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2004年4月掲載

FCCの市内競争規則、大半がまたしても裁判所の無効判決

−既存市内事業者と新規市内事業者の利害対立解けず、FCC委員も意見割れる。
根底に三権分立、連邦制度などの重要な問題。混乱はなおしばらく続く見通し−

 過去2回も裁判所の無効判決で3回もFCCが作り直した市内通信市場での競争規則(アンバンドリング規則)が、またしても連邦控訴裁判所で一部無効、差し戻しの判決を受けた。

 FCCは、再度にわたる裁判所の「FCC競争規則の無効判決」に従い、2003年2月、三度目の市内競争規則を制定したところであるが、これも違法だとして既存地域事業者がワシントンDC控訴裁判所に提訴していた。

 このほど同裁判所は、新規則の一部は支持しつつも、多くの点について意義申立てを認め、一部を違法として無効とし、再検討のためにFCCに差戻しの判決を行った。

 問題が複雑多岐で、既存地域事業者と競争事業者の利害が真っ向から対立し、さらに、高度通信設備への投資のインセンティブという重要な通信政策にも絡むためもあるにせよ、1996年電気通信法施行後すでに8年余りを経過して、なお、重要な市内競争規則が確定できない状態が続いているのはきわめて異常というほかはない。

 またFCCにおいても、昨年2月の現行規則制定時に5名のFCC委員が二つに割れ、Powell委員長は少数派となり反対意見を表明するなど、内部対立も表面化した。多数派委員3名は今回の判決を不服とし、当面は今回判決の発効猶予を申請し、いずれはその破棄を求めて最高裁に上訴する意向を表明している。委員長は、これに対し、それでは今後さらに長い期間混乱が続くとして、むしろ今回の判決を帯して四度目の新規則の制定を急ぐべきだとしている。

■アンバンドリング制度とは

 1996年電気通信法はその主目標の一つである市内通信市場での競争の促進で競争事業者の参入を容易にするため、「リセール」と「(市内サービス諸要素の)アンバンドリング」という便法を設けた。

「リセール」は、競争事業者が既存地域事業者の市内サービスをまるごと割引料金で買い入れ、それを自己のサービスとして顧客に再販売する方法であり、「アンバンドリング」は、市内サービスをいくつかの機能要素(UNE:unbundled network elements)に細分し、競争事業者が自身ではまかなえない要素だけを既存地域事業者から割引料金で買い入れ、それと自身でまかなう要素とを組合わせて顧客に市内サービスを提供する方法である。1996年電気通信法は、競争事業者による「リセール」と「UNE」の要請を既存地域事業者は拒否できないとし、相互接続と同様に既存地域事業者の責務とし、義務づけた。また、UNEについては、「新規参入者の市場参入を阻害する(impair)ことのないよう、FCCはUNE実施のための規則を制定すべし」と命じた。これら二つの便宜的方法により、新規参入事業者はすべてを自己の設備で賄う必要がなく、多額の設備投資なしに簡単に市内市場に参入が可能となったわけである。

 それ以降この「アンバンドリング」を利用した新規競争事業者の市内通信市場への進出が伸び、最近では「リセール」や「自前設備」による方法をはるかに上回り、競争事業者回線の半分以上がこの制度によるなど、その重要性が高まっていた。

■現行規則制定までの経緯

FCCの市内競争規則は裁判所により過去二回も無効の判定

 市内電話での競争について、FCCはUNEの実行のため現行規則以前にも、二度にわたり規則を制定したが、その都度裁判所により違法とされ差戻されている。

  • 一度目は、1996年電気通信法制定直後に、「市内電話サービスのすべての要素」について、競争事業者が欲する要素を大幅割引の事業者間料金で提供する既存地域事業者の義務を内容とした規則を制定した。(委員長の議会での証言:「たしかにこの規則は参入事業者側に大幅に加担しすぎていたといえる。」) しかし、最高裁は、「法は『すべての要素』とはいっておらず、『それなしでは競争事業者の参入が妨げられる(impair)(重要な)要素だけを提供せよ』としているはずで、FCCはそのように限定した規則を制定すべきであった」としてこのFCC規則は無効とされ見直しを命じられた。

