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2004年1月掲載

ベル系地域電話会社の長距離通信事業への進出認可、全米で完了
−市内/長距離/国際の全距離事業者競争で優位へ−
−電気通信業界の勢力図はどう変わるのか−

 FCCは2003年12月3日、第四位のベル系地域電話会社Qwest(ロッキー山脈周辺が営業区域)から出されていたArizona州から発信する長距離通信(LATA間通信)サービス提供に関する申請を認可した。これはベル系地域電話会社の長距離通信事業への進出の最後の案件となり、ベル系地域電話会社は48州から発信される長距離通信サービスを提供できるようになった。残りのアラスカとハワイはベル系地域電話会社の営業区域ではないので、全米で長距離通信事業に乗出せることとなったわけである。そのインパクトはどうか?
業界の新たな勢力図はどうなっていくのか、考えてみたい。

■1996年電気通信法の枠組とその狙い

 1984年のAT&T分割で誕生した7社のベル系地域電話会社(持株会社。その傘下で複数の運営子会社が実際の市内/近距離市外サービスの提供にあたる。)は、親会社だったAT&Tが長距離通信事業者となったため、LATA(全米を約250の地域に区分)をまたがる長距離通信の取扱いを禁じられ、その提供できるサービスはLATA内の近距離市外サービスと市内サービスに限定されてきた。

 1996年電気通信法は、この禁止の原則は引継いだが(ただし、自己の営業区域以外では長距離通信の競争促進のため自由とした。)、市内市場をライバル事業者に十分に開放したと認定されたベル系地域電話会社は、州単位で州当局およびFCCの審査をパスした場合には、自己の営業区域から発信する長距離通信事業についても、いわば例外的に参入を認められることとなった。今回の認可手続の全米での完了で、ベル系地域電話会社はどこででも長距離通信サービスの提供もできることとなったわけで、いわば例外と原則が入れ替わったことになる。

■なかなかおりなかった認可。ただし最近は急ピッチ

 1996年電気通信法でこうした枠組ができ、電話需要も飽和点に達していたベル系地域電話会社はさっそく新天地開拓と意気込みFCCに長距離通信進出の認可申請を出したものの、1996年電気通信法自体が「市内市場開放の基準」として14項目にも及ぶ詳細な認可基準を定めたこともあって、FCCの審査は厳格を極めた。

 最初のケースは、1997年1月2日にAmeritech(SBCに合併される前)がMichigan州について申請したが、この申請は1カ月ちょっとで市内開放が不十分で認可の見込みがないとして自発的に撤回された。FCCの最初の認可を獲得したのは、Bell Atlanticがやっと1999年12月22日にNew York州に関して取得した認可である。こうした事情から、FCCの審査が厳しすぎるとの批判も高まったことがある。

 また、ベル系地域電話会社の長距離通信事業の自由化については、議会で有力議員が、音声以外のデータ通信等については即時全面解禁を内容とする法案を上程した経緯もある。これは、ベル系地域電話会社側のロビー活動もさることながら、とくに都市部以外や僻地では新規の競争事業者の参入がほとんどなく、インターネット通信や広帯域通信等の迅速な普及のためには大手の既存地域事業者であるベル系地域電話会社の力を借りざるをえない事情もあったからである。

 FCCはこれまで5件の申請を「市内開放不充分」として却下してきた。申請後にベル系地域電話会社が撤回したのが17件ある。これまでの認可申請とその審査状況は次のようになっている。

(資料)ベル系地域電話会社の長距離通信進出申請のFCCによる認可状況

申請社 状況 申請日 措置日
AZ Qwest 認可済 9/4/03 12/03/03
IL, IN, OH, WI SBC 認可済 7/17/03 10/15/03
Michigan SBC 認可済 6/19/03 9/17/03
MN Qwest 認可済 2/28/03 06/26/03
Michigan SBC 撤回 1/15/03 04/16/03
NM, OR & SD Qwest 認可済 1/15/03 04/15/03
Nevada SBC 認可済 1/14/03 04/14/03
DC, MD, WV Verizon 認可済 12/18/02 03/19/03
CO, ID, IA, MT, NE, ND, UT, WA, & WY QWEST 認可済 09/30/02 12/23/02
California SBC 認可済 09/20/02 12/19/02
FL, TN BellSouth 認可済 09/20/02 12/19/02
Virginia Verizon 認可済 08/01/02 10/30/02
MT, UT, WA, & WY QWEST 撤回 07/12/02 09/10/02
NH, DE Verizon 認可済 06/27/02 09/25/02
AL, KY, MS, NC, SC BellSouth 認可済 06/20/02 09/18/02
CO, ID, IA, NE, & ND QWEST 撤回 06/13/02 09/10/02
New Jersey Verizon 認可済 03/26/02 06/24/02
Maine Verizon 認可済 3/21/02 6/19/02
Georgia/Louisiana BellSouth 認可済 2/14/02 5/15/02
Vermont Verizon 認可済 1/17/02 4/17/02
New Jersey Verizon 撤回 12/20/01 3/20/02
Rhode Island Verizon 認可済 11/26/01 2/24/02
Georgia/Louisiana Bellsouth 撤回 10/02/01 12/20/01
Arkansas/Missouri SBC 認可済 08/20/01 11/16/01
Pennsylvania Verizon 認可済 6/21/01 9/19/01
Connecticut Verizon 認可済 4/23/01 7/20/01
Missouri SBC 撤回 4/4/01 6/7/01
Massachusetts Verizon 認可済 1/16/01 4/16/01
Kansas/Oklahoma SBC 認可済 10/26/00 1/22/01
Massachusetts Verizon 撤回 9/22/00 12/18/00
Texas SBC 認可済 4/5/00 6/30/00
Texas SBC 撤回 1/10/00 4/05/00
New York Verizon 認可済 9/29/99 12/22/99
Louisiana BellSouth 却下 7/9/98 10/13/98
Louisiana BellSouth 却下 11/6/97 2/4/98
South Carolina BellSouth 却下 9/30/97 12/24/97
Michigan Ameritech 却下 5/21/97 8/19/97
Oklahoma SBC 却下 4/11/97 6/26/97
Michigan Ameritech 撤回 1/02/97 2/11/97

