ホーム > ICTエコノミーの今 2012 >
ICTエコノミーの今
2012年9月18日掲載

ICT生産の減速と今後への期待

[tweet]

日本経済新聞電子版2012年7月30日の記事は、「鉱工業生産2.2%低下 4〜6月、海外の減速感強まる」という見出しのもと、アジア等海外経済の減速感が強まり、自動車を中心に落ち込みが目立ったことを伝えた。また、経済産業省は基調判断を前月の「持ち直し」から「横ばい傾向にある」と下方修正した。このように生産の動向は景気の基調判断を行うための材料となっている。

ICT生産の足元の動向はどうなっているのであろうか。下図は鉱工業生産とICT生産の推移を示している。2012年4-6月期を見ると、赤線のICT生産が、生産全体の減少度合いよりも、大きく急減している。海外景気の減速により輸出用の電子部品が減少している上に、地上波デジタル完全移行や家電エコポイント制度による需要の先食いが影響し、テレビや関連部品、製造装置の生産が低迷したためだ。

日生産水準を見ると、2012年4-6月期のICT生産は、青色のトレンド線(※1)と比較すると、その75%の水準にまで低下しており、東日本大震災時の落ち込み(赤丸部分)よりも低い。

図表 鉱工業生産とICT生産の推移""

このようなICT生産の低迷は、需要面の要因だけではなく、円高による価格競争力の低下や、電力費用の上昇等による製造部門の海外シフト等供給面の要因が影響していると想定される。日本政策投資銀行「企業行動に関する意識調査(※2) 」(2012年8月公表)によると、国内外の中期的な供給能力について、「相対的に海外強化(※3)」の企業の割合が2011年調査の32.9%から60.3%に、その中で国内縮小を伴う海外増加の割合は4.5%から11.8%に上昇しており、海外生産強化の流れは加速している。

実際、海外生産比率を高めるべく、電子部品業界においても海外工場への設備投資を増強している動きがみられる(下表)。

企業名 2012年度の設備投資動向
京セラ

設備投資総額700億円(前年度比5.4%増)。スマートフォン等の需要増にあわせ、デジタル機器向け半導体パッケージ等を国内外で増強(京都新聞 2012年6月5日)。

村田製作所 設備投資総額680億円(前年度比横ばい)。高周波部品の生産ラインを岡山県に新設。約130億円(総額の2割相当)を中国やフィリピンのコンデンサー工場などに振り向け、海外生産比率を年度内に25%に引き上げる計画(日刊工業新聞 2012年5月4日、京都新聞 2012年6月15日)

このような海外シフトの背景には最終製品の価格下落の影響もある。端末の普及・拡大期は価格が低下するため、電子部品企業にとっても収益性の悪化につながる。スマートフォンは電子部品需要の拡大要因であるが、足元では「期待ほど生産が伸びてこない」、「新製品計画が遅れている」等の声がでてきている。そのため、スマートフォン依存で設備投資を増強させてきたICT企業の中では、車載や健康・医療分野向けの部品開発や太陽光発電向け等他の用途向けの生産を進めて、スマートフォンのみに依存しない事業展開を進めていく方針の企業も出てきている。

スマートフォン需要が引き続き堅調に推移することに加え、電気自動車やハイブリッド車の普及、健康・医療分野におけるICTサービスの活用の浸透、太陽光発電等環境分野での普及を通じて、付加価値の高い電子部品需要が高まり、ICT生産が新たな成長段階に進むことを期待したい。

※1:トレンド線は統計データが入手可能な85年1月から景気循環の第13循環まで(2012年3月まで)を対象とし、ICT関連生産の趨勢的な傾向を現在まで伸ばした場合の生産の水準を示している。特殊要因のある期間(リーマンショックと、それ以前のアメリカのサブプライムローン等を発端にした米国の過剰消費による好景気の影響のある期間)は除いている。ICT産業が現在と技術が異なるものの、順調に成長していた時期であり、その時代の成長のトレンドが継続した場合のICT生産の水準と、現在のICT生産の水準を比較している。

※2:今回調査(2012年6月)では製造業482社を対象にしている。

※3:「相対的に海外強化」に含まれているのは、1.「海外の供給能力を増加し、国内の供給能力は変わらない、もしくは2.縮小する」と回答した企業と、3.「海外の供給能力は変わらず、国内の供給能力は縮小する」と回答した企業。

▲このページのトップへ
InfoComニューズレター
Copyright© 情報通信総合研究所. 当サイト内に掲載されたすべての内容について、無断転載、複製、複写、盗用を禁じます。
InfoComニューズレターを書籍・雑誌等でご紹介いただく場合は、あらかじめ編集室へご連絡ください。