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世界の通信企業の戦略提携図(2000年4月3日現在)

25.国際通信組織の改革問題

 米国のクリントン大統領が2000年3月17日に署名して「国際通信改善のための市場開放再組織法(Open-Market Reorganization for Betterment of Int'l Telecommunications:ORBIT)」が成立し、インテルサット民営化を巡る国際紛争の種になっている。

 インテルサットは、パンナムサットなど民間衛星との競争条件を等しくするため98年3月に競争性の高い業務を切り離して子会社ニュー・スカイ・サテライトを設立し、本体を2001年目標に民営化することとしていた。ところが、インテルサットに対応する米国の国際通信事業者コムサット(Comsat)の根拠法にインテルサットの競争条件を定める形になり、また、かつてキャリアーズ・キャリアーとして米国出入の国際通信を独占していたコムサットは既に80年代以降の通信自由化で地位を変えていたが、先にコムサット株式の49%を12億ドルで買収したロッキード・マーチン(Lockheed Martin:LM)が27億ドルで残り51%で買収する合意もあり、改めてコムサットの競争条件も精査が求められたため、コムサット法を改正するORBITの審議は米国キャリアーの要求を受けて調整が複雑になっていた。

 インテルサットに関しては、政府間国際機構時代の特権を除去することに熱心な下院のブライリー法案(HR3261)が、上院のバーンズ法案(S376)にない条件、特に(1)免許済みで未使用の周波数スロットの返還、(2)インテルサット本部敷地の返還(民間会社に連邦政府所有地は貸せない)などを含むことが焦点であった。インテルサットの姿勢は、ORBITが競争条件の完璧を求めるあまり、米国が一方的に決めた条件どおりに2001年4月1日までに民営化しないと米国市場ではサービスが提供できないと定めるのは干渉も甚だしい、敷地も貸さないのなら本部を米国外(ロンドン)に移す、加盟国が決議した民営化を妨害する米国は条約違反で除名措置をとる、などという強硬なものであった。

 ORBITの署名に当たりクリントン大統領は、同法が細部にわたり行政部門の措置を定めているが、大統領の外交大権に抵触する一部は無効であり、アドバイスとして受け止める旨の声明を出し、インテルサットとの紛争は国際交渉のなかで調整していく姿勢を示したが、問題は収まる気配がない。

 国際衛星通信業界の3月はご難続きであった。12日にアイコの第1衛星打ち上げが失敗し、予備機とも3個の衛星がキリバチ沖に沈んでサービス開始が延期になり、17日限りで遂に救い主を得ないイリジウムが衛星通信サービスを停止した。そのあおりで、グローバルスターは衛星48機を打ち上げヨーロッパ・サービスを開始したのに携帯電話機や通信料金の値引きに迫られる始末であった

26.アジアのASPビジネスの近況

 さまざまなアナリストの予測を総合すると、アジアの企業間(B2B)インターネ1ット市場は2005年に660億ないし1兆ドルに達するとされ、大手通信企業やISPとソリューション・ビジネス・プロバイダーとの戦略的提携の動きが活発になってきた。

 2000年3月15日にオーストラリアのテルストラと米国のプライスウオーターハウス・クーパーズ(PwC)がアジア太平洋地域におけるASPサービスの戦略的提携で合意した。これをアナリストは「アジアのキャリアーは一般に企業間電子商取引の専門技能に欠けるため、マネジト・ネットワーク・アプリケーションの提携先を求めており、今回の合意はテルストラが市場の急速な変化を認識したからだ」としている。

 同様の動きは、C&W HKTが既に米国のComputer Associates Int'lとの合弁事業に8億ドル投資済みで、米国のインターネット・ビジネス開発業者コマース・ワン(Commerce One)がジャーディン・インターネットなど7社と組んで中国の、また、ラッキー・ゴールド・インターナショナルと合弁で韓国の各ポータル市場進出に踏み切り、シンガポール・テレコム(SingTel)がイスラエルのASP業者エクステント・テクノロジーのサービス導入を決めている。

