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世界の通信企業の戦略提携図(2000年7月3日現在)

34. IPネットワ−クのアウトソーシング

 IPネットワーク時代には多くのことが変わる。例えば、独禁訴訟で分割命令を受けたマイクロソフト(MS)は、控訴手続で忙しい2000年6月22日に新しい次世代インターネット戦略「マイクロソフト.ドット・ネット(.Net)」の概要を発表した。例のMS戦略で、実物の提示抜きにアイディアないし幻(vaporware)が説明され、2001年発売の新OS「WINDOWS.Net」により様々な規格のディジタル機器をネットに接続でき、情報検索・更新ができる、.NetソフトはPCだけでなくサーバー、データベース、端末などネットワーク中に所在すると言うが、新しいネット情報システムのプロフィールははっきりしない。 その点では既報(No.21)のロイター(Reuters)/エクアント(Equant)合弁セキュリティ保証金融情報サービス、ラディアンツ(Radinanz)の新奇性も分かり難いが、以下の通りである。

 ラディアンツ(Radinanz)はロイターが51%、エクアントが49%出資して2000年6月に設立した合弁企業で、120カ国の金融市場に金融情報・取引サービスを提供する。Radinanzに対しReutersはセキュリティ関連の通信網資産1.05億ドル相当を引き渡し、金融界から現金が年間2,500万ドル入るようにした。一方EquantはRadinanzに長期契約で年額1億ドル相当のネットワークサービスを供給するほか、金融界から収益年間2,500万ドルが得られるよう1.25億ドル分の別途のサービスを供給することとした。Radinanzの従業員500名中400名がReutersから移るのだが、雇用法規に触れないよう「見込まれた希望による転出」と言えるようアウトソーシング契約は構成要素レベルにバラして吟味するなど、合弁の仕組みはかなり複雑である。

 このアウトソーシング契約の焦点は、従来の「一括委託」による網管理喪失感に陥入ることのないよう、顧客が望むコントロールを利かせることにあり、私設線・専用線ベースのコストを負担せずに公衆網利用のプライベ−トIP網を実現することにある。これはヴァーチャル・プライベート網(VPN)にウェブ・ホスティングを持ち込んだものにほかならない。IT専門技術者が不足している時eビジネスの全業務過程にコントロールの手応えあることが重要である。

 RadinanzはReutersのコンテンツと顧客ベースおよびEquantの通信インフラを組み合わせて金融界のB2Beビジネスサービスを実現する。Radinanz合弁は10年契約で、発足後2年は赤字覚悟だが、将来は年商4億ドル以上を目標にしている。

35. ビベンディのシーグラム買収

 フランスのビベンディ(Vivendi)と傘下の地上波有料テレビ、カナル・プラス(Canal + : CP、Vivendi 49%出資)は、2000年6月20日にカナダのシーグラム(The Seagram)との株式交換合併によりグローバルメディア通信企業ビベンディ・ユニバ−サル(Vivendi Unversal : UV)を設立すると発表した。

 株式交換は「テレビ会社に49%以上出資してはならない」とのフランスの法律に従うため複雑な手続きを行うが、ビベンディ1株110ユーロ、シーグラム1株75ユーロ、カナル・プラス1株220ユーロと評価して交換し、終了する年末時点で新会社UVの資本構成はビベンディ株主59%、シーグラム株主24%、カナル・プラス株主12%となる見込みである。UVの時価総額は現在340億ドル、総売上高は2000年ベースで550億ドルに達する。

 UVは本社をパリ、第2本社をニューヨークに置き、ビベンディの高速無線網・インターネットアクセス網・CATV/衛星通信網、シーグラムの音楽・映画・テレビ番組ストックと制作・配給能力、カナル・プラスの映画・放送・有料テレビ資産を結合して運営する。UVの取締役定数は20名で、ビベンディからはUV会長兼CEOになるジャン=マリ・メシエ会長とUV副会長になるエリック・リコイCOO兼アッバス(Havas)CEOを含む14名、シーグラムからはUV副会長になるエドガー・ブロンフマン・ジュニアー会長を含む5名、カナル・プラスからはUVのCOOになるピエール・レスキュ社長の1名で構成される。

 新会社創設前の1998年ベースで、ビベンディの売上高構成は環境サービス(水道・ゴミ処理・エネルギー・輸送など)48.7%、建設・不動産32.5%、通信18.8%であり、UVは情報通信の高成長に期待しつつ環境サービス等の従来業務も維持していく。一方、シーグラムのスピリッツ部門(ウィスキーなど蒸留酒の製造・販売)はやがて売却することとなろう。  ビベンディとボーダフォン・エアタッチのマルチポータルサイト合弁企業ヴィザヴィ(Vizzavi)は6月19日のフランス語版を皮切りにパソコンとWAP対応携帯電話に対する情報配信を開始した。当面はカナル・プラスのスポーツ・映画・生活情報、アッバスのゲーム・知識情報を中心とするが、英語・スペイン語・北欧・オランダ語・ポルトガル語と版を増やし、やがてはシーグラム系の情報にも拡大しよう。米国生まれのグローバル・メディアAOL/TWMに対抗できるヨーロッパ出身グローバル・メディアとして期待されている。

 ただUVの誕生をもってネットワーク・メディア融合のビジネス・モデルが確立したと見るのは早計で、モバイル・コンピューティング/メールグラム/データ放送/ディジタル放送・・・など多様な情報通信メディアの競合と融合の展開と収斂は今始まったばかりと考えるべきである。

 たまたま今月の焦点として、グロ−バル・キャリア−のM&Aでワールドコムのスプリント買収が米国・EUの独禁当局から承認されず計画変更に向かう、とすればドイツテレコム(DT)がスプリント獲得に乗り出すかなどの問題、また、米国でAT&Tやワールドコムが個人向け長距離電話サービスの事業分離を企てていることなど、ネットワーク分野のさまざまな動きが注目される。

