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世界の通信企業の戦略提携図(2000年5月8日現在)

28. 株式市場の変調とメガ・キャリアーの戦略展開

 21世紀に向けて情報通信産業の主要テーマは、需要サイドで(1)グローバル化の進展、(2)企業経営の環境変化、(3)通信需要のインターネット/モバイルへのシフト、供給サイドで(1)伝送路のブロードバンド化、(2)インターネット/無線技術の革新、環境サイドで通信自由化の進展とされている。メガ・キャリアーはこうした課題のすべてに直面しており、フォーカス&スピード、ネットビジネス経営の具体化に取り組んでいるが、とりわけ最近の株主市場の変調*に対応する株主価値(株価総額、時価総額)重視経営の実践に迫られている。
*The Economist(May 6,2000):Taming of the shrewd

 世界の情報通信産業においては、97年秋のBT対ワールドコムMCI争奪戦を皮切りに、株高を背景にした株式交換による巨大合併が活発に展開されてきたが、今やジョージ・ソロス、ジュリアン・ロバートソン、ウォーレン・バフェットなど著名な投資家が匙を投げるほどの株式市場の変調 を前に、経営者が智恵を絞る時がきた。メガ・キャリアーの近況を2000年4月末現在の「世界の情報通信サービス・プロバイダーTop20」で見ると(表1参照)、各企業の時価総額は99年9月末より高くなっているものの上昇率は抑えられている。   株価変調の一例は、米国株急落に端を発した世界株式市場の変調が小康状態に入った 5月初めのAT&T株価急降下である。AT&Tが5月1日に2000年第1四半期収入実績の不調を報じ、年間収入予測8〜9%を6〜7%に下方修正したため、5月2日に株価が$41.875へと13%下がって株価総額は$1,340億になった(表ではAT&T本体にMedia Oneを加え4月28日終値で$1,950億と表示)。

 AT&Tは業績不調の原因を、家庭利用長距離通信サービスの伸びがインターネットの影響を受け、競争激化でビジネス分野収入が期待ほど成長しなかったためとしている。AT&Tの株価はこの2カ月間おおむね下がり傾向だったものの、4月12日の急落を17日の底から回復して月末には$50に近づいていたところであった。

 4月27日にニューヨーク証券取引所(NYSE)に上場した携帯電話事業AT&Tワイヤレスの業績連動株(tracking stock)も、公開価格$29.5に対し5月1日終値$34.5が$32.25に下がった。業績連動株は事業を分離・独立(spin-off)することなく高成長事業に相応しい高い株価を実現する手法なので、果たしてAT&Tが所用の建設資金$106億を調達できるか、株価の展開が注目される。

 このAT&Tの値下がりは他の通信株に波及し、NYSEのダウ工業平均は$80.66下がって$10,731.1になった。

 MCI WorldComは、4月13日に企業向け電子商取引ソリューション事業計画を発表した。従来からのネットワーク/アクセス事業に、ターンキー・ウェブ・ソリューション、ウェブ・ホスティング、特注ウェブ・ソリューション、Eビジネス・ツールキットの4事業を加えて脱通信を目指すものである。新事業計画は証券筋から株価つり上げ策とも見られたが、4月12日に$37.75に下がった株価は4月末に$45.44まで回復したものの、9年6月11日の最高値$64.511にはほど遠く、NASDAQ弱気市場代表例の一つになっている。

 Deutsche Telekom(DT、ドイツ・テレコム)は、そのISP子会社T-Onlineを4月17日にドイツ版NASDAQ「ノイエ・マルクト」に上場したところ、世界的株安のなかで売出価格27ユーロを39%上回る37.5ユーロの初値がついた。DTがT-Online株式の10%を売り出したのは、そのヨーロッパ展開を目指して提携先を求めるからである。DT本体の政府持株(復興金融公庫保有分を含む)は現在60%を超えるが、一部を6月19日に売り出す予定である。これも政府持株が50%未満となればメガ・キャリアーとの戦略的提携が容易になるからで、最後の大物DTのM&Aが実る日も遠くはあるまい。

 VodafoneairTouchのMannesmann買収に関連し、Mannesmannは4月17日監査役会で機械・自動車部品など非通信部門をSiemensとBoschに96億ユーロで売却することを決定し、100年の歴史を閉じることとなった。

 SBCはBell Atlantic(BA+GTE)とVodafoneAirTouchの携帯電話事業統合Verizonを見倣って、4月5日にBellSouthとの携帯電話事業統合(名称未定)を発表した。業績連動株の導入を望む声が大きい。

 BT、AT&Tおよび国際通信合弁会社Concertは2000年1月から業務を始動したが、4月5日に$20億を投じて3年間にデータ・センターを44箇所増設することを決めた。BTはヨーロッパ、AT&Tは北米、その他はConcertと世界を3分して、顧客の分担とセンター業務の協働作業を確立し、かねて発表のとおりセンターは競争キャリアーに開放する。

 China Telecom(HK)(中国移動通信)は旧郵電省現業部門China Telecom(中国電信)が75.1%出資した移動通信企業で、広東省や浙江省を始め省レベルの携帯電話事業を経営しており、成長株としてTop20に入った。

 スペインのTelefonicaとオランダのKPNは4月下旬に合併を視野に入れた提携交渉を行ってきたが、KPNが他社との提携の可能性を残し、Telefonica大株主(銀行2社)がKPNの高政府持株比率(44%)に難色を示したため流れた。

 以上略記したTop20にNextel Communications(新興無線通信サービス企業)、C&W、Swisscom、Level 3が続く。

 C&Wに関しては、既報の香港PCCWのC&W HKT買収について、PCCW株値下がりに伴うSingapore TelecomとNews 社による買収努力再燃の噂も立っているが、C&WのG.ウォーレスCEOは売却先変更の意思はないとしている。

