2000年のテレコム業界:この暗い一年の主要イベント
〜前年の買収/合併ブームから暗転、緊縮/財務改善へ〜
■暗い序曲
相次ぐ巨大な買収/合併ニュースで明け暮れた1999年から2000年に入った途端、1月そうそうにAT&Tが管理者の25%削減など20億ドルの経費削減等のリストラを発表、2月にはBTも利益25%減で株価が急落、大幅な組織改革を発表した。3月にまず英国でスタートした次世代携帯電話免許のオークションは、狂気とまで評された競り合いで採算度外視の超高値となり、続いたドイツでのオークションはさらにこれ以上の高値に舞い上がった。
■これでもかこれでもか、悪材料相次ぐ
いまにして振り返れば、これらが2000年のテレコム業界の暗い一年の序曲、幕開けであった。それまで各国GNP成長の牽引車で、ITブームの主役として脚光を浴びてきた主要テレコム事業者の株価はこの一年で半分ちかくまで暴落し、イリジウムやICOといった衛星携帯電話企業が破産し、Covad等の新手のDSL事業者も大幅な赤字で存続が危ぶまれる事態となった。AT&T、ワールドコム、BTといった超大手事業者の財務が傷み、相次いで企業分割/リストラを余儀なくされ、経営トップの辞任が噂されるまでに発展した。年末最後のニュースは、AT&Tが広帯域機器の購入を全面ストップという有様であった。
■潮目の交代:満ち潮から引き潮へ。その背景
前年とは打って変わった2000年のテレコム業界の惨状とさえいえる有様は、まさにそれまでの潮目が逆になったと総括できよう。たしかにそれまで世界経済を引っ張ってきた米国の景気に陰りが出て、ナスダックをはじめとして株式市場が大幅に値を下げたといった一般的な背景があったことは否めない。しかしテレコム産業自体にもそれに輪をかけるマイナス要因があったといわざるをえない。
欧州では、まず、各国で行われた次世代携帯電話免許のオークションが引き金になった。
携帯電話の目覚しい発展に目を奪われ、次世代携帯電話こそ近未来のテレコム事業の本命だと確信した大手事業者やその連合が、各国3ないし5の免許を争って、最後まで面子をかけて競り合い、免許料を事業としての採算をはるかに超える高値に吊上げてしまった。財政当局にとってはまたとないタナボタの結果となった。悪いことに欧州は狭い地域に数多くの国が密集しており、単一市場となった現在、英国だけとか、ドイツだけとかいった免許では競争にならない。どうしても主要各国すべてで免許を取得しなければ意味がない。しかるに一国だけで法外な免許料となり、そのうえ設備投資、事業運営費用まで加算すれば、利用者料金はとてつもない高額となるのは当然である。(もっとも、フランス、スペイン等はこの点に気付き、オークション方式を批判し、資格審査方式をとることとした。)これらの結果、これまで外部負債がほとんどなかったBTでさえもがいっぺんに巨額の負債を背負い込むこととなり、財務が大幅に傷んだ。
一方、米国では前年に、AT&TによるTCI等のケーブル・テレビジョンの買収や、SBCによるアメリテックの買収、ベルアトランティックによるGTEの買収、クゥェストによるUSウエストの買収等が相次いで発表され、M&Aが盛んに行われた。一部は株式交換方式によるものもあるが、多額の資金を要したことは事実である。将来、グローバル事業者として生き残れるのは3−4社であり、そのためにはまずスケールを大きくし体力をつけることが必須であるとの認識が、各社のトップをして買収/合併、提携に狂奔させた。その皺が財務面に寄せられたわけである。
■今後の成り行き
