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2014年9月5日掲載

ICT活用による災害に強い社会への期待
−頻発する異常気象への対応−

(株)情報通信総合研究所
社会公共システムグループ
主席研究員 江原 豊

頻発する異常気象

昨今、ゲリラ豪雨等の異常気象が、各地で頻発しています。その頻度の高さから、もはや「異常」気象とはいえないかも知れません。この8月には、京都福知山市、兵庫県丹波市、広島県広島市等を記録的な豪雨が襲い、甚大な被害が発生しました。特に、広島市の土砂災害では、死者72人行方不明者2人(2014年9月3日現在)という痛ましい被害をもたらしました。筆者も連日の報道に胸を痛めたひとりです。

昨今の異常気象の特徴や被害が大きくなる理由として、

  • きわめて短時間で発生すること、
  • 局所的であること、
  • 就寝時間帯の発生も多いこと、

が挙げられます。たとえば広島市の土砂災害の例では、3時間で平年の8月の約1.5か月分の降水量(広島県三入で217.5mm)という未曾有の豪雨、長さ約23km幅約5kmのエリアに集中(※1)、そして土砂災害が発生した時間は午前3時台でした。

もし、多くの住民が、危険が迫っていることを早く知り、安全な場所に避難することができれば、被害をより小さくできたはずです。すなわち、迫る危険について、

  • 迅速に、
  • きめ細かく、
  • 確実に伝えられるか、
という課題に応えることが求められているといえます。このような課題に対して、ICTはもっと貢献できるはずです。災害の中でも、震災の場合には、情報通信、電力等のインフラも被害を受けるため、ICTの活用も制約を受ける場合が多いです。しかし、特に土砂災害や風水害の場合は、ICTは平常時と同様に機能を発揮できるケースが多く、より貢献できる可能性は高いと考えます。

地方自治体の災害対応とICT

地方自治体は、地域の災害対策においてもっとも重要な役割を果たします。地方自治体は、災害の発生が予測されるときや災害発生時、地域の災害の状況について「情報収集」します。収集した情報を基に、災害警戒本部や災害対策本部を立上げ、各自治体で定める地域防災計画に即して避難準備情報の提供や避難勧告、避難指示、さらに警戒区域の設定等を行う等の「意思決定」を行います。その内容を住民等へ「情報伝達」します。この過程で、ICTには多くの出番があります。

◎きめ細かい迅速な「情報収集」

多くの地方自治体では、気象庁や気象情報提供会社等の情報に加え、独自の雨量や水位センサー、カメラ等により災害情報を収集しています。これらの情報収集の仕組みは、M2M(Machine To Machine)、IoT(Internet of Things)等の技術の向上で、従来に比べ比較的簡単かつ安価に実現できるようになっています。今後は、監視箇所の拡大や監視内容の充実により、きめ細かな情報を把握することが期待されます。気象庁でも、局所的・短時間に発達する積乱雲の検知・予測を可能にするフェーズドアレイレーダー(※2)の設置を検討しています。これにより、ゲリラ豪雨や竜巻の発生をいち早く予測することが期待されます。

さらに、住民からの情報も重要な情報源といえます。住民から積極的に情報収集を行いその情報を対策に活かすことはもっと試みられてよい取組みです。これに関連して、ツイッターによるつぶやきを分析することで、いち早く危険を察知するような研究も進められています(※3)。

◎迅速・的確に「意思決定」

一方、収集した情報を基に、迅速な意思決定を図ることも重要です。災害発生時、大量の情報が寄せられる災害対策本部は混乱しがちです。大量の情報の中から重要な情報を見落としがないように見極め、どうさばくかが重要です。このため、災害情報を一元的に集約・分析して、対策の意思決定を支援するシステム(総合防災情報システム等(※4))を導入する自治体もあります。

また、災害対策本部等を設置する場合には、地域防災計画に基づいて、幹部職員や定められた職員が参集します。昨今の災害は短時間で発生することが特徴です。もし、職員参集の猶予がなく、直ちに避難勧告や避難指示等を発出する必要があるときには、テレビ会議等を活用した、暫定的なバーチャルな災害対策本部を立ち上げ、機動的に対応することも考えられるかも知れません。

