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2004年12月掲載

FCC、インターネット電話の規制で緊急措置

−州当局の電話並みの規制を排除。ユニバーサル・サービスの負担等の重要課題は先送り。−
−待たれるインターネット電話の基本ルールの早急な策定−

 11月9日、FCCは急速に増えつつあるインターネット電話について「州政府は規制に手を出すな」(hands off)という緊急宣言を行った。

 FCCはこれまで一貫して、インターネットのような新しいサービスは当面規制せず、自由に成長させるのが公益に適うとの姿勢をとり、財源難で悩む州以下の地方政府が規制の枠に取り込み課税等の財源に組み入れようとするのを、連邦議会のインターネット・モラトリアム政策と相まって、阻止する方針を通してきた。

 インターネット利用の電話が技術的な難点も解決し、パソコン同士間だけという制約も突破して一般の電話との差異も薄まり、様々なバーションが出現して、その安い料金を武器に今後急速に市民権を取得しそうな情勢になってきている。

 今回のFCCのオフリミットの宣言は直接には、昨年夏、ミネソタ州が、Vonage社のインターネット電話サービスであるDigitalVoiceは「電話サービス」であり、同州での電話会社同様の免許要件や規制に服すとの規則を制定したのに対し、同社がFCCにその規制の排除を申請していたものを受けての措置である。

 FCCの論拠は、「インターネット電話をローカル、州、国際に区分することは事実上不可能である」としたうえ、「州ごとにバラバラな規制では、こうした新しいサービスが窒息してしまう」ことを理由として、「インターネット電話の規制権限は連邦政府にある」として、州政府による規制をあらかじめ完全に排除(preempt)すると宣言している。

 FCCはさらに、「他社のVoIPサービスが、Vonage社のサービスとは同一ではないが類似した基本的な特性をもつ場合には、FCCがこれら諸サービスに関する州当局の規制を同様な程度まで排除しないということは今後ほとんど考えられない」とし、今回の判断が単にVonage社だけに留まるものではないことも明確にした。

米国特有の州と連邦の管轄権の問題ではあるが、他にも、次のような重大な問題がいくつも残されている。すなわち、

  • 「インターネット電話サービス」が1934年通信法にいう規制の軽い「情報サービス」(information Service)に区分されるのか、それとも重い規制に服する「電気通信サービス」(telecommunications service)に該当するのか
  • 「電話サービス」にはつきものの警察/消防等への緊急通話サービスの提供義務やユニバーサル・サービス基金への拠出義務はどうするのか

などである。

 今回の宣言では、とりあえず「州はオフリミット」としたのみで、これらの重要な懸案はすべて今年2月に開始され現在進行中のFCCの「 IP-enabled service(インターネット・プロトコルに立脚したサービス)に関する規則制定手続」のなかで対処するとし、先送りされている。

 これらはわが国でも今後早晩、論議を呼ぶ重要な問題であり、米国での動向が注目される。

■Vonage社のDigitalVoiceサービスとは

 今回のFCC宣言のきっかけとなったのは、2003年9月22日、同社がFCCに対して行った、同社のDigitalVoiceサービスに適用されるミネソタ州委員会の命令を排除するFCCの宣言命令(declaratory ruling)の申請である。では、まずVonage社の問題のインターネット電話サービスとはどんなものなのかを見てみよう。

[FCCの命令(Memorandum Opinion and Order:2004年11月9日採択12日公示)]での説明

  1. DigitalVoiceは以下のようなサービスである。すなわち、加入者が音声通信を発信および受信し、また、インターネットを介して自己のパーソナルな通信を管理できる一連の諸特性と諸機能を提供するものである。音声通信の送受やボイスメール等の普及した高度機能を可能とする点で、DigitalVoiceは、回線交換ネットワークで提供されている電話サービスに類似している。しかし、以下に述べるように、この二つのサービス・タイプには基本的な差異がある。

  2. まず第一に、Vonageの顧客は、サービス利用に先立って、まずインターネットへの広帯域接続へのアクセスが必要である。同社はインターネット・アクセス・サービスの提供は行っていないため、他のプロバイダーから入手する必要がある。伝統的な回線交換電話とは際立って対照的に、この広帯域接続がどこでなされるかが明確ではない。それどころか、加入者がサービスにアクセスするごとにそれが同一の広帯域接続かどうかすら明らかではない。むしろ、Vonageのサービスはまったくポータブルであり、顧客はインターネットへの広帯域接続が可能でさえあれば世界中のどこででもこのサービスの利用が可能なのである。同社は利用者が世界のどこで、また、いつDigitalVoiceを利用したかがわからないのである。