 このような立ち上がりに比べると日本の動きややは遅れ気味で、日本ガートナーグループの予測によれば、日本のASP市場規模は2004年で約30億ドルと見込まれる。

 ネットワーク事業はASPより活発で、シンガポールでは、4月1日に通信自由化が実施されたことから、SingTelと新規参入事業者スターハブの料金値下げ合戦がスタートした。テルストラと香港のPCCWは4月12日に、30億ドル折半出資してグローバルIP基幹網とアジア全域対象移動通信サービスの合弁事業を始めることで合意した。日本では、アジア地域の通信料金高止まりの一因は通信回線再販事業の低調にあるとして、米国通信再販協会(TRA)や欧州競争通信事業者協会(ECTA)と同様の環太平洋競争通信協会の設立が呼びられている。

 アジア全域にわたり、多数の中小企業に対するインターネット、低額広帯域サービスの提供が必要なので、キャリアー、ネットワーク再販業者、ハードウェア/ソフトウェア・プロバイダー、サービス業者の協力が望まれる。

27.マイクロソフトの一審敗訴と今後の展開

 米国マイクロソフト(MS)の反トラスト法違反訴訟で、ワシントン連邦地裁のT.P.ジャクソン判事は4月3日にMS敗訴の一審判決を下し、4月5日にはMSの独禁法違反に対する是正命令に関する口頭弁論を5月24日に開くと発表した。

 同判決は、同地裁が99年11月5日に行った「MSがパソコンOS市場で独占的な地位にある」との事認定を確認のうえ、MSの行為は「取引の独占を違法とする」シャーマン法第2条及び「取引制限の契約、連携、謀議を禁止する」シャーマン法第1条に違反し、19州法(カルフォルニア、コネチカット、フロリダ、イリノイ、アイオワ、カンサス、ケンタッキイ、ルイジアナ、メリーランド、マサチューセッツ、ミシガン、ミネソタ、ニューメキシコ、ニューヨーク、ノース・カロライナ、オハイオ、ユタ、ウェスト・ヴァージニア、ウィスコンシン)とコロンビア特別区の法規に違反していると断定した。具体的には、司法省が提起した(1)MSはパソコンOS市場の独占を反競争的手段で維持しようとした、(2)OS市場の独占力を利用、二次的なブラウザー市場を独占しようとした、(3)ウィンドウズとインターネット・エクスプローラーの抱合せ販売に当たり、競争相手のブラウザーへの切り替えを技術的に困難にさせるなどの排他的行為を行った、との三つの訴因を認め、(4)競争相手のブラーザーを排除する契約をパソコンメーカーなどに強要したとの訴えについて斥ける結論を出したうえ、別途定める手続に従って適切な是正措置を命令するとした。

 今回の判決は、99年11月の事実認定に当たりワシントン連邦地裁がR.ポズナー判事を調停人に指名し、同月19日に始まった4カ月に及ぶ和解交渉が4月1日に決裂したのを受けたものである。和解の主な論点は企業分割か、契約慣行の改善か、ソフト技術情報の開示か、それらのミックスとされるが、2000年3月24日にMSが提出した最終和解案も内容は明らかにされないていない。ただ、ビル.ゲイツMS会長は交渉の場で分割の無意味なことを執拗に主張したようであり、司法省の対案がMSにとって開発の自由を奪われると受け取られまとまらなかったとも言われる。敗訴判決に至ったことに関係者はみな驚いた模様。

 MSの株価は判決直後15%も下落して、時価総額はトップからGE、シスコ・システムズに次ぐ第3位に落ち、パソコンOS独占による成長性に市場が疑問を投げかけた形になった。MSの大衆人気は根強いものの、MSに歩がないとする専門家筋も少なくない。何故MSは強気で押しまくる危険な賭を続けるのか。一審敗訴でも控訴審から最高裁では勝つとの単純な判断なのか、ネットワーク時代を迎え次世代ウィンドウズ・サービス(NGWS)で成長性するため今無理するのか、G.W.ブッシュが大統領になれば問題解決と様子を見ているのか。

 裁判手続は、5月10日までに司法省とMSが解決案を提出し、5月24日に双方が攻撃態勢をとり、以後ジャクソン判事は恐らく7月上旬目途に決定を急ぎ、その結果により控訴審があれば1年はかかり、最高裁まで行けば決着は2001年末から2002年始めとなろう。その間、ライバル企業、消費者団体などの反トラスト訴訟100件以上が平行すると言う構図である。


顧問 高橋洋文(編集室宛:nl@icr.co.jp)

(最終更新:2000.4)

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