トレンド情報-シリーズ[1999年]

[経営とIT]
[第2回]ドノバンとスコットモートンのDSS

(1999.8)


第二回のテーマはMISの次に話題になったDSSを取り上げます。MIS同様コンセプトだけで何となく廃れてしまいましたが、現在パッケージとして生き残っているものもあります。今回も気になるトレンドをレポートしてテーマに移りたいと思います。

最近、米国で気になる企業が活躍しています。ソレクトロン社、SCIシステムズ社、ジャビル・サーキット社、サンミナ社、フレクトロニクス社、セレスティカ社など企業群でEMSと呼ばれています。EMSは製造請負工場企業のことで、世界的製造メーカーが維持できなくなった製造工場を買収し、請負専門工場として生まれ変わらせて大躍進を続けています。EMS企業の代表であるソレクトロン社は、日系二世の実業家ニシムラ氏が創業し、従業員2万5千人、売上は80億ドルを超え、毎年50%以上の成長率で企業規模を拡大しています。EMSに買収された工場は、HP社(ヒューレット・パッカード)、NCR社、IBM社、三菱電機、ICL社などの大手製造メーカーの工場で世界中で50拠点以上もあります。EMSはメーカーから工場だけでなく従業員も一緒に買収します。買収が決定すれば、投資銀行などの金融機関が買収し、EMSは金融機関より工場と従業員をリースして資本投下はしません。メーカーは膨大な設備投資から必要に応じたEMS利用に経営を変更し資産改善が可能になり、EMSは専門工場をいくつもの企業の請負生産で設備をフル稼動するのです。金融機関はより効率的なリース収入を確保する。メーカーとEMSと金融機関の連携が世界の経営資源の最適化に向けて動き出しているわけです。現在ではEMSの顧客は買収した先の企業であるHP社、NCR社、IBM社、三菱電機、ICL社ばかりでなくノキア社、エリクソン社、モトローラ社、デルコンピュータ社なども顧客とした世界の工場としての活動を始めています。世界的経営資源の最適化に向けて、世界的SCMの動きの中心にEMS企業があります。かって世界の工場であった日本企業が工場設備の閉鎖・売却という状況にある中、EMS企業が次の世界工場としての地位を固めつつあります。すでに有力なEMSが日本企業の国内工場買収を交渉中です。EMSを見るとわかるように、世界的経営資源の最適化が進行しています。世界的経営資源の最適化に乗り遅れた企業は、世界社会からその存在意義を否定されるでしょう。グローバル企業として生き残るか、アジアのローカル企業として生き残るか選択の時代が来たようです。

さて、今回のテーマであるDSSのお話をしましょう。
米国では1970年代前回のMISに代わってDSS(Decision Support Systems)の議論が盛り上がりました。70年代後半多くのDSS論文が発表されG.A.ゴーリーやM.S.スコットモートンによってDSSが提唱されました。1977年米国DSS会議ではDSSについて5つに要約しています。

  1. DSSの機能は、情報検索、コンピュータ・ベースのモデル(シミュレーションや最適化、決定分析)、データ操作(算術計算)、報告書の作成などの組み合わせを含むものである。データ・エントリー、人工知能なども重要である。
  2. DSSはスタッフまたは下級管理者によって運営されるが、その情報の最終利用者は下位のひとびとから上位の管理者までさまざまである。
  3. 大多数のDSSは、インタラクティブであり、定期的な利用を受けている。
  4. 柔軟性と利用簡便性が、多くのDSSの設計および実施の主たる目標である。
  5. 多数のDSSは非常に成功しており、数百万ドルに達する純利益をあげている。
DSSという概念をいち早く提唱したのはMITのM.S.スコットモートンである。スコットモートンはアンソニーとサイモンの考え方を結合させDSSの概念を明らかにしました。アンソニーは組織の管理階層を基準として管理活動を(1)戦略的計画、(2)マネジメント・コントロール、(3)オペレーショナル・コントロールの3つに分類しました。サイモンは組織における意思決定者における問題の構造を基準として@定型的意思決定、A非定型的意思決定の2つに分類しました。スコットモートンはこれらの概念をマトリックスにして情報システム活動の目的と問題を検討するためのフレームワークを構築しました。スコットモートンは従来のMISが単なるデータ処理業務をしていたにすぎないとして、1978年マンチェスター大学のマッコシュと一緒にMISとDSSとの違いを次のように述べています。

「意思決定支援システムの領域は、いわゆる経営情報システムの領域とは異なる。後者の領域はコンピュータ関連活動が驚異的に成長したにもかかわらず、マネジメントに重大な影響をほとんど与えなかった。意思決定の種類とその方法は、過去15年にわたって、コンピュータによってあまり影響されてきてはいない。このことは、管理職の意思決定能力を増強させる際に関連すべき諸問題に対する適正な洞察が欠けていたことに帰着すると思われる。」

スコットモートンとDSSを提唱したもう一方のドノバンは1976年の論文で「現代生活の複雑性が驚異的な速さで増大するにつれて、政策決定者が直面しなければならない問題の複雑性も同じ速さで増大している。伝統的・直感的意思決定の方法は、これら複雑な問題を取り扱うのに、もはや適切ではない。それゆえ、意思決定に必要な情報と分析を提供するためのシステムが開発されなければならない。われわれは、こうしたシステムをデシジョン・サポート・システムと呼ぶ。」といっています。

ドノバンはさらに1977年には新しいDSSの概念、インスティチューショナルDSSとアドホックDSSの概念を提唱しました。つまり、制度的意思決定支援システムと単発的意思決定支援システムというわけです。このように前回のMISと今回のDSSを見てきますと、現在も変わらない問題を抱えていると思います。人間と組織とコンピュータとの関係は現在でも大きな問題です。米国でDSSが盛んに議論されていたころ、日本では1979年に日本語ワープロが商品化され、1980年代前半はOAブームでした。振り返ってみれば技術の進歩ほど人間は賢くなっていないという印象です。米国の印象は一言でいうと研究者や業界が一生懸命に理論研究と理論の具体化に努力している姿勢があります。日本の流行という薄っぺらな対応とは大違いです。日経新聞に「組織は戦略に従う」だけれども日本では「組織は流行に従う」で現在は「組織は技術に従う」でなければならないという記事がありました。技術が何かを解決するわけではありません。技術を活用する人間の存在が重要であって、時代が変わってもそのことは変わらないと思います。最終的には人間の意思決定が重要であって、技術はそのサポート役にすぎません。時代が変わり、技術が進歩しても人間のあり方が重要であるのは、MISやDSSを振り返ってみてもわかります。

技術は、技術を生み出そうとする人間の存在があるから進歩します。技術の生産に貢献せず、技術の恩恵にだけすがりつく国民はやがて新しい時代の技術を生み出すすべての要素を失ってしまうでしょう。日本における世界に貢献する情報技術の発信、そんな日は来るのでしょうか?IT分野において、情報技術消費国の日本が情報技術生産国の日本になることは夢なのでしょうか?

中嶋 隆

(入稿:1999.8)

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