  3. 第二に、Vonageは、DigitalVoiceの顧客が特定の宅内機器(CPU)を用いることを求めている。顧客は多種類の機器から選択ができる。(1) a Multimedia Terminal Adapter (MTA), (デジタルカラオーディオに、また、オーディオからデジタルへの変換を行うデジタル信号プロセッサ と標準的な電話接続ジャックをもつ) (2) Internet Protocol (IP) 電話機  (3) マイクとスピーカーを備え変換を行うためのソフトウエアをもつパソコン(softphone) 
    顧客は必要に応じ従来型の電話機を特別仕様のCPUに付加することはできるが、この電話機だけでは同社のサービスは使えない。

  4. 第三に、DigitalVoiceは、顧客が自己のパーソナルな通信をダイナミックに活用できる多種多様な機能や特徴を備えている。すなわち、音声通信に加え、ボイスメール、第三者通話、online account and voicemail management、地理に制約されない「電話」番号、等が可能である。[一部省略]

  5. DigitalVoiceはリアルタイムの音声通信の送受ができる。CPEとソフトウエアが備えられ次第、顧客は電話番号---Vonageの他の顧客、他のVoIP事業者の顧客、携帯電話の顧客、公衆交換電話網(PSTN)を介してのみ到達可能な利用者、など---を持つ誰とでもインターネットを介して通信の送受ができる。相手方がVonage顧客や同様なサービスの顧客であれば、発信された呼はVonageのサーバーに導かれ、インターネット網だけで通信が完結する。相手方がPSTNに結ばれた電話の場合であれば、同社のサーバーはIPパケットを適切なデジタル・オーディオ信号に変換し、相互接続の電気通信事業者のサービスを用いてPSTNに接続する。逆にPSTN利用者がVonage顧客にむけて発信した場合には、相互接続の電気通信事業者のサービスを用いてVonageのサーバーに導かれ、それがオーディオ信号をIPパケットに変換し、インターネットを介してVonage利用者にルーティングされる。

  6. 第四には、VonageのサービスはNorth American Numbering Plan (NANP)の番号利用はするものの、NANPの番号は、回線交換の場合とは異なり必ずしも利用者の地理的位置に結びつけられてはいない。番号は、インターネットとPSTN間の呼の交信を容易にするため、利用者のデジタル信号プロセッサと相関している。利用者は特定の場所に留まる必要はないのである。

■FCCの宣言

[FCCの命令(Memorandum Opinion and Order:2004年11月9日採択12日公示)のConclusion]

 上述の理由から、FCCはミネソタ州のVonage社関係の命令を排除(preempt)する。その結果、ミネソタ州委員会は、Vonage社に対し、同州内でDigitalVoiceを提供するための条件として免許、料金等の関係の要件に従うよう義務づけることはできない。さらに、DigitaVoiceと同様な機能を有するサービスに関する他の諸州の規制は、重要な連邦の目標に対して譲歩(yield)しなければならない。ケーブル会社等の他の者がVoIPサービスを提供するかぎり、FCCは、本命令と同様な程度において、州の規制を排除するものである。

■FCC宣言に対する賞讃と批判

 ワシントン・ポスト (2004/11/10) は、「FCC、インターネット電話の規制当局の役割を自認」という記事で次のように本件を伝えている。

  • この決定は、高速インターネットを用いてローカルと長距離の電話サービスを提供している企業の勝利であり、伝統的な電話事業の規制で多額のフィーを徴収している州の公益事業規制当局の敗北である。

  • 現在約32万のインターネット電話顧客を持つVonageのCEOであるJeffrey A. Citronは、「FCCはインターネットの実態、すなわち、インターネットが州の境界、いやすべての境界には無縁だという事実を認識してくれた。規制がどうなるのか判らないので、明確なルールが出るまでは他の州への事業の拡大を控えているところだ」としている。将来、同社はアイオワ、メーン、ノースダコタの諸州への進出を計画している。

  • 州の規制当局の連合体であるNARUCの法務担当は、「高コスト、僻地、低所得の地域の人々を援助するため、従来型の電話サービスから徴収する州レベルのプログラムがある。インターネット電話の増加で州が失う収入がどのくらいか、計り知れない。

