●主要国の既存事業者の近況と戦略
既存事業者の競争対応戦略の鍵は、多くの場合海外投資である。
BTは97年までにドイツのViag Interkom、フランスのCegetel、イタリアのAlbacom、オランダのTelefort、スイスのSunriseなどNCCへの出資などEU域内やアジアでの提携戦略を進めた。94年からの米MCI買収作戦は最終段階で米WorldComに破れ、スペインのTelefonicaとの提携も実らなかったが、98年7月には米AT&Tと画期的な国際通信合弁事業の設立を合意した。その規制関係がクリアされるまでの間、ヨーロッパ6カ国(仏・独・伊・蘭・白・瑞西)の子会社・合弁会社との通信網を基礎にスペインを加え、200都市を結ぶ7,000Hの光ファイバ基幹網を構築することに専念している。
DTとFTは米Sprintと96年2月に国際通信合弁企業グローバル・ワンを設立し、世界65カ国の1,400拠点を結ぶネットワークで多国籍企業ユーザの囲い込みを意図してきた。その日本法人も約150社の顧客を得ている。しかし、グローバル・ワンの経営はまだ軌道に乗らず、1998年も赤字でDT2.6億ドル、FTが2.3億ドルの補填を行う予定であり、黒字化は2001年とされている。
DTは市場開放1年間の競争にあたりシェア確保のため料金を60%引下げた結果、98年収入総額は推定356.1億ユーロと対前年比3%の伸びにとどまったが、17.5万名の人員減を始めとする合理化の支出減により、利益は21.5億ユーロと前年より27%増の見込である。99年の経営も98年同様厳しい見通しだが、2000年に予定される株式第2次売却 " に備え、事業拡大・収益確保が期待されている。グローバル・ワン以外の海外投資は、ハンガリーの投資会社MagyarCom(米)Ameritechと合弁、MATAV株式の59.58%を所有 )のほか、オーストリアのmax.mobil.TS、ポーランドのPolska Telefonia、チェコのRADIOMOBILなど中東欧の移動通信が多い。
FTは現在ベルギーのMobistar、ポーランドのCentertel、ルーマニアのMobilRom、ギリシャのPanafonなどヨーロッパの15移動通信網に出資しており、売上高に占める欧州市場の比率を10%にすることを目標にしている。また、移動通信網投資の次には固定・移動通信融合を軸にして投資を拡大し、98年で10%の海外収入比率を2003年までに1/3にしたいとしている。
Telecom Italiaも海外投資に積極的で、現在Telekom Austria株式の25%を含め通信企業9社に出資し、フランス、スペイン、ギリシャ、ウクライナなどで競争中である。
1999年が始まって世界の通信業界最大のM&Aは、英Vodafoneによる米AirTouchの560億ドル買収であった。英国最大のセルラー電話会社が米国第1位の無線通信会社を買収して、株式時価総額1,100億ドルと世界第6位で、年商約1000億ドルの世界最大の携帯電話l会社が誕生したのである。
世界の通信企業トップ10(単位10億ドル)
(注)*は手続中 (出所)日経産業99.1.19
順位 | 会社名 | 株式時価総額 |
1 | SBCCommu./Ameritech* | 174.53 |
2 | AT&T | 148.35 |
3 | Bell Atlantic/GTE* | 143.85 |
4 | MCI WorldCom | 137.46 |
5 | NTT | 121.95 |
6 | Vodafone/AirTouch* | 110.00 |
7 | Deutsche Telekom | 105.25 |
8 | BT | 96.25 |
9 | BellSouth | 90.94 |
10 | France Telecom | 89.27 |
Vodafone は1年前からAirTouchに関心を持ち続け、米Bell Atlanticが430億ドルの株式交換を提案したのを見て540億ドルを提案し、競り合った末AirTouchを獲得した。Vodafoneの現加入者約950万は英国内と海外で半々なのに対し、AirTouch加入者約1,600万は米国中心である。もともとVodafoneは米国ではBell Atlanticと提携関係にあり、携帯電話とPCSで幾つものディジタル技術が競合する米国の環境を好んでいなかったので、獲得したAirTouchについて、ドイツ第1位の移動通信企業Mannesmann Mobilfunkの持株35%を含む欧州事業は維持するものの米国事業はBAに売却するとの噂があるが、Vodafoneはこれを否定した。
このようにメガキャリアーの去就が次第に固まってきたとき、残る戦略課題の一つがC&Wの将来である。戦略企画の中心課題はグローバル網事業の強化だったが、社長CEOリチャード・ブラウンが1999年初頭EDSに招かれて辞任した後、CEO代理のロッド・オルセンはグローバル事業パートナー探しを続ける意向である一方、グローバル網事業の管理者はラルフ・ロビンス会長を戴いて、C&W各事業をバラ売りする戦略代案の検討を投資銀行IBSベアリングスに命じ、同社がBT、DT、Bell Atlanticなどの買手をあたっている。C&W売却の最大の難点は中国政府の意図を折り込まなければならないHT(香港テレコム)の評価であるが、グローバル網事業の組織形態は99年3月末に発表されると言われる。
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