Wampoaが免許の落札コストが予想以上だったとして、合弁事業から離脱すると発表した。落札者は10日以内にすべての金額を支払う必要があり、穴を埋めるべきKPNは金策に追われ、BellSouthも思わぬ負担増を背負うことになった。

 欧州通信企業は3G携帯免許で膨らむ資金需要を債券発行で賄っており、今年になってFT、KPN、DTが大型発行に踏み切って、格付け会社からの格下げも招いている。ゾンマーDT会長は高額の携帯免許料は競争を促進するより統合を促すとみている。

 ドイツに続いて11月に3G携帯電話免許交付を決定するフランスとイタリアは、完全競争入札ではなく第一次書類審査(Beauty Contest)合格者が第二次審査で入札を競うこととしている。フランス政府は8月18日に第一次審査基準を発表し、イタリア政府は9月1日に第一次審査合格者を発表した。フランスの第一次合格者は既存事業者FT、Cegetel、Bouygues Telecomと新規参入事業者Suez Lyonnaise des Eaux/Telefonica組、DT、KPN/NTT DoCoMo/Hatchison Wampoa組の6社と予想される。イタリアの第一次合格者は既存事業者TIM、Omnitel、Wind、Blu、新規参入事業者Andala(H.Wampoa系)、Ipseコンソーシアム(Telefonica、Soneraなど参加)、Tu Mobileコンソーシアムの7社であった。

42. 危機に瀕するインドネシアの通信自由化

 99年9月8日に改正されたインドネシアの新通信法(Telecommunication Law No.36 of 1999)は2000年9月8日に施行される。
 インドネシアは、99年6月の総選挙と10月のワヒド大統領選出によって独立以来初めての平和的政権交代を実現し、国民融和と独立・分離問題 や経済安定化と再生などに取り組んできたが、民主主義・憲法改正・国軍改革・法の支配・清潔な政府・広汎な自治など課題が山積し、東チモール独立の波及/マルク・アンボン宗教暴動/アチェ独立など紛争が続いて未だに安定していない。

 新通信法は、WTOの通信自由化の枠組みに適応するため98年5月以前のスハルト時代から検討され、ハビビ大統領時代に成立し、現政権下で政省令が整備されたもので、(1)免許主義のもとすべての事業者は平等、(2)包括的なサービスの定義、(3)すべての網提供者・サービス提供者にユニバーサルサービス義務、(4)すべての通信事業者を外資に開放(外資法により上限は95%)などの基本的な枠組みは開放的だが、政省令など具体化レベルでは制限的で、経済情勢の逼迫とあいまって新体制の整備は順調・平明に進んではいない。

 旧通信法(Telecommunication Law No.3 of 1989)の1993年体制では、国内事業者PT Telekom(TLK)は市内電話について2010年まで、国内長距離電話について2005年までの独占権が保障され、国際事業者PT Indosat(iiT)と新規事業者PT Salindoは2004年まで国際通信の複占が認められてきたが、最近PT Telekomの市内独占は2002年8月、長距離独占は2003年8月までと独占終結が繰上げられた。TLKとITTはニューヨーク証券取引所に上場済だが、経営が順調でないため、時価総額はそれぞれ36億ドル、9.7億ドルに過ぎない。

 現在最も問題なのは固定網インフラ拡充のため導入されたKSO方式(kerja sama operasi )によるの5KSOコンソーシアム(99年3月現在)の運営である。

(KSOコンソーシアム名)(地域)(目標回線数) (達成回線数)
Ariawest International西ジャワ500,000299,458
Pramindo Ikat Nusantaraスマトラ517,487297,290
Mitra Global Telekom Indonesia中部ジャワ400,000403,500
Daya Mitra Malindoカリマンタン237,000120,000
Bukaka SingTel東インドネシア403,000251,300
合計2,057,4871,371,548

(KSOコンソーシアム名)(自己資本)(債務残高)(参加外資)
Ariawest International$120M$270MAT&T
Pramindo Ikat Nusantara118194FT、丸紅
Mitra Global Telekom Indonesia200260Telstra、NTT
Daya Mitra Malindo46106C&W
Bukaka SingTel83164SingTel
合計567994

 KSO方式はBOT(Build, Operate&Transfer)、つまり外資との合弁プロジェクトによって1996年から2010年までの長期にわたり電話拡充投資を行い、事業を運営してTLKに最適月額と収益分配金(30%)を支払い、最終的に資産を引き渡す合意で、担当地域内の既設電話も運営するところに特徴がある。ところが経済危機の影響で99年3月までの200万加入増設の実績が130万に止まったうえ、TLK独占終結が繰り上げられ将来のキャッシュフロー減少が52億ドルと予想されるため、協定の打ち切りとTLKに対する損害賠償請求の動きが出て来た。Ariawest Internationalの9月13日株主総会を皮切りに提訴はこれから公式に決まるが、国際裁判が始まるとインドネシアの電話拡充計画の失敗に止まらず、開発途上国一般に対するWTOの通信自由化・拡充メカニズムへのマイナスインパクトが懸念される。

 21世紀における国連の役割を討議するミレニアム・サミット(2000.9.6-8)の事務総長演説は、「欠乏からの自由」のなかで途上国にIT革命の恩恵をもたらすため『ディジタル・ブリッジの建設』を訴えたが、国際協力の核が政府から民間に移る時、民間/官民混合投資の紛争解決メカニズムも用意されなければならない。


顧問 高橋洋文(編集室宛:nl@icr.co.jp)

(最終更新:2000.9)

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