36.中国のインターネット市場拡大の課題

 このところ中国の通信自由化はWTO加盟問題と連動してきた。
 中国政府は99年3月から中国電信(China Telecom)4分割を検討してきたが、まずページングを分離の上(国信尋呼Guoxin Pagingはその後Unicomに併合された)、2000年4月に市内・長距離・国際電話を提供する「中国電信集団」と移動通信を提供する「中国移動通信集団」を発足させた。2~3ヶ月後に衛星通信会社が設立されると競争対応の再編が完了する。
 米中合意(99.11.15)ではWTOの基本通信協定(Agreement on Basic Telecommunications)と情報技術協定(Information Technology Agreement )に署名するとしたが、2000年5月19日のEU中国合意では、次の通り通信市場を開放するとした。
  • 中国のWTO加盟と同時に移動通信合弁企業の25%まで外資の参入を認め、その1年後に35%まで、3年後には49%まで外資の参入を認める。
  • 現在の通信トラフィックの75%以上を占める都市間の通信サービスに外資の参入を認める。
  • 3年以内にVAN市場を開放し、外国企業が中国の通信事業者から回線を借りて国内・国際通信サービスを再販売できるようにする。
  • 中国の第2電電China Unicom(中国聯合通信)の「中−中ー外」提携解消について、FT・DT・TelItalなどは、中国のWTO加盟後再びUnicomのパートナーとして携帯電話事業に出資できる。
 以上により米国議会下院は5月24日『対中恒久最恵国待遇付与法案(PNTR)』を可決し、中国の円満なWTO加盟の道が開けた。

 中国信息産業部(Ministry of Information Industry : MII)は通信自由化の基本法規「電信管理条令」を起草し国務院に提出済みで、近く公布されるものと見込まれる。第1類(基本通信事業)と第2類(それ以外のVAN事業)に分類して、第2類はすべての企業に開放するが、第1類は国有企業または国有企業の出資企業のみ経営できるものとし、外資が経営権を握ることは認めないと言われる。

 2分法による規制の強弱という考え方はインターネットについても同様である。

 中国のインターネットは国務院令第195号『コンピュータ通信ネットワークの国際接続に関する管理暫定規定(96.2.14.)』により、直接国際接続するコンピュータ通信ネットワーク=相互連結網(Interconnecting Networks : IN)とINに接続して国際接続する計算機ネットワーク=接入網(Access Networka : AN)に分けて管理されている。国務院令第195号第5条は、国務院経済情報化指導委員会が具体的管理方法を制定してIN、AN、国際データ接続提供機関、ユーザの権利、義務と責任を明確にし、国際接続実施上の検査監督の責任を負うこと、同第6条はINの国際接続はMIIが管理する国際データ接続ポイント(ゲートウエイ)を通るものとすること、同第8条はANはINを通じて国際接続を行わなければならないこと、同第10条はユーザはANを通じて国際接続を行うこと、それぞれ定めている。最近中国ではインターネットが急速に普及し、ISPは1年前の200程度から600 以上になったと言われるが、CNNICが発表した『中国インターネット発展状況統計(第5次報告)』(2000.1.18.)によれば、1999年末現在ISP許可証の発行数は520件であり、そのほとんどANで、INは次ぎの通り6に過ぎない(図参照)

略号 ネットワーク名 帯域幅
(MHZ)
概要
CHINANET 中国公用計算機互聯網
291
旧郵電部が設立、今MII管理。ほとんどの商用ANがぶら下がり、最大。
CERNET 中国教育和科研計算機網
8
旧国家教育委員会が93年設立。学術系。
CHINAGBN 中国金橋信息網
22
旧電子工業部のGolden Bridgeプロジェクトで設立。今MIIが管理、吉通通信が運営。
CSTNET 中国科技網
10
中国科学院が設立。研究用。
UNINET 中国聯通互聯網
20
第2電電Unicomが設立。
CNCNET 中国網通信息網
鉄道部、上海政府等が出資し、現在7,000kmのIP基幹網を建設中の第3電電China Netcom Corp.(中国網絡通信)が提供。

 しかし、1999年1年間で4倍以上増えて890万に達した中国のインターネット利用者数は、2000年上半期に100万以上増えて現在1,000万を突破した。CNNIC報告によれば接続コンピュータ数350万、ドメインネーム48,695と普及のうえ、アンケートに見るインターネットに対する不満では、「中国語の情報が少ない」との回答が1年前の49%から7%に急減しており、中国におけるインターネットは軌道に乗ったと言えよう。

 今の急成長がそのまま続けば2003年6月にはユーザ12億と、国民的メディアになる。MIIは2000年のインターネット発展目標を(1)中国Internet Exchangeの建設とIP基幹網相互接続の促進、(2)回線総容量を351Mから1Gに増加、(3)中国語コンテンツ拡充の積極的支援としている。いずれ変曲するとしても中国のインターネットの成長はANやINの増加を含め当分続くことだろう。

 問題の一つは情報の自由の取り扱いである。すでに国務院令第195号第13条は「国際接続を行う者は・・・違法・犯罪活動を行ってはならず、社会治安の障害となる情報およびポルノ情報を制作、検索・閲覧、複製、発信してはならない。」と定めているが、新たに『コンピュータ情報システム国際ネット機密保護管理規定』が制定され(2000.1.26.)、機密を扱うコンピュータのネット接続禁止のほかニュースネットの設立やニュースの審査・認可が規定されたため、グレイゾーン部分の運用を中心に規制のあり方が注目される。


顧問 高橋洋文(編集室宛:nl@icr.co.jp)

(最終更新:2000.7)

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