■ルールや重要課題は先送り

 今回のFCCの措置は、あくまでもVonage社のDigitalVoiceサービスについての認定であり、それに付随して、「同様なサービスについてはFCCが同様な措置とる」旨をとりあえず宣言したに留まる。本格的、包括的なルールは先にも触れたように、現在FCCで進行中の「IP-enabled serviceに関する規則制定手続」のなかで対処するとし、先送りされている。5名のFCC委員のうち2名の民主党系の委員も今回の宣言に賛成はしたものの、声明で「特定の個別企業についてだけではなく、すべての事業者とすべてのサービスについての大きな枠組が必要だ」と述べている。

 冒頭でも述べたように、次のような重要な問題点が今後の決定を待っている。すなわち、

  1. 「インターネット電話サービス」が1934年通信法にいう規制の軽い「情報サービス」(information Service)に区分されるのか、それとも重い規制に服する「電気通信サービス」(telecommunications service)に該当するのか
  2. 警察/消防等への緊急通話サービスの提供義務はどうするのか
  3. 事業者は障害者にもアクセスを提供しなければならないのか
  4. (ローカル通信)事業者間の相互補償条項の適用があるのか
  5. ユニバーサル・サービス基金への拠出金の義務はどうか

などである。

■FCCも重い腰をあげ、インターネット電話の基本的なルール作りが進行中

 先にも触れたが、2004年2月、FCCはついに重い腰をあげ、インターネット電話の規制のあり方について本格的な規則制定手続(IP-enabled service)を開始した。

 FCCは、インターネットはできるかぎり規制を差し控え、市場での自由なのびのびとした成長を尊重するという方針を一貫して採ってきている。生まれたばかりの若い技術や事業分野では、規制により人為的にその発展をゆがめることを恐れてのことである。FCCはインターネット以前でも、コンピュータ等の「情報サービス」については規制の重い「電気通信サービス」とは対照的に、規制をできるだけ避ける(forbear)姿勢を貫いてきた。もっとも、そうした結果、IP電話は規制されず、サービス面では大差のない通常の固定電話は重い規制が課されたままという矛盾も露呈しつつある。

 1934年通信法の制定当時には、もちろんコンピュータもなく、CATVもインターネットもなかった。新しいテクノロジーやサービスの出現に応じて、1934年通信法もFCCもその都度、次々に対応してきた(CATV関係規定の大幅追加等)が、テクノロジーやサービスさらには事業者自体までが融合/一体化の傾向にあり、通信サービスと情報サービスの境界もあいまいとなってきた。先にも触れたIP電話も良い例で、インターネット関係のサービスだとしてFCCは規制を差し控えているものの、電話事業者側からは「われわれが重い規制に服しているのに、IP電話はサービス面で差がないにもかかわらず、規制フリーでユニバーサル・サービスやアクセス・チャージ等の負担がないというのでは、公平を欠く」との苦情が絶えない。

 極言すれば、FCCはこれまでこうした問題を当面糊塗して、抜本的な解決を先延ばししてきたとも言えよう。テクノロジーの進展の早い産業分野であるだけに解決は難しいが、インターネットも既に十分に市民権を確立した今日、こうした問題の抜本的な解決がFCCの重要な懸案として浮かび上がってきていたのである。

 以下は「IP-enabled serviceに関する規則制定手続」開始のFCCプレス・レリーズ(2004/2/12)からの抜粋である。(アンダーラインは筆者)

「FCCは本日、インターネット利用の音声サービスで消費者に一層の選択肢を付与できるようにするための主要な手続を開始した。これはまた、通信市場に対し規制の明確性を提供するものであり、インターネット利用のサービスを一層促進することを狙ったものである。

 本日採択された規則制定の予告は、インターネットの諸サービスは引き続き最少の規制に服すべきであるという方針を再確認するだけでなく、同時に、通信がインターネット準拠サービス(internet enabled services)へと移行するのに対応して、公安、警察への緊急通信、法律執行部門によるアクセス等の重要な社会的諸目標の実現のためのメカニズムも変革が必要であることをも認識してのことである。
インターネット利用の通信サービスは、100年以上にもわたり米国が利用してきた公衆交換電気通信網(PSTN)利用サービスとは異なるものである。これらの新しいサービスは、低通信コスト、より一層革新的なサービスと機能、より一層大きな経済生産性と成長、等をもたらすだけでなく、ネットワークの余裕拡充や消費者の選択肢の向上にも資する。

