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2004年3月掲載

FCC、「インターネット利用の音声サービス」の規制見直しに着手
−VoIP等の規制はどうあるべきか。利害の対立する難題。決着はまだまだ先か−

 FCCがインターネット電話の規制のあり方についてようやく重い腰を上げ、検討を開始することとなった。

 FCCはこれまで、インターネットはできるかぎり規制を差し控え、自由なのびのびとした成長を尊重するという方針を一貫して採ってきている。生まれたばかりの若い技術や事業分野では、規制により人為的にその発展をゆがめることを恐れてのことである。FCCはインターネット以前でも、コンピュータ等の「情報サービス」は規制の重い「通信サービス」とは対照的に、規制をできるだけ避ける姿勢を貫いてきた。もっとも、そうした結果、IP電話は規制されず、サービス面では大差のない通常の固定電話には重い規制が課されたままという不公平と矛盾も露呈しつつある。

■当面の糊塗や先延ばしではもたなくなった市場での進展

 FCCは早くからコンピュータ関係は「情報サービス」として「通信サービス」と峻別し、規制をできるだけ差し控える(forbear)方針を貫いてきた。 米国の通信に関する基本法である1934年通信法の制定当時には、もちろんコンピュータもなく、CATVもインターネットもなかった。新しいテクノロジーやサービスの出現に応じて、1934年通信法もFCCもその都度、次々に対応してきた(CATV関係規定の大幅追加等)が、テクノロジーやサービスさらには事業者自体までが融合/一体化の傾向にあり、通信サービスと情報サービスの境界もあいまいとなってきている。

 先にも触れたIP電話も良い例で、インターネット関係のサービスだとしてFCCは規制を差し控えているものの、電話事業者側からは「われわれが重い規制に服しているのにISP(プロバイダー)の提供するIP電話は、サービス面で差がないにもかかわらず、規制フリーだというのでは、公正を欠く」との苦情が絶えない。

 極言すれば、FCCはこれまでこうした問題を当面糊塗して、抜本的な解決を先延ばししてきたとも言えよう。 テクノロジーの進展の早い産業分野であるだけに解決は難しいが、インターネットも十分に市民権を確立した今日、こうした問題の抜本的な解決がFCCの重要な課題として浮かび上がってきていたのである。

■問題の核心はアクセス・チャージ

 問題の核心は、「インターネット電話事業者が既存の電話事業者に支払うアクセス・チャージをどうするか」であり、「事業者間の補償」であって、その他はたいして問題はないとの見方が有力である。

 この点で典型的な例がPulver.com社が提供している Free World Dialup (FWD)サービスである。このサービスは、広帯域インターネット・アクセス・サービスの利用者に対し、他のFWD加入者へのVoIP等の仲間同士の通信を無料で可能とするものである。

 同社はかねがね電話会社からFWDについてもアクセス・チャージを支払うよう請求されていたが、2003年に同社はFCCに対し、FWDは「電気通信サービス」でもなく、また、「電気通信」でもないこと、したがってアクセス・チャージやユニバーサル・サービス等の電話の規制には服さない旨を確認し、宣言的に明示するよう申請した。2月12日にFCCは、Pulver社の申請を是認し、FWDは「連邦の管轄に属する、規制されない情報サービスである」と宣言した(Declaratory ruling)。 すなわち、「FCCは本日、Pulver.com社の Free World Dialup (FWD)サービスは、今後も引き続き最小限度の規制にとどめられた消費者向けの競争選択肢としてとどめられる旨を決定した。この確認決定は、FCCが以前からとってきたこれらのインターネット・サービスを、(市場や事業者また利用者の)重荷になる連邦および州当局双方の規制から開放するという方針を改めて強調するものである。」とそのプレス・レリーズで述べている。

 FCCは決定の理由を、「FWDおよび類似のインターネット・アプリケーション等のインターネット・サービス(IP-enabled services)は、米国の消費者に低料金と高度な機能の形で計り知れない便益を提供するものである。また、これらのインターネット・サービスは他の消費者にも広帯域サービスを求めさせる起爆剤となるものだ」としている。

■ひろくインターネット電話の規制のあり方についても検討を開始

 FCCはまた、同日に、「インターネット利用の音声サービスで消費者に競争面での一層の選択の機会を与える措置に着手した」と発表した。

 FCCは規則制定に際しては、まず「規則制定の予告」(Notice of Proposed Ruling)を行い、問題の所在を述べ、FCCの考え方を明らかにし、ひろくコメントを募る。数ヶ月後に集まったコメントを要約して発表し、さらにReplyと称する「コメントに対するコメント」を求める。そして最終規則制定にあたっては、Discussionという部分で主要なコメントに対しいちいちそれに対するFCCの考え方をのべてその採否を明らかにしている。

 今回はまずこれらの過程うち、最初の「予告」の段階である。

 FCCは今回のプレス・レリーズで、「この規則制定予告の手続は、インターネット・サービスはその大部分が規制の重荷から解き放たれるべきであり、必要な場合にかぎり熟慮された要件が適用されるべきであるという前提に立ったものである。」と基礎となる方針を明示している。また、「インターネット利用の通信サービスは、100年以上にもわたり米国が利用してきた公衆交換電気通信網(PSTN)利用のサービスとは異なるものである。これらの新しいサービスは、低通信コスト、より一層革新的なサービスと機能、より一層大きな経済生産性と成長、等をもたらすだけでなく、ネットワークの余裕拡充や消費者の選択肢の向上にも資する。」とも述べている。