■今回の認可で全米で手続完了。そのインパクト

 今回の認可でベル系地域電話会社のすべての認可手続が終了した。 これにより電話普及の飽和で永年売上高横這いに悩んできたベル系地域電話会社は、待望の新天地である長距離通信市場に全米で本格的に進出できることとなる。

その短期的なインパクトを見てみよう。

  1. 長距離通信市場での競争が一層激烈となる
     長距離通信市場では1970年のMCIの誕生以来、Sprintなどの長距離通信事業者が群小も含めて多数出現し、それまで永年市場を独占してきたAT&Tのシェアを切り崩し、料金戦争で激しい競争が続いてきた。今回さらにベル系地域電話会社が本腰をいれて長距離通信市場に割り込んでくる。
       一方では、会社更生手続に入っていた長距離通信大手のGlobal CrossingとMCIが債務を大幅に整理し身軽になって市場に再登場する。失地回復でナリフリ構わず過激な料金戦争をしかけてくるのではないかとの見方がある。

  2. 長距離通信市場ではベル系地域電話会社が優位を占めるか
     これまで長距離通信事業を禁止されてきたベル系地域電話会社も、営業区域以外の地域、例えば、東海岸のBell Atlanticが西海岸の兄弟会社SBCの縄張りで発信する長距離通信事業に進出することは競争の進展となるとしてFCCも従来から奨励してきたが、実際には伸びなかった。これでベル系地域電話会社が本拠地である自己の営業区域で確保している市内顧客に、長距離/国際通信も勧奨し、「全距離」一貫したサービスを提供し「all-distance 事業者」となり、顧客の要望も多い様々な料金も請求書一枚で簡潔に請求するという「ワン・ストップ・ショッピング」をセールス・ポイントとするマーケティングは大きな強みとなる。
     現に最初の認可はBell Atlanticがようやく1999年12月にNew York州に関して取得してからまだ3年たらずと日も浅いにもかかわらず、ベル系地域電話会社は既に2002年末現在で1,600万もの長距離通信顧客の獲得に成功し、このところ急ピッチでシェアを拡大してきている。(FCCプレス・レリーズ資料。2003/12/3)
    これに対して長距離通信事業者も逆に市内通信市場に競争事業者の一部として進出しているものの、1996年電気通信法施行以降既に7年余も経過しているにもかかわらず、市内アクセス回線数は競争事業者全体で2003年6月現在2,690万に留っている。(FCCプレス・レリーズ資料。2003/12/22)。しかもその3/4は、既存地域事業者設備のリセールかUNE(アンバンドリング)によるもので、競争事業者自前の回線/設備によるものは僅かに1/4であり、既存地域事業者のコントロールがきついため競争事業者独自のサービスの差別化が難しく、かつ、利益面でも幅が少ない。

  3. 長距離通信事業者の財務基盤は脆弱
     一方、AT&T、MCI、スプリント等の長距離通信事業者は、永年の料金値下げ競争で体力を消耗したうえに、ITバブルで全米や世界で光フアィバを張り巡らす過剰設備投資やM&Aフィーバーで財務も悪化し、大手の事業者でも新興のGlobal CrossingやWorldCom(MCIを吸収合併したのち不正会計事件となり、最近MCIに社名変更)は会社更生手続を余儀なくされた。名門AT&Tでさえ苦し紛れの4分割で一時は破綻の観測さえでた。最近は通信不況も立ち直りの兆しが見えはじまったものの、いずれも脆弱体質が続いている。
     最近はとくに消費者市場では料金戦争も休戦状態にあり、長距離通信料金はむしろ値上げに向かっている。ビジネス向けの長距離通信事業に絞込み、利用度数の低い消費者むけの長距離通信事業をお荷物と考える傾向すら出てきている。
     しかしベル系地域電話会社が長距離通信市場に本格的に参入してくれば市内サービスと組合せたサービス提供で競争力があるので、長距離通信事業者は一層の苦境にたつ。