 今回の手続と関連して、FCCは「法律執行部門(訳注:犯罪捜査、FBI等)に対する通信面での援助法」(Communications Assistance for Law Enforcement Act(CALEA))関係の規則制定手続をも開始し、これらの公安部門によるインターネット利用サービスへのアクセス(訳注:通信傍受)に関する規則制定にも配意していく。この手続では、対象となるべきサービスの範囲、遵守責任の設定、必要となる通信傍受機能の明確化等に対処することとなる。

 インターネット・サービスに関する規制の妥当な取扱いのあり方に関するコメントの募集に加えて、本日の規制制定予告は、多様なサービスをカバーする広範囲の諸問題についてコメントを募り、インターネット・サービスと在来型の電話サービスとの差異の具体的な適用、さらにインターネット・サービスにもいくつかの区分の適用を提起している。具体的にいえば、例えば、E911(訳注:高度化版の警察消防への緊急通話)、障害者によるアクセス、アクセス・チャージ、ユニバーサル・サービス等が様々なタイプのインターネット・サービスにも拡大適用されるべきかどうかについてもコメントを求めている。さらに、制定予告はインターネット・サービスの各タイプごとの法的および規制面での枠組や各カテゴリーごとの司法面での考慮点についてもコメントを求めている。」

■予想されるインターネット電話の規制方針を占うFCCの二件の判例

 インターネット電話に関する新しい基本的な規則が果たしてどのようなものになるのか、予測は難しいが、そのヒントとなるFCCの二つの判例がある。今回のVonage社関係の宣言と一脈通ずるもので、参考となろう。

 2004年にFCCはインターネット電話関連で、「Pulver社のFree World Dialupサービス」と「AT&T社のIP電話サービス」について次のように、2件の宣言認定(declaratory ruling)を出している。前者は事業者の申請を是認し、後者は申請を却下しており、FCCの考え方を窺い知ることができる。(アンダーラインは筆者)

(1)Pulver社関係
「FCC、PULVER.COM社の インターネット・サービス(FREE WORLD DIALUP SERVICE)は最少の限度の規制にとどめる旨を決定」[FCCプレス・レリーズ(2004/2/12 )の要点]

  • FCCは、Pulver.com社の Free World Dialup (FWD)サービスは、引き続き最小限度の規制にとどめられた消費者向けの競争選択肢としてとどめられる旨を決定。この確認決定は、FCCが以前からとってきたこれらのインターネット・サービスを、重荷になる連邦および州当局双方の規制から開放するという方針を改めて強調するもの。
  • Pulver社のFWDサービスは、広帯域インターネット・アクセス・サービスの利用者に対し、他のFWD加入者へのVoIP等の仲間同士の通信を無料で可能とするもの。
  • 2003年に同社は、FCCに対し、FWDは「電気通信サービス」でもなく、また、「電気通信」でもないこと、したがって伝統的な電話の規制には服さない旨を宣言的に明示するよう申請。本日FCCは、Pulver社の申請を是認し、FWDは連邦の管轄に属する、規制されない「情報サービス」であると宣言する。
  • 同社のFWDおよび類似のインターネット・アプリケーション等のインターネット・サービス(IP-enabled services)は、米国の消費者に低料金と高度な機能の形で計り知れない便益を提供するものである。また、これらのインターネット・サービスは他の消費者にも広帯域サービスを求めさせる起爆剤となるもの。

(2)AT&TのIP電話関係
 「FCC、AT&TのIP電話サービスもアクセス・チャージを支払うべきとの認定」[FCC命令(2004/4/21)の要点]