◎迅速・確実な「情報伝達」

住民に対して、災害情報を伝達する手段としては、テレビやラジオの他、防災行政無線、スマートフォンや携帯電話に送られる緊急速報メール、SNS等があります。地域によっては自治体が運営する防災メール(登録制メール)やコミュニティFM放送、IP告知等のサービスの提供、個別受信機や防災ラジオの配付をしているところもあります。これらの伝達手段には、それぞれ長所・短所があります。また、利用者や利用場面によって利用できない場合があります。伝達手段については、ひとつの万能な方法やただひとつの正解がある訳ではありません。災害情報を確実に伝達するためには、複数の手段を上手に組み合わせて活用することが大切です。

このように、情報伝達手段が増えると、情報提供手段全体のコントロールが大切になります。総務省では、「Lアラート(公共情報コモンズ)」(※5)の活用を推進しています。これは、地方自治体等の災害関連情報等を発信する情報発信者とマスコミ等の情報伝達者をつなげる情報基盤です。情報発信者がこのLアラートに情報を登録すると、情報伝達者を通じて、住民等に一斉に伝達される仕組みです。

また、地方自治体においても、一度の情報登録で、複数の情報伝達手段に自動的に情報を配信する自動起動統合システム(伝達制御システム)(※6)を導入している例があります。災害対策時には、災害対策本部では、次々飛び込んでくる災害対応に忙殺されます。重要な情報を迅速・確実に住民に伝達するために、有効な仕組みです。

住民側の主体的な情報行動も大切

一方、昨今の災害から、住民が、受け身でなく主体的に情報収集し、早目に行動することが大切であることにも痛感させられました。

近年、国や地方自治体から、インターネットを通じハザードマップ等が提供され、情報内容も年々充実しています。このような情報を主体的に確認することにより、自らに関係するリスクを事前に知り、備えておくことが大切です。災害発生時には、先述したような多様な伝達手段により提供されている災害情報を確認し、主体的に情報収集することも大切です。

さらに、自主的な避難基準を設け、行政からの勧告・指示を待たずに避難を行うことを決め、災害に備えている地域もあります(※7)。このように地域の実情に即した自主的な判断基準を基に情報収集し、警戒することで、備えは強固なものとなります。また、今回の災害でも、住民間で、SNS等を通じて災害の情報をやりとりすることで危険を察知し、難を免れたという例がありました。

増大するリスクに備えて

昨今の異常気象の状況とそれに伴う被害を鑑みると、日本中どこでも被災地になりえます。「ここならば絶対安全」という考えは、通用しないのではないでしょうか。ICTを有効に導入し、行政や住民の双方がそれを上手に活用できるようになれば、増大するリスクに備えた、より災害に強い社会を形作ることができると考えます。

災害発生の都度について、災害対策のプロセスにおける検証を積み重ねることで、具体的な改善点がもっと見えてくると考えます。また残念ながら、ICTが導入されていても十分に機能しなかった例もあります。このような被災経験を通じた課題を明らかにし、関係者がひとつひとつ対策を打っていくことが重要です。ICTに関わる者として、ICTが防災・減災に貢献し、備えのあるより安心・安全な社会が実現することを願ってやみません。

※1 http://mizu.bosai.go.jp/wiki/wiki.cgi?page=2014%C7%AF8%B7%EE20%C6%FC%A4
%CE%B9%AD%C5%E7%B8%A9%A4%CB%A4%AA%A4%B1%A4%EB%C2%E7%B1%AB%
C5%DA%BA%BD%BA%D2%B3%B2

※2 http://www.jma.go.jp/jma/press/1308/27a/26yosan.pdf p.5

※3 http://www.nilim.go.jp/lab/bcg/kisya/journal/kisya20140714.pdf

※4 http://www.nttdata-kansai.co.jp/service/bousai/index.aspx

※5 http://www.fmmc.or.jp/commons/

※6 http://www.ntt-east.co.jp/business/case/2013/007/

※7 https://www.nhk.or.jp/shutoken/ohayo/report/20140901.html

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