  • FCCはこの判決を帯して、二度目は微修正した規則を定めたが、依然として「市内電話サービスのすべての要素」をその対象とし、競争事業者のアクセスを認め、地域ごとの差異も織り込まなかった。これもワシントンDC控訴裁判所により、「(たとえば、ある地域では携帯電話や衛星電話等の別の代替サービスが普及しているなど)別の代替サービスの提供状況をも考慮すべきであったし、コストの地域による差異にも配慮されていない」として再度無効とされ差戻された。

現行規則のあらまし

 これをうけてFCCはさらに2003年2月20日、市内通信での競争の基本となる改定規則(三度目)を制定した。

 裁判所によって無効とされた前二回の規則が圧倒的に新規参入事業者に有利であった姿勢を大きく変換して、既存地域事業者のインセンティブにも配意している。この背景には、広帯域高度通信の普及促進という大目標のため、既存地域事業者による新規設備投資意欲の喚起の必要があるという事情があった。

 しかし、政策面でも重要な問題であるだけに委員の間でも鋭く意見が対立し、ほとんどの委員が「一部分賛成/一部分反対」という稀な事態となった。全国画一でなく各地方、各市場の実情をも反映したきめ細かい「阻害」の認定をという裁判所の指示を帯し州当局に大幅に権限を委譲したこともあり、今後の実施段階で州ごとにバラバラの事態が出現し、それが訴訟合戦に移行し、裁判所の審理に長い時間がかかるなど、今後混乱することも予想される。

 一方で1996年電気通信法は、高速大容量通信などの高度通信サービスの早期全国普及もその政策目標の重要な柱として掲げているが、財務力があり高度通信普及の要となるべき既存地域事業者は、光ファイバ等の広帯域設備にもライバル参入事業者による「リセール」や「アンバンドリング」要請に応ずる義務を課されたのでは、設備投資の意欲がそがれると反対していた。その後とくに近時、インターネットの急速な普及やxDSL等の新テクノロジーの進展で、高度通信は重要な時期にさしかかっており、この問題の早期解決が迫られていた。

 FCCはそのプレス・レリーズで現行規則(三度目)の主要点を次のように述べている。

[FCCプレス・レリーズ (2003/2/20)]

「FCC、既存地域事業者のアンバンドリング義務に関する新規則を採択」 
----広帯域設備の建設のためのインセンティブと
地域等の実情にあったUNEの新定義が規則の核心----

 FCCは本日、既存地域事業者がそのネットワークを新規参入事業者にアンバンドリング(訳注:市内交換サービスを要素別に細分すること。細分された要素をUNE:unbundled network elementsという。) した形で利用させる義務に関する規則を採択した。この新たな枠組は、事業者に広帯域ネットワーク設備への投資のインセンティブをもたらすとともに、多くの消費者に対し競争による別の選択肢というメリットを提供し、かつ、州当局にも施行に際しての多大な役割を付与するものである。

 本日のFCCの措置は、市内電話での競争と広帯域分野での競争に関する問題点を解決するとともに、先のUNE規則を無効としてFCCに差し戻したワシントンDC連邦控訴裁判所の2002年5月の判決にも対処するものである。以下はその主要点である。(詳細は別紙[本稿では省略]参照)

1. (新規参入の)阻害の基準 (Impairment Standard)

 UNE利用の要請をした競争事業者にとって、既存地域事業者のネットワーク要素へのアクセスの欠如がその結果として障碍となる場合に、競争事業者の参入が阻害された(impaired)ものと判定する。事業運営面での(物理的)障碍のみならず、市場への参入か採算面で難しくなる財務面での障碍をも含む。こうした障碍の例は、規模の経済、sunken cost、市場への最初の進出によるアドバンテージ、既存地域事業者のコントロール下にあること、など。FCCのUNEの分析では、顧客のクラス、地理的条件、サービスの内容等の様々な要因を考慮する。