  • 2002年10月18日にAT&Tは、「電話機から電話機へのインターネット・プロトコル(IP)電話サービスは、回線交換方式の長距離通信呼に課されているアクセス・チャージの適用を免れる」旨をFCCが確認し公示してほしいと申請
  • AT&Tの申請の対象となるサービスは、これまでの長距離通信呼と同様な形で発信されるもので、利用者は通常の電話機から 1+相手の電話番号をダイヤル。この呼がAT&Tのネットワークに到達するとAT&TはこれをIPフォーマットに変換し、AT&Tのインターネット・バックボーンで伝送。AT&TはIPフォーマットから通常のフォーマットに戻し、市内事業者の加入者回線で相手方まで配信。
  • FCCとしては、現行の規則のもとでは、AT&Tが説明するこうしたサービスは電気通信サービスであり、それにはアクセス・チャージが課されるものと認定。
  • この決定は本件手続でAT&Tが説明したサービスのタイプに限定用されるものであることを強調したい。すなわち、このサービスとは、次の特徴をもつ。
  1. 高度な機能を備えない通常の利用者宅内機器(CPE)を用いていること
  2. 公衆交換電話網で発信と着信が行われること
  3. プロトコル変換が行われず、事業者のIPテクノロジーを用いた高度機能が利用者には提供されていないこと

 前者のPulver社のケースでは、そのサービスが仲間内だけの通信であることが強調され、「電気通信サービス」ではなく「情報サービス」であるとしている。一方、後者のAT&Tのケースでは、FCCは「公衆交換電話網で発信と着信が行われることと、高度機能なしに単に伝送過程の一部分でインターネット・プロトコルを用いるからというだけでは、アクセス・チャージ等の支払いが免除されるものではない」とし、本件のAT&TのIP電話サービスはアクセス・チャージを課される「電気通信サービス」であると認定している。

 今回の宣言では、Vonage社のDigitalVoiceサービスは仲間内だけの通信を越えてPSTNの顧客とも通信を行う場合もあるが、高度機能を備えた機器を利用して革新的な高度サービスを提供することを指摘している。Pulverのケースより一歩踏出した認定と考えられよう。

 なお、Pulver.com関係のプレス・レリーズでも、抜本的なルール作りの開始について次のように触れているのも参考となろう。(アンダーラインは筆者)

「またFCCは本日、インターネット・プロトコルのサービスの促進のため、および、規制方針の明確化のため、重要な手続を開始した。(別項参照) この規則制定予告の手続は、インターネット・サービスは大部分が規制の重荷から解き放たれるべきであり、必要な場合にかぎり熟慮された要件が適用されるべきであるという前提に立ったものである。」

■利害対立で難航か

 問題の核心は、インターネット電話事業者が既存の電話事業者に支払うアクセス・チャージをどうするか」であり、「事業者間の補償」であって、あとはたいして問題はないとの見方もある。アクセス・チャージの大口の受け手であるベル系地域電話会社側も、念願の長距離通信事業への進出が全米で認められ、しかもそのシェアを急激に伸ばしているため、アクセス・チャージの支払い側ともなりつつある事情もあって多少柔軟化し、アクセス・チャージの枠組の見直しのテーブルにつくともいわれる。

 FCCはこれまで規制は「テクノロジー」ではなく「サービス内容」や「市場の競争状況」をメルクマールとして決めるとし、「同じようなサービスには同じような規制」を標榜してきた。しかし、IP電話と従来での電話がサービス面では表面的な差異がなくなりつつある今日、果たしてIP電話の規制を従来型の電話の規制と大幅に違ったものにできうるだろうか。片方はユニバーサル・サービス基金への負担を義務付けられ、アクセス・チャージもというのに、IP電話等はそれらが免除されて、果たして公平といえるのか。ただでさえ極端な低コストと低料金で従来型の電話から顧客を奪い取ると予測されているIP電話が、そのうえこうした義務からも開放されて、ユニバーサル・サービス制度が維持しうるのか。「新サービスの自由な成長を」とか「イノベーションの芽をつむな」という政策目標は理解できるとしても、具体的に両者のバランスをとるのは難しかろう。

 一方、犯罪捜査部門からは、通信の傍受がインターネット化によって技術的に困難となりつつあるのにどう対処するか、厳しい規制を求められている。また、財政赤字に苦しむ州以下の地方政府は、新たな財源としてインターネット商取引に課税を意図している。

 この問題は大きな利害が対立する問題だけに、FCCの新規則が固まるまでには今後さらに相当な時間がかかることとなろうが、インターネット電話が近く爆発的に増えるとの見方が多いだけに、政策の透明性や安定性も早急に確保されねばなるまい。FCCの枠組決定のもたらすインパクトはきわめて大きい。わが国でも実験先進国の米国でのこの問題での今後の成り行きが大きなヒントとなるのではないか。

寄稿 木村 寛治
編集室宛>nl@icr.co.jp
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