[メガコンペティションは今?] トレンド情報シリーズ[1997年]
メガコンペティションは今?(第1回)


  1. 「BT/MCI合併発足を前にテレフォニカとの提携を発表」
  2. 「競争環境の整備に努めるITU」
「競争環境の整備に努めるITU」
 通信自由化を主導する米国で、FCCが96年11月以来国際計算料金の値下げ圧力を強めたのに対し、電気通信の国連専門機関ITUは、低所得途上国の激変 緩和策を含む国際計算料金制度改革に乗り出した。WTOによる電気通信国際貿易ルール制定後、ITUの役割が見直されているが、料金は国際的な通信規制の 中核でもありその力量が注目される。

国際通信のパラダイム・シフト
 95年現在6015億ドルに達した世界の電気通信市場についてのパラダイムは、大筋で、(1)独占から競争へ、(2)設備保有原則(一次キャリアー)からリース(二次キャリアー)へ、(3)ハードウエア依存からソフトウエア依存へ、(4)情報処理や放送との融合、とシフトしている。
 国際通信市場(約600億ドル)については、[1]半回線概念(共同事業)からエンド・エンド概念(単一事業)へ、[2]単一市場から多国間市場へ、[3]計算料金から契約料金へと言う方向、さらに[4]主権尊重・平等主義のITUルールから戦略的提携・商業主義の市場ルールへの四つの方向で変化しつつある。
 このような枠組みの変更は、発展段階の異なる国々を対象にしては時間がかかる。WTO合意は多国間貿易システムによるグローバルな競争と言う新しい通信規制の枠組みをもたらしたが、80年代以来通信自由化を先導してきた米国は、今もなおNII→GIIの道筋で米国なみをも貫徹する二国交渉も続けており、事情は複雑である。

国際計算料金制度改革の経緯
 従来の国際通信料金は、専用線は国際伝送路の両端事業者とそれぞれ契約する「2契約主義」、通話料金は利用者から発信主義で徴収し、それを両端事業者で清算するやり方をとってきた。清算は、発信トラフィックの差分に「清算料金(Settlement Rate)」を乗じて発信トラフィック超過側が相手国事業者に支払うもので、清算料金は「国際計算料金(Accounting Rate:清算を行う事業者間で合意して設定した1分当たり料金)」の半額、つまり分収率50:50であった。こうした一般的なやり方のなかで、欧州・地中海地域では、例外的に、コストに基づき発・着・中別単金を定める「通信単位補償方式」が行われてきた。

 通信自由化を先導する米国では、FCCが早くから計算料金をコストに近づける国際清算政策(International Settlement Policy:ISP)を推進し、ITUでも、92年11月に勧告D.140「計算料金の原則」(コスト指向・無差別性・段階的引き下げ・定期的見直し等を規定)を採択した。しかし、途上国では清算料金が重要な設備拡張財源になっているため、計算料金の引き下げは余り進まず、米国の支払い超過額は次第に増えて95年には55億ドル(国際通信収入150億ドルの36.7%)に達した。

 そこでFCCは96年11月に「国際計算料金に新たな柔軟性を認める規則」(CC Docket No.90-337,Phase)を、また96年12月に「国際清算料金の審査基準(Benchmark)に関する規則」(IB Docket No.96-261)を提案した。  11月規則は、相手国が「効果的な競争機会(Effectively Competitive Oppor-tunities:ECO)テスト」に適合している場合、清算料金の均等な分収、米国事業者の無差別的な取り扱い、発着信シェアとのリンク等現行ISP原則を外れて、相手国事業者との間で自由な清算方法の協定を締結して良い、と言うものである。

 12月規則は、外国の国際通信事業者が米国市場に参入する際の国別審査基準(清算料金の(Benchmark)を国民一人当たりGNPとリンクさせて設定し 、それより割高の国の事業者の参入は拒否する、と言うもの。具体的な上限は、高所得国(GNP per capita $8,956以上)15.4セント/分、中所得国($8,956~$726)19.1セント/分、低所得国($726未満)23.4セント/分、また下限は6~9セント/分であった。また、高所得国1年中所得国2年低所得国4年の移行猶予期間がある。

ITUの国際計算料金制度改革
 97年2月16日、基本通信サービス開放のWTO合意が成立した日の翌日、ITUは「国際電気通信料金清算に関する非公式専門家グループ」を設けて国際料金計算制度改革に乗り出した。同グループは最終報告書を早くも4月9日にタルヤンヌ事務局長に提出、これを了承した事務局長が4月20日にITU-TのSG3に付し、その5月会合(22~30日)の論議を経て、ITU総会(6月18~27日)にかけられる予定である。

 報告書は、1997年内に清算料金をグローバルな規模で5~10%引き下げ、さらに1998年前半に同程度の値下げを行い、清算料金は一部の例外を除き1分当たり25セント以下に引き下げる、低所得国の移行猶予期間は5年と勧告のうえ、次の通り、六つの指導原則を提起した。  

     
  1. ITUは、各加盟国レベルでも国際的にも、自由化と競争を促進すべきである。  
  2. 非自由化国事業者を含む清算取り決めはITUのイニシアティブを必要とする。   ITUは各国規制機関・電気通信事業者・世界銀行やWTOを含む国際機関の協力関係を確立すべきである。  
  3. 各国の意思決定や政治的支持を容易にするため、ITUは正確かつタイムリーなデータを提供し、(秘)で各国清算料金の現状を調べなければならない。  
  4. WTO合意を実施しユニバーサル・サービス問題に取り組むため、ITUは電気通信コスト計算方法と料金原則を確立しなければならない。  
  5. ITUは、競争の圧力を前提に現行から収束していく国際清算料金の一般的幅をはっきりさせるべきである。  
  6. ITU事務局長は、国際清算料金改革により打撃を受ける国の事業者の経済的能力や将来の財務条件を確保するため、国際開発銀行その他の多国籍機関と協力してサポート手段を講ずべきである。

二つのアプローチの評価
 タリアンヌ事務局長は、早急な清算料金引き下げに関し「ITUは世界の電気通信料金を設定するものではないが、報告書が踏み込んだ点に同意する」と述べた。
 ITU勧告はFCCから清算料金引き下げの主導権をもぎ取った形であるが、提案の数値がFCC規則案そのものに似ているため、ITUは米国に屈服したとの非難され、ITU-T SG3や総会は揉めそうである。ECOテストによる米国市場参入可能性のチェックを武器に二国間交渉を進める米国アプローチよりも、低所得国の激変緩和策を講じた点などITU勧告は評価できる。米国の清算料金超過支払額50億ドルと言うが、大部分は自由化済の先進国、西欧・オーストラリア・日本などに対するもので、低所得国に対する赤字は1.6億ドルに過ぎず、世界銀行など融資能力に収まる範囲と言う。しかし、力のある巨大通信事業者、そしてその大口ユーザの負担額が減れば、その穴埋めは途上国側に回る。

 途上国側は、現行計算料金がコストに比べ高すぎると言うがその根拠を十分聞いて納得しないと議論できない、いかなる改革も短兵急なものであってはならないとの立場である。先進国特に米国は、調査もしたし手続きも踏んだ、これ以上宛ももなく待ってはいられないとの立場である。この違いを乗り越えるのは、結局時間をかけた対話と妥協でしかない。

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(関西大学総合情報学部教授 高橋洋文)
(入稿:1997.5)
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