トレンド情報-シリーズ[1999年]

[メガコンペティションは今?]
[第18回]ヨーロッパ電気通信の近況

(1999.2)

 EUの現況報告によれば、加盟国電気通信の競争の進展はEC委員会を驚かすほどで、既存通信事業者はかなり影響を受けている。最近、コンピュータ・電話統合(CTI)風にそって汎欧州高速網が急速に建設されていることが注目される。

●EUの第4次電気通信競争報告
 EUは、通信自由化のグリーンペーパーを発表の翌1988年から1997年までの10年間に、広汎な電気通信法制パッケージを制定して自由化を推進してきた。1997年から各国における法制化と運用状況について定期的に「電気通信規制パッケージの実施報告」を行っており、その第4次報告は98年10月16日までの実績を次の通りに総括している。

 全体として

  1. 最近のEC(European Commission:欧州委員会)指令に関連して進展があった、つまりECの採択した法規の多くが各国で国内法として制定された。
  2. ECの法律パッケージの主要な規制課題(国内規制機関、免許付与、相互接続、ユニバーサルサービス、料金表、番号計画、周波数、路線権)を実施するための国内法が、細部になお未解決事項を残すものの、運用に入りつつある。
  3. 加盟国においてダイナミックな電気通信市場が急速に出現しつつある。1998年の市場規模は1,750億ドル(1,478億円、 Chart1参照)と推定される。 
個別には
  1. 規制機関:全加盟国で規制機関が活動開始。ほとんどの国で市場を完全開放した(例外は希ー2001年・愛ー一部開放・葡ー2000年)。
  2. 免許付与:ECの枠組みは十分に機能しており、多くの新規事業者が参入を認められている。98年8月現在の事業者数は、国内音声事業者218(Chart9参照)、国際音声事業者284(Chart11参照)、移動通信 免許:全国77、地域39(Chart14参照)である。
  3. 相互接続:相当数の相互接続協定が結ばれており(固定同士200、固定移動間24、移動同士8)、相互接続料金はECガイドライン値に収斂しつつある。
  4. ユニバーサルサービス:資金的裏付けが出来ていない国がある。
  5. 料金表:一部の国(仏、伊、白)でタリフリバランシングが完了していない。
  6. 番号計画:大部分の国で事業者選択が実施され、ポータビリティ実施済みの国もある(英、独、仏)。
  7. 周波数:全加盟国が少なくともGSM免許2件、DCS免許1件を付与している。
  8. 路線権:ほとんどすべての国で通信事業者に公道使用権が認められている。
 総じて新規事業者は変革のスローモーをこぼし、ローカルアクセス、相互接続料、番号計画に不満を持っている。競争の結果既存事業者の市場シェアは特に移動電話において大幅に下がりつつある(固定電話Chart13参照、移動電話Chart15参照)。

●主要国の既存事業者の近況と戦略
 既存事業者の競争対応戦略の鍵は、多くの場合海外投資である。
 BTは97年までにドイツのViag Interkom、フランスのCegetel、イタリアのAlbacom、オランダのTelefort、スイスのSunriseなどNCCへの出資などEU域内やアジアでの提携戦略を進めた。94年からの米MCI買収作戦は最終段階で米WorldComに破れ、スペインのTelefonicaとの提携も実らなかったが、98年7月には米AT&Tと画期的な国際通信合弁事業の設立を合意した。その規制関係がクリアされるまでの間、ヨーロッパ6カ国(仏・独・伊・蘭・白・瑞西)の子会社・合弁会社との通信網を基礎にスペインを加え、200都市を結ぶ7,000Hの光ファイバ基幹網を構築することに専念している。

 DTとFTは米Sprintと96年2月に国際通信合弁企業グローバル・ワンを設立し、世界65カ国の1,400拠点を結ぶネットワークで多国籍企業ユーザの囲い込みを意図してきた。その日本法人も約150社の顧客を得ている。しかし、グローバル・ワンの経営はまだ軌道に乗らず、1998年も赤字でDT2.6億ドル、FTが2.3億ドルの補填を行う予定であり、黒字化は2001年とされている。

 DTは市場開放1年間の競争にあたりシェア確保のため料金を60%引下げた結果、98年収入総額は推定356.1億ユーロと対前年比3%の伸びにとどまったが、17.5万名の人員減を始めとする合理化の支出減により、利益は21.5億ユーロと前年より27%増の見込である。99年の経営も98年同様厳しい見通しだが、2000年に予定される株式第2次売却 " に備え、事業拡大・収益確保が期待されている。グローバル・ワン以外の海外投資は、ハンガリーの投資会社MagyarCom(米)Ameritechと合弁、MATAV株式の59.58%を所有 )のほか、オーストリアのmax.mobil.TS、ポーランドのPolska Telefonia、チェコのRADIOMOBILなど中東欧の移動通信が多い。

 FTは現在ベルギーのMobistar、ポーランドのCentertel、ルーマニアのMobilRom、ギリシャのPanafonなどヨーロッパの15移動通信網に出資しており、売上高に占める欧州市場の比率を10%にすることを目標にしている。また、移動通信網投資の次には固定・移動通信融合を軸にして投資を拡大し、98年で10%の海外収入比率を2003年までに1/3にしたいとしている。

 Telecom Italiaも海外投資に積極的で、現在Telekom Austria株式の25%を含め通信企業9社に出資し、フランス、スペイン、ギリシャ、ウクライナなどで競争中である。

