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2004年5月掲載

市内通信をめぐる既存地域事業者と競争事業者の対立、解決への兆し、FCCも和解と自主交渉を勧奨。

 2004年3月にワシントンDCの連邦控訴裁判所がFCCの「市内通信競争規則」(UNE規則)をまたまた違法としてFCCに再検討のため差戻し、1996年電気通信法施行以降8年も経過してなお規則が定まらないため大きな混乱が続いている。

 FCCはこうした事態をうけ、新規則の制定には今後さらに長期間を要するため、当面の対応の一つとして、本年3月31日、既存地域事業者と競争事業者が協同して誠意をもって交渉し、事業者間料金等に関し事業ベースでの協定づくりを目指すよう勧告を出した。
FCCは、「訴訟に明け暮れた長い期間のあとで、今日ほどかかる事業者の自主的な協定合意が必要とされている時期はない」と訴えている。

 これを受けて、US West等二三の事業者が競争事業者との交渉にはいるなど進展も見られるほか、4月下旬には競争事業者側のAT&Tがある程度の譲歩を織り込んだ具体的な提案を行なつた。

 対立のもっとも中心的な点は、「アンバンドリングされた市内通信サービスの諸要素」(UNEs)の対価、すなわち、競争事業者が既存地域事業者の市内サービス要素の一部をリースする際の卸値の事業者間料金である。ベル系地域電話会社等の既存地域事業者側は、市内通信競争で競争事業者側にきわめて有利な安価なUNE事業者間料金を強制されており、これでは赤字となり新規の設備投資インセンティブが阻害されているとの立場をとってきた。一方、市内通信市場への進出を目指すAT&T等の長距離通信事業者や新手の市内サービス事業者等の競争事業者側は、UNE料金が値上げされれば市内市場から撤退を余儀なくされるとし、両サイドがそれぞれ訴訟に訴え、永年正面衝突を繰り返してきたわけである。

 最近の和解や交渉開始の動きがうまく定着し、この問題が裁判所の介入による混乱を克服して解決に向かうのかどうか、FCCやAT&Tの動きなどを整理、展望してみたい。

■業界による自主解決を求めるFCCの要請

 UNEを中心としたFCC市内競争規則は、再度にわたる裁判所の「FCC競争規則の無効判決」に従い、FCCが2003年2月、三度目の市内競争規則を制定したところであるが、これを違法として既存地域事業者団体(USTA)がワシントンDC控訴裁判所に提訴していた。2004年3月2日同裁判所は、新規則の一部は支持しつつも、多くの点について異議申立てを認め、一部無効とし、再制定のためにFCCに差戻しの判決を行った。 問題が多岐複雑で、既存地域事業者と競争事業者の利害が真っ向から対立し、高度通信設備への投資のインセンティブという重要な通信政策にも絡むためもあるにせよ、1996年電気通信法施行後すでに8年余りを経過して、なお、重要な市内競争規則が確定できない状態が続いているのは異常というほかはない。

 昨年2月の現行規則制定時には、5名のFCC委員も二つに割れ、Powell委員長は少数派となり反対意見を表明した。多数派委員3名は、今回の判決を不服とし、当面はその発効を猶予し、いずれはその破棄を求めて最高裁に上告する意向を表明している。 委員長は、これに対し、それでは今後さらに長い期間混乱が続くとして、今回の判決を帯して四度目の新規則の制定を急ぐべきだとしている。

 FCCはこうした事態をうけ、本年3月31日、既存地域事業者と競争事業者が協同して誠意をもって交渉し、事業者間料金等に関し民間ベースでの協定づくりを目指すよう勧告を出した。

FCCの勧告の抜粋(2004.3.31)

  • 本日われわれは、電気通信事業者とその業界団体に対し、電気通信市場での競争を今一度確かなものとし、それを将来に残すために企業的な交渉を開始するよう強く要請する書簡を発送した。引き続く訴訟が市場を不安定にしている。それに対処するため、われわれはすべての電気通信事業者に対し、アンバンドリングされたネットワーク要素(UNEs)の利用可能性に関する事業的に受容しうる制度が作られるよう、誠意をもった交渉を開始するよう求めるものである。この成功ための努力を最大限にするために、第三者の仲介をも含め、彼らがとりうるあらゆる手段を利用するものと確信している。
  • かかる交渉のための更なる時間の確保のため、FCCはワシントンDC控訴裁判所に対し、われわれのアンバンドリング規則を無効とした判決の実施までの一時保留期間をさらに45日間延伸するよう申請する所存である。
  • 過去にはFCCはこれらの問題について意見が分かれた。しかし今日ではわれわれは、米国の消費者の最善の利益は、交渉による協定への到達へ向けての事業者あげての協力にかかっていることを明確なシグナルとして送るという一つの声に一致団結している。われわれはすべての側に対し、迅速な交渉による解決への誠意ある努力を要請するものである。