2. 広帯域問題

 FCCは、光ファイバ設備を利用する回線のアンバンドリングについては、(従来からの既存地域事業者の責務を)大幅に軽減した。

  1. fiber-to-the-home回線についてはアンバンドリングを義務づけない
  2. hybrid loops (最終顧客までは届かないが、途中まで光ファイバを利用する既存地域事業者の混合回線)の帯域の一部を利用して広帯域サービスを提供する場合には、その帯域のアンバンドリングは求めない(ただし、現在すでに広帯域回線で広帯域サービスを提供中の競争事業者は、新規則による義務免除ののちも同様なアクセスを継続できることとする。)
  3. line-sharing(既存地域事業者の回線の一部帯域を競争事業者がxDSL等に共同利用すること)は今後はUNEとしては義務づけない。
    FCCは、事業者に明確な見通し(採算の予測等)が可能なようにUNEの(事業者間)料金の算定規則を明確化する。

3. Unbundled Network Element Platform (UNE-P)問題
  (訳注:主として「交換機能」問題)

 FCCは、ビジネス顧客に対しDS-1などの大容量回線で提供される交換機能(switching - UNE-Pの主要要素の一つ)は、impairmentの分析の結果、アンバンドリングされないようになろう。州当局はこうした連邦としての判断に90日以内であれば反論しうる。消費者市場に関しては、州当局が、特定の市場ごとに業務面、財務面での阻害要因があるかどうかを地域ごとに判定する方式とした。州の公益事業委員会は9か月以内にこうした手続を完了しなければならない。FCCは州当局が「障碍なし」の認定を行った場合、それに基づき、3年間の期間内に競争事業者がUNE-Pから他の方式に移行するよう定める。

4. 州の役割

 州は、FCCの障碍基準を各要素別のガイドラインに沿って適用することで大変大きな役割を持つこととなる。

5. 専用線伝送(Dedicated transport)

FCCは、Optical Carrier (or OCn) レベルの伝送回線( transport circuits)が提供されない場合であっても、競争事業者は(参入は)阻害されないと認定した。しかし、dark fiber (訳注;既存地域事業者の光回線であってmultiplexing, aggregation等が付加されていないもの), DS3, および DS1 capacity transportへのアクセスが与えられない場合には、阻害されたものと認定する。これらは州によるルートごとの審査にゆだねられる。

 FCCはこれと並んで、いわゆるpick-and-chooseルール(訳注:他者の間の相互接続協定の条項のうち、協定全部には縛られないで一部分だけを選んで同様の条件を自分にも適用するよう要請すること。)に関し、改定の必要があるかどうかの手続も開始した。

 Martin委員だけは新規則を承認したが、他の4名の委員は、規則の一部分は同意だが一部分は不賛成で、多数決て金規則が制定された。5名の委員全員が関連声明を発表している。

Powell FCC委員長は反対

 この現行規則の制定過程では、先にも述べたようにFCCの5名の委員の意見が二つに割れ、Powell委員長は少数派で反対意見の声明を出した。その要点はつぎのとおりであった。

  1. 「参入阻害」の認定権限を州当局に委譲すれば、各州バラバラの結果となり、全国で一貫した政策がとれなくなる。
  2. UNE制度は、本来は、新規参入事業者が例えば「回線だけ」など自己で賄えない要素だけを既存地域事業者から提供をうけて市場参入できるようにするものであるにもかかわらず、現状は「回線プラス交換機能」までの市内サービス全体を一括してセットの形で格安の事業者間料金で提供してもらっているケースも多い。これは「リセール」と変わらず(しかも通常、リセールの場合より事業者間料金は大幅に安くなる)、また、競争事業者は自前の設備を建設する意欲がなくなり、安易にUNE制度に依存することとなるので、とりわけ「交換機能」はアンバンドリングの対象から除外すべきである。それが本来の市内での競争であり、インフラも手厚くなりテロ対策にも資するほか、投資も増え、経済発展にもつながる。
    というものであった。

