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世界の通信企業の戦略提携図(2000年3月2日現在)

22.ベルテルスマン、ASP向けネットワーキングに進出

 世界最大級のメディア企業ベルテルスマン(Bertelsmann)と自動車メーカーダイムラー・クライスラー(DaimlerChrysler)の情報通信子会社デビス・システムハウス(Debis Systemhaus)の折半出資によるメディアウェイ(MediaWays)がASP向け汎欧IPネットワーキングサービスに進出する。

 ベルテルスマンは出版・新聞・雑誌・映画・音楽・放送と多分野に展開するメディア企業で、従業員年金基金等を中心とする株式非公開企業であるため、売上高によるフォーチュン誌の「グローバル500」には載るが、株式時価総額によるビジネスウィーク誌の「グローバル1000」には載らない。フォーチュン誌99年8月2日号リストでは第150位ウォルト・ディズニー(230億ドル)、第282位タイムワーナー(146億ドル)、第333位ニューズ(130億ドル)に次いで第341位(128億ドル)になっているが、ウォルト・ディズニーの主業はテーマパークで、ベルテルスマンの決算期が6月で順位上半年遅れになり、99年6月期売上高149億ドルであることを考慮すると、ベルテルスマンは世界第3位のメディア企業と言える。ベルテルスマンは従来ドイツ市場の確保を第一義としてきたが、90年代後半からランダムハウスの買収、バーンズ&ノーブルとの折半出資によるオンライン書籍販売企業の設立、AOLとの資本・業務提携(AOLに5%出資、折半出資でAOLヨーロッパ設立)とグローバル化に積極的である。

 ダイムラー・クライスラーは98年にドイツのダイムラー・ベンツと米国第3位のクライスラーが合併して生まれた企業で、フォーチュン誌グローバル500ではGMに次いで世界第2位(1,546億ドル)である。自動車は今やIT商品であり、部品製造の電子ネットワーク化もあって、IPネットワーキングは主業を支え、電子商取引に取り組むのは当然のこと。デビス・システムハウスはダイムラー・ベンツが始めたIT子会社である。

 メディアウェイはドイツ国内での企業通信網サービスとAOLヨーロッパトラフィック伝送のため接続ポイント(POP)を207箇所整備済で、ネットワークの英国、イタリア延長から2000年内には全欧で600POP設置し、レベル3などの汎欧ネットワーク業者と競う考えである。グローバル企業通信網サービスではC&Wやイクアント(Equant)に比べ経験のない新規参入業者だが、ことIPネットワーキングとなれば同レベルと自負している。ヨーロッパで実際にデータセンター(サーバー預かり・運用管理代行)やASP(アプリケーション・サービス・プロバイダー、各種業務ソフトの期間貸し)を確立した企業はまだ少ないので間に合う。親会社の持つ付加価値サービスとコンテンツ・ホスティングのノウハウを結合すれば将来性は十分としている。

 もっともAOL/TW合併による利益相反のため、ベルテルスマン会長CEOのトマス・ミッデルホフは2000年1月25日にAOL取締役を辞任した。ベルテルスマンがAOLヨーロッパ持株を売却する羽目になると70億ドル受け取れるが、合弁企業メディアウェイの将来に影が射すだろう。


23.ヴァージン・グループ、ネット企業に変身か

 音楽事業で世に出て航空事業に転身した英国のヴァージン・グループが始めた携帯電話事業の第2弾は、2000年2月20日に発表されたオーストラリア企業C&Wオプタスとの合弁携帯電話会社である。第1弾はC&Wと米国のCATV企業の合弁携帯電話会社ワン・ツー・ワン(One2One、英国第4位)との合弁事業ヴァージン・モバイル(Virgin Mobile:VM)で、99年8月に合意、同年11月開業で年末までの7週間で135,000加入をかき集め、2000年の目標は100万加入としている。VMは若者に受けるヴァージンのブランド力とOne2Oneのインフラを組み合わせたものだが、今度の第2弾もヴァージンのブランド力とC&Wオプタスのインフラの組み合わせで売り込む。2001年にはEメール、サイト検索、マルチメディア・アクセスなどモバイル・インターネット可能な機種を導入し、環太平洋諸国で広めたいとの意気込んでいる。