29. 英国の次世代携帯電話(3G)免許競争入札

 英国の次世代携帯電話(3G:3rd Generation=IMT-2000)免許競争入札は、2000年1月12日申込受付、2月14日資格審査、3月6日入札開始の手順を経て、4月27日に落札者5社(表2参照、◎印を付す)が確定した。

 新規参入者用のAと既存事業者用のB、C、D、Eの各5免許に対して13社が申込み、全社資格を確認されて入札を始め、各枠ごとに入札価格が更新されなくなる続けた結果、最後までTIW UMTSとAを競ったNTLが150ラウンド目に下りたため、入札が終了した。落札価格の総計は無線電信庁見込み金額の約8倍になる£224億、$353億にも達した。

 この結果について金融業界では、英国国債の保有者には朗報だが、通信企業の社債・株式保有者のリスクは増したと反応する。Aに次いで帯域幅が広いB(A:35MHz、B:30MHz、C~E:各25MHz)免許に$94億も払うVodafone AirTouchに関し、4月第2週に社債格付けをAマイナスに下げたばかりの格付け会社S&Pはさらに格下げを検討するとしていう。

 TIW(Telesystem International Wireless )は世界的に業務用無線(SMR:Spe-cialized Mobile Radio)を提供し(現加入数約150万)、トロント証券取引所とNASDAQに上場する小企業(時価総額$19億)だが、子会社UMTS(Universal Mobile Telecommunications System)を設立するのに、長江実業とともに李嘉誠( Li Ka-shing)財閥の中心であるハチソン・ワンポア(Hutchison Whampoa)の出資を得ているので、約$70億の免許費用と無線網投資約$80億の資金繰りの心配はない。なお、ハチソン・ワンポアはOrangeに出資した$33億を99年10月に回収したところであり、Vodafone AirTouchの持株5%は今後とも持ち続けるとしている。

 英国の3G免許に恵まれなかったNTLはFrance Telecomとの提携を続け、3G免許付きでVodafone AirTouchから分離されるOrangeの獲得に意欲を燃やし、MCI WorldCom、Telefonica、KPN、NTT DoComoなどとの競合を勝ち抜きたいとしている。一方、EircomやSoneraは3G免許を獲得した5社のいずれかと提携してヴァーチャル・ネットワーク型2次通信網の形成を目指すものと見られている。

30. インターネット取引非課税問題

 米国連邦議会の下院は、5月4日の司法委員会で、1998年インターネット取引自由法の新規課税凍結条項5年延長を29対8で可決した。

 98年11月の同法制定以来行われてきたインターネット取引非課税論議のなかで最も早い具体的アクションであるが、同法が定めた3年凍結期限の2001年10月までたっぷり時間があるのに非課税問題の公聴会も開かずに凍結5年延長だけ決めたのは、共和党が大統領選挙戦でハイテク業界の支持を得るための党略だと民主党側は批判する。同法は歳入歳出委員会の発議で、暫定的に3年間新規課税を凍結してインターネット取引非課税問題を検討することとし、電子商取引諮問委員会(Advisary Commission on Eletronic Commerce:ACEC)を設置したが、1年間審議しても論議が紛糾してACEC勧告が期限どおり決まらないまま、問題が議会各委員会に移ったのである。

 ACECは19名の委員構成が州・市・郡など地方政府代表とオンライン業者で2分され、委員長のヴァージニア州ギルモア知事は地方代表つまり税務当局と税を納める業者の利害調整に苦心した。ギルモア提案も含むASEC最終方針の基本は、(1)ディジタル化に伴う新しい差別(Dijital Divide)の回避、(2)税制におけるプライバシー保護、(3)現行課税凍結の5年延長、(4)連邦売上税3%の廃止、(5)インターネット取引課税の永久禁止、(6)電子商取引非課税WTO暫定申し合わせの恒久化となったが、テキサス、ユタ、ワシントン州知事など課税維持派委員が折れないため、3月21日の委員会では、(3)〜(7)項について議会への正式勧告議決に必要な2/3の賛成が得られなかった。42州知事は4月12日にASEC勧告案の内容、特に州のインターネット取引課税永久禁止に反対する書簡を連邦議会に送った。また、小売業界は議会で、ネット取引の優遇に反対しインターネット取引に店頭販売と同様に売上税を課すことを求める集会を開いた。

 紛糾の原因は、(1)連邦・州・市・郡など課税主体が7,500もある米国の税制簡素化の複雑性、(2)郵便による通信販売で発達した慣習・制度をオンライン・ビジネスに適用する困難性、(3)米国特有の連邦と州の関係、特に州の課税主権の扱いなどである。

 こうして15加盟国を通じて税制統一を果たしつつあるEUに学べの声まで出てきたが、そのEUでは電子商取引に対する暫定課税国と非課税国の足並みが揃わず、電子商取引の立ち上げが米国に遅れることが懸念されている。国際的なインターネット取引課税問題のWTOでの検討は、シアトル・ラウンドのもつれから進んでいない。米国政府は「グローバルな電子商取引の枠組み」(97.7.1)発表以来、インターネット取引非課税に熱心だが、具体化は順調でないのである。PCメーカー、ISP、ASPなどオンライン業界は世界的に非課税に積極的だが、商取引の10%以上がネット経由になった時果たして非課税が貫けるか疑問視する向き(例、ヴィントン・サーフ)もある。


顧問 高橋洋文(編集室宛:nl@icr.co.jp)

(最終更新:2000.5)

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