■今回の判決の要点

 今回の訴訟の原告は、前回と同じく米国電気通信事業者協会(USTA)で、被告はFCCと米国政府である

 この判決の要点は、次のとおりである。

  1. (競争事業者の参入が)阻害されているかどうかの基準策定と判定の権限を州当局に委譲するのは違法で無効(vacate)
  2. FCCが広帯域回線、FTTH等のアンバンドリングの義務は免除しているのは、高度通信設備への既存地域事業者の投資インセンティブの促進効果があり、支持する。(hold)
  3. FCCのこれらの諸要素に関する全国的に適用される阻害の認定(訳注:複数)を無効とし、FCCに再検討のため差し戻す(vacate and remand)。
  4. FCCは阻害の有無の審理を行う際に、タリフ化されたspecial access servicesの利用可能性は考慮しないとする決定を無効とする。したがって、ILECのdedicated transportへのアクセスがアンバンドリングされない場合には無線(訳注:携帯電話)事業者の参入が阻害されるとするFCCの認定を無効とし、FCCに差し戻す。
  5. 長距離交換サービスの提供に関し、競争事業者はEELs(Enhanced Extended Links;[訳注]大口事業所顧客等と長距離通信事業者/競争事業者を直接結ぶ大容量回線/伝送のコンビネーション)のアンバンドリングを求める資格はないとするFCCの決定を差し戻す(ただし、無効とはしない)。
  6. FCCがentrance facilities(訳注:「ILECとCLECを結ぶ伝送設備)を「ネットワーク要素」の定義から(すなわち、アンバンドリングの対象から)除外した点については、妥当な司法判断ができるよう今後さらに資料が得られるまで、差し戻す。
  7. FCCによるqualifying services([訳注]競争事業者が提供する既存地域事業者の事業の中核となるサービスと正面から競争となる電気通信サービス)とnon-qualifying servicesとの区分を無効とする。
  8. 当裁判所が無効とするFCC規則は、暫定的に次の期日まで現状のままとし、当判決の執行日を次のとおり延期する。すなわち、(1)(本判決の)再審理請求が却下される日、または、(2)本日から60日間。この期日は、FCCが法施行後8年間も経過してなお合法的なアンバンドリング規則を制定できず、また、明らかに、これまでの司法判断に従うという意欲を十分には示していないことに照らし、妥当である。

■背景に重要な問題が

 以上のようにこれまでの推移をみてくると、その底には次のように重要な問題が横たわっている。

  1. 通信政策はだれが決めるのか
    1996年電気通信法制定の際には議会では次のような強硬な発言が目立った。すなわち、「1984年のAT&T分割以降、裁判所(独禁法担当のGreene判事)が電気通信に関する重要問題を独断で決めており、きわめて異常な状態となっている。本来、通信政策は立法府である議会が決めるべきもので、この1996年電気通信法制定で議会が通信政策の担い手として裁判所から権限を奪還する」といった論議であった。

    本件の場合、FCCが規則を制定するとすぐ訴訟に持ち込まれ、その判決を帯して規則改定してもさらに裁判所が無効/差戻しといったケースが何度も繰り返されている。

    今回の判決を見ても、モhot cutモ(訳注:顧客か既存地域事業者から競争事業者に移動を希望した際に、既存地域事業者がつなぎかえる手作業)やEELsといった業界専門用語まで登場している。このような専門知識まで裁判所が介入しうる能力がはたしてあるのであろうか。

  2. 三権分立の基本にもとらないか
    前項にも絡むが、行政機関であるFCCに対する裁判所の過剰干渉ではないのかといった疑問がわく。行政訴訟で政府の意思決定の違法性をチェックするというバランスを超えている可能性もあろう。

  3. 他の重要な政策目標とのバランス
    Powell委員長が昨年の反対声明で述べている「本来の市内通信市場での競争のあり方」(新規事業者は本来、自前の設備でと堂々と参入すべき等)や、既存地域事業者の高度設備への投資意欲をアンバンドリング義務で減殺していないか、等の他の重要な政策目標と「競争促進」とのバランスの問題も重要である。

■今後の見通し

 先述のとおり、FCCの多数派は今回の判決を不当として最高裁に上告するとしており、Powell委員長も既に昨年の声明で、「多数派のように州当局に阻害競争旬の設定と認定権限を委譲すれば、バラバラになり、それがまず州段階での訴訟を呼び、結局は連邦最高裁までもつれ込むこととなり、長い期間不確定な時期が続くのではないか」と予測していた。

 FCCが今回の判決にどう対応するのかもまだ不明であるが、いずれにしても当分こうした不確定の時期が続くことは間違いなかろう。

 もちろんわが国には連邦と州の問題がないなど環境は異なるものの、米国での論議を他山の石とすべき点も多い。今後も注目していきたい。

寄稿 木村 寛治
編集室宛>nl@icr.co.jp
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