■中長期的な見通しは不分明

 さらに中長期の見通しとなると、次のような事情で不分明といわざるを得ない。

  1. VoIP等の動向
     AT&T、Qwest、SBCはすでに事業所顧客を対象とした広義のインターネット電話サービスの提供を行なっており、来年早々には消費者むけのサービスの開始も予告している。
     VoIP等は技術的な課題も克服しつつあり、事業者が今後数年以内に本格的にサービスを開始、拡充することはほぼ確実であり、従来型の電話にどこまで取って代わるかが注目されている。インターネット電話の成り行き次第で、業界の姿も大幅に影響されよう。

  2. CATV電話の台頭
     1996年電気通信法により新たにそれまでは明文で禁止されていたCATV事業者の電話事業への進出も可能となり、CATVインフラを利用する電話サービスは既に全米で300万の顧客を獲得している。(FCCプレス・レリーズ資料。2003/12/3)

  3. ベル系地域電話会社も財務不安、リストラ相次ぐ
     12月にもSBCが4,000名にも及ぶ要員削減を発表した。このほかにも次のようなニュースがあり、比較的財務が健全であったベル系地域電話会社まで不況の影が色濃くなってきた。 
      Verizon、ワシントン地区で665人のレイオフ(2003.4.)
      Verizonの任意早期退職に21,600人が応募(2003.11.)
      Verizon、巨額の一時的損失を計上(2003.7.)

■政策当局の課題

 FCC等の政策当局の今後の動きも業界の勢力図に当然大きな影響を与える。

 当面の政策課題は次のとおりである。

  1. インターネット電話の規制のあり方
     これまで議会とFCCは「インターネットは生まれてまだ日も浅いサービスであり、その自由な成長を確保するため、規制は差し控えるし、課税対象ともしない」という暫定的な基本姿勢で臨んできたが、その猶予期限がきれることもあり、論議が盛んになってきた。
     FCC委員長は2003年12月にもFCC主催のインターネット・フォーラムで「インターネットを経由する電話通信の規制は、連邦であれ州であれ、いまだ成長途上にあるこのテクノロジーを窒息させる」として、反対を表明した。 (ワシントン・ポスト:2003/12/2)
     しかし、 各州は、NARUC(全米公益事業規制委員連盟)を通じて州の規制権限を主張しているものが多く、「同じ電話サービスでありながら電話網経由は規制、インターネット経由は非規制というのはおかしい」というのがその論理である。 インターネット電話が規制対象となれば財務の苦しい多くの州は、現在電話通信に課されている規制コストに見合う賦課金(regulatory fee)と同様なあらたな課金をする余地が出てくることもあり、規制に前向きという事情がある。インターネット電話が安い一部の理由は、こうした賦課金が課されていないことにもある。もし課金されればインターネット電話料金は20%程度値上げになる地域も出てくるとされ、州の財源としては数十億ドルにものぼりうる魅力的なものとなる。(ワシントン・ポスト:2003/12/2)

  2. 最近ようやく出されたFCCの「市内競争規則」で予測される混乱
     1996年電気通信法制定とともに出されたFCCの「市内通信市場での競争のための規則」 (アンバンドリング規則)は二度にわたり裁判所により差し戻され、FCCは2003年8月にようやく三度目の「新市内競争規則」を制定した。とくに既存地域事業者の光ファイバ等のライバル事業者への貸与義務を廃止する内容となっており、従来の「競争事業者の保護・偏重」一点張りから高度通信普及という政策目標に沿って「既存地域事業者の設備拡充インセンティブ」にも目配りした点が注目される。
     しかし、市内回線等の競争事業者への貸出での事業者間料金の設定等について大幅に州当局に権限を委譲したため、各州バラバラのアンバランスが出て、訴訟につながり、今後長い期間にわたる混乱が予測されている。

  3. 「競争最優先」か「サービスの安定的な供給確保」か
     2000年に入って、それまで好況に沸き活発だった設備投資や合併ブームが一転し、通信産業は底なしの大不況に突入した。2002年2月にはGlobal Crossing、6月にはWorldComと、急成長の新長距離通信事業者が相次いで破産法の更生手続を申請した。とくにWorldComは買収したMCIが米国第二位の大手事業者だったことで多数の消費者顧客を抱えていたほか、国防省のネットワークも受注していたため、そのサービス中断は国防上も由々しき事態と認識された。
     これを契機としてFCC委員長は、従来の料金規制、競争推進だけではなく、通信事業者の倒産防止という新しい使命の認識とそのための措置への取り組みの必要性も強調し始めた。
     市内競争で競争事業者を助成しながら、一方では既存地域事業者の安定経営と投資意欲の助長という、いわばある意味では矛盾する二兎を追う政策調整をFCCは迫られている。
寄稿 木村 寛治
編集室宛>nl@icr.co.jp
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