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世界の通信企業の戦略提携図(2000年2月4日現在)

18.AOLタイムワーナーはナローキャストを促進する

 ニューミレニアムを迎えたばかりの1月10日に米国ISPNo.1のAOLとメディア最大手のタイムワーナーの合併が発表された。AOL株主にAOL1株につき新会社株1 株、またタイムワーナー株主にタイムワーナー株1株につき新会社株1.5株を交付する手続が完了する2000年末に、資産3,500億ドル、年間売上高300億ドル以上の新会社AOLタイムワーナーが誕生する。

 本件は「対等合併」と発表されたが、株式交換がAOLバランスシートにタイムワーナー資産を計上する「パーチャス法」で行われ、新会社株式の55%がAOL株主の所有となるので、実際はAOLによるタイムワーナーの買収である。ただ、AOLがタイムワーナー株に71%のプレミアムを付けたので、身売りタイムワーナーも実は勝者と見ることもできる。98年売上高48億ドル、従業 員数12,100人の比較的小さなAOLが、98年売上高268億ドル、従業員数67,500人の巨大なタイムワーナーを買収できた訳は、株式公開した92年から8,000倍以上上昇したAOL株価であり、タイムワーナーの時価総額835億ドル(2Y.1,7現在)を遥かに上回るAOLの時価総額1,632億ドル(2Y1.7現在)である。一方でインターネット事業進出の必要性を感じつつもカネのないタイムワーナー、他方で今やベストの高速アクセス網と目されるケーブルテレビと豊富なコンテンツを欲するAOLの、双方のニーズとタイミングが合致してメガ合併が行われたと解説されている。

 AOL/タイムワーナー合併の意義は、ネットワーク時代の競争優位のカギをインターネットとコンテンツ所有とする戦略の最適な実践である。同種のネット産業再編が続くとして、ヤーフーとディズニーとか、ベルアトランティックとバイアコムとか、さまざまなインフラ/コンテンツの組み合わせを予想する向きがあるが、伝統的メディア企業としてのマーケティング力(ブランド効果)、流通網、コンテンツ所有においてタイムワーナーに準ずる企業はあっても、 AOLほどのネット企業はないので、AOLタイムワーナーなみの合併は出てこないだろう。

 オンライン企業とオフライン企業の組み合わせは完璧な戦略だとして、インターネット・エコノミーとオールド・エコノミーとの融合の進展に伴い、市場が企業を評価する方法が変化する。「大切なのは利益」であって、 AOLがネット企業でありながら実際に利益を出している点が重要と思われる。「投資家がビジョンを信じてくれるから赤字でもやって行ける」と豪語してきたアマゾン・ドット・コムの株価が12月前半の最高値106ドルから1月19日に66ドルに急落した状況のなかで、AOLに続こうとするオンライン企業は組もうとするオフライン企業にもっと大きなプレミアムを払う羽目になると見られる。

 AOL/タイムワーナー合併の長期的な意義はナローキャスティングの促進とされる。過去20年間米国のメディアビジネスはブロードキャスティングからナローキャスティングの方向に進んできた。新聞、映画、放送と同一製品を大衆にぶつけてきたマスメディアに、ケーブルテレビが登場してニッチな番組づくりと個人に向き合う加入者管理を始めたことから、狙いの個別化と製品の多様化の傾向が加わってきた。このナローキャスティングのトレンドがインターネットの双方向化機能によって促進され、今のCATV企業は完全なナローキャスターの前史的存在に過ぎなくなる将来が訪れると考えられる。

 もちろんマスメディアがすべてインターネット化する訳ではない。ニュースネットワークやスポーツ中継はグローバルに又ローカルに発展して行く。G.ギルダーが言うように、「テレビが俗悪なのは人々が俗悪だからではない。テレビが俗悪なのは人々はみだらな興味において共通し、教養ある関心事は鋭く違っているからである」。ブロードキャスティングが文化的関心事を伝えるには限度があり、それはナローキャスティングでないと出来ないのである。

 もう一つのネットワーク時代競争戦略として、競争優位のカギをあらゆるデバ イスに共通する基本ソフト(OS)の開発とするマイクロソフトの戦略があるが、AOLタイムワーナーの戦略とマイクロソフトの戦略が何時どのように交錯するか、今後の成り行きが注目される。


19.ボーダフォンとマンネスマンの合併合意

 ボーダフォン・エアタッチが99年末に仕掛けたマンネスマン敵対的買収は、2000年2月3日に両社が株式交換比率について合意したため友好的な買収に変わり、これを翌日マンネスマン監査役会が承認したことによって長期間の争いが決着した。主な合意内容は (1)ボーダフォンが99年12月23日の買収通知書に示した交換条件を「マンネスマン株主が2000年2月17日までに買収に応じたらマンネスマン1株につきボーダフォン58.96株を交付する」ことに変更し(既に 58.7株交付の既定条件に応じた株主を含む)、(2)マンネスマンは新ボーダフォン・エアタッチの取締役19名中1代表取締役と4平取締役のポストを占める、(3)ボーダフォンのC.ジェント社長が新ボーダフォンの社長になり、マンネスマンのK.エッサー社長は一旦共 同CEOに就いた後マンネスマンの非通信事業分離手続を待って新ボーダフォンの会長代理になる、(4)マンネスマンが買収した英国第2の携帯電話会社オレンジは2000年内に売却するの4点である。こうして時価総額約1,800億ユーロ、株式の50.5%をボーダフォン株主が所有し、49.5%をマンネスマン株主が所有する世界一巨大な携帯電話会社が誕生する。