 ヴァージン・グループは96年にISPヴァージン・ドット・コムを立ち上げ、その後オンライン販売のサイト運営にシフトして航空券、音楽CD、化粧品などを販売しており、将来はあらゆる消費者製品・サービスを扱いたい。そのためのカギであるインターネット/移動通信融合分野に乗り出す戦略で、99年12月に主力の航空事業ヴァージン・アトランティックの株式49%を9.6億ドルでシンガポール航空に譲渡した資金の大部分を注ぎ込むという。

 ヴァージン・グループを率いるリチャード・ブランソンは、「資金繰りに困って売った訳ではない。1992年にはヴァージン・ミュージックをEMIに売ったが、今度はヴァージン・アトランティック株式の51%を持っている。」と述べる。しかし、航空事業のほか娯楽・小売・飲料・放送出版・個人金融・移動通信・インターネットと広がったコングロマリットの伸びには強い勢いがない。世界のIT産業がネットビジネスと株式市場の両翼で上昇気流に乗っている時、ヴァージン・グループは1986年に株式を上場したが87年のブラックマンデー下落を機に88年上場を取り止めたため、錬金術が使えないのである。

 移動通信分野に関しては、これまで第1弾、第2弾ともC&W関連だがOne2Oneは既にDTに買収され、C&Wの独立性にも翳り無しとしないので、今後のリスキーでスピードが必要なセルラー3G/モバイル・インターネット競争を、ヴァージン・グループが自力で展開し続けることができるか注目される。


24.パシフィック・センチュリー・サイバーワークス、C&Wホンコンを買収

 香港のインターネット企業パシフィック・センチュリー・サイバーワークス (Pacific Century CyberWorks;PCCW)は2000年2月29日、C&Wとその子会社C&Wホンコン(C&W HKT)の買収について合意したと発表した。C&W HKT株主はC&W HKT1株につきPCCW1.1株またはPCCW0.71株及び現金HK$7.23との交換を選択でき、買収総額はUS$381億とみられる。新会社パシフィック・センチュリー・サイバーワークスー香港テレコム(PCCW-HKT )の筆頭株主はPCCW37%で、C&W持株は11~21%、CTHK(チャイナテレコム香港)は5%、その他インテル、CMGI、光通信などは5%未満となる。C&W持株比率に幅があるのは、他の株主の株式交換/株式+現金選択結果で影響されるからである。C&Wはを株式+現金を選択し現金約78億ドルを受け取る。

 既報(21)のとおりシンガポールテレコム(SingTel)とC&W HKTの合併交渉が先行していたところ、PCCWが2月14日にC&W HKT買収打診を肯定したためSingTel/PCCWのCW HKT争奪戦とのニュースが流れ、PCCWが正式に買収を申し入れた2月28日にはオーストラリアのメディア企業ニューズの出資申し入れ(10億ドル)をSingTelが受けたりしたが、PCCWの買収合意発表直前にSingTelはC&W HKT合併申し入れを撤回した。東南アジアと言うとつい華人資本を連想するが、ナショナリズムが強い世界で、中国政府ないし香港政庁のコントロールが利かない企業は歓迎されないのが現実である。大手通信企業の株式交換合併(SingTel提案は357億ドル)は地元小企業の大手通信企業買収(合意は381億ドル)に敗れたのである。ニューズのスターTVとC&W HKTが、99年に家庭用高速インターネット/ペイテレビを提供する合弁企業を設立しているので、いづれニューズとPCCWは将来を語り合うものと思われる。

 PCCWのC&W HKT買収の現金支出分を調達するため、PCCWは3月2日 BOCIキャピタル、HSBC投資銀行、パリ国立銀行香港支店、バークレー・キャピタル・アジア4社に社債120億ドルの発行引受を委任した。

 C&WはウォーレスCEOの望み通りグローバル通信企業の道を歩けるようになったが、スリムになったため買収対象になり易くもなった。


関西大学総合情報学部教授 高橋洋文(編集室宛:nl@icr.co.jp)

(最終更新:2000.3)

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