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世界の通信企業の戦略提携図(2000年8月3日現在)

37. ドイツ・テレコムの米国市場進出

 ドイツ・テレコム(DT)は2000年7月24日に米国の携帯電話会社ボイスストリーム・ワイヤレス(VoiceStream Wireless:VS W)を507億ドルで買収する合意を発表した。ボ ーダフォン・エアタッチが4月12日に完了したマンネスマン取得後の新体制について7月27日株主総会で承認され(社名をボ ーダフォンに変更)、99年10月5日に合意されたワールドコムのスプリント買収が規制上の理由で7月13日に破談になった後、DTのVSW買収は残る大規模M&A案件のなかでは大いに注目される。

 注目点の第一は、現在約8,000万加入に及ぶ米国携帯電話サービス市場は、ベル系大手ベライゾン・ワイヤレス(ベル・アトランティック+GTE: 約2,400万加入)、SBC/ベルサウス連合(約1,620万加入)、AT&Tワイヤレス(約1,220万加入)3社と、独立系準大手のネクステルとVSW(各約300万加入)2社による寡占状態であり、特にVSWは欧州GSM規格唯一の大手であることから、DTの買収対象として最適なことである。

 注目点の第二は、DTによるVSW買収に関し米連邦議会において「外国政府が大株主の企業による通信企業買収を禁止する」法案が上程され、EUのラミー通商担当委員がバシエフスキーUSTRに、「かかる阻止法はWTO協定違反であり新たな米欧摩擦になりかねない」と警告する書簡を送ったこである。

 DT/VSW合意は、VSW1株に対しDT3.2株と現金30ドルを支払い、DTがVSWの債務50億ドルを引き受けるもので、買収手続完了目標を2001年前半としている。DT株式に占めるドイツ政府持株は現在の58%から45%に下がる見込みだが、米国側はなお政府が筆頭株主に留まることを問題視している。

 もともとDTはグローバル・キャリアーの必要条件として米国拠点確保を希望しており、QwestやUSウエストに食指を動かし、またワールドコム/スプリント破談の気配にスプリント買収に動いたと見られる(上記阻止法案はこれに対するもの?)。DTは2000年4月にISP事業T-Onlineの株式上場・10%売出しを行い、VSW買収に成功して移動通信事業の拠点を得ても、なおデータ伝送ないしIPネットワークの拠点は必要であり、政治的駆引きは続くだろう。

 DTの株価は、VSWの買い値が高すぎるとして、合意直後に20%下がった。DTには、移動通信事業の国内子会社T-Mobil、英国子会社One2One、オーストリア子会社max.mobilを束ねるT-MobileInternationalの上場・公開予定もあるが、延期の噂が流れている。一般に弱含みの株価情勢下でも、トップクラスの通信企業の株価は堅調であるが、2000年4-6月期家庭用長距離通信サービス収入が前年同期比−7%を記録し株価低調なAT&Tに次いでDT株価は低迷している(「世界の情報通信サービスプロバイダーTop20(2000年7月末)」参照)。

 AT&T株価は、携帯電話とケーブルテレビの成長で増収増益と言う第2四半期決算の発表にも関わらず、2ヶ月に30%下がっている。その間BTは−5.5%だが、年初からの下げ値は40%に達し、国内ネットワーク事業の分割を検討中と伝えられる。

 伝統的企業が低調なのに、買収破談になったワールドコムの時価総額4%増が目立つ。成長基調が続く限り、リスクテイクを止めることは寧ろプラスと評価されるのかも知れない。一方、破談後我が道を行くとしているスプリントの市場評価は、有力幹部や従業員の流出によるものか下がっている。

38.音楽ネット流通の著作権問題

 2000年4月28日に「MP3ドット・コム(.com)社の「マイMP3サービス著作権侵害事件」のニューヨーク南部連邦地裁判決が下され、2000年6月26日に「ナップスター(Napster)社のファイル交換ソフト提供サービスを著作権侵害により停止する」北部カリフォルニア連邦地裁仮決定が下され、今や米国で音楽ネット流通著作権問題がホットになっている。