 1999年が始まって世界の通信業界最大のM&Aは、英Vodafoneによる米AirTouchの560億ドル買収であった。英国最大のセルラー電話会社が米国第1位の無線通信会社を買収して、株式時価総額1,100億ドルと世界第6位で、年商約1000億ドルの世界最大の携帯電話l会社が誕生したのである。

世界の通信企業トップ10(単位10億ドル)

(注)*は手続中 (出所)日経産業99.1.19

順位会社名株式時価総額
1SBCCommu./Ameritech*174.53
2AT&T148.35
3Bell Atlantic/GTE*143.85
4MCI WorldCom137.46
5NTT121.95
6Vodafone/AirTouch*110.00
7Deutsche Telekom105.25
8BT96.25
9BellSouth90.94
10France Telecom89.27

 Vodafone は1年前からAirTouchに関心を持ち続け、米Bell Atlanticが430億ドルの株式交換を提案したのを見て540億ドルを提案し、競り合った末AirTouchを獲得した。Vodafoneの現加入者約950万は英国内と海外で半々なのに対し、AirTouch加入者約1,600万は米国中心である。もともとVodafoneは米国ではBell Atlanticと提携関係にあり、携帯電話とPCSで幾つものディジタル技術が競合する米国の環境を好んでいなかったので、獲得したAirTouchについて、ドイツ第1位の移動通信企業Mannesmann Mobilfunkの持株35%を含む欧州事業は維持するものの米国事業はBAに売却するとの噂があるが、Vodafoneはこれを否定した。

 このようにメガキャリアーの去就が次第に固まってきたとき、残る戦略課題の一つがC&Wの将来である。戦略企画の中心課題はグローバル網事業の強化だったが、社長CEOリチャード・ブラウンが1999年初頭EDSに招かれて辞任した後、CEO代理のロッド・オルセンはグローバル事業パートナー探しを続ける意向である一方、グローバル網事業の管理者はラルフ・ロビンス会長を戴いて、C&W各事業をバラ売りする戦略代案の検討を投資銀行IBSベアリングスに命じ、同社がBT、DT、Bell Atlanticなどの買手をあたっている。C&W売却の最大の難点は中国政府の意図を折り込まなければならないHT(香港テレコム)の評価であるが、グローバル網事業の組織形態は99年3月末に発表されると言われる。

●汎欧州高速伝送網の建設
 通信自由化(EU電気通信市場開放)および技術革新(IPネットワークの導入)の複合に伴い、DWDM(高密度波長多重分割)などによる汎欧州高速伝送路を建設して通信事業者に光通信容量を貸し、多国籍企業ユーザにIP統合網サービスを提供する動きが活発になっている。
 最初に明らかになったのは前述のBT光ファイバ網7,000H延長計画で、その投資額1.14億ドルを含めBTの対欧州投資累積額は32.6億ドルに達する見込であり、さらに今後9.7億ドル追加される予定である。

 MCI WorldComは、96年8月に買収したMFS Communicationsがアムステルダム・ブラッセル・フランクフルト・ロンドン・パリを結ぶ光ファイバ伝送路の容量を3倍にするユリシーズ計画を99年末までに完了する。同社はヨーロッパ全体で拠点を10から45に増やす拡充投資に年10億ドルを費やすこととしているが、英国内でのサービス都市拡大のため3,400万ドル支払って25年間Racal Electronicsから光通信容量を借りたりもしている。

 DT/FTはヨーロッパ16カ国に40拠点を展開する20,000Hの光ファイバ基幹網を既存インフラ提供業者依存を中心に構築中である。
 C&Wは98年11月に、欧州13カ国の主要40都市結ぶ欧州通信網の建設に今後5年間に10億ドルを投資すると発表した。具体的計画として、欧州の主要ビジネスセンターに提供するATM伝送容量は欧州の独立インフラ事業者Hernes Europe Raitelから取得し、欧州光IPネットワーク用のダークファイバーは米国の独立インフラ事業者Global Crossingの欧州網から取得する。

 オランダのKPNは97年から欧州諸国にアクセスする2,400Hの光通信網を建設してきたが、98年11月に米国の光通信事業者Qwestと合弁会社を設立し、欧州28都市を結ぶ12,000Hの汎欧基幹網の建設に12億ドルを投資することとした。

 93年からロシアその他で展開してきた米国ベンチャーのGlobal TeleSystems Group(GTS)は、98年12月に英国の通信事業者Esprit Telecomを 985百万ドルで買収することで合意した。GTSはベルギー法人Hernes Europe Raitelの支配株主(89%、残余はスウェーデン国鉄、ベルギー国鉄)で、汎欧ISPのEbone(デンマーク法人)の大株主であり、12カ国で電話サービスを提供中で、欧州7都市に営業所を設けている。Esprit Telecomは92年に創立され、7カ国で国際・国内電話サービスを提供中である。両社は激しく競争してきたが、GTSが中東欧に強くHermes Europe Raitelが西欧中心と補完関係にある。GTSが株式交換で757百万ドルを支払い、Esprit Telecomの借金228百万ドルを引き受けることにより、株式時価総額41億ドル、従業員数3,000名と光ファイバ伝送路9,200Hを保有する中堅通信企業が誕生し、35,000名のビジネスユーザに設備/サービスを提供することとなる。

 正に「光り撩乱」、主としてインターネットの急成長を当てにした光通信網の大量拡充である。拡充テンポも不明のままパッチワーク的な網建設が進んでおり、やがて驚くほどの通信コストダウンを導くだろう。

(関西大学総合情報学部教授 高橋洋文)

(入稿:1999.1)

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