■競争事業者の市内通信事業への進出の際のUNE活用の実態

 問題の焦点となっている「アンバンドリングされたネットワーク要素」(Unbundled Network Elements :UNEs)とは、1996年電気通信法が市内通信市場での競争促進の特効薬として「リセール」と並んで導入した方法で、市内通信サービスを「加入者回線」とか「交換機能」とかのいくつかの要素に細分し、競争事業者が必要とする要素だけを既存地域事業者からリースする制度である。競争事業者は参入に際し、すべての設備等を自前で用意しなくても手軽に市内通信事業を開始できるようにするのが目的で、既存地域事業者は競争事業者から要請されたUNEを必ず提供することが義務づけられている。本来的な参入は自前設備で行うが、それでは資金負担等も大変であろうし、時間もかかるからとして設けられたいわば市内での競争促進の便法である。

競争事業者回線の市場シェアは13%、競争回線の過半数がUNE制度を利用

 FCCが調査したデータによれば、少し古いが2002年12月31日現在では、次のようになっている。

  • 市内電話サービスの回線数の内訳
    1. 既存地域事業者(固定交換網)  1億6,300万回線
    2. 既競争事業者(固定交換網)  2,500万回線
    3. 既携帯電話  1億3,600万回線
  • 固定交換網の総回線数 1億8,800万回線のうち競争事業者のシェアは13.2%
  • 競争事業者回線の19%は他社のサービスのリセール方式(1999年12月末の43%から減少)、
    55%はUNE方式で、他社の市内回線を利用(1999年12月末の24%から増加)
    残余(26%)は自前の市内回線に立脚。
  • 既存地域事業者による競争事業者への「交換機能つき市内回線のUNE方式での提供」は2002年下半期に750万回線から1,020万回線に37%の増加
    「交換機能のつかない市内回線のUNE方式での提供」も2002年下半期に410万回線から430万回線に5%の増加
  すなわち、競争事業者の回線は55%もがUNE方式に依存し、しかも、その比率は増加しつつある。UNEの重要性が窺われる。さらに、回線だけではなく交換機能をも一体化・パッケージ化した、いわば「市内通信サービスを丸ごと」をリースするUNE-P(Pはplatform)という方式もさかんに用いられ増加している。

UNEの事業者間料金は低廉

 このようにUNE制度は既に相当利用されているが、その背景には、この事業者間料金がきわめて安く設定されている事情がある。実際に料金を認可するのは各州の公益事業委員会であるが、FCCはこれまで規則でその算定方法として、TELRIC(全要素長期増分コスト)という新しい方法を全米に指示している。これは、料金の根拠となるコストについて、過去に実際に設置された設備の沿革的実績コストではなく、現在これから新規に設備投資するとした場合に利用できる最新の効率的なテクノロジーを用いたと仮定したコストに立脚する。したがって通常大幅に低額なコストとなる。

 「リセール方式」の場合、事業者間料金(卸売料金)は顧客が支払う料金の5--10%程度の割引水準が通常とされているが、「UNE方式」の事業者間料金は50%程度の割引水準といわれている。

■事業者の一部に協調に前向きの対応

 FCCの自主解決の提唱をうけ、ベル系地域電話会社のひとつであるUS Westが最近、複数の競争事業者と事業者間料金の交渉を妥結し、協定を結んだ。

 また、4月下旬には、長距離通信事業者の最大手のAT&Tが、UNE料金の一部値上げを前提とした妥協案を公表した。

AT&Tの提案

 AT&Tは4月29日、ベル系地域電話会社4社に書簡を送り、この長年の対決の解決に向けて一歩を踏みだす具体的な試案を提案した。AT&Tのプレス・レリーズはまず次のように述べている。

「AT&Tは本日、ベル系地域電話会社4社の各社に対し、「自前設備に立脚した競争」に移行するための円滑でかつ公平な革新的提案を行った。これはAT&Tを市内地域サービス事業者として選択した多くの顧客の保護にも資するものである。この提案はこれまでの紛争当事者間の戦場にこだわらず、FCCが提案している民間部門での事業者間協議を推進することを意図した重大な提案である。AT&Tの提案は、UNE-P(訳注参照)方式による競争から自前設備方式(顧客の構内からベル系地域電話会社の交換局に至るアンバンドリングされた実回線を用いたもの)による競争への本物の移行を促進する提案である。」

[訳注:UNE-P;アンバンドリングされたネットワーク要素[UNEs]方式での競争参入で、加入者回線等のみならず交換機能等をも一体化した「市内サービス」丸ごとを競争事業者が既存地域事業者から提供をうけるもの。リセール方式と酷似。ただし、事業者間料金は、リセールの場合より大幅にに安く、この方式を利用した競争参入が増加しつつある。]