テレコム事業者の資金需要は現在も旺盛で、欧州勢ではBT,FT, DTの英仏独御三家が携帯電話関係の巨額の資金調達を相次いで計画している。AT&Tも分社化する携帯電話部門のAT&TワイヤレスがNTTドコモから98億ドルの出資を受けた(持分16%)。これだけテレコム事業者が大型の増資や起債を行えば、資金市場全体に大変な重荷になるとの警戒感が出始めている。NTTドコモの増資もその巨額さと株式市況の時期の悪さがフィナンシャル・タイムズなどでも批判されている。
最近打ち出されたAT&TとBTの分社計画も畢竟、投資家に魅力が無く全社のイメージを損ねている消費者部門を切離し、成長部門である携帯電話やビジネス向け通信部門の資金調達を容易にするということを狙っているのである。分社化が企業ロジックから出たのではなく、資金調達という目先のニーズに引きずられた苦肉の策だといわざるをえない。
最近のテレコム関係ニュースは、ひところの合併・買収ではなく、コスト削減や資産売却、負債削減といった緊縮・財務改善のトピックスが多い。しかしこれで今後は買収・合併がなくなるのかというと、それは早計であろう。グローバル事業者の生残り競争はまだこれからである。スケールとスコープの両面での強化なくして生残りは不可能であろう。目先の潮目の変化は表層部の一時的な現象であり、深部の基本的な潮流はまったく変わっていないと見なければなるまい。
ひるがえってわが国の状況を見るに、マイライン登録競争を引き金として、市内、長距離通信の両面で激しい料金戦争が展開されている。米国では昨年末近く、AT&T、MCIワールドコム、スプリントの三大長距離通信事業者が相次いで消費者向け長距離通信市場での料金戦争を休戦した。料金戦争で利用者は利益をうることは結構なことであるに違いないが、過剰すぎる戦争で体力を失うのは、かっての米国での航空事業者(ハ゜ン・アメリカンやTWA)のように破綻をもたらす。ましてこれからグローバル事業者としての生残りの過酷な競争のためには、国際競争力といった面からの広い視野からの国家的な長期戦略が不可欠なのではないだろうか。
<参考>
1999年の主要イベント
- 合併/買収、提携(ワールドコム/スプリント、DT/テレコム
- イタリア、ベルアトランティック/GTE、SBC/アメリテック、ボーダーホン
- エアタッチ/マンネスマン、ボーダーホン
- エアタッチ/ベルアトランティック、)
- ベル系地域電話会社の長距離通信認可(ベルアトランティック/ニューヨーク州)
- インターネット管理機関(ICANN)
- FCC改革(機能別へ)
- ユニバーサル
- サービス(学校、医療機関への助成)
- イリジウム倒産。ICOも。
- ケーブル
- テレヒ゛でのイコール
- アクセス
- 米国での暗号規制の緩和
2000年の主要イベント
- AT&T、20億ドルのコスト節減計画の一環として25%の管理者を削減へ(1月)
- 仏テレコム、グローバル・ワンを単独所有(1月)
- ボーダーホン・エアタッチ、マンネスマン買収に成功(2月)
- BTの利益25%減、株価20%値下がり(2月)
- テレストラ、インターネット/移動通信等の高成長部門の株式発行を検討(2月)
- BT、業績復活を目指し、大幅な組織改革(2月)
- 独テレコム(DT)、クゥェストとUSウエストに買収提案(3月)
- 英国の第三世代移動電話免許のオークション開始(3月)
- DTによるクゥェスト/USウエストの買収、混乱(3月)
- FCC、クゥェスト/USウエストの合併を承認(3月)
- モトローラ、イリジウム顧客にサービス中止の予告(3月)
- イリジウム、ついに破産、衛星は順次大気圏突入で処分(3月)
- クゥェスト、USウエストとの合併手続、軌道に戻る(3月)
- ベルアトランティック/GTEの合併新社名、Verizoneに決定(4月)
- ベルアトランティック/ボーダーホン・エアタッチ、米国で移動無線事業のJV(4月)
- ベル・サウス/SBCの両社も移動通信事業を統合(4月)
