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海外情報
2004年6月掲載

米国での最近のうごき

 5月は特段大きなニュースがなかったので、最近の米国通信業界でのうごきを二、三拾ってみよう。

1. 電話番号ポータビリティの実績

 わが国でも実施が検討されている電話番号ポータビリティ(Local Number Portability)制度は、消費者が事業者を替えても従来の電話番号を持っていける制度である。

 米国では、1996年電気通信法がすべての有線市内通信事業者に対しLNPを行うことを義務づけ、有線市内通信事業者間ではLNPは1998年から開始された。FCCは携帯電話事業者も同様にLNPを行うことを義務づけ、まずその第一段階として2003年11月24日からまず100の大市場でこの制度が実施にうつされた。同時に、有線事業者と携帯電話事業者間のポータビリティも開始された。2004年5月24日以降は100大市場以外の残りの市場でも携帯電話ポータビリティが利用できることとなった。

 FCCがこのほど発表したところによると、昨年11月以降、既に350万件もの移動が起こった。このうち大半の334万件は携帯電話事業者同士の間での移動であったが、22.9万件は固定電話網顧客が携帯電話に移行した。7千件を少し上回る件数が逆に携帯電話事業者から固定網事業者への移行であった。

2. FCC、昨年の通信事業での現況や傾向を取りまとめ発表

 FCCは毎年、電話事業での様々な動向を取りまとめており、このほど昨年の動きをとりまとめ公表した。今回は次のようなトピックスが要領よくまとめられている。

  • 高度通信の普及状況
  • 市内電話事業での競争の進展状況
  • 国際通信の利用状況
  • 電話の普及状況と料金の家計に占める比重
  • ユニバーサル・サービス

 以下はそのハイライトである。

高度通信

  • 家庭や事業所をインターネットに結ぶ高度通信(上り下り双方向ともに200 kbpsを超えるもの)は、2003年の前半に1,240万(2002年12月31日現在)から32%も増加し、2003年6月30日に1,630万に達した。
  • そのうち、ADSL回線は2003年の前半に220万から250万に16%増加、ケーブル・モデム回線は830万から1,190万に43%増加した。

市内電話事業での競争

  • 2003年6月現在で、競争市内事業者は2,690万回線にサービス提供を行っている。これは全国のエンドユーザーの市内回線総数1億8,300万回線の14.7%に相当し、2002年12月現在の競争事業者回線数2,480万(13.2%)と対比される。
  • 競争事業者回線の約1/4は競争事業者の自前回線によるものである。
  • 既存地域事業者側の報告によれば、2003年6月30日現在で、220万回線をリセール方式で競争事業者に提供しているという。これは6か月前の数値270万から減少している。と対比されるものである。既存地域事業者はまた、2003年6月30日現在で、1,720万回線をUNE(アンバンドリング)方式で提供している。これは6か月前の数値1,450万から増加している。

国際通信

  • 米国からの国際通信は、1980年の2億呼から2002年には59億呼に増加している。
  • 2002年には米国の顧客は98億ドルを国際通信に支出している。事業者は2002年には平均値で国際通信の1分あたり28セントを課金しているが、これは1980年当時に比して80%程度の値下がりとなっている。

加入状況と家計での通信支出

  • 1983年11月以降、2,900万世帯が新たに米国の電話網に接続された。2003年11月現在、1億710万の世帯が電話サービスを受けている。
  • 家計での電気通信関係の支出は実数値では時間の経過とともに増加しているが、この15年間家計の支出に占める比率は2%で一定している。ある調査会社によれば、1か月の家計での電気通信関係平均支出額は、2002年には83ドルとなっている。その内訳は、市内事業者に36ドル、長距離通信事業者に12ドル、携帯電話事業者に35ドルである。携帯電話事業者協会によれば2003年12月現在の携帯電話の平均月額料金は 49.91ドルで1993年12月の61.48ドルから値下がりしている。

ユニバーサル・サービス

 米国の連邦のユニバーサル・サービス制度は、助成に必要な金額を全電気通信事業者に売上高に比例して第三者機関に拠出させる仕組みであり、4種類ある。

  • 2003年には、「高コスト地域での助成」総額は33億ドルで、2002年の30億ドルから増加した。これは2002年7月にはじまった連邦の共同電話助成制度が平年化フル稼働したためである。
  • 「低所得地域での助成」は、2002年の6億7,300万ドルから2003年には7億1,300万ドルに増加した。
  • 「学校と図書館」への助成は多額にのぼっている。2002年度(2002年7月から2003年6月まで)については22億ドルの支給が約束され、今日までに13億ドルが実際に支出された。
  • 「地方医療機関」関係は2002年度は2,330万ドルで、前年度の1,970万ドルからの増加となっている。

