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電波免許オークションの功罪
(2000.10)


 わが国の政府も先ごろ「日本新生プログラム」でIT用の電波のオークションを打ち出しており、米国でも最近大統領が次世代携帯電話等の電波不足を緩和するため、国防総省、捜査機関等の保有する電波で低利用のものを緊急に整理し、オークションで民間の利用に振り向けることを命じた。欧州でも既に英、独両国が次世代携帯電話(3G)用の電波免許のオークションを行い巨額の免許料が国庫に収まった。イタリーとスエーデンも来月にオークションを実施する予定となっている。

  こうしたオークション・フィーバーの背景にあるのは、無線テクノロジーの急速な発展であり、とりわけ各国が先陣を競っている次世代携帯電話(3G)の電波割当の時期にきているからである。ITが各国経済の推進力となり、経済成長、雇用、等の大きな担い手として認識されてくるにつけ、ことに目先は爆発的な成長が続く携帯電話用の電波の手当てや確保が緊急の課題となっている

■オークションのパイオニアは米国のPCS
 電波免許のオークションによる付与の先陣は、1994年末から1995年3月にかけて行われた米国の広帯域PCS(Personal Communications Services)免許のオークションであった。それまでのセルラーは各地とも電話会社系と非電話会社系の二免許に限定されていたが、FCCは競争促進のため、あらたに類似したサービスであるPCSを導入し、各地で(AからFまでの)最大6免許を追加することとした。

 これに先立ち1993年に米国議会は当時の大幅な財政赤字の財源探しの一環として今後の電波割当てはオークションによることとの指令を出していた。「有限の資源である電波は、その価値を評価する者にこそ与えるべきである」という大義名分はあったが、本音は予算財源欲しさであった。折から新テクノロジーによる通話品質の向上や競争による料金の低落もあり、セルラーの普及テンポが急に速まった時期でもあったため、携帯電話の事業としてのうまみが再認識され思惑のベンチャーからも参入希望者が殺到した。既存のセルラー事業者も全国ネットで欠けている地域をPCSで補完しようとして、オークションに参加した。

 このため100回を超えるラウンドでの激しい競り合いとなり、落札総額は77億ドルという当時の予想をはるかに越えた額に競りあがった。FCCは免許の種類を電波の帯域幅の大小で区分したほか、C,Fの2種類の免許入札資格を中小企業に限定するなどの配慮を行い、大企業が免許を独占することを避ける努力は行ったものの、資金力のある大手中心の落札となった。一部C免許で最後まで頑張ったNextWave社は、落札したものの資金手当てができず結局破産し、その取得分が近く再度オークションにかけられる予定となっている。

■欧州ではオークションの花盛り
 欧州では今年に入って次世代携帯電話(3G)の免許が各国でオークションにかけられている。欧州の特徴は、狭い欧州各国だけの免許では競争に勝てず、欧州全域カバーが必須の要件となる点であろう。

 先駆けは英国で4月に5免許のオークションを行い、国際的な大手事業者を中心に150ラウンドもの激烈な争奪戦となり、落札総額は225億ポンド(350億ドル)と当初予想のじつに7倍もの巨額に達した。BT、ボーダーホン・エアタッチ、One-2-One、Orangeのほか香港資本のHutchison Whampoaとも提携したカナダのTIWの各社がいずれも40億ポンドを上回る額で勝利し、小規模の応札者は途中脱落を余儀なくされた。

 続いて独が7月末から6免許のオークションを開始したが、英国を上回る過熱ぶりで、173ラウンドの末、落札総額は458億ドルにも達した。落札者は、DT系列のT-Mobil、ボーダーホン・エアタッチ系のMannesmann、Viag Interkom(BT系列)、Mobilcom(28.5%をFTが所有)、Group 3G(スペインのTelefonicaとフィンランドのSoneraのコンソーチアム)、E-Plus(オランダのKPNと香港のHutchison Whampoaと提携)である。

 英国の免許が著しく高値となってから、これでは最終顧客の料金に跳ね返り、3Gの普及の阻害要因になるとの議論が高まり、フランスとスペインは一定資格の申請者に限定し、免許料も低額に押さえる「美人コンテスト方式」を採用した。スペインの場合、3月に4免許を4.8億ドルという低額で付与した。このうち3免許はTelefonica,Amena,Airtelという既存の移動通信事業者に付与され、第4の免許は、Sonera/Vivendi'XferaというFT系列のOrangeを含むコンソーチアムに与えられた。免許を付与されなかったDTは、スペイン政府は海外大手が同国市場を席巻するのを恐れて自国の事業者偏重のためにこのような免許方式をとったとして厳しく批判し、スペイン政府も再度見直しを検討している。

 仏では、投資力、マルチメディア開発力、技術革新度合い、雇用効果等14項目にのぼる基準で審査する「美人コンテスト方式」を採用するとしている。4免許のうち3免許は既存の移動通信事業者(FT、SFR、Bouygues Telecom)に付与されよう。残りの免許には、Suez Lyonnaise des Eaux(Telefonicaと提携)かDTやKPN/Hutchson Whampaコンソーチアムも意欲を示している。落札者は47億ドルの「入場料」を支払うこととされているが、半額は13年間での分割払いが認められる。しかしこれが高額であるとして、既存事業者は反発している。

 イタリーは11月から手続を開始するが、「美人コンテスト方式」と「オークション方式」を折衷した方式をとることとしている。同じく11月に手続開始を予定しているスエーデンは、100,000スエーデン・クローネ(11,000ドル)の名目的な免許料を課すが、売上高の0.15%を毎年徴収する方式である。

■米国は2002年にオークション
 冒頭に述べたように米国も3G方式免許のオークションを計画している。欧州やアジアが着々と3G用の電波確保や免許オークションを進め、日本では来年5月にもサービスがスタートするのに対し、米国の免許オークションは2002年9月と定められており、政府や事業者の一部には「米国はこの大切なサービスで他国の後塵を拝している」との焦燥感が出ている。今回の大統領の命令もこうした背景から異例の形で出されたものである。

 FCCのケナード委員長は「無線通信用により多くの電波を利用可能とすることは、国家の最優先課題である」としている。これが不足すれば経済成長で遅れをとるばかりでなく、高速インターネット等の将来の基幹テクノロジーでの遅れにつながるとの危機感がある。

 米国ではPCSを売り出した頃のような財政赤字は様変わりで財政黒字の使途が論議されるようになったものの、PCS等との均衡上やはりオークションに拠らざるをえないであろう。

 オークションの一つの問題は、グローバル企業のような大手が資金力にものを言わせて免許のほとんどを手中にしてしまうことであり、PCSのケースのように小企業専用の特定枠を設けるかどうかであろう。NextWaveの破産のように、勢いに駆られた現実ばなれした高値をどのように防止するかが課題となろう。また、オークションの最大の問題は、激烈なせり上げで落札額が途方もない高値になるきらいがあり、それが最終的にはエンド・ユーザーの料金の高騰に跳ね返ることであろう。それでは折角の高速/高度無線サービスも高嶺の花となり、迅速な普及に水を差すことになってしまう。事業者の競争と利用者の利便とをどうバランスさせるか、わが国のオークションでも慎重な対応が望まれる。

(特別顧問 木村 寛治)
e-mail:編集部宛>nl@icr.co.jp

(入稿:2000.10)

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