 MP3はインターネットから音楽をCDなみの音質で取り込む技術、Napsterは他人のパソコンにある音楽を検索し取り込むファイル交換ソフトである。

 MP3とは1988年に設立されたMPEG(Motion Picture Experts Group :ISOで 動画像の圧縮に関する国際標準化活動を行う組織)が開発した蓄積メディア向け動画像符号化方式MPEG1のオーディオ部分レイヤー。データ圧縮方式の通称。MP3技術は音楽を圧縮して高音質でネットワーク上を流通させる基盤技術で、1992年に国際標準が定められた。利用者が購入したCDをMP3技術を使ってネット上のサイトに預け、利用者が自分のCDをコピーしてサーバーのロッカーに収めて音楽を聴いても問題はないが、MP3.comが2000年1月に始めた「マイMP3.com」サービスの一部である『インスタント・リスニング・アンド・ビート・イット(Instant Listening and Beat It)』は、著作権者に無断で予め作成したディジタル・ライブラリーに利用者をアクセスさせるもので違法になる。この新サービスは当初系列外の独立著作権者で利用を認めるものもあったが、利用がメ-ジャ-・レ-ベルに及んで、11レコード会社が2000年2月11日にニューヨーク南部連邦地裁に提訴したものである。ジェド・S・ラコフ判事は「本件は複雑なサイバースペースがあやなす難しい法律問題でも何でもなく、MP3.comが蓄積している音源は無許諾の複製であり、著作権侵害は明白」との判決を下した。

 一方Napsterは、99年5月設立のNapster社サーバーに自分の音楽ファイルを登録のうえ聴きたい曲名を打ち込むと、ソフトウエアの働きにより同社のサーバーが他人のパソコンから探し出し送信してくれるサービスである。従来から友人同士でCDの貸し借りをしてきたところに登場して開始後10ヶ月で利用者が1,000万を超えるほど普及したため、大手レコ-ド会社とアメリカレコード協会(Record Industry Association of America : RIAA)は、著作権者に無断のCD複製・交換は著作権侵害に当たるとして99年12月に提訴し、2000年6月12日に著作権侵害の温床であるNapsterサービスの停止仮決定(Preliminary Injunction)を求めた。Napsterサービスは数百万のユーザがインターネットでつながり音楽ファイルを共有しようとCDの貸し借りと同じで同社は関知しないとの立場をとって来た。北部カリフォルニア連邦地裁のマリリン・H・パテル判事は放置しては原告が回復し難い損害を受ける恐れありとして、6月26日にNapsterサービス停止の仮決定を下したが、これを不服とするNapsterの上訴を7月28日にサンフランシスコ連邦高裁が認めたため、決着は業者間の話し合いか最高裁行きか、遅ければ年末までかかる先送りになった。

 MP3.com/Napster著作権問題はディジタル技術による著作権秩序の破壊を象徴する。ベルヌ条約体制は、著作物の作成者が複製技術を独占できる前提で、著作権者が絶対優位を保ちつつ、著作物の使用(読む、受信する)を著作権の行使と無関係な行為とし、私的使用(つまり自由なコピー)を認めるなど、エンド・ユ-ザを権利行使の対象外に置いて来た。ところが、ディジタル環境にあっては基本的に著作物は流通と消費の過程で増殖し、著作者は著作物をコントロールし難くなり新しい対応が必要である。ユーザが自由な私的使用を貫けば音楽の生産体制が維持できなくなり、著作権の行使を厳格に追求することは消費者主権に逆行する。要するに「フリーな感覚」が演出され、ユーザがそこそこの負担で好む音楽をダウンロードできれば良い解決と考えられる。

 米国で裁判が進行しているとき、日本では日本音楽著作権協会(JASRAC)、マルチメディア業界、ISPなどが音楽ネット配信著作権使用料について大筋で合意し、大手レコード会社と電子メーカーによる音楽配信技術標準化団体(Secure Digital Music Initiative : SDMI)が体制づくりに努め、レコード大手10社がインターネットによる音楽配信管理会社を設立し、実態的解決が図られつつある。