 プレス・レリーズはさらに、「 インターネット・サービスに関する規制の妥当な取扱いのあり方に関するコメントの募集に加えて、本日の規制制定予告は、多様なサービスをカバーする広範囲の諸問題を下問し、インターネット・サービスと在来型の電話サービスとの差異の具体的な適用、さらにインターネット・サービスにもいくつかの区分の適用を提起している。具体的にいえば、例えば、E911(訳注:高度化版の警察消防への緊急通話)、障害者によるアクセス、アクセス・チャージ、ユニバーサル・サービス等が様々なタイプのインターネット・サービスにも拡大適用されるべきかどうかについても下問している。さらに、制定予告はインターネット・サービスの各タイプごとの法的および規制面での枠組や各カテゴリーごとの司法面での考慮点についても下問している。」と続けている。

■市内電話市場での競争促進の新たな足がかりの期待も

 FCCとしては、VoIP等のインターネット電話サービスを、なかなか進まない市内電話市場での競争促進の担い手としても期待している。Powell委員長は今回出した付帯声明で次のように述べている。
「通信市場で起こりつつあるデジタルへの移行は、消費者の利便の面では、すでに過去のものになりつつある通信速度も遅く制約も多い、かつおおむね独占的な通信ネットワークを、高速でダイナミックでかつ競争的で様々なサービスが可能なデジタル・ネットワークで置き換える方向に向かっている。こうしたデジタルの広帯域ネットワークは、有線か無線かにはかかわりなく、インターネット・プロトコルのもつ柔軟性を用いて米国市民に音声からビデオやデータに至るまでのすべての通信サービスの提供を可能としつつある。」

「FCCは、広帯域インターネット・ネットワークが米国市民の一人一人に支払い可能な低廉な料金で提供されるよう懸命に努力しているところである。なかなか進展しない「ラースト・マイル」の問題からの脱却のために、マルチプルな広帯域ネットワークを用いる方針を採択してきた。例えばFCCはDSL、ケーブル・モデム、3G携帯電話、WIFI、Ultra Wide Band、衛星、電力線利用の広帯域通信の普及増進に努めてきた。より多くの広帯域プラットフォームは、より多くの競争と革新、ユニバーサル・サービス等の重要な社会目標の前進のための武器を提供するものである。」

■各州のインターネット・サービスへの課税の動きに歯止めを狙う

 米国の各州は財政赤字に悩み、電子商取引などに取引税を課すことで新たな財源作りに動いている。FCCはこうした動きに歯止めをかけるため、インターネット通信は大半が特定の州を超えた州際通信でホスト・コンピュータと結ばれている以上、「州ではなく連邦が管轄するべきサービス」であるとして、全国一律の一元的な規制枠組に持ち込み、その上で規制を最小限度にとどめたいとしている。

■犯罪捜査当局からの「厳しい規制」の要請

 一方、テロ対応等で神経を尖らせているFBIや警察等の犯罪取締当局からは、通信のデジタル化やインターネット化で通信を傍受しても解読等がきわめて困難になりつつある事情から、インターネット通信の規制を軽減するのではなく、むしろ強化してほしいとの強い要請が出ていた。彼らは「厳しい規制なしでは、犯罪捜査担当部門のテロや犯罪防止等のための通信傍受がきわめて深刻な打撃をうける」との強い懸念が表明されFCCも苦慮していた。

 2月9日ニューヨーク・タイムズによれば、
「今回のFCCの手続もFBI等の法律執行部門からの「インターネット電話サービスを規制緩和すれば犯罪捜査上大切な通信傍受が台無しになる」との懸念で一時立往生に近い状況だったが、司法省も先週、突如主張を翻した。FBIのKelley法務部次長は1月28日にFCCに対し、「FCCが新しい規則を作ったり、インターネット電話会社から規制緩和を要請されたりした場合には、まず法律執行部門からの要請に応えるべきである」との意向を伝えた。しかし、2月4日に司法省のMalcolm次官は「もちろんFCCが広帯域問題で法律執行部門の要請をまず処理することを希望するものだが、われわれはFCCが自分の仕事をすることを妨害する意思はない」との書簡を送った。これでFCCもようやく今回の手続を開始できることになったと報道されている。

■今後の予測

 インターネット・サービスの規制のあり方の問題は、各方面の利害が対立錯綜し、きわめて難しい問題である。先のニューヨーク・タイムズ記事の見出しも「FCC、茨の道に踏み込む」となっている。新規に台頭してきたインターネット事業者や長距離通信事業者側と電話回線/電話顧客等を持つ電話会社側がアクセス・チャージ等をめぐって厳しい対立を続けてきた。なかなか一朝一夕で解決できる問題ではあるまい。

 しかし、これまではアクセス・チャージの受取り一方であったベル系地域電話会社も48州で長距離通信事業の認可を取得し、アクセス・チャージを支払う長距離通信事業者の立場にもなりつつあり、料金体系の改定の必要性を認識し始めている事情がある。ニューヨーク・タイムズによれば、ここ数ヶ月間、大小の電話会社の代表である弁護士が会合し、新しいアクセス・チャージ・システムを生み出すべく努力しているとも言われる。これが成功すればFCCの重荷も多少は軽減されよう。

 しかし、FCCにとって待ち構えている問題はこれだけではなく、911緊急通信サービスの維持費用やユニバーサル・サービスの問題も残されている。

 この問題は大きな利害が対立する問題だけに、FCCの新規則が最終的に固まるまでには今後さらに相当な時間がかかることとなろうが、インターネット電話が近く爆発的に増えるとの見方が多いだけに、FCCの枠組決定のもたらすインパクトはきわめて大きい。

 わが国ではまだあまりこうした論議も聞かないが、日本でもVoIPの急速な普及の兆しが出てきているだけに、米国での今回の動きには注目していく必要があろう。

寄稿 木村 寛治
編集室宛>nl@icr.co.jp
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