- 英国の次世代移動通信免許のオークション、加熱(4月)
- 米国の通信事業者の増資、縮減を余儀なくされる.投資計画にブレーキか(4月)
- BT、大規模な分社組織改革で株価回復を目指す(4月)
- 米国の新興通信事業者の株価、大幅低落でM&A活況化か(4月)
- ソロス・ファンド、Globalstarから撤退(4月)
- 司法省独禁局、マイクロソフトの分割案を大統領側近に説明(4月)
- 英国の次世代移動通信免許のオークション終了。次の独に注目(5月)
- AT&Tの株価急落。同社の将来への悲観論高まる(5月)
- FCC、アクセス・チャージを大改革(6月)
- DT、欧州全域の次世代携帯免許取得には最低でも230億ドルが必要(5月)
- FCC、AT&Tによるメディア・ワン買収を条件付で承認FT、オレンジを買収(6月)
- FT、オレンジを買収FT、オレンジを買収(6月)
- FCC、AT&Tによるメディア・ワン買収を条件付で承認(6月)
- 連邦地裁、マイクロソフトの二分割を命令(6月)
- ベルアトランティックとGTEの合併、FCCが条件付で承認(6月)
- FCC、SBCのテキサス州での長距離通信事業への進出を認可(6月)
- AT&Tとワールドコム、ともに消費者むけの長距離通信事業から撤退を検討か(7月)
- グローバル・ワン、2002年には赤字脱却、FTは株式公募も検討(7月)
- オランダ、ドイツでの次世代携帯電話免許のオークション、合併や脱落で苦境(7月)
- コンサート、親会社(AT&TとBT)自体の業務との競合で苦戦か(7月)
- ワールドコムとスプリント、合併を正式に断念(7月)
- FCC、クゥェストによるUSウエスト買収を最終認可(7月)
- 米国政府、NTTコミュニケーションズによるインターネット事業者Verio社買収を承認へ(8月)
- 独での次世代移動通信免許のオークション、予想外の高値で波紋(8月)
- イリジウム、最終解体へ(8月)
- 外国政府所有の通信事業者による米国事業者買収禁止法案を巡る論議、高まる(9月)
- 独テレコム(DT)によるVoiceStreamの買収、有望に(9月)
- Qwest、買収したUSウエストを中心に12,800人ものレイオフを発表。(9月)
- AT&T、BTとの合併やNextelの買収など再建策を詰める(9月)
- NTTコミュニケーションズ、Verio買収資金手当てのため株式公開も視野(9月)
- FCC、SBCとベル・サウスの携帯移動通信事業の統合を認可(10月)
- AT&Tの業績回復措置、いぜん迷走(10月)
- AT&T、四分割案が有力(10月)
- イタリーの次世代携帯電話免許のオークション、BTの脱落で予想外の低額に(10月)
- AT&T、四分割を正式発表(10月)
- MCIワールドコム、事業部門を再編成。消費者むけ長距離通信事業とビジネスむけ部門を分離。2種類の部門収益連動株式(トラッキング・ストック)を発行へ(10月)
- Globalstar、苦境に(10月)
- DSL事業者のCovadの社長/CEOが退任。DSL事業者は需要伸び悩みに悩む(11月)
- BT、大規模な再編成計画を発表(11月)
- 米国の長距離通信大手3社、料金値下げ競争で休戦へ(11月)
- 競争的市内事業者(CLEC)であるTeligent、全国拡大路線を転換、収益重点に(11月)
- FCC、移動通信422免許をオークションで再販売、価額総額は150億ドル?(12月)
- AT&T、日本テレコムの持分の一部を売却か(12月)
- 独テレコム(DT)、仏での次世代携帯電話免許を断念(12月)
- Covad(米国のDSL事業者)、収支改善のため設備投資を削減。400名(13%)を解雇へ。(12月)
- AT&T、年内は広帯域機器の購入を停止、(12月)