39.グローバル移動衛星通信の将来

 低軌道衛星グローバルスターによる移動通信サービスが2000年8月3日にロシアで開始された。通信インフラが不足する国であればこそコスト高の低軌道(LEO)衛星が採用されたのだが、モスクワ、ノボシビルスク、ハバロフスクに関門地球局を置き、バルト海から大平洋に至る広大な地域に対して当初は基本電話サービス、ボイスメール、ショート・メッセ-ジ・サ-ビスを提供し、2001年初めからファクシミリとデータ・サービスを提供する。システム運営は、足回りの地域網を含めグローバルスターとロステレコムの合弁会社グローバルテル(GlobalTel)によっており、電話機価格は1,000ドル以上、国内通信料金は1分1.2〜2ドルである。

 グローバルサービスのコストは営業停止のイリジウムの1分当たり1.44ドルに対してグローバルスターは1分当たり90セントにとどまっており、問題はサービス品質で、グローバルスターにはユーザが利用中の回線数を把握する中央管理システムがまだないと言われる。また、初期投資額の当初見積もり9億ドルが衛星開発コストが30億ドル以上かかったため増大し資金環境を悪くしている。2000年6月に行った2.5億ドルの借り換えで年内は見通しがあり、現在もキャッシュ・フロー改善策折衝中である。

 グローバルスターのサービス対象は現在40カ国で、年末までに100カ国に達する見込みである。販売目標の第一は過疎地に縁が深い中級ビジネスマンとし、第二は海運、林業、鉱山、建設の諸産業としている。

 世界一級メーカーのローラルとクアルコムが創業者で、Alenia、China Mobile、DACOM、DaimlerChrysler Aerospace、Hyndai Vodafoneなど出資するグローバルサービスは危機を脱して安定経営を志向しつつある。

 ユーロコンサルトが6月に発表した「2000年衛星通信・放送市場調査」によれば、イリジウムは余りにも狭いニッチ市場を目標にして大失敗し、そのショックが大きくて現在検討中の27移動衛星通信プロジェクトは当分模様眺めと言う。

 開発費のかさむ 大型LEOに代わって、小型の静止軌道(GEO)衛星による二つの移動衛星通信システムが登場した。第一のアジア移動衛星システム(Asian Cellular Communications SysteLtd :ACeS) は、インドネシアのPT Pasifik Stelit Nusantara、フィリピンのPLDT、タイのJasmine InternationalとLockheed Matin Global Telecommunicationsの合弁事業で、2000年2月にガルーダ1号衛星を打ち上げ、現在テストちゅうである。当面1衛星で運営して低コストに徹し、200グラムの軽量電話機による利用促進を目論んでいる。

 第二のスラヤ衛星システム(Thuraya Satellite Telecommunications Co)はアラブ首長国連邦のEtisalat、Abu Dhabi Investment、Qatar Telecom、アラブサットなどのアラブ企業が出資し、1衛星を9月に打ち上げ、運営はイラン電気通信会社(Telecommunications Company of Iran : TCI)に委託する。

 「こうした地域システムのほか、インマルサットから分離してグローバルサ-ビスを準備中のニューICOも、LEOではなく中軌道衛星(MEO、軌道高約10.000km)を採用する。99年8月から準備中のICO(既報No.6参照)はC.マッコー中心の再建計画(既報No.15参照)が2000年5月に破産法裁判所によって承認され、別途計画されて来た広帯域移動通信衛星テレデシック(メガコンペティションは今?No.9参照)との持株会社統合が2000年7月に行われた。2003年開始のグローバル・パ-ソナル移動通信サービスを提供するNew ICO Global Communicationsと2004年目途に広帯域通信網を計画するTeledesicを統合する持株会社ICO-Teledesic Global Ltd.が設立され、C.マッコーが会長に、前CWC( Cable&Wireless Communications)CEOのG.クラークがCEOに就任した。」

 ユーロコンサルトは世界移動通信衛星市場を2004年350万加入、2005年450万加入と予測し、バンク・オブ・アメリカ証券はずっと強気に2005年1000万加入と予測するが、いずれにせよ移動衛星通信の将来の見方は4〜5年前とまるで変わってしまった。


顧問 高橋洋文(編集室宛:nl@icr.co.jp)

(最終更新:2000.8)

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