3. ユニバーサル・サービスでの不正行為

 前項でも触れた FCCが所管しているユニバーサル・サービス制度のうち、学校および図書館にインターネット等の高度通信を導入する助成で、NECの米国での系列会社が地方の教育委員会の担当者に贈賄し、本来あるべき競争入札を避け、随意契約させていたことが発覚し、NECは詐欺と独禁法違反で2,070万ドルの罰金を支払うことにサンフランシスコの連邦裁判所で同意した。

 また、学校等が本来必要としない大掛かりで過剰な仕様を勧奨し、通常の利益幅の二倍にもなる価格で納入、設置していた。NECは「今後二度と再演しないよう措置する」との声明を出した。

 この助成制度は、1996年電気通信法施行を受けて子供に早いころからインターネットやコンピュータ一に慣れさせるという旗印のもと、「全教室にインターネットや高度通信設備を設置する」として、その架設費用や通信料金を助成するものである。FCCが熱心に拡充してきた助成措置であり、当時の「ユニバーサル・サービス本来の概念をはずれるもので、ゴア副大統領の私的な政策だ」と批判を浴びたこともある。他の三項目がいわばオーソドックスなユニバーサル・サービスであるのに対し、新しい項目でありながら毎年数十億ドルもの巨額の助成を行っている。

 このため、この教育機関分の助成だけ拠出金がかさむこととなる。長距離通信事業者等は拠出金の高騰を理由にそれを顧客に毎月転嫁し、料金請求書に一項目新設し請求する事態となり、議会筋でも強い批判が出ていた。

 当初から懸念されていたことだが、各地域の学校等の監督機関当事者が情報機器に暗いため業者の言いなりに仕様をのまされていたことが根底にある。この事件は氷山の一角であり、刑事事件として各地で頻発する可能性が高い。助成制度自体にも批判が出よう。

4. CATV事業者、電話事業への進出に本腰

 CATVの事業部門であったAT&T Broadbandを買収し、米国最大のCATV会社となったComcastは、ケーブル利用の電話事業を本格化する。VoIPでベル系地域電話会社等の既存地域事業者の市場の切り崩しをはかる。

 同社は2,150万のケーブル顧客をもち、さら買収時に他社から引継いだ通常の市内電話顧客も多数持っている。これらに積極的に勧奨し2006年までに事業化していく計画である。

 他のCATV事業者、すなわちTime Warner Cable, Cablevision Systems Corp. and Cox Communications Inc.も同様電話サービスをケーブルサービスと一体化して提供し始めている。

 米国ではCATVが大幅に普及し、インターネット接続でもケーブル経由の比重が高い。

 1996年電気通信法制定以前には、ケーブル会社はCATV放送事業に専念すべきであるとして、通信事業への進出が明文で禁止されていた(1934年通信法)。1996年電気通信法は逆に、各市場での垣根を越えた競争の促進のためにこの、方針を180度転換して、電話会社とケーブル会社、さらに電力会社までが三つ巴になって互いに相手の市場に進出できるようにした。

 ケーブル会社としては通信事業まで扱うことで、他のDBSなど衛星テレビ会社等への顧客の転出を抑制できる副次的な効果も期待しており、多様なサービスの一体的な提供で顧客を囲い込む風潮のなか、VoIPなどで各分野入乱れての競争がますます激化していくのは避けられない。携帯電話に顧客を奪われ続けている固定網電話会社にとっては、さらに厳しい競争環境となっていこう。

5. ベル系地域電話会社のQwest、依然苦難な道のり

 Qwestは新興の長距離通信会社ながら西部14州を所管していたベル系地域電話会社のUS Westを買収したが、その経営は依然苦難が続いている。US West当時の悪評高いサービスに加え、旧Qwestの会計粉飾によるSECや司法省の厳しい検査なども響き、この2年間で100万もの固定網顧客を失った。2000年と2001年の決算の修正を余儀なくされた。

 元ベル系地域電話会社の一つでSBCに吸収されたAmeritechのCEOだったDick Notebaertを新CEOに迎え、負債を260億ドルから175億ドルに削減するなどの経営改善に手をうってはいるが、今年の第一四半期も3億1千万ドルの赤字であった。

 他のベル系地域電話会社とは異なり、唯一携帯電話子会社を持たないため、Sprint PCSと提携している。

 ベル系地域電話会社4社のうち、最小で「出来損ないのチビ」(runt)とあだ名されており、他のベル系地域電話会社の経営改善よりはペースが鈍く、従業員も勤務時間が終わり次第制服等勤め先のわかるものを身につけたがらないほどだと報じられている。一時の倒産の恐れは遠のいたが、インターネット電話等で業界環境が激変しつつあるなかで、早晩、どこかに合併されるのではとの見方が消えていない。

寄稿 木村 寛治
編集室宛>nl@icr.co.jp
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