 1月に入ってからの経過は、マンネスマン側が買収価格が安すぎると述べるのに対して、ボーダフォン側が提示した条件は最終だと繰り返し、ボーダフォン側がサン・マイクロシステムズ、IBMなどとのグローバル・インターネット・プラットフォームづくり提携を発表すれば、マンネスマン側は既に260万加入を持つ我々は何も教わるものがないとし、マンネスマン側が 株主に対してEC委員会の審査前に応諾するのは間違いだアピールするとボーダフォン側が規制上の承認は間違いないと強調するなど、マンネスマン株主をめぐる応酬が続いた。

 決め手はマンネスマン側が救い主と頼むフランスのビベンディ(Vivendi)がボーダフォン側につき、次世代インターネット事業の提携で合意したことであった。
 ボーダフォンとビベンディの1月31日合意の主な内容は (1)2000年6月末までに両社折半出資でインターネット・ポータルサイト運営会社を設立する、(2)この合弁企業は日本のソフトバンンクと設立する「ワイヤレス・インターネット・ファンド」に80%出資する、(3)両社はマンネスマンから取得するものを含め両社の固定網を統合し汎欧単一網の形成に取り組む、(4)本合意はボーダフォンがマンネスマン株式を50%を超えて取得することを条件とし、ボーダフォンは向う3年間ビベンディの株式を取得しない、の4点である。
 もともとマンネスマンが優良会社であるため株式の70%が海外投資家によって保有され、その半分が英米でドイツ・ナショナリズムとは無縁であった。香港の財閥ハチソン・ワンポアが合併賛成にまわり、ダイムラー・ベンツに受け入れを勧告されて、マンネスマン側が敗北を認めたものである。

 本件の影響については、ボーダフォンのマンネスマン買収が通信産業再編の新たな波を象徴するとの見方が多く、C&W、テレコム・イタリア、テレフォニカ、BTなどがますます注目されている。

企業解説:(VIVENDI)1853年創立の水道会社CGE(Compagnie Generale des Eaux)が上水道供給都市をパリ、リオン、ベニス、コンスタンティノプールと拡大の後、19・20世紀を通じてゴミ処理、運送、エネルギー、建設、不動産事業と多角化のうえ、1980年代から通信に進出したもの。1976年にアッバス(Havas)が設立した地上波有料放送カナル・プラス(Canal+)に15%出資、1987年に自動車電話会社SFRを設立、1997年にアッバス株式の30%を取得して第二キャリアーのセジェテル(Cegetel)を傘下に収め、1998年にVIVENDIグル−プと改称した。


20.フランステレコム、グローバル・ワンを完全子会社化

 2000年1月初頭にフランステレコム(FT)は、ドイツテレコム(DT)および米 スプリントと3社合弁の国際通信会社グローバル・ワンの完全子会社化で合意した。買い取りはFTが現金でDTに27.55億ドル、スプリントに11.27億ドル、株式交換や債券でDTに1.885億ドル、スプリントに2.76億ドル支払い、総額43.5億ドルでFTがDT保有株式29%、スプリント保有株式42%を買い増ししてグローバル・ワンを100%子会社化するものである。
 FTのボン会長は、99年末のドイツ第3携帯電話会社Eプルス買収失敗(KPNテレコムに買収れた)、ポーランド電電民営化の応札不調を越えて、ヨーロッパの国際通信キャリアーへの道筋が出来たとしている。FTとDTはグローバル・ワン事業に関し、2%の相互株 式所有を行って来たが、DTがFTに打ち 明けずにテレコム・イタリアの敵対的買収を始めたことから関係が冷えていた。
 グローバル・ワンは48カ国に拠点を置き、800都市を結ぶATM網で品質保 証付の国際インターネットVPNサービスを提供している。FTは完全子会社化後もグローバル・ワンの既存ブランドを使い続ける意向であり、親会社が1社になったのでこれまで以上に迅速な顧客サービスが提供できるとしている。


21.C&Wホンコンとシンガポールテレコムの合併交渉

 成功すれば時価総額6!0億ドルの巨大合弁企業が生まれるC&Wホンコン(C&WHKT)とシンガポールテレコム(SingTel)の合併交渉は、アジアのM&A市 場に大きなインパクトをもたらした。99年11月に発表されたKDDとSingTelの小額の株式持ち合いなどは問題外で、NTTコミュニケーションズのプレゼンスにも影響があろう。C&WHKTのC&W持株比率は54%だが、第2位に中国政府筋の金融機関がある。SingTelの株式の80%はシンガポール政府である。合併企業は華人資本のものとなるのは明らかである。C&Wは少数株主に止まり、アジ アの利権を換金化して、ヨーロッパの高速ネットワーク計画に集中しそうな気がする。C&Wは98年から99年にかけてインターネット接続サービス会社11社を買収し200都市を結ぶ高速ネット構築に10億ドルを投資する。
 インターネットは通信事業投資に影響し始めており、2000年2月3日にロイターニュース/情報サービス(51%)とエクアント(49%)合弁企業がニューヨークで設立された。正にグローバリズムの時代である。


関西大学総合情報学部教授 高橋洋文(編集室宛:nl@icr.co.jp)

(最終更新:2000.2)

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