「ベル系地域電話会社がこの提案を受け入れてくれれば、1996年電気通信法制定以来最大の論争の一つを解決でき、これまでの対立を和解に変えられよう。これは、ベル系地域電話会社が強く反対してきたリースの義務から解放するとともに、市内通信顧客へのサービスのためにAT&T自身の設備の利用を一層拡充する方向への大きな第一歩となるものである。」

 続いてAT&Tは、次のような具体的提案をしている。[10項目にわたる詳細な項目は省略]

「具体的には今回のわれわれの提案は、UNE-Pの(事業者間)料金を今後2年半にかけて段階的に最低でも3ドル値上げし、UNE-Pに固執を続ける事業者に財務的にペナルティを課そうとするものである。それと交換に競争事業者は「ラースト・マイル」の回線設備へのアクセスを公正な対価で得られるようにしようとするものである。
狙いは、ベル系地域電話会社に対してはUNE-P料金の値上げであり、その見合いとなるのは、自前設備立脚の競争の支援のために必要な(回線提供等の)コストの妥当な低減と提供手続手順等の改善である。この枠組は、また、FCCが目標としている、AT&Tが自前設備の拡充の促進へのインセンティブをも提供するものである。
もしこの提案が受け入れられることとなれば、AT&Tはベル系地域電話会社との長期間の卸売協定の締結に進み、これが、アンバンドリング方式の回線提供にかかわる事業運営面での障壁を取り除き、UNE-P料金の値上げとアンバンドリング回線利用にまつわるコストの削減につながる。」

 つまり、AT&Tの提案は、UNE料金をある程度値上げを認めるのと引き換えに、既存地域事業者が行う競争事業者への回線つなぎ替え等の作業を迅速化してもらうとともに、その作業コストを将来的には合理化で引下げていこうとするものである。

■FCCも賞賛と期待

 このAT&Tの提案をFCCも歓迎し、Powell委員長は以下の声明を出した。

「 AT&Tの提言を賞賛するFCC委員長の声明」
 FCCプレス・レリーズ (2004/4/29)

「私は、論議の多い地域電話ネットワーク要素に関するAT&Tの前向きの努力を歓迎するものである。AT&Tが自己の所有する設備を地域電話サービスの提供のためにもっと活用するという姿勢を示したことは、電気通信業界にとって大きな影響力を持つ大切なことである。「自前設備での競争」に移行していくことは最終的には米国の電話利用者に最善の展望を提示するものである。」

「既に公表されたいくつかの事業者間での市場ベースでの合意に続き、今回のAT&Tの姿勢は「アンバンドリングされたネットワーク要素(UNEs)」に関する誠意をもった交渉に事業者が参加するようにとのFCCの呼びかけに真摯に応えるものである。私は、これらの合意や提起こそが事業者間協議を成功に導くための推進力となることを希望し、FCCがその力を広帯域サービスの早期の米国民への普及促進という仕事に振り向けられるような環境づくりにも一助となるよう望むものである。」

■今後の見通し

 このように市内通信での競争、とくにUNEsを巡る長年の鋭い対立をなんとか打開しようとの動きが出てきており、既存地域事業者側と競争事業者側の双方の弁護士が事業者間料金やアクセス・チャージの抜本的改定について密かに交渉を行っているとの報道もなされている。(ニューヨーク・タイムズ:2004/2/9) 

 こうした最近の動きの背景には、多額のアクセスチャージを受取っているベル系地域電話会社も、長距離通信市場への進出が認められそのシェアを増大している事情もあって、支払い側にもまわるようになったこともあり、また、固定通信の両陣営とも携帯電話事業者からの競争の脅威にさらされ共通の敵に対処を迫られていることもあって、料金体系の改定の必要性を認識しはじめているという事情もある。

 FCCのPowell委員長は、「自前の設備による競争参入こそが、本筋の競争だ」という持論をかねてから強調してきた。議会での意見陳述でも「1996年電気通信法のリセールやUNEという制度は、既存地域事業者のサービスを見かけ上だけ競争事業者にするだけで、設備増加や雇用の増大にはつながらない。競争事業者側の肩を持ちすぎた施策だったといえよう」とまで述べている。委員長の立場からすれば、今回のAT&Tの「自前設備による競争」提案は望むところであろう。

 先に見たように競争事業者の回線2,500万回線のうち55%にもあたる1,400万回線がUNE制度を用いたものである以上、その根底をなすFCCのUNE規則が再三にわたり裁判所により無効とされ、いまだに確定できない問題は重大である。UNE事業者間料金が白紙撤回となり、小売料金かリセール料金に振替えるようなことになれば、1,400万もの顧客の料金が相当な値上げになると見られており、大統領選挙を控えて政治問題化するのではとの見方もあり、Bush政権が早急に対処策をとるとの観測もある。(ワシントン・ポスト:2004/4/1)

 以上、打開に向けての機運も高まり、具体的にも動きが出始めているが、根深い難問だけに早急に解決すると予想する者は少ない。

寄稿 木村 寛治
編集室宛>nl@icr.co.jp
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